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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
362/384

E-361 これって、あれだよなぁ


 謁見の間近くにある控室の1つで、その時を待つ。

 ちょっと緊張してしまうんだよなぁ。グラムさん達はエクドラル貴族だから、先に謁見の間に向かったから、俺とナナちゃんはワインズさん夫妻に案内されたこの控室で近衛兵が迎えに来るのを待つことになる。

 ナナちゃんは緊張した様子もなくテーブルのお菓子を食べているんだけど、口の端からたまに零れているんだよね。

 きれいな服にお菓子の屑が付いていたら皆に笑われてしまうんじゃないかな。

 出掛ける前に、少し払ってあげよう。ついでに口の周りも拭いてあげないと……。


 コンコンと扉が叩かれ、若い近衛兵が入って来た。

 俺の前まで歩いてくると、綺麗な騎士の礼をする。


「失礼いたします。国王陛下への謁見の時間になりました。ご案内いたします」

「ご苦労。何分田舎者だから、案内よろしくお願いする」


 座ったままで答礼したところで席を立つ。ポケットからハンカチを取り出し、先ずはナナちゃんの顔を軽く拭くと、次に従者服の前を軽く払う。

 ナナちゃんがちょっと当惑しているけど、これでお菓子の屑は無くなっただろう。

 

「さて、行こうか!」

「それでは付いてきてください」


 近衛兵の案内で控室を出たのだが、別に案内はいらないよなぁ。謁見の間はエントランスから伸びる広い回廊の突き当りだからね。

 絨毯を踏みしめて回廊を進む。

 頭を後ろに向けると、一歩後ろをちゃんとナナちゃんは付いてきている。

 背筋を伸ばして前を向いているから、貴族達の笑い者になることもないだろう。あまりにひどい言葉を掛けられたなら、その場で長剣を突き付けても良いかもしれない。

 そんな自分の思いに苦笑いを浮かべていると、大きな扉の前で俺達の足が止まる。

 扉の左右に3人ずつ近衛兵が立っているのは、来客に対する威圧ということになるんだろう。


「マーベル国のレオン・デラ・オリガン殿をご案内しました」

「ご苦労! この先は我等が案内する」


 案内して気t近衛兵の言葉に、扉の右手にいた近衛兵が一歩足を踏み出して答えると、大きな扉が左右に開かれる。


「レオン殿。ここからは私がご案内いたします」

「よろしくお願いします」


 ここまで案内してくれた近衛兵と鎧が違うな。佩いている長剣も華美な造りだ。近衛兵士官ということかな?

 近衛兵が謁見の間に足を進める。その後ろを2人で歩くことになったが、俺の身長の5割増し程ありそうな絨毯の左右にはずらりと豪華な衣装を纏った貴族達が並んでいる。

 ナナちゃんのことだから、キョロキョロと貴族達を見ながら歩いているんだろうな。後ろでクスクスとご婦人方の含み笑いが漏れるのが聞こえてくる。

 20ユーデ程進んだところで、案内してくれた近衛兵の足が止まる。

 その先の玉座に付いているのがエクドラル国王その人なのだろう。老人というわけではないな。父上よりも少し年嵩に見えるぐらいだ。


 近衛兵が国王に騎士の礼をすると、右手に去っていく。

 この場所は、旧サドリナスの謁見の間と同じ造りだ。今まで続いた絨毯が途切れ、新たな絨毯が横に敷かれている。

 それなら、同じ場所で挨拶すれば良いだろう。


 横に敷かれた絨毯の中ほどまで足を進め、先ずは騎士の礼を取る。

 次は挨拶だな……。


「エクドラル王国の北東の地に建国したマーベル共和国から参りました。レオニードデラ・オリガンそれに従者のナナです。

 建国時にはエクドラル王国と揉め事がありましたが、辺境の地であれば致し方のないこと。今ではエクドラル王国と商品の取引を活発に行っている次第。今後とも今まで以上に密接な結びつきを持ちたいと参上いたしました。

 世の習いでは、この場で贈り物を献上するのでしょうが、生憎と物が大きいので私では運ぶこともかないません。

 口頭でのその品の名を告げることでご了承ください。

 一つ。謁見の間のステンドグラス6面。

 一つ。シャンデリア1灯。……以上です」


 さて、どんなお返しをしてくれるのかな?

 通常なら、他国からの贈答品に対してそれなりのお返しをしてくれるとのことだ。

 だけど美術品なんて貰ってもマーベルでは飾る場所はおろかしまう場所さえないからなぁ。


 間をおいて、国王が口を開く。


「遠路遥々良くぞきてくれた。マーベル国の美術品はエクドラルの重要な交易品になりつつある。今後とも末永い国交を続けたいものだな。

 我が国としては同盟を結びたいところだが、マーベルの思惑もあると聞く。友好国の親書は飾りではないぞ。

 個々に集う者達にも聞いて欲しい。エクドラル国王の名を持って、マーベル国のレオニード殿に男爵位を授けることにする。

 男爵位であるなら、エクドラル王国内に町1つ村2つの領地を持つことになるが、エクドラル王国民ではないことを鑑み、それに見合う報酬を与えることにする。以上だ」


「ありがとうございます……」


 再び騎士の礼を取ってその場を去ろうとすると、先ほどの近衛兵が慌てて俺のところにやって来た。


「しばらく、この場に居られてください。男爵の位置はずっと下になるのですが、今回は贈答品のお披露目がありますから……」


 さすがにステンドグラスを披露するのは出来ないだろうから、シャンデリアということになるんだろうな。

 シャンデリアも大きいけど、謁見の間は天井高さが数ユーデほどあるからなぁ。謁見の間の中に2階建ての小さなログハウスを作れそうだ。

 だけどこの部屋なら、あの位の大きさで丁度良いんじゃないかな。

 近衛兵の案内で横に敷かれた絨毯の端に移動したんだけど、貴族達いつもと様子が違うと気付いたのだろうガヤガヤと話声が聞こえてくる。


「諸君。静かに願いたい。マーベル国の産物は皆も何度か目にし、秘蔵する物もいるだろう。今回レニード殿が我が王国に送られた品を是非とも諸兄にお見せしたいとの陛下からのお言葉を頂いている。

 だが、それを運んで見せるだけではどんな品か分らぬ者も大いに違いない。

 昨夜の内に工事を済ませている。ここで簡単な足場を組んでそれを飾るまでその場で待っていて欲しい」


 工房で吊り下げたのを1度見ただけだからなぁ。

 あの工房でさえ、煌びやかな輝きに皆が目を丸くしていたぐらいだ。

 華やかな調度品が飾られ、窓の光が差し込む謁見の間では、さぞかし見栄えがするに違いない。


 余所行きの衣服をまとった職人達が数人入ってきた。その後ろから屈強なトラ族の兵士が4人がかりで白い布が被せられた小山のような品を運んで来る。最後は3人の兵士が脚立を運んで来た。

 ガヤガヤと貴族達が作業風景を見ながら、隣同士で話をしている。

 国王陛下は笑みを浮かべて作業を眺めているところを見ると、1度吊り下げてみたのだろう。シャンデリアを見た時の貴族達の反応を今から心町にしているように思える。


 昨夜の内に終えた作業と言うのは、シャンデリアを吊り下げる金具と滑車の取り付けのようだ。丈夫そうな鎖を金具の滑車を通してシャンデリアの吊り具に取り付けている。鎖の先は……、どうやら天井を通して列柱の陰に隠してあるようだ。

 職人達が作業を終えたのだろう。国王に深々と頭を下げると謁見の間を出て行った。脚立が片付けられて、今は絨毯の上の小山に白い布が被せてあるだけになった。


「どうやら、披露する準備が整ったようだな。それでは陛下、皆にお店したいと思います」


 初老の貴族が状況を見定めて国王陛下の許可を求めた。

 国王が頷くと、貴族の腕が鎖の先にいる兵士に向けられる。


「上げろ! ゆっくりとだぞ!!」


 ガラガラと鎖が引き上げられ、白い布からガラス細工が姿を現す。

 俺の身長を越えているからなぁ。中々全体像が見えないんだよね。ゆっくりと引き上げているからなんだろうが、それでも直径1ユーデ半の金メッキがなされた金属環の周囲に沢山のガラス細工の品が下がっているのは分かる筈だ。


「これは……、あの輝き……、まるで水晶そのものですな」

「いったい、幾つ下がっているのだ? 円環の外周に沿って下げられている数だけで数十を超えているようだが……」


 8段に下げられているんだよなぁ。3段まで下がったガラス片を今度は隣同士で組み合わせている。

 その組み合わせが見えた頃に、内側の円環が姿を現した……。


 ゆっくりとだが、だんだんとその姿が分かって来る。

 少しうるさく感じた貴族達の呟き声が全くなくなってしまった。

 皆が天井に向かって顔を上げている。


 カツン! とシャンデリアの吊り具が天井の滑車にぶつかる音が聞こえた。

 どうやら無事に天井に取り付けることができたみたいだ。

 やはりシャンデリアは華やかな場所に良く似合う。

 窓の光と円柱に取り付けられたランタンの光、それにシャンデリア内の5つのガラスの箱に入った光球の光が、シャンデリアのクリスタルガラスに反射し合い虹色の光を放って輝いている。


「これが、先程レオニード殿が贈られたシャンデリアという装飾灯になる。さらにステンドグラスがあるのだが、これは謁見の間の大工事を行わねばなるまい。南北の2面に各6枚ずつ。正面の玉座の背景に2枚が取り付けられる。

 神殿のステンドグラスも見事な品だが、この部屋に飾るステンドグラスも見事であろう。楽しみに待つことしようぞ。

 さて、これで謁見を終える。レオニード殿、誠に見事な品だ。たぶん誰もが問うであろうからこの場で私が質問するが、依頼して作って頂くことは可能だろうか?」


 この場で商談をするのか! 確かに貴族達は知りたいところだろうな。


「さすがにこれをもう1度作るのは苦労します。これよりも小さな品であるならご希望に添えると思っております」


「我が王国への貢であるなら、毎年差し出すのが礼義と言う物ではないのか? 辺境の地で我が王国の保護を受ける身であれば、それぐらいは容易いと思うのだが」


 誰だ? マーベルを貶す奴は……。

 思わず、発言先に目を向ける。

 あいつか……。やたらと凝った装飾を見に着けている。歳は30歳に満たないだろうから、余の中を良く知らないということなんだろう。

 宮殿内での勢力争いに明け暮れる貴族と言うことになるのかな。


「これは面白い話を聞いた。はるばるやって来た甲斐があったという事なのだろう。どの面を下げて俺に言葉を投げたのか、もう少し分かりやすく教えて欲しいところだな。我等マーベル国は属国ではないぞ。1度行き違いがあったらしく互いに矛を交えたことはあったが、勝利したのは我等マーベル国だ。この場で謝罪するなら許しても良いが、今の言葉は我が国と戦端を開く口実と俺は捉えた。

 さて、どうする……」


 俺の言葉が突然だったのだろう。グラムさん達が取りなす言葉も無いようだ。

 顔を赤くして俺を睨んでいるが、睨むだけなのか?


「そういう事か。男子たるもの1度言葉を出したからには、その責任を取らねばなるまい。国王陛下、申し訳ありませんが、お互いの友好関係はこれまでのようです。それでは失礼いたします……」


 国王に騎士の礼を取って踵を返した時だった。


「待つがよい。……全く、貴族にも困ったものだな。先程の輩の非礼はワシが謝罪しよう。マーベル国とエクドラル王国は互いに友好を築いておる。それは対等な関係であって宗主国と従属国という関係ではないと、皆にここではっきりと示しておく。これで溜飲を下げてはくれぬか」


 国王が席を立って、俺に頭を下げる。

 皆が驚いているのは、国王が頭を下げるのを見たのが初めてだったに違いない。

 改めて国王に騎士の礼をして、自分の短慮を恥じる旨の言葉を継げることになった。


「これで国家間の問題は無くなったが……、アウルス男爵はどのように責任を囮になるのか? 男爵の言葉によって国王陛下が頭を御下げになったのだぞ!」


 ますます顔を赤くしているし、俺を睨んだままのようだ。

 俺と国王に頭を下げればそれで終わりになるだろうに、それほど気位が高いんだろうか?

 突然、俺の足元に手袋が飛んできた。

 これって、あれか?


「このような輩を宮殿に招いたのがそもそもの間違い。私はエクドラル王国の為を思って発言しただけの事。話に聞くオリガン家の者が、このような貧相な人物とも思えませぬ。さらにはまだ幼い娘を従者として連れてくるなど前代未聞。この場で化けの革をはがして見せますぞ!」


 強いのかな? 口は達者なようだけどねぇ。

 取り合えず、売られた喧嘩なら喜んで買おう。ゆっくりと身を屈めて手袋を拾う。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここは国王陛下が拾った方が面白かったかなと思います。
[一言] 世が世なら、 社長が念押しした案件について、 部外者と社長の目の前で複数回も即座に否定する管理者って感じ? 首でしょ(物理) 合わせて、落とし前はどうなるのかしらねぇ。
[一言] そこまで言うのだから、当然死を掛けての決闘なんでしょうね。
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