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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-360 宮殿に向おう


 寝室のフカフカベッドに入ると直ぐぬ目が閉じてくる。

 ナナちゃんはすでに夢の中だ。俺のお腹のところで丸くなって寝てるんだよなぁ。いつもより寝る時間が遅いんだけど、明日はちゃんと起きられるんだろうか。

 寝過ごすようなら、メイドさんが起こしてくれるとは思うんだが……。


 しかし、俺達のマーベル共和国はエクドラル王国の本国領に住む人達にはあまり知られていないようだ。

 ここからはだいぶ遠い国だからということもあるんだろうが、魔族の脅威が増したことを真剣に捉えているようにも思えないところがある。

 エクドラル国王は今まで知られていた魔族が2倍になって攻めて来ることを果たして信じることが出来るのだろうか?

 グラムさん達は問題ないと言っているけど、国王という以上、あまり城の外には出ないに違いない。

 そんなことで王国全体の状況を知ることが出来るのだろうかと考えてしまう……。


 ドン! とお腹に一撃を食らった。

 吃驚して体を起こすと、笑みを浮かべたナナちゃんが立っていた。


「朝食の時間にゃ。そろそろ起きるにゃ」

「ありがとう。でも、そろそろこの起こし方は止めてくれるとありがたいんだけど」

「一発で起きるにゃ。これが一番にゃ!」


 ずっとこのままらしい……。溜息を漏らしながら身支度をしたところで、部屋の片隅に置いてあった洗面台の水で顔を洗う。

 やはり早起きするようにしないとなぁ。


 ナナちゃんの案内で食堂に向かうと、すでにグラムさん達が席に座っていた。

 俺を待っていてくれたのかな?

 頭を下げて非礼を詫びると、エイドマンさんの奥さん達が口元を隠しながら俯いている。


「すみません。朝は苦手なもので……」

「全てを人並みに出来る者などいませんよ。どこかしら劣るところがあるものです。少し安心しました。レオン殿もやはり我等と同じ人間だと思いましたぞ」


「戦場でも、こうなんだから困った奴だ。まぁ、ナナちゃんが起こしてくれるから問題はあるまい」

「ティーナ! 人様を貶すことは自分を貶すことと同じですよ。あなたもユリアンがいないと何もできないんですからね」


 そんな話をしながら朝食が始まる。

 朝食の料理の品数だけでも10品近くあるんだからなあ。贅沢以外のなにものでもないと感じてしまう。

 王都にも貧民街で暮らす人たちがいるに違いない。彼らは一生こんな料理を食べることも目にすることも出来ないに違いない。


「今日の予定だが、11時に宮殿に向かって国王陛下と謁見することになる。その後に陛下との昼食会が行われるが、第1王子殿下の私的な昼食会に国王陛下と第2王子殿下が臨席する形となった。口だけ達者な貴族が多いことも確かだからな」

「十分です。となると、今後の話は昼食後のお茶の席でということになるのでしょうか?」


「王族が集まるとなれば貴族達が何かと騒がしくなる。遠路訪れた客に対する最低限の礼儀だと突っぱねるつもりらしいな」


 面白そうな顔をして話をしているのは、その後の混乱を予想しているのだろう。

 これを機会にと別途会談を申し出る貴族もいるようだけど、それはエンドマンさんがしっかり事前に釘を刺しているそうだ。

 俺との個別会談は外交的な会談になると言えば、エイドマンさんに事前に申し出ない限り越権行為そのものになってしまうということらしい。

 貴族は自分の権益にはうるさいからね。新たな権益を欲しがる輩は多いがそれが相手の権益に抵触したともなれば、宮殿内での権力闘争の火種になりかねない。

 上手く立ち回れば所属する派閥内での地位は上がるのだろうが、失敗したとなれば良くて権益の放棄、悪くすればお家の断絶になるようだ。

 そんな地位にしがみつくことなく、自分の能力で新たな権益を作れば良いと思うんだけどねぇ……。


「宮殿内に波風をあまり立てない方法ということでレオン殿には納得して頂きたいのですが?」

「国王陛下と会談する場を設けて頂けるだけで幸いです。せっかく良好な関係を築いているところに魔族という強い外乱が生じたわけですから、この対策具申はこれからの関係維持を図る上で必要に思えます」


 聞く耳を持っているとグラムさんも言っていたからね。

 状況を聞くということは大切な事だ。しかしその対策を決断するのは国王陛下になる。助言は必要だろうけど、その通りに動く必要はないのだから。


「ところで、第2王子殿下との謁見時に着用した士官服を持ってきたのですが、それで問題はないでしょうか?」

「十分です。謁見はその王国の礼服と言われていますが、遊牧民の中には毛皮を着てくるぐらいですからね。グラム殿、確かエクドラル王国の士官服と聞きましたが?」


「そうだ。エクドラル王国の紋章は全て外してあるし、ボタンもエクドラル軍の打痕はしていない。レオン殿は長剣を佩かずに背負うのだが、問題はあるまい。従者についてもエクドラル軍に合わせている。まだ小さいから片手剣を背負うことになるだろう」


「なら問題はありません。ブーツでしょうからつまずくこともない筈です。謁見時の案内は息子が行いますから、それまでは宮殿の客室で待つことになりますよ」


 前回の謁見と同じ感じだな。

 それなら恥をかく心配もなさそうだ。

 あまり緊張しないで会ってみよう。


 朝食が終わるとリビングに移動してお茶を頂く。

 デオーラさん達はドレスになるそうだ。ティーナさん現役士官だと言い張って、ドレス姿をボイコットしていた。

 ナナちゃんの着付けはメイドさん達に任せてればいい。1時間も掛からないだろうから俺の隣で一緒にお茶を飲んでいる。

 

「まさか、腕を試したいなんて人物は現れないでしょうね?」

「動きがあったから、早めに潰して置いたぞ。それほど心配せずとも良いだろう」


「さすがにオリガンの腕を試そうという武人はいないでしょうな。しかし文官貴族の動きは分りませんぞ?」

「長剣を誇る輩がいると聞いてはいるが、それなら軍に入れば良い。知っているなら後で教えて欲しい。使える人物なら直ぐに小隊を預けることも出来よう」

「それが……、仲間内での評価ですから困った話です。自称長剣1級では話にもなりません」


 貴族は長剣を佩くことが出来る。貴族以外で長剣を佩ける者達は、重装歩兵もしくは騎兵ぐらいの物だろう。

 もっとも、兵士達の持つ長剣は実用重視な品であるのに対し、貴族の佩く長剣は見かけだけが重視されているようだ。

 グラムさんが長剣の柄やケースを装飾したのは、貴族達の目があるからだろう。

 俺の長剣は兵士と同じような装飾だからなぁ。片刃の長剣はやや反りを入れてあるし、ケースと言われる鞘は木製だ。

 さすがにみすぼらしいからと、ガラハウさんが樹液を何度も塗って、要所を金属製のバンドを取り着けてくれた。

 おかげで黒に金色の帯に見えるから、少しは見栄えがするんだけどね。それでも宝飾を施し事は無いから、下級士官の持つ長剣ほどにしか見えないだろうな。


 トントンと扉が叩かれ、身ぎれいに支度を調えたナナちゃんをメイドさんが連れて来てくれた。

 背中に背負った短剣はかつてデオーラさんが使っていた物だな。凝った意匠の銀の帯が上等の革で作られたケースの上中下の3か所を飾っている。柄も立派な作りだ。


「準備が出来たようだな。中々似合うぞ。問題は……」


 次に入ってきたのは、ティーナさんとユリアンさんだ。上級仕官の制服に長剣を佩いている。一歩後ろのユリアンさんはナナちゃんと同じ姿なんだが、長剣は佩いているんだよなぁ。背中に背負う習慣は無いのだろう。

 腰に佩くと結構邪魔になるだけだと思うんだけどねぇ。


 最後にリビングに入ってきたのは、着飾ったドレス姿のデオーラさんだった。

 ちらりと、ティーナさんの姿を見て、溜息を漏らしている。

 それを見たグラムさんが苦笑いを浮かべるのはいつもの事だ。


「すでに馬車は待機している。さて、出掛けるぞ」



 グラムさんに続いて俺も席を立った。

 大きな王国だからなぁ。旧サドリナス王国の謁見の間には行ったことがあるけど、それ以上の大きさに違いない。

 一応、マーベル共和国の大統領であるレイニーさんの代理になるわけだから、あまり恥を欠かさない様にしなければなるまい。

 第2王子様と謁見した時と同じようにすれば良いと、グラムさんが言ってくれたから距離と礼儀に気を付けるだけで良いらしい。

 とは言ってもねぇ……。


 ティーナさんやナナちゃん達の手を取って、馬車に乗せてあげると、最後に俺が乗り込む。

 俺達に頭を下げて見送ってくれたエイドマン夫妻に馬車の中から頭を下げると、左手奥に見える大きな宮殿に目を向ける。

 かつては城もあったんだろうけど、それを宮殿に作り替えたんだろうな。それだけ王国内が平和になったということなんだろう。

 魔族の侵入を北の砦が上手く跳ね除け続けているに違いない。

 その魔族の脅威が増したとなれば、宮殿内で派閥争いに明け暮れる貴族達はどうするのだろう?

 自分達の無能さを隠しもせずに、武門貴族の責任でも追及するのかな?

 

 ちょっとおかしくなって顔が緩んできた。

 グラムさんが首を傾げているけど、俺がそんな事を考えているとは思っていないんだろうな。


 宮殿と迎賓館との距離は300ユーデほども無いんだが、敷石で整えた道は庭を迂回するように作られているから結構な距離になっているようだ。それでも5分ほどでで宮殿前に到着した。

 俺達を出迎えてくれたのは、1度見たことがある人物だった。上級仕官服に身を包み、デオーラさんと同じようなドレスを纏ったご婦人と一緒に階段から降りてくる。


「ワインズ自らが出迎えとは……」

「たまたま宮殿にいたというのが本当のところだ。さて、それでは、私について来てほしい」


「よろしくお願いします!」と頭を下げる。

 ワインズさんが苦笑いを堪えて、岸の礼で答えてくれた。奥さんは綺麗な人だな。俺に小さく頭を下げて、ワインズさんから一歩退いた間合いを取って宮殿の扉へと足を進めて行く。

 俺とナナちゃんがどの後ろに続き、グラムさんは殿ってことだな。


 広いエントランスホールの奥には左右に階段がある。

 左右に伸びた建物だからかな? それとも1つだとデザイン的に問題だと建築家が思ったのか……。


「謁見の間は1階奥になるんです。途中にいくつか控え室がありますから、時間までそこで待つことになりそうです」


 どれほど待つのかと聞いてみたら、20分にも満たないらしい。それなら謁見のまでも良いと伝えてみた。


「とんでもない。他国からの来訪者は王侯貴族が揃った状態で拝謁するのが習わしです。貴族達が他の貴族を出し抜こうと、今頃は鏡の前で最後の身支度をしているでしょうね」


 いくら身支度が出来ていても、能力が無いなら部屋の飾りにもならないんじゃないかな。

 だけど、どの王国でも貴族の行動はそれほど変わらないようだな。

 能力が無いなら、それを恥じて後方に控えれば良いんだろうけど、そんな貴族達ほど立ち位置に拘るらしい。

 さて、エクドラル王国の王宮がどんなだか、もう少しで分かりそうだ。


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