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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
357/384

E-356 エクドラル王都へ向かう


 ある程度事前調整が出来たところで、エクドラル王国の王都に向かって出発することになった。

 5日も掛かってしまったんだけど、王都に長居する気は無いから年を越えてのマーベル帰還とはならないんじゃないかな。

 豪華な王子様所有の馬車にご婦人方が乗り込み、王子様を含めた俺達男性はグラムさんの所有する馬車に乗り込んでの旅になる。

 装飾は簡素だけど、作りは全く同じ品らしい。貴族として許される最上の馬車と言うことだけあって、馬車のソファーは柔らかだ。これならずっと乗っていてもお尻が痛くなることは無いだろうな。


「この街道を作った人物を尊敬しますね。かつての大国だと歴史の本で読んだことがあるんですが、未だに使えるんですから」

「それなりに、補修はしているようです。私は街道よりも橋を称賛したいですね。未だに補修を行わずに通行ができるのですから」


 俺の呟きに頷いた王子様が、言葉を繋いでくれた。

 なるほどねぇ。それも大した技術であることは間違いない。土木工事に秀でた技術を持っていたなら国力を伸ばすことも出来ただろう。

 かつての大国が栄えたのはその技術があったからに違いない。

 

「かつての大国を夢見た時期もありましたが、現実を見ることができるようになると、それも無くなりました。レオン殿ではありませんが、王国を統治するというのはかなり難しいことが分かってきたからです」


 俺に顔を向けた王子様が苦笑いを浮かべている。

 グラムさんも苦笑いを浮かべているのは、同じような子供時代を思い出しているのだろう。


「エクドラル王国だけでも色々と問題が生まれるのですから、これが数倍、十倍の規模になったらどんな形の問題が起こるか想像できません。それらの問題を解決できなければ貴族はともかく民衆からの支持を失いかねません。後は……」


 後は坂を転がり落ちるだけになってしまうだろう。かつての大国は、多分そのように衰退していったに違いない。それも極めて短時間に起こったんじゃないかな?


「当時の大貴族の所領が今の王国の所領ともいえる。少しは形が変わっているが、それはいくたびの戦でそうなったということだ。だが1つ、おもしろい話をレオン殿に教えてやろう。当時の大貴族で王になった者は一人もいない。全て帝国が瓦解した時の混乱を鎮めた名も無き武人達であったらしい。エクドラル王国の初代国王陛下もその中の1人だ」


「歴史の本では、かつての武門貴族であったと書かれておりましたが?」

「さすがに無名であったとは書けなかったのだろうね。だが、実際はグラム殿の言われた通り。私も物心ついた頃に父王陛下に教えて貰ったんだが、しばらく呆然としていたよ。だけど、今ではそれで良かったとも思える。貴族の血がどうのこうのと言う者がいないからね。建国で功があったから現在の地位を持つ。その功を辱めるような事態を起こしたなら、即時断絶させることができるんだ」


「かつての名誉を語るような貴族であるなら国王陛下は宮殿への足を止めさせるだろう。反面、貴族でなくとも王国に功のある者は1代限りではあるが謁見の間に立たせるからな。レオン殿はその中の1人と言うことになる。だが、庶民としてではないぞ。ブリガンディ王国が滅んでも、ブリガンディ王国が任じた貴族の称号は決して軽くはない」


「貴族といっても名ばかりですよ。それでもそうなりますか?」

「レオン殿が考えるほど軽くはありませんよ。ましてや、オリガン家の血筋なんですからね。

マーベル国と我等エクドラル王国の現在の関係を築いたのはレオン殿の功績ですよ。決して卑下することではありません。自信を持って父王陛下との会見に臨んで頂きたい」


 とりあえずは下級貴族として遇してくれるみたいだな。

 確かにあまりへりくだるようでは、兄上の矜持にも関わるに違いない。一国の代表として会見に臨むとするか。だけど……地方都市並みの国力だからなぁ。


 励まされたり慰められたりの道中だったが、途中の町での宿泊はその町一番の宿屋だったし、食事も新鮮な野菜や肉料理ばかりだった。ナナちゃんは嬉しそうにティーナさん達と食事をしていたけど、俺の方はため息の数が多くなっている気がする。

 そんな俺を見てグラムさんが苦笑いを浮かべながらワインを飲んでいるんだよなぁ。まぁ、他人事ではあるんだけどねぇ。

 

 8日目の昼下がり、遠方に城壁が見えてきた。

 たぶんあれが王都の城壁なんだろう。かなりの高さがあるのがまだ遠くのこの地からでも分かる。少なくとも6ユーデ近くありそうだな。東に面した城壁の長さも1ミラルを越えていそうだ。


「立派ですね。ここからでもその威容が分かります」


「西の隣国と激戦をした時代があったのだ。その名残と言えよう。だがその時代から王都が広がっていることも確かなのだ。ここからでははっきりとは見えぬが、あの城壁の周囲1ミラルほどに人家があるぞ」


 都市の発展の妨げになっているということらしい。だが、魔族の脅威を考えれば、周辺に住む住民を城壁内に非難させることも可能な筈だ。北東、北西に小さな出城を築き城壁を繋げることで、城壁内への避難民を減らすことも可能に思える。

 城の周囲を貴族館が囲み、その周りを裕福な商人達が囲む……、城と町の関係はそうなるのだろうが、経済活動の発展とともに一般庶民の数が増えるだろうからなぁ。最初から城壁で囲むというのは考えてしまう。

 俺達のような立地条件ならともかく、平地なら石垣でなく堀を使えば同じ効果が得られると思うんだけどねぇ……。


「夕暮れ前には到着できるだろう。迎賓館を使うようにと連絡が来ているぞ」


「それはいくら何でも……」


「それだけ父王陛下が楽しみにしているのでしょう。遠慮はいりませんよ。グラム家が一緒ですから安心してください。私は宮殿の客室を使うことになります」


 宮殿を出ているということなんだろうな。かつては宮殿内に自室を持っていたのだろうが、今はサドリナス領内で暮らす身の上だ。貿易港に館を作ったらしいけど、それが王子様の館として代々続いていくのだろう。


 夕暮れが近づく中、俺達の乗った馬車は東の城門に向かって街道を進んでいく。

 グラムさんが教えてくれた通り、街道の両側は小さな店がずらりと並んでいた。その奥にはたくさんの家が建っているから、庶民達が暮らす町なんだろう。

 城壁内と外で、どのような差が生まれているのか街道を進むだけでは分らない。

 全く無いということはないだろうけど、俺達の馬車を珍しそうに見る民の顔には陰りが無い。貧しい暮らしでもなさそうだから、案外楽しく暮らしているのかもしれないな。


 城門で馬車が止まる。

 立派な馬車が2台とそれに続く5台の荷馬車だからなぁ。簡単に入らせては貰えないようだ。 

 良く磨かれた上半身だけのプレートメイルを着込んだ衛兵2人が、馬車にゆっくりと歩いてきた。

 衛兵にグラムさんが顔を見せて名乗りを上げると、衛兵の1人が慌てて衛兵が城門に向かっていく。


「案内の兵士をご用意いたします。城壁を潜って広場の左側でお待ちください」

「了解した。隣国からの献上品が一緒なのだが、これは一足先に宮殿に届けてくれぬか。壊れ物だから、大事に扱ってくれ。そう簡単に作れるものではないからな」

「了解です! それでは失礼いたします!!」


 衛兵が綺麗な騎士の礼をすると馬車から離れて行った。

 あまり長く城壁の入り口に馬車を止めるわけにもいかないのだろう。

 御者が再び馬車を動かし、城壁を潜る大きな広場の左側に馬車を止める。

 直ぐに、騎馬兵が4人やって来た。どこかで待機してたのかな? 俺達を先導する形で真直ぐに伸びる大通りを進んでいく。


「王都の中心に南北に同じような大通りが作られている。宮殿は北側になるのだが、その手前に貴族街がある。それほど高くない塀があるのはサドリナスやブリガンディと同じだな。貴族街を抜けて、大きな堀の先が宮殿の敷地になる。迎賓館は宮殿の敷地内だ」


 グラムさんの説明を聞いても、頷くばかりだ。

 王都の規模はサドリナスやブリガンディの比ではないな。優に2倍はあるんじゃないか?

 通りに面して大きな商店が並んでいるし、その後ろには宿屋のような建物さえ見える。高い尖塔が見えるけど、あの下に神殿が作られているのかもしれないな。皆が進行している神は5柱あるんだけど、どう見ても尖塔の数が多い。

 貴族用と庶民用に区分けでもしているんだろうか? 神の身元では誰もが平等の筈なんだけどねぇ……。


 大きな十字路を右に曲がると、すぐ先に塀がある。これが貴族街との境界ということなんだろう。

 鉄の門を開け放ち、数人の衛兵が警備をしていた。戦闘の騎馬兵が衛兵に言葉を掛けると、それまで道をふさいでいた兵士が左右に移動してくれた。

 結構厳重なんだ。治安は良さそうに思えるんだけどね。


 600ユーデ程貴族街を進むと石橋が見えてきた。その先が宮殿ということになるんだろう。

 1個分隊程の衛兵が警備する橋を騎馬兵が先導してくれる。

 橋を渡っても、まだ宮殿が見えないのは道の両脇にある並木道のせいだ。

 緩いカーブを曲がって並木道が途絶えた時、白亜の大宮殿が見えた。

 かなり大きい。城ではなく宮殿だ。防御を誇るのではなく建物の芸術性を誇っているようにも思える。

 なんといっても2階の庇まで届く円柱の列が立派に見えるんだよなぁ。建築構造的には無用の長物に違いないが、あれがないとただの大きな建物見えてしまう。

 かなり美意識の高い建築家の作品なんだろう。思わず溜息が零れるほどだ。


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