表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

第9話:アイアンの肩に街灯を灯しましたわ

アイアンが街道へと踏み出し、数時間が経過しました。

 雪山の長い影が伸び、辺りは急速に、そして粘りつくような深い闇に包まれていきます。


(……さて。この世界の夜道は、前世の深夜の資材置き場(バックヤード)より暗いですわね。

 魔導士のラモンが杖を光らせていますが、あんな豆電球(ナツメきゅう)程度の光量では、時速四十キロの安全運転は不可能ですわ)


観測デッキの窓に張り付いたヴェルナーが、顔を青くして叫びました。


「店長、これ以上暗くなると、前方の障害物(デッドストック)に気づけません! 速度を落とすべきです!」


「いいえ、納期……失礼、到着予定時刻(ETA)は厳守ですわ。

 ラモン! アイアンの排熱から変換した余剰電力(アイドル・パワー)を、この反射板(リフレクター)へ集中させてちょうだい!」


私は、ゴミ山から回収した魔導クリスタル(ジャンクひん)を手に取りました。

 表面には、光を効率よく拡散、収束させるための多面カット(ダイヤモンド・カット)を精密に施してあります。


「な、なんです、この眩しさは!? 杖の光が、何十倍にも増幅されている……!?」


(……ふふふ。ただのクリスタルではありませんわ。

 内部の構造を全反射(プリズム)に最適化した、リゼ特製のハイビーム(こうきどLED)ですわよ!)


私がアイアンの肩にある街灯受け(ランタン・ハンガー)にそれを装着した瞬間。

 

 カチッ、という小気味よい音と共に、アイアンの前方に暴力的なまでの白い光が照射されました。


「「「「「ま、眩しいッ!!!」」」」」


暗闇に沈んでいた森の街道が、一瞬にして昼間のような白さに塗り替えられました。

 (……指向性を絞ったスポット照射(ビーム)と、周囲を広角に照らす周辺光(ワイド)の二段構成。

 これで数百メートル先の魔物の動揺した顔(まぬけなつら)まで鮮明に映し出せますわね)


「……店長、この光、消さないでくれ。この明るさがないと、もう一歩も進める気がしねえ……」


ヴェルナーが震える声で漏らしました。

 一度「昼間」を知ってしまった人間にとって、元の「本物の闇」は死よりも恐ろしいものに変わるのです。

 これこそが、インフラ依存ホワイトきぎょうのわなの第一歩ですわ。


(……一方その頃、王都の王宮ではどうかしら。

 保守点検をケチったせいで、魔導炉は出力制限(リミッター)がかかり、街灯一つ点かない暗黒都市になっているはず。

 夜襲と事故の損害報告(ログ)で溢れかえる絶望の夜。せいぜいロウソク(アナログ)一本を囲んで震えているがいいですわ。ざまぁですわね)


その時、リタの鋭い視線が、光の先に逃げ遅れた行商人(カスタマー)を捉えました。


「店長……あっちの森の入り口で、誰かが手を振っていますわ! ……あれ、王都でも有名な希少素材商(バイヤー)、ハンスさんの馬車です!」


精密検索担当のリタが、アイアンの全周囲モニター(水晶球)を指差しました。

 吹雪に沈む北の森の入り口。一台の馬車が、消え入るようなカンドルの灯りを頼りに立ち往生しています。


「あら。夜間営業中にお客様かしら。いいですわよ、アイアン。あの方たちを収容(ピッキング)して差し上げましょう!」


「ゴゴッ!」


アイアンが巨大な指先をタラップのように展開し、凍えきった商人の一行を保護(サルベージ)しました。

 ハッチが開き、アイアンの内部へと足を踏み入れたハンスは、室内の恒温維持(にじゅうごど)と、昼間のような明るさに腰を抜かしていました。


「あ、ありがとうございます……! 助かった……。王都は今、魔力不足で真っ暗闇の地獄。まさかこんな光の城が実在するなんて……」


「当然ですわ。夜道に灯りがないなんて、安全基準(コンプライアンス)違反ですからね」


「あらあら、ハンスさん。そんな泥にまみれた体で床を汚してはいけませんわよ? ふふ、まずは強制洗浄(フル・クリーン)して差し上げましょうか?」


衛生担当のフランカが、おっとりとした笑顔で除菌スプレー(デリート)を構えて近づきます。その背後に立ち昇る「清潔への執念」に、ハンスは救出された安堵も忘れて硬直(フリーズ)していました。


「さて、ハンスさん? 命のサービス料(てすうりょう)の代わりに、その荷台にある魔力抽出器(おたから)の在庫、ちょっと棚卸しで見せてもらってもよろしいかしら?」


リゼが優雅に微笑み、温かいハーブティー(冷却水)を差し出すと、ハンスはガタガタと震えながら話し始めました。


「……お嬢様、王宮は……いえ、王都はもう機能不全(バグ)に陥っています。あなたが管理していた予備部品(スペアパーツ)が尽きて、街の魔導灯すら半分以上が消え、上下水道のポンプ(循環系)も止まりかけているんです」


「あら、聖女様がいらっしゃるのでしょう? 祈りで解決していただいたらどうかしら」


「無理ですよ! 聖女様が『奇跡を!』と叫んでも、摩耗した歯車は戻らない。祈りという名の精神論(バグ)では、物理的な減価償却(いたみ)はどうにもならないんです……。今やあそこは、不潔と暗闇が支配する不良債権(ゴミの街)です」


「……ふふ。物理の法則を祈りで上書き(オーバーライド)しようなんて、相変わらず無能な管理者(上司)たちですわね」


リゼは不敵に目を細め、ハンスの肩を優しく、かつ逃がさないように掴みました。


「ハンスさん。私が持っているこの不良在庫(おたから)が、彼らにとっての救済(ラストリゾート)になるとも知らずに……。あなたには私の専属協力会社(アウトソーシング)として、このアイアンの光をビーコン(目印)に、王都で見捨てられた腕の良い職人をこちらへ集めていただきたいのですわ」


「職人を……!? しかし、それは王宮への反逆(バックドア)になりませんか?」


「いいえ、これは人材の適正配置(ヘッドハンティング)ですわ。不毛な土地で腐敗(バグ)を待つより、私の現場でフル稼働(フル・パワー)する方が、技術者として幸せだと思いませんか?」


リゼの瞳には、王都への市場介入(カウンター・アタック)の計画が静かに、そして熱く灯っていました。


「さあ、次は誰を買収(スカウト)しましょうかしらね!」

面白いと思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ