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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-359 第1王子との会談


「なるほど……。兵数が多ければ、マーベルの新兵器を使わずとも対応が可能だと」


 一通りの説明をすると、納得できたようだ。

 エイドマンさんは少し首を傾げているけど、文官貴族なんだろうな。戦には出たことが無いに違いない。


「攻めて来るなら、それに見合う戦術を前もって立てておくのが肝要かと……。とはいえ、魔族5個大隊は、たとえ棍棒しか持たずとも大きな脅威です」

「それにしても……、爆弾を1ミラル先に飛ばせるというのが不思議でならん。グラム殿の事だ。その兵器を見たことがあるはず、当然試作をはじめているんじゃないのか?」


 面白そうな目をしてグラムさんに顔を向けたから、グラムさんが咳ばらいをしている。さて、どんな状況になってるんだろう? 俺も少し興味があるんだよなぁ。


「爆発させることなく飛ばすだけなら300ユーデを越えますが、それでは何の役にも立ちますまい。フイフイ砲は爆弾を400ユーデ近く放ちますし、カタパルトを使えばそれより小型の爆弾を150ユーデ程に放つことが可能です。軍の工房で現在も試作を繰り返しておりますが、工房長の話では全く原理が分からんと嘆いている次第」


 やはり火薬そのものを変えようとは思っていないようだな。さらに石火矢の推進用火薬と先端に仕込む炸裂火薬は全く性状が異なるからなぁ。両者の間に仕切り板を入れて、その板に穴を開けることで導火線を通していることには気が付いていないはずだ。


「エクドラル王国が持たない遠距離攻撃の手段をマーベルは持っているということになるのかな? それは友好国として疑問を持ってしまうのだが?」

「供与するのは簡単です。ですがエクドラル王国がそれをマーベルに放つことを抑えられますか? 石火矢そのものは案外簡単な代物です。先の戦の反省としてマーベルは千を超える石火矢を作りますが、これを他の王国に向かって放つことはないでしょう。それはマーベルが他の王国の侵略に対してきわめて脆弱だからです。マーベル国をどのような国か考えて頂きたい。王都近郊の町よりも人口が少ないんですよ。そんな国が他国を攻めようとは考えること自体間違っています。ですがエクドラル王国はそうではありません。他国を滅ぼそうとした場合石火矢を使えば容易に行えるはずです」


 自分で自分の首を絞めようとは思わないからなぁ。

 それでも時間を掛ければ、エクドラル王国が石火矢に似た兵器を作るやもしれない。

 そのための石火矢3型であり後装式の大砲なのだ。

 まだこの世界では数ミラル先を攻撃しようなんて考える人物は俺以外にはいないだろう。

 もっとも、それを考える人物が現れたとしても、もう1つ大きな障害があることに直ぐに気が付くはずだ。常に一定の飛距離を保てること、観測射撃の為の通信方法、さらには敵との距離を算出する手段も必要になってくる。

 そんなことを考えると、石火矢1型なら飛距離が1ミラルにも達しないから一番この世界の連中には使いやすい長距離兵器ということになるんだろうな。


「今以上の兵器の技術供与は出来ないと?」

「端的に言えば、そうなります。

エクドラル王国軍は7個大隊を越えているのではありませんか? 旧サドリナス領をエクドラル王国に加えたために大規模な戦力の増強を行ったはずです。とはいえ、エクドラル王国領を維持するためなら、それも止むを得ないこと。俺達が戦った魔族はこれまでにない規模であったことも確かです。さらに3個大隊を越える戦力増強を行わねば、エクドラル王国が魔族に蹂躙されかねないと推測しますが?」


 話を変えることにした。

 このままでは無理強いされかねないからなぁ。あえてエクドラル王国の危機を確認してみたのだが、俺の言葉に王子様が目を見開いて話を聞いていた。最後には溜息さえ零れる始末だ。

 すでにグラムさんが報告を行っていたのだろう。

 やはり、王宮内でも大きな問題になっているようだ。


「全くその通り……。王宮内の部門貴族との会議では、少なくとも4個大隊を迅速に移動できる体制を作ることに話の方向が進んでいることは確かだ。父王陛下と外交を担当する連中は頭を抱えているよ。

 戦力増強は出来ない話ではない。マーベル国の品を使った対外交易はエクドラル王国に多大な富を与えてくれた。その利益は3分割して民生、軍事、蓄財としているから国庫も潤い民の暮らしも良くなっている。さらには砦の修理や例の長城建設にも使われているのだ。それに、ブリガンディから得た財宝も国庫にそのままだからね。

 4個大隊の戦力増強など容易ではあるのだが……」


「隣国には脅威としか、映らないでしょうね……」


 俺の言葉に、王子様が力なく頷いた。

 現状でさえ、隣国を上回る戦力を持っているのだ。それに隣国の戦力に匹敵する戦力を増強しようものなら、隣国にとっては自分達を侵略するための増強と考えるのは当然に思える。

 いくら外交努力を行っても、一度芽生えた不信感を払拭するのは難しいだろうな。


「その対案を国王陛下に具申するつもりだ。レオン殿の戦術を使うなら、1個大隊程度で済む。1個大隊程度の戦力増強であるなら、対魔族戦の為と隣国に理由を告げるにも都合が良い。それに、本国領だけでなく旧サドリナス領を含めての1個大隊だ」


 グラムさんの言葉に、王子様が大きく目を見開いた。


「それほどの戦力で可能なのか? 魔族4個大隊以上を相手にするのだぞ!」

「現に、レオン殿は魔族5個大隊を相手に3個中隊で撃退しているのだ。我等とは全く異なる戦術で戦っているのだが、その方法を一部取り入れることは現状の兵器、兵種でも可能に思える。とはいえ部隊の再編は必要になるだろう。古い考えの士官達にはそろそろ引退を告げても良いかもしれん」


 旧来の戦を考えている連中を現役から追い出すってことか?

 それも大事に思えるけど、恨まれることは間違いないな。闇討ちに注意しないといけなくなってしまいそうだ。


「少し見えてきたぞ……。大きな課題の対案を示すと同時に、父王陛下の周りから老害を追い払おうということか」

「国王陛下から直々の下命を受けておりますので、それも考慮しなければなりません」


「これが良い機会でもあるということか……。私は良い国王に成れるだろうか?」

「成れるかどうかではなく、成らねばなりません。レオン殿がかつて行った言葉があります。『賢王とは現在の評価ではなく、後世の歴史家の評価である』と……。王国のために努力するのは国王として当たり前、たった1つでも治世に間違いを起こしたなら『愚王』の誹りを後世に残してしまうということです。

 それともう1つ。たぶん王子殿下も思っておられるでしょうが、レオン殿に大陸を統一することを目指さぬのかという問いを出したことがあります」


「それは私も考えていた。魔族5個大隊を3個中隊で撃退する程の強兵を持っていたなら十分に可能におもえる」


「その答えが……、『その器にあらず。統一後に永続する統治など面倒この上ない』との話を聞いた時には、驚くよりも大笑いをしてしまいました」


 そんなに面白いかなぁ。戦で勝利するより王国民に安寧な暮らしをさせる方がはるかに難しいと思うんだけどね。多くの人達が国王を羨んでいるかもしれないけど、国王ほど苦労が多い職業は無いと思うんだよなぁ。

 中には苦労を他人に預ける国王もいるだろうけど、そんな王国は衰退してしまうに違いない。


「戦よりも統治の方が遥かに難易度が上がります。そんな苦労を考えるよりは、のんびりと暮らしたいですね」

「マーベルには国王がいないと聞いたが、まさかそれが理由なのか?」


「国の代表者はいるんです。俺が最初に配属されたときの小隊長だった人を、皆で担ぎあげました。本人は嫌がってましたので、3年ごとに投票で決めることにしたんですが、次の投票でも本人が選ばれましたからしばらくは続けて貰います」


 皆が嫌がるんだよなぁ。もっとも俺だった嫌だけどね。

 そんなことだから、マーベルの国策は夕食後の会合で決めているんだよなぁ。国会もあるんだけど、あれは暮らしを良くするためだけに機能している感じがする。


「面白い国だなぁ。私も1度おじゃましたいところだが、許可されることは無さそうだ。出来れば、王都にいる間に、マーベル国の暮らしをもう少し詳しく聞きたいと思うんだが?」

「数日は滞在するつもりですから、御都合に応じることができると思います」


 俺の言葉を聞いて嬉しそうに頷いている。

 この世界は王国が殆どだからねぇ。例外は遊牧民の人達だろう。彼らを導いているのは族長と言うことなんだが、族長でさえも長老の意見に従うらしい。ある意味長老政治と言うことになるんだろうな。


「それで、明日はもう少し詳しい話を父王陛下にするんだね?」

「そのつもりです。エクドラル王国全体で1個大隊程度の戦力増強であるなら、隣国としても魔族の備えとして納得してくれるでしょう。もっとも、その前に隣国に今までにない規模の魔族軍が現れたことを教える必要があると思いますが……」


 王子様がちらりとエイドマンさんに視線を向けると、その視線に気づいたエイドマンさんが無言で小さく頷いている。

 外交であれば任せておいてほしいという意思表示なんだろう。これですんなりと迎撃態勢を整えられそうだ。


「隣国としても、他山の石と見ることは出来ますまい。同規模の戦力増強いやそれ以上に増強するやもしれません。その規模に応じて我等の全力を増やすことは出来ると思います」

「うん、それで十分だろう。レオン殿の戦術をさらに強化できそうだ。父王陛下も少しは安眠できるに違いない。……それでは、この辺で失礼するよ。明日の謁見が楽しみだ」


 お忍びと言うことで長居をするわけにはいかないようだ。

 そのままで良いと言ってくれたけど、ここは席を立って部屋を出るまで見送るのが礼儀だろう。


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