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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-373 帰国挨拶


 デオーラさん達ご婦人方に製本技術の供与を約束したと同時に、その結果訪れるであろう将来の危惧についても説明したところで会談を終える。

 ある意味過度期でもあるんだろうな。貴族政治が終わろうとしているのかもしれない。父上達は貴族連合という名の元に所領を持つ貴族達が合議制の国を作ることになったようだけど、国王はいないんだよね。

 少数の貴族だけならそれなりに民を導いていけるのかもしれないけど、統治に関わる人員が少ないだろうから、一般民衆の政治参加もあり得るに違いない。

 

「それにしても、一般民衆に教育を施すことは王国制を危うくすることに繋がるとは思いませんでしたわ」


 帰りの馬車の中で、デオーラさんがぽつりと言葉をこぼした。

 ティーナさんは我関せずの顔をしているし、ナナちゃんは馬車から見える町の姿を珍しそうに見ている。


「あまり深く考えるのもよろしくないと思いますよ。ですが将来的には起こりえることです。貴族と民衆の違いは何か? それが問われることになるはずです。さすがに王族にまでその考えを伸ばすには時間が掛るでしょう。その間にそれぞれの立場で自分の地位と役割をしっかりと自認することが必要でしょう。さすがに青い血の一族などという考えを出そうものなら民衆の怒りが爆発しかねません」


 貴族が本来の役目をきちんとこなしているなら、民衆からの不満も出ないはずだ。少なくとも武官遺族はその役目をこなしていると言えるだろう。

 だが、文官貴族の中には宮殿内の勢力争いに主力を向けているようにも思える。彼らの役目をこなしているのは、その家人達なんだろうな。優秀な家人を抱えられるなら問題はないだろうけど、案外家人も世襲制のところがあるからなぁ。


「世襲制に一番の問題があるようにも思えます。これをどのように是正するかで王国の将来が決まるようにも思えてなりません」

「世襲制ですか……。親の仕事を子が継ぐという考え事態は悪く思えないのですが?」

「親と子が同じ能力であるならその家は安泰でしょうし、子が親を凌ぐのであればその家はさらに大きくなるでしょう。ですが子の能力が親より劣るとなれば、没落することになるはずです。

 一般民衆、特に商人達にはこの問題が大きいと思っています。後継者を誰にするかは必ずしも長子とは限らないようですね。

 一般市民であれば栄枯盛衰を傍観していても問題は無いでしょうが、貴族ともなればそうもいきません。役目を果たすことが出来なければ民衆が困ってしまうでしょうし、王国の盛衰にも関わる話になります」


「能力が無ければ家を継げぬということか?」

「それが王国の没落を防ぐ一番の手段だと思っていますが、反対する者も多いでしょうね。ですが案外簡単な対応策があるんですよ……」


 長子相続は王国制度の根幹でもあるんだが、それを長女相続に変えることはそれほど無茶なことには思えない。

 俺のもう1つの記憶の中から、そんな事例が浮かんでくるんだよなぁ。


「基本的に王国制は男性社会とも言えますが、女王の存在もあったはずです。男女ともに同権であるとしても、実際に表に立つのは男性が多いでしょう。女王が君臨したからと言って宮廷貴族が女性だけで動いたとは思えません」

「エクドラル王国の歴史の中に2人女王がおりました。そうですね。女王様が君臨してもその前に控える貴族は男性だったはずです」


「そこで長女継承が意味を持つことになるんです。その家の役目に適った男性を婿として迎えたなら現行の当主と同等もしくはそれ以上の技量を持たせることも可能でしょう。女子が表に出る機会が少ないなら、これが一番に思えますよ」


 まぁ、極論ではあるけどね。

 婿養子なら案外家を盛り立てるべく努力してくれるんじゃないかな?

 仕事を放りだすようなことがあるなら離婚してその家から追い出せば良い。それが容易に出来るとなれば御婿さんも仕事に努力してくれると思うんだけどなぁ。


「面白い考えですね。御妃様に話をしてみましょう」


 さすがに取り入れるとは思わないけど、仕事を放り出しているような貴族に対して危機感を持たせるぐらいは出来そうだ。

 少しは自分の役目に身を入れてくれるんじゃないかな。

                ・

                ・

                ・

 王都の迎賓館で暮らすことすでに7日が過ぎている。

 そろそろマーベルが恋しくなってきたところで、グラムさんに帰国を告げた。


「そうか。確かにだいぶ足止めしてしまったな。ワシとデオーラは年明けまで王都に滞在するが、ティーナは今でも大使の役を負っている。一緒に連れて行って欲しい。それと市政庁の北の砦に立ち寄って欲しい。ティーナに1個小隊の兵士を預ける。全て獣人族であり、2個分隊はトラ族の重装歩兵、残り2個分隊は弓兵だが槍も使える。マーベルの守りはそのままサドリナス領の守りでもあるからな。上手く使って欲しい」

「感謝します。ますます西の尾根の守備が固くできそうです」


「そうだ。帰国前に国王陛下に挨拶して欲しい。謁見の間ではなく王族の私室になるはずだ。お茶の一杯ぐらいは飲んでいくのも礼儀だぞ」

「了解です。その日程は?」

「今夜にも知らせよう。半時にも満たない時間だ。陛下もそれぐらいの時間はいつでも割けるに違いない」


 暇なのかな? 思わずそう思ってしまったけど、口には出さない分別は俺にもあるからね。

 逆に、国政が上手く行っているとも言えるのかもしれない。

 上司が暇を持て余すぐらいの部下を持ってみたいところではあるんだけどね。


それから2日後に、宮殿の奥庭の東屋でエクドラル国王夫妻と会話を楽しむ。

 俺とナナちゃん、それに何故かティーナさんが同行してくれた。

 王宮内の案内をかって出てくれたんだけど、この庭までは近衛兵が案内してくれたんだよね。

 明日一緒に帰ると言っていたから、ティーンさんも国王に挨拶したかったのかmおしれないな。


「色々と教えを受けたと、エイドマン達が報告してくれた。私からも礼を言わねばならんな」

「こちらこそ老婆心と言えそうな話をしてしまい、申し訳なく思っております。西の大河の上流に砦が築かれれば、王都の北にも開拓の波が向かうでしょう。食料の増産は民衆の喜ぶところ、ますますエクドラルが栄えるに違いありません」


 俺の言葉を聞いて笑みを浮かべた御妃様が、空になった俺のカップにお茶を注いでくれた。


「このお茶のセットもマーベル国からもたらされたものです。王家の家紋入りともなれば、来客が恐縮するのであまり使えないのですよ」

「それは申し訳ありませんでした。ところで庭の花が綺麗ですね。御妃様はどの花が一番お好きなんでしょうか?」


 御妃様が改めて庭を見渡している。

 たぶん全てが御妃様のお気に入りなのかもしれないな。質問を変えたほうが良かったのかもしれない。


「あの花が一番にゃ!」


 突然、ナナちゃんが庭の中央にある噴水際に咲いている花を指差した。

 その花を見て、御妃様が笑みを浮かべる。


「良く分かりましたね。あの花は私の実家の庭から持ってきた花なのですよ。他の花は商人達が私の花好きを知って献上してくれたものなのですが……」

「他の花から比べて見劣りすると常々思っていたのだが、そうだったのか……。ワシは初めて聞いたぞ」


 御妃様ともなれば、度々実家を訪問することも叶わないのだろう。あの花を見て自分の育った実家を思い出していたのかもしれないな。


「なら、ナナちゃん。頼んだよ」

「スケッチするにゃ!」


 ナナちゃんが席を離れて噴水の傍に行くと、画板をバッグから取り出して花を描き始めた。


「来春以降になるかもしれませんが、今回の滞在お礼ということでお茶セットを御妃様に贈ります。あの花を描いたお茶のセットですから来客にも使えるかと……」


 俺の言葉を聞いて、御妃様が一面の笑みを浮かべて国王に顔を向ける。

 困った奴だという感じで苦笑いを浮かべながら国王が頷いているから、これで少しは恩を返せるかな。


「済まぬな。あのシャンデリアとステンドグラス……、それだけでも十分に思えるのだが妃の呟きにさらに追加させてしまった」

「十分な対価を頂いておりますし、エクドラル王国があればこそ我等が作った品を売ることが出来ることも確かです。さすがに、特注品の注文が殺到するような事態は避けて頂きたいところですが簡易な品であれば生産量を増やすことも可能でしょう」


「だいぶ陶器が安くなったと聞いておるぞ。とはいえ絵皿や磁器を求める者が多くなったとも聞いておる。特に商会に活気が出ているとのことだ。おかげでギルドからの税額がワシが国王を継いだころより倍増しているようだ。対外貿易というのは王国を左右しかねんな」

 

 裕福な王国だと思われれば侵略される可能性もあるだろうし、劣った王国なら植民地化できそうだからね。

 対等の立場で貿易するというのは案外難しいかもしれないな。


「国交を結ぶ相手国にも十分に注意が必要かと……。場合によっては海から攻められる可能性も考える必要があるかと」

「軍船は持たぬが沿岸警備の高速帆船を持っている。攻めて来ようものなら海岸線で撃退できるぞ」


 王国軍は陸軍だからなぁ。魔族相手の装備をもってすれば、近接戦闘装備の軍はたやすく蹴散らせるということかな?

 これも図上演習の良い題材かもしれないな。


「ティーナ殿の事をデオーラ様が嘆いておりましたよ。よろしく頼むとまで懇願してきたぐらいですから、それなりの人物を紹介します」


 急に話が自分のことになったもんだから、ティーナさんが慌てているんだよなあ。

 直ぐに下を向いて小さくなっている姿を見ると、諦めたということになるのだろうか?


「妃が動くとなれば、それで納得するしかないのではないか? さすがに悪癖を持つ者を紹介するとも思えんが、相談相手によってはワシが断らせて貰うぞ」


 国王が絡めばますます断れないんじゃないかな?

 とはいえ、それだけティーナさんの相手ともなれば王国も考えねばならないということになるのだろう。


「レオン殿が獣人族であったなら、簡単になるのでしょうが……。後で陛下とゆっくり話を詰めねばなりませんね」

 

 デオーラさんからの要望を受けて、すでに何人かの候補を選んだということなんだろう。

 知らぬは本人だけということで、ティーナさんの将来が決まってしまいそうだ。


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