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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-349 打てば響く関係になってきた


 俺が館に到着したとの知らせを受けたのだろう。

 グラムさんとティーナさんが副官を伴って帰宅した。

 到着してから1時間も経っていないんだけどなぁ。それほど急ぐ要件は……、この間の魔族との一戦ということになるのかな?


 ナナちゃんはデオーラさんとリビングに残って、俺はグラムさんの副官の案内でグラムさんの私室へと向かう。

 ナナちゃんが一緒に来たがっていたけど、仕立屋さんが来るのでは仕方がない。デオーラさんにエクドラル王国の昔話を聞かせて貰うと良いだろう。


 コンコンと副官が扉を叩き、扉を開けて俺を先に通してくれた。

 暖炉傍のソファーに3人が座っていたが、すぐ立ち上がって俺に騎士の礼を取ってくれた。

 答礼したけど、こんなことは普段しないからね。取って付けたような形になったのは仕方がないことだ。


「良く来てくれた。先ずは座ってくれ」


 グラムさんが腕を伸ばした先のソファーに座る。暖炉傍の席だ。右手のソファーにティーナさん達が座り、小さなテーブルを挟んで向かい側のソファーにグラムさん達が座る。

 直ぐに、メイドさんが現れてテーブルの上にワインの入ったカップを置いてくれた。

 銀製のカップだな。まだまだグラス製品は普段に使われるまでには至っていないらしい。


「かなりの戦だと聞いたが?」

「この間の魔族との一戦ですか……。少し詳しくお話しましょう」


 メモを用意して貰って、マーベル国周辺の地形を簡単に描き、魔族軍の発見の経緯とそれに伴う俺達の対応を説明する。

 ティーナさんが目を輝かせて聞いているところを見ると、デオーラさんのお見合い計画は失敗したのかもしれないな。


「……と、まぁ、こんな経緯となりました。魔族との一戦の最中に倒れるとは、自分でも恥じるばかりです」


 一通り話を終えて、ワインを口に含む。

 4人はまだ目を見開いて、じっとメモを凝視している。

 しばらくして、グラムさんが唸り越えのような溜息を漏らして、今度は俺に視線を向けた。


「5個大隊を正規兵2個中隊で凌いだということか! たぶんあの指揮所の上は地で血を洗う白兵戦となったに違いない。倒れるのも仕方のないことだろう。ワシでは討ち取られたかもしれん……」

「レオン殿の力は評判とは全く異なる。それでも倒れるとなると……。あの状態を長く続けられぬということか?」


「ティーナさんの言う通りです。だんだんと視野が狭まってきました。それでも殺気を放つ者の位置は分りますから、それで何とかしていたんですが……。目が覚めたのは倒れてから1日後。戦は終わっておりました」


「倒れるなら、前に向かって倒れるのが武人の誉れと聞いたことがある。恥ずることはないぞ。ワシも、そうありたいと常々思っていることだからな。だが、今までの話を聞くと、レオン殿が危惧している事態に移りつつあるように思えるのだが?」

「それが一番気になるところです。ここに至ってはきれいごとを言っているような場合でもありません。直ぐに1個中隊の増員を提言し、許可を得ることが出来ました。軽装歩兵を1個中隊増員します。これで何とか西の尾根を守ることが出来るでしょう」


 できれば1個大隊規模で西の尾根を守りたいところだが、そうなると東と南が手薄になってしまう。ある程度は民兵組織を動員できるけど、さすがに白兵戦は無理だからなぁ。


「相手は魔族軍ですよね。我等の軍隊組織と異なり、魔族は小隊の規模はおよそ2倍ですし、中隊は10個小隊です。それでも1個中隊で十分だと?」

「俺達に石火矢と爆弾がある限り、それで十分です。さすがに今回は使い切りましたが、爆弾の数が貯槽している数の数倍あったなら、無様な姿を自軍に見せることはありませんでした」


 石火矢も良いけれど、やはり爆弾が一番だろう。魔族が一番密集した場所に放てるんだからね。


「我等も、備えを十分にする必要がありそうだな。砦のフイフイ砲を増やすとともに、移動可能な小型のフイフイ砲も考える必要がありそうだ。カタパルトも固定化せずに軍馬で移動できるようにしておいた方が良いかもしれん。爆弾は明日にでも、在庫を倍にするよう伝えるのだぞ」

「了解です。5個大隊を越える魔族など、聞いただけでも寒気がします」


「ウム。それが理解できるなら問題ない。蛮勇に走るようではエクドラル王国軍の指揮を任せることは出来んからな」


 今はグラムさんの傍で戦術を学んでいるということかな?

 士官を育てるのもグラムさんの仕事になるんだろう。


「レオン殿の帰国に合わせて私もマーベルに戻りたいと考えていたが……。父上、1個小隊を一緒に連れて行きたいと思うのだが」

「トラ族の精鋭を選んでやろう。このメモを見ればそれが良く分かる。レオン殿の提言で長城を作っているが、この長城はかなり役立ちそうだな」


 おかげでマーベルの西が鬼門になってしまった。

 そこまで見抜いたということは、グラムさんが武勇を誇るだけの軍人でないことが良く分かる。

 ティーナさんと2人の副官はグラムさんの言葉に、メモに再び目を向けているけど、教えてやった方が良いのかな?


「分からんか? 戦をする上で一番考えねばならぬこと、それは軍勢が大きくなるほど考えねばならんことなのだが……」

「ひょっとして、我が王国の長城で足止めされた魔族軍の背後を取られかねないということですか?」


 副官の言葉に、グラムさんが笑みを浮かべて頷いた。

 指摘すれば理解できる。これも大事なことだ。ティーナさん達もなるほどといった表情で頷いているから理解できたということになるのだろう。


「場合によっては、我等から中隊規模の兵士を出しても良いくらいだ。マーベルの西の尾根を越えられたら、マーベルが魔族に蹂躙されたら……、エクドラルは魔族に食われるかもしれんぞ」

「それほどの状況だと?」


 副官の言葉に、グラムさんが重々しく頷いた。


「レオン殿が倒れるほどであったとなれば、そうなるだろう。前にマーベルに行った織に魔族との戦闘に参加させて貰った。石垣と柵は低いが、急峻な尾根の上に築いたものだ。尾根全体が長城と見ても良いだろう。その時も白兵戦になったが、軽くレオン殿が裁いておった。それが倒れたともなれば、どれほどの魔族が柵を越えたのか……。魔族の軍勢5個大隊以上は偽りではあるまい。我等にその軍勢を跳ね返せるだけの力が無ければブリガンディ王都の悪夢が我等の王都に及ぶことになりかねんぞ」


 とはいえ、エクドラル王国の戦力は俺達の10倍を超える。そう易々と王都の蹂躙を許しはしないだろう。


「やはりレオン殿が危惧した通りになっていると言ことか……」


「推測では、その通りかと。長城建設は急いだほうが良いかもしれません。それと、爆弾は有効です。長城で侵攻を止められるなら、長城の足元は魔族で溢れているはずです」

「倍では足りんかもしれぬと? ……と言うことだ。これは図上訓練に用いても良さそうだな。とりあえず、3倍とすれば少しは肩の荷が下りるかもしれんな」


 俺達の爆弾と違って、エクドラル王国の爆弾は市販されている火薬を使ったものだからなぁ。同じ大きさでも威力は段違いだ。7割程度しかないかもしれないな。

 それでも、数を多く放つならその威力は絶大だ。

 兵員数も大事だが、主力武器の数が戦を左右するというのが俺の戦を通して得た知見の1つだ。


「爆弾の遠投も必要ですが、近距離へ間断なく爆弾を放つことも重要に思えます」

「それを考えるとカタパルトを扱う兵種も必要になるな。現状では軽装歩兵が扱っているが、専任させれば投射量を増やすことも可能だろう。やはり軍内部で士官達と話をするより、レオン殿の話は我等の参考になる。士官達で少し議論してみてはどうだ? 納得できる案が出来たなら、ワシが国王陛下にその部隊の設立を打診するぐらいは出来よう。もちろん上程書の名は、その議論を下物たちの連盟で良いぞ」


 副官が、グラムさんに体を向けて騎士の礼を取っている。

 上手く纏まれば良いんだけどね。


「そんな状況下で、レオン殿は我等の王都に出掛けても差し支えは無いのか?」

「かなりの損害を与えました。軍の再編には時間が掛かるでしょう。次の戦に備えてマーベルは動いていますよ。そんな状況であるなら1カ月半ほど留守にするのは可能と考えました」


 ティーナさんも心配性だなぁ。一度に動かす軍の数が増えるということは、小回りが利かないという欠点を持つということだ。

 いくら共食いをする魔族であっても、戦前には行わないだろう。それなら用意する食糧だけでも膨大な量になるから、動かしづらいんじゃないかな。


「直ぐにでも王都に発ちたいと考えていると思うが、3日はこの館に滞在して欲しい。宮殿への連絡はこちらでやっておくが、華美な催しは嫌うと伝えてあるから安心するが良い」


 それは何よりの知らせだ。思わず笑みを浮かべて頭を下げる。

 元貴族だけど、王宮内の作法なんて知らないからなぁ。とはいえ、グラムさんの恥にならぬように気を付けねばなるまい。

 俺達の貴重な理解者でもある。それぐらいの気配りは必要だろう。


「国王陛下よりの依頼品を持ってまいりました。それと、献上品があるのですがどのようにお渡しすれば?」

「前回王子殿下に献上したやり方で良いのだが……、ひょっとして、大きいのか?」


「はい。長さはおよそ1ユーデ半。直径もそれと並びます。一回り小さなものを前に謁見した場所にと思いまして、それは明日にでもお渡しします。小さなものを2つ用意しました。1つは王子殿下の館に、もう1つはオルバス館で使って頂きたいと思っています」


 ちょっと大きさに驚いているようだ。

 シャンデリアは大きい方が見栄えが良いからね。


「それは……、それより1つ戴けるということだが、どんな品か直ぐに見せて貰うわけにはいかぬのか?」

「そうですね……、それでも直径三分の2ユーデ、長さも同じぐらいあります。ここで出してもよろしいでしょうか?」


 魔法の袋に入れてあるから、直ぐにでも出せる。

 その前に……、部屋をぐるりと見渡して天井に頑丈な梁が走っているのを確認した。

 吊り下げないと美しさが分からないだろうな。


「失礼ですが、あの天井の梁にロープを通して頂けませんか。それでないと披露するのが難しいんです」

「面白そうだな。ユリアン、持っていればお願いする。持っていなければ家人に伝えて用意して欲しい」


「この紐でだいじょうぶでしょうか?」と言いながら、頑丈そうな組紐を渡してくれた。

 グイグイと引いてみたけど、かなり丈夫そうだな。

「失礼します」と言って、手裏剣に紐を結び、梁の上に投げる。

 梁の上を上手く通ったから、今度はシャンデリアを取り出して、部屋の中央にあるテーブルの上に乗せると上部の金具に紐を結び付けた。


「ユリアンさん。この3つのガラス容器に光球を入れてくれませんか?」


 俺が魔法を使えないのは、ユリアンさんも知っているからね。小さく頷くと詠唱しながら指先をガラスの器に向けた。都合3回。これで準備が出来た。

 ゆっくりと紐を引くとシャンデリアが天井に向かって動いていく。その全貌が見えた時。全員が立ち上がった。

 中央上部の3つの光球に照らされて、100個を超えるクリスタルが虹色に反射する。光の織り成す幻想に、しばし4人が見惚れるのは仕方のないことなのかな。


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