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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
383/384

E-382 石火矢と大砲の良いとこ取り


 迫撃砲は、ナナちゃんが座った姿程の大きさの大きさだ。

 砲身の横に着いた分度器の針を60度に設定して、迫撃砲砲身下部にある撃針設定をトリガーと連動させる位置にする。これで砲弾を砲身内部に落とし込んでも装薬が点火されることはない。セーフティレバーの位置を『安全』と書かれた位置にしたところで、用意した紐をトリガーに結び付ける。

 紐を退避壕の位置まで伸ばしたところで、砲身内に砲弾を落としこんだ。


「ちょっと面倒だけど、これがトリガーを使った場合の発射の手順になる。セーフティレバーの位置はきちんと確認してくれよ」

「了解しました。案外簡単なのですね」

「それじゃあ、退避壕に避難するか。最初だから砲身が爆発しないとも限らないからなぁ」


 準備が完了したところで、俺とエニルを残して皆を下がらせる

 迫撃砲の周囲には俺とエニルだけになったことを確認したところで、セーフティレバーを『発射』位置にする。

 エニルがしっかりと確認してくれたところで急いで非難壕に飛び込んだ。


「ナナちゃん。発射すると伝えてくれないかな」

「分かったにゃ!」


 光通信機を使うのかと思ったら、その場で後方の城門の上に両手を高く上げた。

 向こうでも両手を上げるのが見えたから、合図をあらかじめ取り決めておいたのかな?


「伝えたにゃ!」

「なら発射するぞ! エニル、この紐を引いてくれないか?」


 紐を受け取ったエニルが簡単なカウントダウンをして勢いよく紐を引いた。

 炸裂音が周囲に響くと思ったんだが、聞こえてきたのは「バシュン!」というちょっと気の抜けた音だった。


「どこまで飛んだんだろう?」

「ずっと向こうで、ちょっと土煙が上がりました。およそ1コルム程先です!」


 ちゃんと飛んだみたいだ。

 

「エニル、後ろで見ているから今度はエニルが発射準備までしてくれないか? 2人程エニルの操作を見せてやってくれ」

「了解しました。それでは始めましょう!」


 大砲を操作したことがある兵士と新たな兵士の2人を後ろに控えさせてエニルが発射の準備を始める。

 順序をきちんと理解しているようだ。俺から指摘するようなことがまるでない。


 準備が終了したところで、周囲の兵士を下がらせるとセーフティレバーを解除する。

 退避壕に走り込むと、再び迫撃砲を放った。 

 操作する兵士を変えて5発程放ったところで砲身を調べる。

 大砲のように装薬が一気に爆発しないからだろうか? 薄い砲身には変形した場所やひび割れた場所がどこにもない。


「どうやら思惑通りの物が出来たようだ。次は迫撃砲本来の使い方を教えるよ」


 撃針設定位置をトリガーモードから連続モードに変更する。セーフティレバーを『発射』位置にしたところで、俺の隣に来るようエニルに伝えた。


「足元に3発砲弾を置いて、俺が手を伸ばしたら砲弾を乗せてくれないか?」

「良いですよ。でも発射は面倒ですから、発射できる状態になってから渡した方が良いように思えるのですが?」

「直ぐに分かるよ。これはある意味石火矢に似た使い方ができるんだ」


 首を傾げながらも、俺の隣に片膝を着いて、足元に3発の砲弾を置いてくれた。


「1個は持っていたくれたほうが良いな。……持ったかな? それじゃ、始めるぞ!」


砲身内に砲弾を落とし込むと直ぐに砲身から体を離す。バシュン! という発射音を聞きながら「エニルに片手を伸ばすと次の砲弾を渡してくれた。

 受け取った砲弾を方寸に入れると、次の砲弾を受け取り……。


「驚きました。次々と砲弾を打ち出せるんですね」

「それがこの大砲の特徴なんだ。次はエニルがやってみてくれ。それが終わったらいよいよ実弾を使ってみよう。


 少し離れた位置で見ていたんだが、先ほどと同じように危なげなく砲弾を放ってくれた。

 最後に、実弾を使った試験になるんだが、その前に砲身に異常がないことを再度確認する。


 エニルが入念に砲身を点検した後で、もう1度俺が砲身の確認を行う。

 念には念を入れての作業だけど、エニル達にもしもの事があれば責任は俺だからね。


「さて、始めて見るか。先ずは1発ずつ角度を変えての発射になる。ナナちゃん城門の上の観測班に距離の測定をするよう伝えてくれないか」


 エニル達が砲弾を運んでくる間に、ナナちゃんが連絡してくれたようだ。城門に上から片手を上げて了承を伝えてくれている。


「さて先ずは50度から発射しよう。角度は5度ずつ上げてくれ。75度まで行えば角度と距離の関係が分かるはずだ」

「了解です。先ずは私から行いますから、退避壕まで離れてください!」


 ナナちゃんを連れて退避壕に入る。ナナちゃんが潜望鏡を使って覗いているだけど、砲身に異常が無いからこの位置なら頭を出していても問題は無いと思うんだけどね。


 エニルが砲身に砲弾を半分ほど差し込んで、片手を上げる。

 上げた手を下ろすと同時に手に持った砲弾を離して身を屈めた。

 

 バシュン!

 実弾も模擬弾も発射音に変化はない。

 さて……、心臓の鼓動が6つほどしたところで南に爆炎が見えた。結構土埃があがっているなぁ。石火矢よりも炸薬量が多いとは言っていたけど、石火矢2本分ぐらいの威力がありそうだ。


「ナナちゃん、距離を確認してメモに記録しといてくれないか?」

「了解にゃ。ちゃんと記録しとくにゃ。1発目の距離は……」


 1発目というより角度を記録して欲しいな。距離の測定値が分かったところで、ナナちゃんに角度を教えてあげた。


 都合6発を順次発射していく。

 距離がだんだんと短くなるのは仕方のないことだが、50度で飛距離1.2コルム、75度で320コルムという結果が得られた。

 もう1人の俺が最高到達点を教えてくれたんだが、その高さは920ユーデにもなる。十分に西の尾根越しに攻撃することが可能だ。


「さて4発残っているから、連続発射を試してみるか!」


「おもしろそうですね。模擬弾でも試しましたけど、一か所に集中的に落ちるんですから……」


 今度は退避壕に戻らず、エニルと一緒に近場で操作を見守ることにした。

 エニルの発射の号令で4発が次々と放たれたのだが……。


「この大砲はこれまでの戦を変えるかもしれません!」


 遠くに上がった連続した炸裂を見たニルが呟いた。


「間違いなく変えるだろう。だからエニル達に託すよ。この大砲は見通し距離なら修正射撃が出来るだろうけど、山越えや森を越えての砲撃も出来る。観測班と光通信を上手く使ってくれ。出来れば新型大砲を使うようなことが無いようにしたいところだな」


 ティーナさんも欲しがるだろうな。

 これはさすがに供与することはできないだろう。マーベル国の防衛だけに使うよう上手く手立てを考えないといけないな。

 エクドラル王国との同盟軍に参加する小隊に持たせる通常型の石火矢の数を増すことで妥協して貰えば良いか……。


「さて、試射は終了だ。やはり最初の太さと長さで十分だったな」

「これは試射しないんですか?」


「一番太くて短いのは小型の大砲になりそうだ。西の尾根の指揮所に備えたいところだね。葡萄弾が撃てるなら一時的にでも押し寄せてくる魔族をまとめて倒せるだろう」

「各城門に置いてある大砲と同じということですか。そうなるとあの指揮所に城門を付けたくなりますね」


 そんなことをしたら、ますます指揮所に魔族が押し寄せてきそうだ。

 だが、案外悪くもないかもしれない。

 尾根全体の防御を固めるのはかなりの年月が必要だが、部分的に強化してそれを華美にするなら、案外魔族が攻略目標にしてくれるかもしれない。

 現に、尾根の指揮所に押し寄せてくるぐらいだからねぇ……。


「面白いことを考えついたよ。エニルのおかげだ。実行するにはレイニーさんの許可とガラハウさんの協力が必要だろうけど、魔族がこっちにやってこない間なら作れそうな気もするんだよなぁ」


 再度、「ありがとう」とエニル伝えてナナちゃんと一緒に西の城門に向かう。

 エニル達に後始末は任せておけば問題は無いだろう。夕暮れまでには迫撃砲の砲身内部まで掃除をして磨き上げるんじゃないかな。


 城門にはレイニーさん達が待っていてくれた。

 何も言わないところが怖くもあるんだが、そのまま指揮所に向かって歩いていく。

 指揮所に着くと、いつもの席に座ったのだがレイニーさんとナナちゃんが集まった連中にワインの入ったカップを配ってくれた。

 なんか長くなりそうだな……。


「あれは石火矢なんですか? それとも大砲なんですか?」


 レイニーさんは、先ずはその確認からだった。


「大砲ですよ。発射の仕組みを変えてますが、石火矢ではありません。炎の尾を引いて飛んでいくことは無かったはずです」


「石火矢よりも1発の破壊力があるのではないか? しかも続けて放てる。石火矢と大砲の長所を併せ持つ兵器に思えるが?」

「とは言え、大きな欠点を持つことに気が付きませんでしたか? 飛距離が短いんです。ちょっと説明しますね……」


 席を立って黒板の前に行き、大砲と石火矢の弾道を説明した。

 最後に迫撃砲の弾道を説明すると、皆が目を見開いているんだよなぁ。


「高く上がるから、遠くに飛ばないだと? なら砲身を低くすればよいことに思えるんだが」

「砲弾を砲身の中に落とし込で発射しますからね。砲弾が砲身内を勢いよく滑り落ちる必要があるんです」


「高く上げる必要が分からないにゃ。それなら火薬を減らしても良さそうに思えるにゃ」

「火薬を減らせば高く上がりませんが、遠くにも飛びませんよ。この大砲の唯一の欠点でもあるんですが、逆に長所でもあるんです。西の尾根の下から魔族の集結地を叩けます。尾根の高さの3倍は高く上がりますからね。石火矢でも可能ですが、さすがに尾根下から狙ったのでは向こう側の尾根には届かないでしょう」


「それで何門作るのですか?」

「4門もしくは5門ですね。防衛用であればそれで十分です。ボニールの曳く荷台で運べますから運用は大砲よりもはるかに容易に行えるでしょう。東の魔族相手なら新型大砲や新型石火矢が有効ですが、各城門の守りと西の尾根の守りは迫撃砲が有効に使えるはずです」


「ちょっと音が情けないにゃ。もっと大きくなドカン! といかないのかにゃ?」


「あれより火薬を増やしたら、砲身が避けてしまいますよ。あの音で良いんです。それで大砲を軽く作ることが出来るんですからね」


 まぁ情けない音なのは、俺も認めるけどね。でも音で戦をするわけではないからなぁ。それに耳が痛くなることもない。

 案外エニル達は、あの音で満足しているかもしれないな。


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