E-370 副官達への宿題
昼食を御馳走になり、午後は兵士達の訓練を見学する。
王都に近いことから見学者が度々訪れるのだろう。俺達の見学を気にする様子もなく、兵士達が訓練に打ち込んでいた。
最後に頼りになるのは自分の体力だからなぁ。
前回の戦で俺が一番痛感したことだ。俺も指揮所に籠ってばかりいないで体力を付けねばなるまい。
「精強な兵士達ですね。種族ごとの特徴も良く考えられているようです」
「トラ族に弓を引かせるのは考えてしまうのだがな。レオン殿はどのように思われる?」
「安心して城壁の上を任せられますよ。距離が離れているなら弓で戦い、敵が梯子を上るなら長剣で戦えるんですからね。でも全員を長剣とするのは愚策に思えます。半数いや三分の一は槍を持たせるべきでしょう。出来ればこの短剣をそのまま穂先に使うことで、敵の梯子を倒せますよ」
フムフム、とワインズさんが俺が取り出した短円を眺めている。
「レオン殿は、短剣のガード部分で梯子を引っ掛けることを考えたのだ。マーベルでも似た槍を用意しているぞ。城壁の上で取り回しが容易なように短槍にしているようだ」
「なるほど、実績もあるということか……。さすがに半分とはいかぬが短槍の訓練を加えてみるか」
弓と長剣以外に短槍の訓練をさせるのか……。後で恨まれそうだけど、俺に害が無ければそれ十分だろう。
短槍は軽装歩兵が装備しているようだ。片手剣と短槍で重装歩兵の側面を突くのが基本戦術らしい。
兵員数が多いといろんな部隊を作れるんだよなぁ。なんとも羨ましい限りだ。
「一通り訓練を見て貰ったが、銃兵とフイフイ砲部隊、それにカタパルト部隊は本日の訓練は無いようだな」
「さすがに毎日とはいかぬよ。銃兵は10日おきの訓練だ。銃兵を独立部隊としたから1日で火薬1樽が消費されるぞ」
「中隊規模で設けたんですか?」
「いや、2個小隊だ。分隊毎に一斉射撃を行えば、弓より威力があるからな。マーベル式の長銃を作ったよ。銃身の先に槍を取り付けられるようにしてあるから、部隊に近寄る敵をけん制することさえできる。取り扱いは前の銃より不便になったようだが、防衛線ではかなりの効果を期待できそうだ。辺境伯の2kお中隊の私兵の内、1個中隊は、銃兵、弓兵それにクロスボウ兵で構成しようと考えていたのだが、少し考えねばならんな」
クロスボウ兵は民兵で代替えできるからね。その分他の部隊を厚く出来るだろう。どの兵種を厚くするかは、ワインズさんと辺境伯の2人で悩むことになりそうだ。
「荷車とカタパルトをどのように組み合わせるかは、ワシ等が考えている。出来次第数台送るから、ワインズ殿の方で量産して欲しい」
「頼りにしているよ。それにしてもカタパルトを戦場で自由に移動して使おうなどとよくも考えたものだ。来年の図上演習ではその辺りも加味出来るようにしなければなるまい」
「あまり色々と付け加えると、図上演習が複雑になるのではないのか?」
「国王陛下は、どのような事態でも対応できるよう学ばせるべきだと仰っていたよ。それが昨年のレオニード勲章で皆に周知された感じだな。情報は戦力の一つであるとも仰れていた。国王陛下とレオン殿はかなり思考が似ておいでなのかもしれん。他t場的に王宮をあまり離れられんから、レオン殿を羨んでおいでだったぞ」
「それほど態勢を見る力は俺にはありませんよ。思い付きでいろいろとやってるぐらいですからね。地位は人を作るという言葉が良くあてはまる国王だと俺は思っていますよ」
その地位に要求される能力を持たない連中が多い中、エクドラル国王は国王の務めを良く果たしているようだ。
なんといっても王国優先ではなく国民優先的な考えが素晴らしく思える。
おかげで国庫を潤すよりも国民の生活の便宜を優先することになるのだが、国民の生活が豊かになるということは国内での経済活動が活発になることに繋がる。投資した金額以上の税が戻ることになるんじゃないかな。
国民が豊かになれば、それを維持しようとするのは当然の動きだ。「結果的に戦を忌避することになるのだが、唯一の課題が魔族の侵入でもある。
魔族対策であれば国民はもろ手を挙げて賛同してくれるだろう。
貴族達も、新たな利権には賛意を示すに違いない。あわよくばその利権を自分達が得ようと頑張るに違いない。
実際に協力してくれるなら良いんだけどねぇ……。
「さて、そろそろ本館に戻るか」
ワインズさんの後に付いて、最初に部屋に戻る。
直ぐにお茶を用意してくれたので、乾いた喉を潤す。
「新年が楽しみになって来たぞ。既に貴族達は動き出しているようだ。辺境伯とmなれば建国に関わる貴族が成るべきだと具申する始末だからな」
「陛下にも腹積りはあるはずだ。過度な具申は自分達の印象を悪くするだけだろうに」
「餌が大きく見えるのだろうな。間ぁ、我等は横で見ていれ良い。出来うるならレオン殿に初代辺境伯に就任してもらいたいところではあるのだが」
ワインズさんが俺に顔を向けて笑みを浮かべている。
その話は終わっていると思うんだけどなぁ。待てよ、それを必要条件として相手を見つけようと考えているのか?
「さすがに俺にはマーベルが良いところです。でも1つ俺からの提案として聞いていただけるなら、名目と実態を分けることでもよろしいかと。
辺境伯の地位が欲しいなら、それを与えても良いでしょう。ですが魔族との作戦対応に一切の口を挟まない。領地経営にだけ徹するのであるなら、貴族の誰でも構わないように思えるのですが」
「肩書を欲するなら、それで十分だということだな。それなら文官貴族が名乗り出ても問題あるまい。たぶん砦に住むことが少なくなるように思えるな」
「宮殿内で、辺境伯と呼ばれること望んでおるのだろう。領地経営の手抜きをすれば直ぐに他者に譲られるとも知らずにか」
互いに顔を見合わせて笑いあう姿は、悪人そのものだな。
「陛下が迷うようなら、レオン殿の案を耳移して差し上げよう。案外直ぐに決まるかもしれんぞ」
「初代だけでなく次の辺境伯も決めねばなるまいよ。結果が見えてるのだからなぁ」
「2、3家を潰せば少しは身を引きしめるに違いない。エクドラル王国内の傲慢な貴族を減らす良い手立てとも言えそうだな」
これ以上関わらないようにしておこう。
恨まれることはあっても、称賛してくれそうにないからね。
だけど、王都の貧民街で暮らす人達が定職を持つことができることが一番大事だろう。魔族が来ないならそれはそれで問題は無いはずだ。だけど次は何となくエクドラル本国領もしくは西の王国に侵入してくる気配がする。
マーベル国の西の尾根であれだけの痛手を受けているから早くて2年遅くても5年だろう。
だけど、再び旧サドリナス領に現れないとも限らない。
それは2個中隊のカタパルト部隊に頑張ってもらうしかないだろうな。爆弾は千では足りないとグラムさんに伝えてある。
2倍は集めるんじゃないか?
いや、案外グラムさんは慎重派だからなぁ。さらに予備を集積することになるはずだ。
「どうした? 何か心配事でもあるような顔つきだが?」
「グラムさんが軍本部にどれほどの爆弾の備蓄を要請したのかと考えてました」
俺の答えが意外だったのだろう。ちょっと機微を傾けていたが、俺の言葉に答えてくれたのはワインズさんだった。
「旧サドリナス領と本国領の砦に2千個、更に市政庁とこの本部に1千個ずつ。最初に聞いた時には思わず聞き返したほどだったが、国王陛下は頷いてくださったよ」
「既存の爆弾は数に入っていない。実数は更におおきくなるだろう。これだけ用意して長城を越えられたなら、後の世までの笑い種になってしまうだろうな」
2人で顔を見合わせて大笑いをしているから、後ろに控えていた副官が首を傾げているんだよなぁ。
確かに数の勝負でもある。魔族軍の総数と爆弾の総数による戦力差が絵百済る軍に傾いているなら問題は無いのだが、こればっかりはやってみないと輪からラナイところもあるからなぁ。
「砦にはフイフイ砲とカタパルト、それにバリスタも用意しているのだ。備え付けのカタパルトなら200ユーデ近く爆弾を放てるし、バリスタの太いボルトには小型の爆弾を括り付ける事も可能だ。それらも増設することになるだろう」
「カタパルトやバリスタの操作は、操作に慣れた兵士を2人程付ければ急募した民兵でも可能でしょう。民兵を矢面に立たせることなく強力な火力支援を期待できますぞ」
兵器を使い慣れれば、どのような兵士にそれを任せることができるかが分かってくるという事かな?
だけど銃兵については評価が悪いんだよなぁ。
確かに装備に重装歩兵並みのコストが掛かるし、その上運用コストも半端じゃないんだが後装式の単装ライフルは戦を変えかねないと思うんだけどなぁ。
その働きを直ぐ傍でティーナさんも見ていないからだろう。
初期に作った前装式の長銃で部隊編成をしているようだ。もっとも3段撃ちを教えたから初期はかなり威力を上げるんじゃないかな。
欠点は数発撃ったところで銃身内の掃除が必要になるんだが、それを補うだけの威力は十二分にある。
とはいえ、この世界では銃よりは弓の方に力を入れているんだよなぁ。
グラムさん達が、銃と弓の中間のクロスボウ部隊を充実させてはいるんだが、銃兵はいまだに中隊規模だ。
「公称する戦力は7個大隊。だがマーベル国のやり方を模擬して、民兵2個大隊を後ろに置いている。さらに1個大隊の王国軍の増強と、辺境伯の私兵を合わせればエクドラル本国領は万全にも思えるが、レオン殿にはそれでも不安を持つのだからな」
「これで十分という戦力はありませんよ。戦は数とも言われるのはその為だと思っています。多ければ多いほど味方の死傷者を少なく出来るんですからね。戦に勝っても、次の戦で負けてしまってはどうしようもありません。勝利後の継戦能力は常に意識すべきですし、継戦能力があるのなら場合によって負け戦でも問題は無いと思っています」
ワインズさんが笑みを浮かべながら副官を手招きして、ワインを持ってくるように指示している。
グラムさんの副官がグラムさんの傍に来たのは、別に合図を出したのだろうか?
「分からぬか……。今夜にでも仲間と話し合うがよい。中々良い言葉であったとワシは思うぞ」
「おや? ここで教授ですかな。グラム殿の部下への教育は色々と聞いておりますぞ。確かに、良い題材ですな。ワシも倣うとしましょうかな」
「お言葉ですが、『負けても良い』という考えを持つというのは武人としての資質を問われるようにも思えるのですが?」
グラムさんの副官の言葉に、グラムさんは直ぐに答えなかった。
どうやらワインズさんの副官がワイングラスを運んで来るのを待っているみたいだな。
俺達の前にグラスが並べられたところで、ワインズさんがその場で待つように言い付けると、グラムさんの副官に怪訝そうな顔を向けた。
「面白い問い掛けをしてきたぞ。『負けても良いと言う考えは武人としての資質が問われる』と言う事だった。そういう思いを持つことは大事だとワシも思う。だが、武人として誰もが敬うオリガン家のレオン殿がそれを言うことには深い意味がある。2人でゆっくり考えてみると良い。仲間を誘うのも良いかもしれん。酒場でワシの名を出してゆっくりと酒を酌み交わしながら話合うことだ」
単に継戦能力が無ければ、勝利は直ぐにひっくり返るということなんだけどなぁ。
それを気にせずに目の前の敵を殲滅するだけに全力を注ぐようでは上級仕官に把慣れないだろう。前線で戦う指揮官ならそれで良いのかもしれないけど、戦術と戦略の相違が分からないようでも困るからね。
「再来年の図上演習に取り入れてもおもしろそうですね。上手く行けば、かなり高度な戦略を構築できる士官を手に入れることができますよ」
「なるほど……。実戦でそれをさせるとなれば我等も覚悟が必要だが、図上演習では血が流れることは無い。ワインズ殿、使えそうな過去の記録を探して欲しい。たぶん似た状況が1つや2つあるに違いない」
ワインズさんがワインを掲げながらグラムさんに頷いている。
「……と言うことだ。お前達は少し早い予習ができることになる。ゆっくりと酒を酌み交わすのだな。2日目はワシの名を出せばよい」
副官が顔を見合わせて頷くと後ろに下がって行った。
今夜から2番タダで酒が飲めるんだから、仲間と一緒に大騒ぎってことかな。
そんな中に、先程の意味を理解できるものが一人でもいることを祈っておこう。
★★ これって、バイオの呪いってやつか? ★★
4月27日に、バイオハザードRE4をクリアできた。
ナイフアクションが多いから、さすがにこの歳では無理か? とも思ったけど、順調に中学生になった孫達のワンポイント・リリーフで何とかできると思っていたんだが……。
「18禁でしょ!」と嫁さんにドヤされ、仕方なく頑張って何とかクリアできた自分を褒めてあげたい。
実際クリアできた時は感動したのだが……。好事魔多しとはよく言ったもので、その夜から治療中の歯が痛み出し、頬は腫れるし熱がどんどん上がってしまった。
4月30日から5月1日までは、熱が39度から40度を行ったり来たり。月曜日早朝に歯医者さんに電話したら、連休に入ってしまっていた……。
火曜日ごろから熱が下がり始めて頬の腫れも引いてきたので、執筆を再開できるようになった次第。
これって、やはりバイオの呪いなのかもしれない。
クラウザー戦の最終形態でナイフバトルをせずにショットガンで全弾叩き込んで倒したのが原因なのだろうか? 簡単に終わったんだよね。
最後に愛用のナイフをくれるぐらいだから、やはりナイフで戦って欲しかったのかな?




