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第8話:歩く巨大要塞、いざ出発。ゴミ山の在庫一掃

「――よし。これより当拠点の引っ越し作業(グランド・ムーブ)を開始いたしますわ!」


私の高らかな宣言と共に、アイアンの足元に整列した五人の従業員たちが、一斉に動き出しました。

 本日のメイン業務は、この崖下の廃棄場に眠る優良在庫(お宝)……失礼、ゴミ山の全回収ですわ。


(……だって、もったいないじゃない。

 ここにある部品、ちゃんと磨いて検品すれば王都の市場で金貨数枚はする一級品ばかり。

 それを「無能」だなんだと切り捨てて不法投棄するなんて、王宮の棚卸し(在庫管理)はどうなってるのかしら。

 全部積み込んで、動く店舗として再利用するのが商売の基本ですわよ)


私はアイアンの足回りに潜り込み、駆動系(サスペンション)の最終調整に入りました。

 前世の大型トラックの荷受けを思い出しながら、構造最適化(メンテナンス)の力を流し込んでいきます。


「店長! そろそろこっちのラック、積載限界(MAX)ですぜ!」


ヴィンセントが、私が急造した巨大な積載用キャリア(スチールラック)に、コンテナを積み上げながら叫びます。

 筋力担当の彼は、今やフォークリフト並みの働きを見せていますわね。


「ヴィンセント、焦ってはダメですわ。重いものは下、軽いものは上。

 重心のバランスが崩れれば、移動中に荷崩れ(ロス)が発生しますわよ。

 ヴェルナー、リタ! 隙間に緩衝材として、そのボロ布を詰め込んでちょうだい!」


「了解、店長! ……しかし、こんな重いもん積みまくって、アイアンは大丈夫なんですか?」


「当然ですわ。アイアンの脚部駆動(サスペンション)は、私が先ほど現場判断(アドリブ)で最適化済み。

 伝説の守護神を、過積載くらいでガタつかせるようなヤワな設計にはしておりませんわ!」


(……実際、今のアイアンは前世の超大型ダンプ(コマツ・930E)並みの運搬能力がありますわ。

 そこに私の魔力で慣性制御(スタビライザー)をかけているんだから、卵を積んでも割れませんわよ)


作業開始から数時間。

 アイアンの側面や背中には、ゴミ山から回収された「魔導マニホールド(お宝) 」 や「 古代合金パネル(建材) 」が、テトリスのように整然とパッキングされていきました。

 雪に埋もれていた崖下は、今や掃除機をかけた後のように空っぽ(更地)ですわ。


「……ふぅ。これで全在庫(オール・ストック)、積み込み完了ですわね」


私が額の汗(令嬢なので光る露ですわ)を拭うと、従業員たちがゲッソリした顔で戻ってきました。

 ですが、彼らの目は輝いています。

 なぜなら、この重労働の後に待つ「福利厚生(ご褒美)」を知っているからです。


「店長……お、終わりました。……飯、飯ですよね?」

 ヴィンセントが期待に満ちた目で私を見つめます。


「ええ、よく働いてくれましたわ。

 出発のお祝いに、本日は特性濃厚トマトスープ(非常食リメイク)と、石窯で焼いたフォカッチャですわよ」


「「「「「うおおおぉぉお!!!」」」」」


(……ちょ、ちょっと。野獣のような声を上げないでくださる?

 これだから、胃袋を掴んだ現場作業員(ガテン系冒険者)は扱いやすいですわ。

 王宮の騎士団がどんなに給料を積んでも、私の作る「焼きたてパン」の誘惑には勝てませんわよ)


「では、みなさん! 作業服のままでは失礼ですわ。まずはアイアンの手のひらシャワーで泥を落として、食堂スペースへ集合してちょうだい!」


私がパチンと指を鳴らすと、アイアンが「ゴゴッ」と短く返事をし、肩から温かい魔導温水(ミスト)を噴射しました。

 (……よしよし。外気温マイナス十度での水仕事は、現場の離職率(ターンオーバー)を上げますからね。給湯設備の安定こそがホワイト企業の証ですわ)


冒険者たちが「温けぇ……」「生き返る……」と茹で上がったタコのような顔で寛いでいる間に、私は特設の厨房ユニット(キッチン・ベース)へと向かいました。


「さて、今日は引っ越し初日。棚卸し(在庫整理)で出た余り物……いえ、厳選された食材を有効活用(リメイク)しますわよ!」


取り出したのは、プフが拾ってきた魔導トマト(完熟デッドストック)

 それに、アイアンの排熱を利用して乾燥させておいた干し肉(保存用プロテイン)です。


「ラモン! 魔導コンロの火力を中火でキープ。フランカ、ハーブの香りをスープに同期(アジャスト)してちょうだい!」

 「はい、店長! この火力調整、魔力制御の訓練より集中します!」

 「まかせてくださいリゼ様、消臭と芳香の黄金比(ゴールデン・ルール)はバッチリですわ」


コトコトと煮込まれるスープから、食欲を暴力的に刺激する酸味と旨味の香りが立ち上ります。

 仕上げに、石窯で表面をカリッと焼き上げたフォカッチャ(自家製パン)に、岩塩とオリーブオイルを少々。


「お待たせいたしましたわ。リゼ・ホームセンター特製、引っ越し御膳(パワー・ランチ)の完成ですわ!」


テーブルに並べられた料理を見た瞬間、ヴィンセントの鼻の下が伸び、ヴェルナーの喉が大きく鳴りました。

 

 「い、いただきますっ……! ……!? なんだこれ、パンが、パンが熱くてモチモチだ! 王都の硬パン(バケット)みたいに顎が外れる心配がないぞ!」

 「このスープ……肉の旨みがトマトの酸味で最適化(メンテナンス)されてやがる……! これなら樽ごと飲めるぞ!」


(……ふふふ、喜んでいただけて何よりですわ。

 前世の現場メシ(炊き出し)で学んだのは、空腹と冷えは最大の敵だということ。

 アツアツの炭水化物を放り込んでおけば、どんな屈強な男でもチョロい(ちょろい)ものですわね)


リタが無言で三回もおかわりをし、フランカが「もう王太子様の顔、忘れちゃいましたわ」とほほ笑む。

 プフはスープに浸したパンを「ぷふぅ、むっふー!」と夢中で頬張っています。


ひとしきりお腹を満たし、全員の幸福度(パラメーター)がカンストしたところで、私はアイアンの制御中枢(メイン・コンソール)に手を添えました。


「さあ、心もお腹も満タン(フル・チャージ)ですわね?

 アイアン。いきましょう。まずはこの窮屈な崖下を脱出アウト・オブ・オフィスですわよ」


「――ゴゴゴゴゴゴッ!!!」


アイアンが歓喜の声を上げるかのように、重低音の駆動音を響かせました。


 「……ゴゴ、オォォォン……!」

アイアンの自重に、数千トンの過積載在庫(オーバー・ストック)が加わり、崖下の地盤が悲鳴を上げました。


だが、私の慣性制御(スタビライザー)は完璧。

巨体は沈み込むことなく、まるで重力という名の納期(デッドライン)を無視するように、垂直に近い崖を力強く踏みしめました

 

 一歩。また一歩。

 

 そのたびに崖下のゴミ山が震え、積もった雪が派手に舞い上がりました。

 観測デッキから外を眺める従業員たちが、窓に張り付いて声を上げます。


「す、すげえ……! 崖を歩いて登ってるぞ! あの急斜面を平地みたいに!」

 「見てください店長! 王都が……あんなにボロボロの暗い街に見えますわ!」


(……あらあら。高いところから見ると、王宮の管理不足(メンテナンス・エラー)がよくわかりますわね。

 さて、王宮のエドワード(ダメ上司)様。

 あなたが『ゴミ』として捨てたものが、どれほどの価値を持って動き出したか。

 せいぜい今のうちに、その冷え切った欠陥住宅(ロイヤル・パレス)で震えて待っていなさいな)


伝説の守護神を移動式ホームセンター(キャリア・ベース)に改造した、前代未聞の要塞が街道へと躍り出ました。

 私たちのロードサービス(異世界救済)、開始ですわ!

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