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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-363 友好を深められそうだ


「遠方の来客であれば、晩餐会を催して歓待するのが通例ではございますが、あえてレオン殿はご辞退を願い出ております。それに代わり陛下との歓談の場をご用意して頂けたならとの申し出に付いては陛下のお許しもありましたので、この場を設けた次第……」


 エイドマンさんの言葉に、「そうであったな」と国王が呟いたところを見ると、本来は魔族との今後の戦に付いての話し合いの場だったということに違いない。

 全く余分な余興を行ってしまった。

 王族はいろいろと忙しいらしいから、時間が足りなくなったら困るんだよなぁ。


「ワシからすれば謁見の間の一件も、レオン殿の実力を見る良い機会だったということになるのだろう。始末はエイドマンに任せるが、残された妻子が直ぐに路頭に迷うようなことにはならぬようにしてくれよ。

 さて、改めてグラムに問う。かつて耳打ちしてくれた事態が起こりつつあるということか?」


 国王の問いかけに、姿勢を正してグラムさんが口を開く。


「北に住むという魔族……。彼らが我等に一方的な戦を仕掛けては、すぐに引き返す。それが不思議でなりませんでしたが、魔族は常に我等の数倍の数で攻め寄せてきます。懸命に防戦を行うだけで精一杯。その理由を推測すらできませんでした……」


 俺と知り合うことで、魔族の戦が兵士の間引きに近いこと。それによって魔族同士の戦に精鋭を揃えるためと推測が出来る。

 だが、昨年のブリガンディの戦を振り返ると、今までの魔族の動員数が大きく変わり、かつ魔族の領地である北に引き返さずに王都に籠った。

 魔族同士の戦に大きな変化があったと考えられる。

 今年、マーベルに押し寄せた魔族軍は5個大隊を越えていることを考慮すれば、エクドラル王国としても現状の戦力を倍にすることが急務である……。


「なるほど……。マーベルと友好を持つ頃で、そこまで知ることが出来たということだな。戦力を倍にするのはエクドラル王国として出来ぬ話ではないが、エイドマン、やはり問題になるであろうな?」

「隣国との関係が微妙になるでしょう。戦力を倍にして魔族に備えるならば、西の国境の守備兵もまた増員せねばなりますまい。

 ワインズ殿に確認したところ、さらに1個大隊規模の兵力を増やして西に備えることになりそうです」


 戦力を全て北に向けるわけにはいかないということになるんだろうな。

 場合によっては戦が同時に2つ起こりかねないということになりそうだ。

 だけど、そのための対案を出しているんだけどなぁ。


「ここで、1つ考えることがあります。マーベル国は魔族5個大隊を相手にして魔族を敗退させております。白兵戦の最中に指揮官であるレオン殿が倒れるほどの激戦であったということですが、その戦の仕方を我等が取り入れるなら、増兵規模はおよそ1個大隊。それなら隣国に対して旧サドリナス領内で起きた魔族の大規模な侵攻に備えるためであると納得させることが出来るでしょう」


 エイドマンさんの言葉をジッと聞いていた国王が、ふと何かに気付いたようだ。

 エイドマンさんに視線を向けて問いかける。


「増兵の規模と言ったな? 戦力と言わないのは何か理由があるのか」

「それは私から……」


 グラムさんが説明してくれるようだ。エイドマンさんは武官貴族ではないらしいからね。ここは専門家に任せておけば良いだろう。

 グラムさんが言ったのは、戦力とは兵力と兵士が使う武器の効果で決められるということになるようだ。間違いではない。だが相手によって変化するのが武器の効果なんだけど、この場合は今の話で十分だろう。


「なるほど……。爆弾の効果はワシも初めて見た時には驚いたぞ。それを効果的に用いることで4個大隊に匹敵する戦力とするのだな?」

「その通りです。新たな部隊は1個大隊、別に輸送部隊を1個中隊規模で編成できれば、5個大隊の魔族を相手にして遅れを取ることにはならないと考える次第」


「国庫は潤うばかりと聞くぞ。それもマーベルの賜物に違いない。1個大隊規模であるなら隣国の説得は可能なのだな?」

「隣国も商人を通して旧ブリガンディやサドリナス領を襲った魔族が今までとは規模が異なるぐらいは知っていると思われます。それに対する我等の増兵が1個大隊規模であるなら、かえって不信感を持つことも考えねばなりますまい。交渉の開始には2個大隊から開始したいと考えております」


 エイドマンさんの言葉に、笑みを浮かべて頷いている。


「増える分にはグラムたちも安心だろう。とは言え、落としどころとしては1個大隊規模で良いだろう。グラムたちの提言であるならワシも頷くことが出来る。エクドラルの未来をしっかりと見据えて動いてくれているのだからな。新たな部隊を構築するための費用を惜しむことはせぬぞ。必要な金額をワインズとともにはじき出せ。直ぐに用意させよう。

 しかし、悩みが大きくなってしまったな。魔族に悩んでいるのではないぞ。レオン殿に対する対価だ。単なる男爵の称号を贈っただけということでは、後世に腹黒国王と評価されかねん」


 悩んでいるというより面白がっているようにも思えるんだよなぁ。隣の王妃様と顔を合わせて笑みを浮かべているぐらいだからね。


「エクドラルに下ってくれるなら、陛下の側近として十分に働いてくれるでしょう。敵対したならエクドラルが荒れ地に変わりそうです。暗殺したならと考えたこともありましたが、返り討ちされるのが目に見えているともなれば……」


「良いではないか! エクドラル王国の発展を常に見守ってくれる存在としてワシは捉えているぞ。とはいえグラムが暗殺を考えるとは……」

「陛下の前ですが、私も考えたことも確かです。ですが……」


 グラムさんやワインズさん達武人は、そう考えるんだろうな。ひょっとして今でも狙われているんだろうか?

 

「ワシも、少しは考えたぞ。だが、少しでも動いたなら愚王と評価されたに違いない。マーベル国は他国に剣を向けんのだからなぁ。1個大隊に満たぬ兵士達を如何に鼓舞したとしても魔族5個大隊では飲み込まれてしまうはずだ。それを敗退させるなど宮殿の部門貴族がいかに作戦を練ろうとも不可能に思える。

 それだけ危険な人物ではある。これは誰もが認めることだ。決して悪気ではないぞレオン殿」


 苦笑いで頷くしかないな。

 確かに異質な存在であることも確かだからね。

 出る杭は打たれるとも言うし、隣国にそんな危険人物がいるともなれば、国王も枕を高くして寝ることは出来ないだろうからなぁ。


「人物の持つ能力と、その行動理念……。この2つが外に向けられた時、この世界に覇王が生まれるのでしょうな。レオン殿は覇王となる能力は十分にあると思いますよ。でも性格が……」

「一言で言うなら、怠けものだ。付け足すなら住民の笑顔を見るのが好きなようだな。半面自分には無頓着でもある」


「ワハハハ……。能力を持っていながら、望む物が小さすぎるということか! 全く神も気まぐれ過ぎるものだな。多くの物達は大きな望みを持っていても、それを叶える能力がないことを悩むものだが……ハハハ」

 

 笑える話なのかな?

 俺はその器ではないと自覚しているだけなんだけどなぁ。

 

「恐れながら……。自分達で国を作りましたが、やはり国民を導くのは俺には向いておりません。国王の仕事を思えば誰もが代表を拒む始末でした。そんなこともあり、マーベルは王国を名乗ることは今後もないでしょう」

「その地位になって初めて知ることも確かだ。レオン殿がなりたがらないというのも理解は出来るのだが、それならエクドラル王国を動かして大陸の王国を1つにしようとは思わぬのか?」


 現国王も何度か覇王となることを夢見たことがあるに違いない。今はそのような考えは無さそうだが、やはりその後を考えて断念したのだろうか?


「覇道を進めるのはそれほど難しいこととは思えません。ですが、一旦その道を進むとなれば容易に止めることは出来ないでしょう。兵站維持を図るためにどれほどの犠牲を国民に強いるか……。止まった時に確保した新たな領地を分配してなだめる事も出来なくはないでしょうがそれで納得するのは貴族だけでしょう。一番の辛い思いをした王国の庶民は一時の平和を味わえるに過ぎません。

 兵士となって出陣した夫や兄弟が戻って来るなら、再び以前の生活に戻れるかもしれません。ですが、覇道を進む王国軍が止まったとなれば、その理由は多大な損害を受けた状況下になっているはずです。

 何年の平和を国民に与えられるでしょう。莫大な兵糧を確保し再び軍勢を調えるために重税を課すようなことがあれば……」


「反乱……、だな。いったん動き出した軍を停めるようなことになれば、相手国からの巻き返しも起こり得る。外と内、2つの戦が同時に起こるわけだ」


 やはり考えたことがあるみたいだな。

 道半ばで王国が滅びる事もあり得ると理解し提出いるなら助かる話だ。


「さらにもう1つ。統一後の王国内の統治です。王国が大きくなればなるほど、末端まで目が届きません。治安維持を図る上で警邏組織を大きくすることになろうかと。さらには権益をめぐる争いが起こるでしょうし、王国に対して反旗を翻す輩が出ないとも限りません。土地や気候の違い、更に住民の所属も問題でしょう。平等に扱わねば反乱の火種にもなりかねません……。それらを考えれば、現状が一番良いようにも思えます。国が小さければ隅々まで目が届きますし、住民と一緒に騒げますからね」


 第1王子と国王がイヤイヤ……と首を振っている。

 グラムさん達は……、呆れた顔をしているんだよなぁ。今までも散々話してきたと思うんだけどねぇ。


「陛下……。まったく呆れた人物ですが、その言葉に偽りはありませぬ。おかげで、枕を高く出来ることは確かですが……」

「ハハハ……。グラムをもってそう言わしめる人物であるということなんだろう。ある意味、もったいない話ではあるがな」


「父王陛下、それはどのような?」

「現状を維持できるということだ。マーベル国はレオン殿がいる限りエクドラルに与することは出来まいよ。だが、それで良いとワシは思う。臣下に迎えたなら友人となるのは難しかろう。我が王国の為を思って提言してくれるのだ。たぶん、マーベル国としてもエクドラル王国が必要と言うことに違いない。ならば対等に付き合える友好国として今後も付き合っていけば良いことになる。

 とはいえ、1つ教えてくれぬか? 4個大隊を1個大隊で十分と言わしめる策があるのだろう」


 知らないのは国王陛下夫妻だけなのかな? そういえばワインズさんも知らないはずだ。

「それでは……」と前置きして、機動バリスタ部隊と爆弾の大量製作を話すことにした。長城で魔族を足止めして、その中に爆弾を続けざまに打ち込んでいく。

 一度に放つためにバリスタの台数を多くしなければならないことから、バリスタを操作する兵士の数が1個大隊程度になってしまうと締めくくると、ワインズさんが目を丸くして俺に視線を向けてきた。


「マーベル国の西の尾根でそのような戦をしたという事か!」

「爆弾だけでなく、隠匿兵器まで使いました。遠距離攻撃用ですから、300を超える数を放っても、いつも通り向かい側の尾根で陣形を整えて襲ってきましたよ。魔族の突撃を食い止めたのは爆弾の大量使用に外なりません」


「ワシなら、長城の上に重装歩兵を並べるだけだろう。フイフイ砲、バリスタを使っての攻撃も行うだろうが、数十のバリスタを使って大量の爆弾を魔族に撃ち込むことは想像すらしなかった」


 ワインズさんの驚嘆の声に、グラムさんが小さな呟きを漏らしたけど、皆がしっかりとその言葉を聞いていたみたいだな。

 小さく頷いて、どんな戦になるのだろうと脳裏にその戦を再現しようとしているように思える。

 この後で、部隊創設に必要な徴兵と軍資金をお願いするのだろう。

 ジッと俺を見ている国王だけど、それぐらいは気前よく出して欲しいところだな。


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