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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
352/384

E-351 士官達は未だに頭が固いようだ


 デオーラさんの驚き様は、予想を超えていた。

 直ぐに家人に言いつけて、客間に飾るように指示したようだ。

 改めて俺にお礼を言ってくれたけど、いろいろとお世話になっているからね。これぐらいなら容易いことだ。


「金貨を積めば良いということではありませんね。さすがはナナちゃんといってあげたいくらいです。でも、そうなると……」

「あの品より少し小さめの物なら月に2つは出来るでしょう。ですが市政庁に飾る物は1か月では出来ません。まして国王陛下に献上する物ともなれば、日数は別物です」


 とは言っても、最初に作ったのが一番大きなものなんだよね。

 あれを作ったところで、さすがにこれを売るのはと考えて小さくしたんだよなぁ。それにマーベルにはシャンデリアが無い。こんな品を飾るとなればそれなりの部屋が必要になってしまう。

 ある意味、館の象徴とも言える品だからね。俺達の家ならガラスの箱に入れた光球で十分だ。


「欲しがるご婦人方が大勢出てくると思うのですが?」

「交易品にできればと考えた品ですが、あの品より小さなものならエディンさん経由でお渡しできると思っています。売値は金貨2枚でどうでしょう?」


 俺の言葉に、デオーラさんが目を大きく開いた。

 やはり高いってことかな? 金貨1枚でも十分なんだけど、マーベルの資金稼ぎにしようと少し高めに言ってみたんだが……。


「安すぎます! そんな値段にしたならマーベルに数百の注文がいっぺんに入りますよ。グラム殿もワインばかり飲んでいないで、少しは忠告してあげるべきです!」

 

 矛先がグラムさんにまで行ってしまった。

 苦笑いを浮かべながら俺に顔を向ける。デオーラさんには頭が上がらないのかな?


「確かに安すぎるとワシも思っておった。その10倍でも注文がやってくるだろう。だが、マーベルの内情も少しは分るつもりだ。それも高級陶器と同じ扱いで良いのではないか。マーベル国としては一括してエクドラル王国の照会ギルドに納入すれば良い。

 商会ギルドの買値と売値に差が出るが、それは王国の財源として使えるだろう。レオン殿の案内人としてワシも宮殿に向かうつもりだ。その時に国王陛下と調整しよう」


「それなら良いのですが……。でも、私共に頂いたお礼はしないといけません。ナナちゃんの衣服だけというわけにもいかないでしょう。それはよろしくお願いしますよ」


 対価ってことかな? いらないんだけどね。

 デオーラさんの言葉にしっかりとグラムさんが頷いているから、ちょっと心配になってくるな。


 そんな話があった翌日。

 朝食を終えてお茶を飲んでいると、メイドさんが馬車の準備ができたと告げに入って来た。

 

「それでは、ナナちゃん。出掛けましょうね」


 昨夜と違って優しい声でナナちゃんを誘っている。ちょこんと椅子を下りたナナちゃんがデオーラさんと手を繋いで食堂を出ようとしたから、慌てて2人の後を追った。


「デオーラさんのお手を煩わせてしまって申し訳ありません。ナナちゃんの衣装ですが、これで用立ててくれませんか?」


 ポケットから3個の宝石を出したんだけど、デオーラさんは少し迷った顔をしていたが俺の手から宝石を1つ手に取った。


「これでお釣りが来ますよ。それにあのシャンデリアをタダで頂くわけにも参りません」


 笑みを浮かべて手に取った宝石を仕舞ったんだけど、一番小さい宝石だったんだよなぁ。

 また何か贈らないといけなくなりそうだ。

 少し考えないといけない。貴族の矜持というやつもあるから、結構面倒に思えてしまう。


 テーブルに戻ろうとした俺を、ティーナさんが「客間に向かうぞ!」と言ってぐるりと体を向けられた。

 結構な力だ。だけど女性なんだから、俺の手を取って位のことはしても良さそうに思える。

 やはり軍人の気質がしっかりと染み込んでいると、改めて考えさせられてしまった。


 客室のソファーが2つ増えている。

 そういえば士官達がやってくると言っていたな。そんなに大勢やってくるとは考えなかったんだが……。

 

 ティーナさんに勧められた席に付いて、先に来ていたユリアンさんの隣にティーナさんが座る。

 暖炉を火が赤々と燃えているから、広い客室が暖かく感じる。

 客間の上をふと見上がると、シャンデリアが取り付けられてあった。

 昨夜の内に家人がとりつけたのかな。丁度、ソファーセットの真上だから来客にも喜ばれるに違いない。


「ところで、ティーナさん。秘密組織は順調に動いているんですか?」

 

 俺の問いに、ユリアンさんと顔を見合わせて笑みを浮かべている。


「予想以上に上手く動いておる。貧民街の子供達に刺激されたのか、一般住民の子供達も組織化することになった。互いに反発せぬように棲み分けも町の自治会とギルド間で調整が出来ている。とはいえ、町の住民の子供達は親の手伝いもあるようだ。請け負う仕事はそれほど多くは無いらしい」


 その日のパンを得る為に働く子供達と、小遣い稼ぎの子供達では仕事に対する姿勢そのものが違うのだろう。住民の不満を吸収するための組織化ということになるのかな。

 だけど中には、一生懸命に頑張る子供だっているに違いない。そんな子供達は自然と、有力者達の眼に止まるだろうな。

 優秀な人材を得る為に、有力者達の協力は今後とも長く続けて貰いたいものだ。


「子供達のリーダーに効果を確認した結果では、以前に比べて5倍を超える収入を得ているそうだ。その収入に見合った分、辛い仕事もあるようだがな」

「さすがに地価の下水掃除まではやらせていないようです。でも側溝の掃除は彼らの仕事になったようです」


 それぐらいなら、頑張るんじゃないかな。

 とはいえ、5倍とはねぇ……。中間搾取をする大人達がいかに儲けていたかが良く分かる。


「教団の方も良くやってくれている。礼拝の日を選んで、午後から子供達に読み書きを教えてくれるからな。商会ギルドの方は午前中に計算を教えているようだ。結構吞み込みが良いと話をしてくれたぞ」


 文字が読めて書ける。さらに計算ができるなら自分で商売も始められるだろう。商品を入れた籠を背負って村々を回る行商人なら、元手はそれほど掛からないだろう。

 貧民街に暮らす子供達が、這い上がるチャンスを与えることができたということは王国の将来にとっても喜ばしいことに違いない。


「王子殿下がレンジャーギルドに政庁の役人を1人派遣してくれた。総務部の役人だが、ある意味市内の民意を汲み上げる役も負っているように思える。全体を取りまとめた報告書と国王陛下への提言書を王子殿下が取りまとめ中だ。我等が王都に発つ際に同行できるよう最終見直しをしているらしいぞ」

「俺に合わせて王都に向かうと?」

「そういうことだ。初めたのはマーベル国。それもレオン殿の考えだということだからな。国王陛下の裁可で第一王子殿下が広く国内で実践する。それが第二王子殿下により1つの都市で試みられて成果が得られているのだ。最初に実施した者にもそれなりの褒賞を与えねばなるまい」


 仲良くしてくれるだけで十分なんだけどなぁ。

 長剣はエクドラル王国の工房よりも良い品を持っているし、服を貰っても披露するような場所は無い最前線も良いところだからなぁ。

 宝石はいくつか持ってるけど、それを代々伝えようなんて考えは毛頭ない。何かあった時の換金物で十分だ。

 そうなると……、欲しい物なんてないんじゃないかな?

 強いて言うなら、火薬に肥料ぐらいだ。魔族相手に火薬はいくらあっても足りないし、肥料は開拓を進める上でかなり必要だからね。


「どうした? 苦笑いなど浮かべて」

「欲しいものがあるかと、国王陛下に問われたら、何を強請ろうかと考えてました。火薬に肥料と答えるつもりです」


 俺の言葉に、2人が呆れかえっているんだよなぁ。

 2つは無理な願いと言う事なら、片方の肥料で十分だ。


「すでに、来ておったか。直ぐに士官達がやって来る。昨夜の話をもう少し詳しくして貰えると助かる」

「今までの倍を超える魔族に対する備え……、と言うことでよろしいですか?」

「あぁ、頼む。兵器は直ぐに出来るものではないが、来春までに大規模攻勢があるとも思えん。時間的尤度はあると考える」


 となると、移動式のカタパルトで良いのだろう。2個中隊程を揃えれば、かなり優位に戦を行えるはずだ。

 その外となると……、小型爆弾と言うことになるんだが、エクドラル王国の小型爆弾は結構使えたからなぁ。柄が付いていると持ち運びには不便だが、何とっても2、3割遠くに投げられる。トラ族が使えば50ユーデほど届くんだから、感心してしまう。

 弓兵も多いんだから、鏃を変えても良さそうだ。鏃の返しを小さくして全体を長くするだけでも、体深く突き通すことができるだろう。釘を加工して俺達も作ったぐらいだが、深く刺さるから革鎧などは容易に突き通るからね。

 クロスボウも役立つことは確かだが、生憎と次弾を放つまでに時間が掛かるのが難点だ。それを考えると銃が有理ともいえる。銃の一撃はクロスボウを越えるからなぁ。

 そういえば銃兵を作る話も合ったはずだ。あれは形になったんだろうか?


 グラムさんの副官が、数人の士官を連れて客室に入ってきた。

 士官達が席に着くと、メイドのお姉さんがお茶のセットを乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。

 先ずはお茶を一杯ということかな。

 真鍮のカップに入れたお茶を直ぐに飲むと唇を火傷しそうだからなぁ。冷めるまで少し待っていよう。


「初めて見る者もいるだろう。ここより北東に地に建国したマーベル国の重鎮レオン殿だ。お前達にはオリガン家に繋がる者だと思ってくれれば良い。オリガン家が武技を誇るだけの貴族でないことを先ずは告げておこう。マーベル国は1カ月ほど前に、魔族5個大隊を退けている。しかも3個中隊に満たぬ兵を使ってだ。

 その時の指揮官でもあったレオン殿が、次の戦に備えて増兵を行っておる。我等も考えねばなるまいが……。さて、魔族5個大隊以上の敵に備えるには、増兵の規模をどの程度にお主達は考える? 現在サドリナス領内にいる兵士の数は2個大隊なのだが……」


 グラムさんにパイプを見せると、小さく頷いてくれた。暖炉の焚き木で火を点けると、士官達の回答を待つ。


「大隊規模で比較しても、戦力比は十数倍です。現在の長城を上手く使えば1個大隊を越える魔族を押し戻せそうですが、魔族5個大隊ともなれば、増兵の数は少なくとも3個大隊以上でなければ長城を突破されると思われます。増兵の規模は少なくとも2個大隊は必要かと……」


 壮年の士官が応えてくれた。中隊長なのかな? 他の士官達もグラムさんに顔を向けて頷いている。


 そんな士官達の視線を受けて、グラムさんは苦笑いを浮かべた。


「レオン殿がワシに提示してくれた増兵の規模は2個中隊だった。まだまだ頭が固いようだな。図上演習の成果で、少しは戦術を理解したと思っていたのだが……。レオン殿。済まぬが昨夜の話を再度してくれぬか」

「了解しました。ティーナさん達も次には我等に力を貸してくれるようですから、それぐらいは容易いことです」


 再度、敵の攻撃距離外から攻撃する方法について話すことにした。

 熱心にメモを取る士官もいるようだから、教えてあげれば自分達にあった変更を行ってくれるだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「笑みを浮かべて手に取った宝石を仕舞ったんだけど、一番小さい宝石だったんだよなぁ。また何か贈らないといけなくなりそうだ。」 資源に乏しい国なのに、シャンデリア等の工芸品、戦争で勝ち取った宝…
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