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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-379 マーベルの女性は皆たくましい


 新たにエニルの配下となった2個分隊は全員がレイニーさんより年上の小母さん達だった。

 若干ふくよかな体型をしているけど、まぁ、許容範囲内だろう。エクドラさんだってふくよかさを通り越しているんだけど、弓は名手だからね。

 種族はバラバラだけど、迫撃砲の移動は荷馬車だ。荷馬車からの荷下ろしが出来れば問題はないだろう。

 全員に上下2連の拳銃を持たせれば安心できるし、そもそも戦の矢面には立たない部隊でもある。


 そんな新たな砲兵を迎えたエニルに、重砲と名付けた新型の大砲を担当する分隊と迫撃砲を担当する分隊に種族の特性を生かして分けるように伝えた。

 直ぐに重砲部隊をトラ族としたのは、トラ族が屈強な体力を持っていることを知っているからだろう。

 迫撃砲の分隊はイヌ族、キツネ族それにネコ族のご婦人方だ。ちょっと体力的に大丈夫かなと心配したんだが、ナナちゃんと同じぐらいの重さがある迫撃砲を組み立てたまま4人で力を合わせて荷台に乗せていた。

 俺の取り越し苦労かもしれないな。

 1人1人の体力が無くとも、皆で力を合わせれば良いという見本を直に見た感じだ。


 ガラハウさんが作った2門の迫撃砲をよく見ると、砲身の太さが若干異なるようだ。それに「これも試してみてくれ」と渡された砲身は既存と比べて長さが5割増しになっている。

 要するに4種類を比べてみることになりそうだ。

 砲弾についても4種類が作られていた。装薬の量を変えた2種類と、砲弾株の横に着けた燃焼ガスの噴出口の数が違っている。

 これで最適な砲弾を見つけることになるのかな?


「どこで試射してみましょう?」


「そうだなぁ……。飛距離は1ミラル程度を予想しているから、南の森を出た辺りで行ってみるか。試射は危険でもあるから、こんな退避豪を作ってくれないか? 迫撃砲の後方20ユーデ程で良い。このトリガー部分に紐を付けて、豪に隠れて発射しよう。迫撃砲はすぐ傍で使うんだけど、さすがに最初はねぇ……」


 3日後に試射を行うことにして、エニル達の屯所を後にする。

 さて、どれぐらい飛ぶんだろう?

 威力は間違いなく石火矢を越えるんだけど、飛距離が問題だ。ある程度試射を繰り返して砲身角度と飛距離のグラフも作らないといけないな。


 指揮所に戻ると、レイニーさんが暖炉の傍で編み物をしていた。ナナちゃんがいないから、席に着く前に自分のカップにお茶を注いで、テーブル越しの席に着く。


「いよいよ試射を行うのですか?」

「3日後に行います。その結果を基に迫撃砲を改良すれば、夏の終わりには迫撃砲部隊を実践配備できそうです」


「ビーデル団から兵士となったのは8人聞きました。ネコ族の2人をヴァイスが引き取り残りの6人はエルドが訓練をするとのことです」

「すでに爆弾と石火矢が前回の数を越えていますから、少しは安心できます。とはいえ前回を越えると判断した時には総動員令を出してください。魔族の一群が尾根を越える可能性が出てきます」


 レイニーさんが小さく頷いてはくれたけど、ちょっと沈んだ顔をしている。

 相変わらずの心配性だからなぁ。俺も人のことは言えないけどね。


「昼食後に工房に行ってきます。廉価版の陶器の製作を依頼してみるつもりです。陶器を作る特殊な窯については技術供与はしませんから、通常の窯で陶器に似せた品が出来るか試してみようかと」

「その窯を教えるということですね。そうなると釉薬は?」


「灰を使います。どんな製品になるのか分かりませんが、窯の内部温度がかなり異なりますから、陶器にはなりません」

「陶器に似せた土器と言うのが正しい表現なのでしょう。マーベルの人口は増え続けていますが、耕作地や放牧場を急に増やすことは出来ません。私が生きている間は、他国が作れない物を作って外貨を得ることになりそうですね」


 今でも食料を自給できないからなぁ。エクドラルとの交易で得た利益の3割は食料の購入だ。割合はだいぶ減ってはきているが、将来1割程度まで下げたいところだな。

 

「ところで農地の開拓は順調なのでしょうか?」

「マクランさんが頑張ってくれてます。だいぶ大麦の畑も増えましたし、羊やヤギの数も増えているようです。冬場の内職は盛んなようですね。私は、子供達へのプレゼントで留めています」


 大統領が内職してるなんて聞いたら、デオーラさんが驚くだろうなぁ。だけど子供達へのプレゼントということなら、似たことを王侯貴族の奥さん達も行っているに違いない。

 無償の奉仕という行為は、尊ばれることはあっても卑下されるものではないからね。

 とはいえ、女性限定にも思える。

 俺達男達はそれに見合うような作業が無いんだよなぁ……。

 何か考えてみようか。何となくマーベルの女性達が社会活動で一歩先んじているように思えてならないからね。


「それでは出掛けてきます」


 レイニーさんに軽く頭を下げて、工房外へと足を運ぶ。

 ガラハウさんの工房は洞窟の中にあるんだけど、他の工房は全てここから北西にある。小さな工房は住宅の中にもあるんだが、それは工房というよりも家内工業という言葉がふさわしい。

 矢やボルトを作ったり、剣の柄を作ったりしているんだよね。木工職人も奥さんや子供達が回すロクロを使って作業をしているようだ。

 

 住民の住むログハウスの3倍ほどの建物が並んでいるのが工房街だ。西の畑へと流れる水路にはいくつかの水車が回っている。

 水量が豊富なのもありがたい。水路の先には大きな貯水池があるんだけど、そこで順調に魚も育っているようだ。

 もっとも、ヴァイスさんの言うことには、ナナちゃん達が育てている魚が一番おいしいらしい。

 あれは川魚と言って良いものか迷うところではあるんだが、確かに味は良いからなぁ。


 ステンドグラスの工房に入ろうとした時だった。開けようとした扉が急に開いて中からフレーンさんが現れた。


「こんにちは。珍しいところでお会いしました。何かご注文でしょうか?」


 俺の言葉に笑みを浮かべて首を振る。


「そうではありません。どちらかと言うと、監修ということになるのでしょうか。私の要件は終わりましたが、その話を少ししないといけませんね」


 改めて工房内に入ると、工房の端に設けてある休憩用のベンチに向かった。

 俺がベンチの腰を掛けると、傍の小さなストーブからポットを取り上げお茶を淹れて俺の前のテーブルに乗せる。


「たまにやってくるんです。ここで作られたステンドグラスが神殿に飾られることが多いようですし、貴族からの注文もそれを飾る場所が礼拝所ということもあるようです」


 なるほど、少し分かってきたぞ。

 原図はナナちゃんの感性で描いたものだが、必ずしもこの世界の宗教上の教えにそぐわない可能性があるということだろう。

 ナナちゃんが敬う神様は誰なんだろうな。精霊族だけど、まだ小さな少女時代に魔族に同族が殺されてしまったからなぁ。

 信仰心がちゃんと育っているのか微妙なところではあるんだよなぁ。


「それで、結果はどうでしょう? 俺も注意をしていなかったことに恥じ入るばかりなんですが」

「問題は無いようです。ナナちゃんは精霊を束ねる女神を信仰しているようですね。私は風の神の見習い神官ですが、風の神も精霊を傍に置いています。他の神も同じですから、精霊が具現化した小さな妖精を描くことは何ら問題はありませんし、神の手助けをする妖精はすぐ傍にいると感ずることも出来るでしょう。

 とはいえステンドグラスに描かれた神と妖精が逆転しているようでは問題になりかねませんから……」


 なるほどねぇ……。宗教画と言うのは簡単そうで難しいところもあるみたいだな。

 そんなことを誰も教えてくれなかったんだけど、フレーンさんが気が付いてくれたことに改めて頭を下げて感謝することにした。


「そんなことはしないでください。私としては出来ることをしただけですし、レオン様にはいろいろと便宜を図って頂いております。

 頂いた祈祷書はあまりにも立派過ぎて開くたび神に祈りを捧げております」


 凝った物が作れるか? と製本工房に行ったことがあるんだよなぁ。1か月ほど経って届いたのが、フレーンさんに進呈した祈祷書だった。

 革の表紙を銀細工で覆っていたし、祈祷書その物は案外薄い本になるんだが、羊皮紙を使って印刷してあったからなぁ。印刷は活版だったけど、詩句の初めの文字は文字なのか装飾なのか分らないような模様だったし、詩句の中の大文字全てが装飾されていた。

 俺にはかろうじて読めたんだけど、ヴァイスさんは魔術の本だと言ってたぐらいだからね。あれをすらすら読める人は、祈祷書をそらんじている人くらいだろう。

 それがフレーンさんに送った理由でもあるんだよなぁ。


「あの祈祷書をもう1度作れば、役立つかもしれませんよ」

「エクドラル王国内の神殿に贈るということでしょうか?」


 俺の言葉にフレーンさんが首を横に振る。


「王宮の礼拝所……。そこが一番だと思います」


 思わず息をのみ込んだ。

 確かに、送り先としては最適だろう。エクドラル王宮に行った際には散々世話になっていることも確かだし、お土産もたくさん貰ってしまった。

 返礼の品はまだ送っていないところだし、あの祈祷書なら誰も文句を言わないだろう……。だけど、その後が大変に思えるなぁ。

 きっと注文が殺到するに違いない。


「フレーンさんも策士ですね。早速数冊作らせてみましょう。ところで神殿の神が異なっても祈祷書の文は同じでよろしいのですか?」

「かつて大帝国がこの地に栄えていたそうです。そこで皆が信じられていた神は1つであったと……。信じる神が違えども同じ祈祷書であるのはその名残と言われています」


 そんな秘密があったんだ……。

 確かにデオーラさんも俺達が教育に使っている祈祷書について何も言わなかったからなぁ。

 全て同じ詩句であるなら俺達の取っても都合が良い。

 俺が笑みを浮かべたのを見て、フレーンさんが俺に小さく頷くと席を立って工房から出て行った。

 俺達の集まりに顔を出さないから、こんな貴重な話をここで聞くとは思わなかったな。

 信仰心は乏しいけど、たまに礼拝所に行ってみるか……。


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