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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
355/384

E-354 マーベルをもう1つ


 グラムさんとエクドラル本国領に関わる魔族対策の話をしていると、家人が客室に入って来た。

 静かにグラムさんに近付くと、耳元でささやくような小声で要件を伝えている。


「レオン殿。王子殿下夫妻が夕食をと誘ってくれたぞ。だが……、そうだな。これをお見せする良い機会かもしれんな」


 俺にそれだけ言って、控えている家人に何かを告げている。

 丁寧に頭を下げて部屋を出て行ったけど、今から晩餐会の準備をするのだろうか?

 

「たぶん来て下さるだろう。夕食は少し遅れるやもしれんが、話の場所を移さねばならんな。ワシの私室に向かおう。直ぐにデオーラ達も戻ってくるに違いない」


 席を立って、グラムさんに続き部屋を出る。

 グラムさんの私室は結構広いんだけどさすがに客室よりは小さいからね。俺にとっては落ち着ける場所だ。


「王子殿下の来訪目的は?」

「例の報告書に関わる話に違いない。やはり発案者であるレオン殿の監修を受けたいということだろう。ティーナも王女殿下に報告は行っていたのだろう?」


「状況報告を随時行ってきました。現在は、我等の手を離れて運営がなされておりますので、秘密組織のリーダーとたまに顔を合わせるだけになっています」


 うんうんとグラムさんが頷いている。

 ギルドや市政庁が関与している部分もあるのだろうが、子供達が自主的に動き出しているんだから大人はあまり手を出さない方が良いからね。

 これで、貧民街の子供達の暮らしも少しは良くなるだろう。それに何事も自分達で行うという前向きの姿勢は大人になっても十分に役立つに違いない。


「エクドラル王国が大きく変わるかもしれんな。だが、やはり気になるのはレオン殿の推測だ。旧サドリナス領ではマーベル国の存在で2個中隊ほどの増兵で済むだろうが、本国領ともなればそうもいくまい。下手をすれば3個大隊規模の増兵でも魔族を止めることが出来なくなりそうだ」


 確かに深刻ではある。

 大隊規模で比較しても10倍以上の開きがあるんだからなぁ。

 城攻めには4倍の戦力で十分とも言われているから、グラムさんが悩むのは仕方のないことだろう。

 だけど……、そこまで大規模に兵を増やすことも出来ないんじゃないかな?

 いくらエクドラル王国が大国であっても、兵を増やせば国力は低下してしまう。農民を徴兵すれば 、それまで耕していた畑の耕作者がいなくなってしまうだろう。残された家族が耕すとしても、以前の収穫量を維持できるとは思えない。

 

 俺が国王なら、新たなマーベル国を作ることで対策としたいところだ。

 西の王国と調整すれば国境近くに作ることも出来よう。

 いち早く魔族の侵攻を発見し、魔族の進行方向に戦力を集中させる。長城があれば旧サドリナス領の魔族対策と同じことが出来るだろう。

 とはいえ、新たなマーベル国が石火矢を持つことは出来ないだろう。ある程度エクドラル王国に供与する形になるかもしれないな。

 もっとも、カタパルトの機動運用が可能ならその限りではないんだけどね。


「グラムさん。エクドラル本国の地図をお持ちですか? 機密図書であることは間違いなさそうですが、少し考えたいことがありまして」


「ティーナ。その棚の端に入っている巻物を持ってきてくれ。レオン殿、確かに機密ではあるが大まかな地図ならお見せできる。もっとも旧サドリナス領の地図を自由に見ているレオン殿だから、機密を漏らしても問題はあるまいがな」


 ティーナさんが巻物をテーブルに広げた。

 なるほど重要な部分は描かれていないな。とはいえ俺が見たいのは本国領の北だ。


 王国が川の流れを国境としているのは、それが明確だからだろう。

 蛇行しているようだから、長い目で見れば国境が変化するけどそれはお互い様だし、その変化も1ミラルほどに納まるということなんだろうな。


 尾根の記載もあるが、正確さに欠けるな。

 とはいえ、ある程度大きな尾根ということになるはずだ。


「前に、魔族の侵入方向を記載した地図を作ったことがありましたね。それはまだお持ちですか?」

「あるぞ。ティーナ、今度はワシの机の一番上だ」


 2つの地図を眺めながら考える。

 魔族の侵出場所として一番多いところは……、この辺りだな。他の砦の襲撃もこの位置から出てきた魔族が進路を変えることで説明が付くんじゃないかな。

 それほど多くの侵出点があるとも思えないからね。


 それ等を考えると、この辺りに作ることになるのかな?

 川から東に10ミラル程離れているし、間に尾根が1つかるからね。隣国の脅威とは認識されないだろう。想定される魔族の侵出点とは尾根1つ離れているが、案外小さな尾根がいくつかあるかもしれない。その距離15ミラルほどだから尾根に見張り台を設けるなら魔族の侵出を早期に検知できそうだ。

 問題は、さすがに新たな国を作れないことだろう。戦力は俺達と同じ1個大隊規模で十分に思えるが、包囲されかねないからなぁ。

 ある程度食料自給を可能にしなければなるまい。産業もないし、鉱山があるとも思えない。特産物でもあればそれなりに住民が増えるんだけどねぇ。住民が増えれば民兵組織も作れるから名目は1個大隊でも2個中隊ほどの戦力増強が可能になるのだが……。


「国王陛下に提言してみますか……。この位置に、辺境伯を置くことを」


「この位置ともなれば、激戦も良いところだぞ。だが、上手く機能するなら……」

「城壁都市を作ることになる。まるでマーベル国そのものだ」


「その認識で問題ないかと……。ただ1つ、難しいのはこの領地の産業育成になります」


 都市を維持できないとなると、その任を任される貴族が夜逃げしかねない。

 俺達が色々とやって来た中から1つぐらいは提供するしかなさそうだけど、それだけではねぇ……。


「産業と言うと、マーベルの陶器やガラス工芸のようなものだな。既存の産業なら工房を抱える貴族が反発しかねない。なるほど、魔族に対してはかなり有効に働くが、それを維持するのが大変だということか」

「さすがにマーベルの産業を誘致するということも出来まいな。我等で考える必要があるということか……」


 直ぐに考え付くものではないだろう。そもそもそこに砦を越える城壁都市を作るかどうかの判断もあるからなぁ。

 なるべく人手が必要で元手が掛からず、それでいて需要があるのが理想的なんだけどね。

 城壁都市で暮らす住民が、冬越しで切るぐらいの収入を得られれば良いのだが……。


 部屋の扉がトントンと小さく叩かれ、直ぐに扉が開く。

 入ってきたのはデオーラさんにナナちゃんだった。

 今朝まで古着を着ていたんだけど、デオーラさんに買って貰ったのだろう町娘のような衣服を着ている。ちょっとおしゃれに思えるのはデオーラさんの見立てに違いない。


「王子殿下の来訪をお願いしたと聞きましたが?」


 厳しい目でグラムさんを睨んでいるんだよなぁ。それに動じないグラムさんを尊敬してしまう。


「招待を受けたので、逆に提案してみた。レオン殿の贈り物を披露するにも都合が良いからな」

「それはそうですが……。あまり豪華な晩餐を用意できないのが残念です」

「食事を気にするような殿下ではあるまい。それよりはレオン殿に会いたいはずだ。料理が足りなければ仕出しでも構わんぞ」


「さすがに仕出しと言うのは、私の矜持にも関わりますよ。いきなりは、今回が最後にしてくださいな」


 もう一度、グラムさんを睨みつけて、ナナちゃんを連れて部屋を出て行った。

 フウ……、と溜息をもらしたのはグラムさんにティーナさんだ。

 俺を含めて3人が苦笑いを浮かべる。やはりデオーラさんは怖い存在なんだろうな。


「話を中断してしまったが。確かに上策だとワシも思う。住民の暮らしが維持できないとなれば、辺境伯に対する援助を王宮が行えばよい。荒地を開拓すれば農民の所得も徐々に上がるだろう。さすがに文官貴族を送ることは出来ぬであろうな」


「政争と贅沢三昧で暮らしていると聞いたことがあるが、それほど酷いなら断絶も考える必要がありそうに思えるが?」

「それなりに使えるという事なんだろう。彼らの贅沢で民に金が落ちる事も確か。一概に悪とも言えん」


 渋ちん貴族ではダメだということかな?

 贅沢三昧に暮らすには、それを支える仕事が住民にあるということになる。蓄えずに使うなら、お金が王国内に回っていくんだろう。

 同じことが軍にも言える。武器や装備は戦をすれば消耗するからなぁ。定数を維持するために戦の度毎に特需ができるってことだ。

 それなら地産地消と言う考えで、矢やボルト作りは辺境でもできそうだ。武器工房を誘致するのも一つの手かもしれないな。


 雑談交じりに色々と考えることができたから、もう少し住民の収入源を考えれば何とかなりそうだ。

 さすがに王宮の援助を毎年あてにするようでもねぇ。辺境伯と言う名を持つ以上、数年後には援助が途切れても城壁都市を維持させたいところだ。


「それにしても、辺境伯か……。我こそは! と国王陛下に申し出る者達が出るに違いない」

「能力をあらかじめ調べる必要がありそうだ。これは、内々に総務部門に頼んでおけば良い。貸しを作ることになるが、王国の安寧の為ならワシが一歩譲れば済むことだ」


 貴族同士の借りは重そうだな。

 グラムさん夫妻にはたくさん借りがあるんだが、これからちゃんと返して行けるだろうか。


「安易な策で申し訳ありません。エクドラル本領への魔族の侵出に対する俺の考えはそんなところです」

「謙遜には及ばんよ。そんな手があるとは、とワシも考えさせられた。案外上手く建設に向かうかもしれん。ブリガンディの財宝、それに今までに国庫に納めたマーベル国の製品の交易結果があるのだからな」


 財政的には問題ないと言ってもなぁ……。辺境に都市国家並みの砦を作ることになる。完成したあかつきには数千人が暮らすに違いない。

 住民が継続的に仕事に就けるかを考えると、溜息しか出ない。

 色々と考えても、最大でも200人には届かないから、その3倍以上の仕事を探すことが一番の課題になりそうだ。


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