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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-377 ご婦人部隊部隊ができそうだ


 夕食後、指揮所でのんびりとパイプを楽しんでいると皆が集まってくる。

 集まる連中はいつも同じではないんだよね。それなりに自分の所属する部隊や団体の調整もしているようだし、ここに来るのが面倒だという者もいるようだ。

 中には酒を飲むためという人もいるだろうな。ガラハウさんは間違いなくその1人だと思うけど、仲間と一緒なら火酒と呼ばれる蒸留酒を飲むはずだ。ここではワインだから案外自分の体を考えているのかもしれない。


「確かに増員は必要でしょう。とはいえマーベルの総人口を考えると、それほど多くの兵士を作るというのも問題ですぞ」


 元開拓民でマーベルの最長老なんだけど、マクランさんは今でも現役の開拓者だからなぁ。いい加減、鍬を担ぐのを止めさせようとする動きもあるようだけど、そんなことをしたら急に老いてしまいそうなんだよね。俺としては何時までも元気なマクランさんでいて欲しいところだ。


「今年、ビーデル団を退団するのは18人です。全員を兵士にするのは……」


 マーベルの財政と兵站を管理しているエクドラさんの言葉はかなり重いな。

 彼らの希望もあるだろうが、兵士に出来るのは数人もいないんじゃないか?


「となると、民兵組織から兵士を募ることになりますね。レオン殿はどれほど増員を希望しておるのですか?」


 レイニーさんが俺に問いかけてきた。

 皆に視線が俺に集まるんだけど、それは皆も考えて欲しいところではあるんだよなぁ。

 席を立って、壁に貼ってあるマーベルの地図の前に歩いていく。傍に置いてある3ユーデ程の細い棒を手にして地図の上を指した。


「西の尾根の守りを考えると、エクドラル王国からの援軍はありがたい話です。少なくとも指揮所の防衛力は増すことになるんですが……」


 尾根は南北に長いからなぁ。1ミラル近くもある。

 南に向かう程尾根が低くなりなだらかになるから、南の見張り台付近は石を積んである程度立派な石垣にしているほどだ。

 北は急峻な地形ではあるが、そんな地形を物ともせずにレンジャー達が狩りをしている。魔族の中でも体力のある連中をまとめた部隊を作るなら、攻めることも可能ではあるが、今までそんな動きが無かったのが気になるところだ。

 最後に尾根の指揮所だけど、西側の谷に面して石造りにしてあるから当初よりはかなり立派になったことは確かだ。

 見かけは立派だから、魔族にとっては格好の攻略目標に見えてしまうんだろうな。

 いつも主力が押し寄せてくるんだよね。


「なるほど、魔族の主力が押し寄せて来るのが尾根の指揮所で、それに対する陽動部隊というか別動隊がどこを狙うかということですな。大部隊であるなら南がねらい目でしょうが、確かに少数精鋭を北に送ることも十分に考えられるでしょう」


「北の守りはレンジャー達に任せているようだが、相手側の規模次第では突破されかねないぞ」


 今夜はティーナさんが新たな小隊の小隊長であるボルダーさんを連れて来た。皆に紹介するという名目だけど、この集まりに参加させたかったのだろう。


「少なくとも分隊規模の増援をいつでも送れる状況で戦をせねばならないでしょう。レンジャー達に、守りを固めるように依頼していますから、奇襲であれば分隊規模の増援で対処できると考えております」


「それで爆裂矢と小型爆弾が沢山いると言っていたのじゃな? 爆裂矢よりも石火矢と考えておったが、尾根の北を考えておったか……」

 

 ガラハウさんがワインを飲みながら呟いている。


「それで1個分隊……。残りの3個分隊は?」

 

 レイニーさんの問いに、今度は尾根の南に棒を移動する。


「南の見張り台です。石作りの塔ですからおいそれと攻略できるとは思えませんが、防衛力を上げる必要はあるでしょう。1個分隊の増員と石火矢を100個程用意しておけば、魔族の攻撃を遅滞させることは容易です」

「1個分隊の守備兵が2倍になるにゃ。十数本の石火矢を数回放てるにゃ」


 相手に迎撃準備が出来ていると知らせるようなものだ。

 大隊規模の魔族であっても、100本の石火矢を受ければ足を止めるだろう。止めずに見張り台に近付けば、今度は塔の上から小型爆弾が降ってくるからね。

 それまでに救援部隊を送れば良い。


「残り2個分隊ですが、ちょっと変わった部隊を作ろうかと考えています。現在の爆弾よりも威力のある砲弾を撃てる大砲を作ろうかと……」


 ちょっと場が静かになった感じだ。

 予想外ということかな?


「大砲が有効なのはワシが一番知っておるつもりじゃ。現在3門あるのじゃが、あれを増やしても運ぶのに苦労すると思うのじゃが」

「小型軽量、しかも威力がある……。そんな大砲です。後でガラハウさんと詳細を詰めようかと……。それが出来ないとなれば、小型のカタパルトを増やしたいところですね」


「魔族の大軍が集まった場所に砲弾を放つということですか……。それでは石火矢とそれほど変わらないように思えるんですが?」

「かなり変わるんだ。新しい大砲は、あまり飛ばないんだよ。せいぜい一つ先の尾根に届くかどうかだからね。狙いは谷底だ。カタパルトから飛ばす爆弾よりも威力のある砲弾を落とす」


 魔族も少しは驚くだろう。とはいえ現状の爆弾も有効ではある。特に失敗作は西の谷で使うなら絶大な威力を上げるからなぁ。

 あれは爆弾とは呼べないだろう。極めて特殊な爆弾だ。それに使い所も難しくはある。谷底の風を良く見て使わないといけない代物だ。


「砲兵ということですか。それならエニルの砲兵部隊を増員することになりますね」

「現状で銃兵が3個小隊、それに砲兵が1小隊だけど、定員割れしているからね。少しは充実出来そうだし、銃兵3個小隊は実質的には2個小隊規模です。各小隊ともn1個分隊を呼び兵力として後ろに置いているのが現状です」

「予備兵はそれだけなのか? 少なくとも中隊規模で必要に思えるが?」

「その時は総動員令を出しますよ。マーベルの国民が武器を携えて集まります。町に残るのは子供と老人だけになるでしょう」


 問い掛けてきたボルダーさんが驚いて目を丸くしている。

 ここに来た当初はそんな感じだったからなぁ。俺達がここで暮らせるのは全員が一丸となって敵対勢力と戦った成果でもある。

 

 ボルダーさんが苦い表情でティーナさんに顔を向けているのはそれだけの理由だとは思えないからだろう。


「それがマーベルの戦力なのだ。1国の戦力が1個大隊程度と知って最初は私も驚いたが、出せぬ物は出せぬからな。民兵に頼るしかないということに納得するしかなかった。だが、1個大隊に満たぬ時代に、サドリナス軍2個大隊は敗れたのだ。我が軍も手痛い打撃を受けたことがある」


「とはいえ、トラ族兵士の数はそれほどではありませんぞ。そのような戦力で魔族を相手にするのはそれこそ無謀ではありませぬか?」

「寡兵ではあるが、それを兵器で補うだけの技術と知識がマーベルにはある。一部を供与して貰っているが、1ミラルを越える射程を持つ石火矢があるのだ。その威力はエクドラル王国の爆弾を凌ぐほどだからな」


 一度に100発近い石火矢を魔族に放つと聞いてさらに驚いているんだよなぁ。俺達の戦の仕方は、やはりこの時代にはそぐわないのかもしれない。


「それでも尾根を上って来たのが前回です。次に備えて増産を続けていますが、操作が出来る兵士は限られていますからね」

「間断無く打ち続けるということか。谷を下りれば爆弾の雨、谷を上れば銃弾が降るということだな。エクドラル王国もそうありたいものだが、中々そこまでにすることは出来んだろうな」


「少し話がそれましたが、どれほど来年は増員が可能なのでしょうか?」

「正規兵は分隊に届かないでしょうね。前回の負傷者の代替をを考えれば、増員できるとも思えません。マクランさんの方で民兵を増やすことは出来ませんか?」


「そうですねぇ……。増やすとなれご婦人方を加えねばならんでしょうな。それなら2個小隊は可能でしょう」


 さすがに白兵戦は無理だろうな。ご婦人方に小型カタパルトの操作をお願いすることになりそうだ。投石部隊への参加者にはクロスボウの練習をさせれば少しは戦力を上げられるかな?

 エニルの部隊も少しは増やせるだろう。尾根からの砲撃は無理で麓から尾根越えで砲弾を落とすぐらいは出来そうだ。3門から4門あれば少しは防衛に役立つに違いない。


「やはり魔族がやってくると考えているのですか?」

「来るでしょうね。とはいえ姿を見せただけで俺達に構わずに南進する可能性もあるでしょう。エクドラルの防衛体制作りには少し時間が掛るようですから、その時は魔族の後方を脅かしたいですね」


 新型石火矢なら3ミラル先を狙える。

 さすがに大砲を移動しようとは考えないけどね。


「先ほどご婦人方を参加させるしかないと言いましたが、尾根の麓からの攻撃をお願いすることで、エニルの部隊に組み入れたいと思うんですが?」

「エニルの部隊と言うと、砲兵じゃな。大砲なら尾根の麓からでも飛ばせるじゃろうが、飛距離があり過ぎるのではないのか?」


「そこでガラハウさんの出番です。こんな大砲を作って頂きたい。尾根1つを越えれば良いんですからね。カタパルトより発射する爆弾よりも威力のある砲弾を、カタパルトの有効射程より長く飛ばすのが目的です。飛距離を短くすることで大砲をかなり軽くすることが出来るでしょう」


 簡単な略図をガラハウさんに見せると、しばらくジッと見ていたが俺に笑みを返してくれた。


「1カ月もあれば、1門を試作出来るじゃろう。砲弾は少し凝っておるが、大砲の砲弾と石火矢を組み合わせたようなものじゃな。上手く行かねば大砲の重量は増すじゃろうが、その時は運ぶ人数を増やせばよかろう。確かにこの構造なら新型大砲の半分以下の重さで可能じゃ」


 ドワーフ族の性格はガラハウさんを見ていると良く分かる。

 興味が沸けば、一直線だからなぁ。

 工房長でもあるんだから、作業計画はきちんとして欲しいところだけどこんな時には助かるんだよね。

 ダメと言われたなら、蒸留酒のビンを抱えて頼みに行くことになったはずだ。


「それって、旧型の石火矢で代替できる気がするにゃ」


 ヴァイスさんの呟きに思わず笑みが浮かんだ。

 確かにその通りではある。


「石火矢にすると、ヴァイスさんに取られちゃうからですよ。ヴァイスさん達には今まで通り遠近両方の石火矢を使い分けて貰うつもりですが、前回のような魔族の攻撃を受けた場合は、どうしても谷底に落とす爆弾が足りなくなってしまいます。石火矢を谷に向かって放つことも可能ですが、やはり谷に降りてくる魔族やその後方を狙いたいですからねぇ」


 攻撃目標位置が違うということで納得してもらう。

 ヴァイスさんに預けたら絶対に向かい側の尾根を狙うだろうからなぁ。

 だが、さすがはヴァイスさん。確かに石火矢でも代替できるんだよね。

 尾根を越えるだけの飛距離があれば十分ではあるんだが、石火矢の散布界が大きいからなぁ。谷に落とそうとして俺達の布陣する尾根に落ちたりしたら大変なことになる。

 大砲を使うというのは、俺達の安全の為でもあるんだよなぁ。散布界はかなり小さいからね。


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