第10話:不当解雇した主を連れ戻しに?
(……とはいえ、あの光量ですものね。
目立たないはずがありませんわ。遅かれ早かれ、王宮かどこかが嗅ぎつけるとは思っていましたけれど)
「――見つけたぞ、リーゼロッテ! 往生際悪く、こんなゴミ山に潜んでいようとはな!」
アイアンの足元、豆粒のように見える騎士団の先頭で、エドワード様が聖剣を振り回して叫んでいますわ。
どうやら、王宮の暖房システムが大規模爆発し、凍死の恐怖に耐えかねて私を再雇用しに来たようですわね。
(……お断りですわ。一度損出しした案件を、現場の都合で差し戻ししようなんて、経営者として三流以下ですわよ)
「騎士団、突撃だ! その巨大なガラクタごと、あの女を捕らえよ!」
彼の合図で、魔導騎士たちが一斉に魔法を放ちました。
鉄をも溶かす火球と、岩をも砕く衝撃波がアイアンを飲み込みます。
「店長、危ない! アイアンに直撃します!」
観測デッキでヴィンセントが武器を構えますが、私は優雅に紅茶の香りを楽しみながらそれを制しました。
「構いませんわ。今のアイアンはフッ素樹脂とセラミックで表面処理済み。あんな低出力、洗車機の予備洗浄にもなりませんわ」
ドォォォォン!!
爆炎が晴れた後、そこには傷一つ付いていない、新品同様に輝く黒鉄の巨体が鎮座していました。
「な、なんだと……!? 騎士団総出の魔法が、弾かれただと……!?」
「嘘だろ……煤すらついてねえ……俺たち、何を相手にしてるんだ……?」
騎士たちの間に、驚きを超えた絶望が広がります。
(……当然ですわ。魔法の熱は遮熱塗料で散らし、物理衝撃は非晶質合金が吸収。
むしろ、表面に付いていた砂埃が吹き飛んで、より美しくなりましたわね。テスト運転の負荷にもなりませんわ)
「エドワード様、あまりアイアンを汚さないでいただけます? 清掃コストが嵩みますわ」
「き、貴様ぁ……! ならばこれはどうだ!」
エドワード様が聖剣を掲げ、奥義を放とうとした瞬間。
パキィィィィン!!
という情けない乾いた音と共に、剣身が根元から真っ二つに折れました。
「……あら。以前申し上げたはずですわ。金属疲労で限界だと。
定期点検をサボって過負荷で振り回せば、そうなるのは必然ですわよ」
膝をつく王太子。周囲の騎士たちも、自分の鎧の繋ぎ目が錆びついて動かなくなっていることに気づき、恐怖に顔を歪めます。
かつて彼らが「ただの掃除」と馬鹿にした私の保守管理が、どれほどの重みを持っていたか。
「店長……あんたがいなかったら、俺たち今ごろあいつら側で凍えてたんだな……」
ヴェルナーさんが、冷え切った外気とアイアン内部の暖かさを交互に感じ、依存つくように呟きました。
「さて。営業妨害への特別対応ですわね。
アイアン、高圧洗浄、射出。防錆剤代わりによく冷やして差し上げて」
アイアンの指先から、圧縮された水が超音速で噴射されました。
鎧の隙間に容赦なく入り込む氷水。気化熱により体温を奪い、同時に関節を凍結させ、騎士団を泥まみれのまま街道の果てまで吹き飛ばしました。
「……ゴミは一掃するのが掃除の基本。さて、お夜食にしましょうか」
私は優雅に背を向けましたが、救助した商人が青い顔で震えながら報告してきました。
「て、店長……! 王太子は、国宝の禁忌兵器を持ち出すつもりだそうです……! それ、私が王宮に納品したばかりの……!」
(……あら。それ、私が納品検収してない未完成品ですわね?
面白いわ。欠陥品同士で心中させて差し上げましょうか)
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