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書籍3巻 発売記念SS『変装アイテム』


 興味のあった国を巡る旅もひと段落し、アマリア公国に滞在中のステラは、与えられていた王城の客室で「うーん」と悩ましい声を出していた。

 アマリア公国でお忍びデートする際は、動物の特徴を持つ亜人たちに馴染めるよう、ステラはうさぎ族の疑似耳を付けていた。カチューシャタイプで、耳の付け根にはリボンがついていている可愛らしいものだ。


 しかし何度も使っていると草臥(くたび)れてくるもので……。



「そろそろ新調のタイミングかな?」



 元々タレ耳タイプだったが前はもっと張りのある見映えだった。けれど今はクタクタで、明らかに元気がなさそうな伏せ耳に見え、毛質の艶も減っている。病人と勘違いされてしまいそうだ。

 ステラが弱々しくなったうさ耳カチューシャを手に、新たな入手先に頭を捻っていると扉がノックされる。返事をすると、恋人である青髪の竜人リーンハルトが入室してきた。



「疑似耳を睨んでいるなんて、ステラどうしたの?」

「新しい疑似耳が欲しいんだけど、どこで手に入れれば良いのかわからなくて」



 今持っているうさぎ耳は、リンデール王国のユルルクの雑貨屋でリーンハルトが手に入れたものだ。亜人の楽園であるアマリア公国では売っていないだろう。

 すると「それなら、少し待ってて」と言ってリーンハルトは一度部屋を出ると、魔法バッグを持ってステラの部屋に戻ってきた。

 そしてバッグの中からあらゆる疑似耳を取り出し、テーブルの上に並べていく。猫や狐、犬やネズミなど種類豊富だ。



「ハル、こんなにたくさんどうしたの?」

「……これからアマリアに長くいるようになったら、その分変装で出かけることも増えるだろうと思って、知り合いに依頼してあったんだ」

「つまりお忍びデートのために?」

「まぁ、そういうこと」



 リーンハルトは少し照れた様子で頷いた。

 疑似耳の数は、それだけ彼がステラとデートしたいという気持ちの表れだろう。恋人との特別な時間を大切にするために意欲的に準備してくれていたことに、ステラの胸はきゅんと反応してしまう。

 彼女は嬉しさで顔を緩ませながら、新しい疑似耳カチューシャを試着していくことにした。まずは猫耳を付けて、じっくりと鏡を見てみるが……。



「うーん」



猫耳はステラの髪に合わせて亜麻色で作られており、よく馴染んでいるように見える。だがなんとなく落ち着かない。



「ハル、どう見える?」

「俺から見れば似合っているように思うけれど、しっくりこないなら他のも試してから決めたら? それは予備にして、メインは一番に気入ったのを使ったら良いよ」



 そう言ってリーンハルトは、キツネとネズミの疑似耳をステラの前に差し出した。

 ステラは受け取り次々に試していくがピッタリと思えるような決定打がなく、メインの疑似耳が決まらない。



(亜人たちに馴染むには問題ないから、これからはうさ耳じゃなくて最初に選んだ猫耳にしようかな……ってあれ?)



 種類豊富なのに、ひとつだけ試していない種類があることにステラは気が付いた。



「ねぇ、うさぎの耳は今回ないの?」

「それは……」



 リーンハルトは気まずそうに視線を逸らした。



「ハル?」

「あることにはあるが……」



 彼は気が進まないのか、渋々といった様子でバッグの中からうさぎ耳のカチューシャを出した。前回と同じタレ耳タイプで、リボンもついている。用意しておきながら隠していたらしい。



「どうして出さなかったの? うさぎ耳、嫌い?」

「うさぎ耳が嫌ということではなく……ユルルクでは()()()()()()があるんだろう? 他の男からステラをそういう対象で見られるのが嫌だったから……現行のうさぎ耳の交換をあえて指摘するのも変だし黙っていたけれど」



 ユルルクには、うさぎ耳を付けたセクシーなお姉さんが接客するお店がある。少し前にその存在を初めて知ったリーンハルトは衝撃を受けたようで、ステラに付けさせることに気が引けていたらしい。

 バッグには入っていたということはおそらく、うさぎの耳を用意したあとにお店の存在を知ったのだろう。



「ここはユルルクじゃなくてアマリアだよ。本物のうさぎ族の人もいるから、誰も変な目で見ないと思うよ」

「確かにそうだが、ステラに抵抗はないのか?」

「人族の知り合いに見られるのは恥ずかしいけれど、アマリアで付ける分にはまったく問題ないよ」



 そう言いながらステラは慣れた手つきでうさぎ耳を頭に装着した。髪を整えて鏡を見れば「あぁ、これこれ」と納得顔で頷いた。やはりいつも使っていたのと同じ物が一番しっくりくる。



「やっぱりうさぎ耳が馴染むね。ハル、用意してくれてありがとう!」



 ステラは無邪気な満面の笑みを浮かべて感謝の気持ちを伝えた。

 けれどリーンハルトは眉間に皺を寄せていた。そしてなぜか耳の先が少し赤い。



「もし事情があって俺が隣にいないときは、他の疑似耳にして。できれば熊や狼といった猛獣系で」

「えぇ!? 落ち着かないよ。どうして?」

「他の人の狩猟本能を刺激しかねない」

「狩猟? 押し売りや詐欺にでもあいそうな見た目してる?」



 亜人の中でも、うさぎ族は争いごとが苦手で押しに弱い。

 今なら嫌なことにノーと言える自信があるステラは、「私は大丈夫だよ?」と思いながらきょとんと首を傾けていると、リーンハルトが顔を寄せて彼女の頬に軽いキスをした。

 不意打ちに驚き、ステラは目を丸くさせた。



「こういうこと。同じ亜人だと思われて、俺の恋人だと気付かれずに狙われたら困る。だからステラ、くれぐれも気を付けて」



 ニッコリと、有無を言わさぬ笑みがリーンハルトの顔に浮かんでいた。忠告を破ったら、あとが怖いやつだ。

 ステラは熱くなった頬に手を当てて、コクリと無言で頷いた。


番外編を読んでくださり、ありがとうございます!

2巻に引き続き、第3巻が完全書下ろしで7月8日発売となっております。

▼表紙はページ下に掲載▼

ステラとリーンハルトが結婚に向けて、試練を乗り越えていくお話となっております。

宜しくお願いいたします!

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