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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-347 さらに1個中隊を増やそう


 魔族が撤退をした夜には、西の尾根に焚火の光が見えなかったらしい。

 今日も、西の尾根に煙りが上ることは無いとのことだから、引き上げたということになるのだろう。

 よくも耐えたものだと感心してしまう。どう考えても5個大隊を越えていたと思うんだよなぁ。

 それが出来たのは、石火矢と爆弾、それにナナちゃんのおかげということになるんだろう。

『最終兵器ナナちゃん』恐ろしい存在だ。魔族もそんな魔法が使える種族だからケットシー族を滅ぼしたのかもしれない。


 でも、俺達にとっては、いつまでも小さいナナちゃんだからね。ちょっと大きくなった気がするけど、子供は育つものだからなぁ。


「ナナちゃんが大きくなってしまいましたので、部隊の小柄な兵士の予備を借りて着せているんです」

「済まないね。マーベルに帰ったら、直ぐに揃えてあげないと。レイニーさん達には状況を知らせてあるんだよね。なら、そろそろ引き上げるか」


 全軍を引き上げるわけにもいかないだろう。西の尾根にはガイネルさんの中隊に残って貰おう。まだ残っている小型爆弾を急いで集めさせる。

 急場はこれで凌いで貰うことになる。

 ガラハウさんには申し訳ないけど、石火矢と爆弾の増産をして貰わねばなるまい。

 俺達の切り札そのものだからね。


「ということで後を任せたいのだが?」

「任されましたぞ。どうぞごゆっくり養生してください。レオン殿が倒れたとの知らせを聞いた時には、私も肝が冷えましたぞ」


 体は丈夫ではないと、思われたかな?

 風邪などひいたことはないんだけどなぁ。

 明日帰ると、レイニーさんに連絡を送ったところで、皆から今回の戦を振り返ってもらう。

 反省点は次に生かすことができる。個人の反省を皆で共有すれば、それだけ次の戦を有利に行うことも可能だ。

 個々の戦を単なる報告書として残すのでは意味がない。

 何故それが起こったのか。敵の状況と味方の状況を踏まえて最善となる対策が取れたのか。どのように推移したのか。その結果はどうだったのか……。

 それらを共有した上での反省だ。

 単に戦力不足と一言で終わりにしてはなるまい。

 それは最初から分かっていることだからなぁ。


 あれほどの全身の痛みが、翌日にはきれいさっぱりと消えていた。

 筋肉痛の一種なのかもしれないな。まぁ、残らなければ問題ない。それに、あの状態での限界も分かった気がする。

 視野狭窄が始まった辺りで後方に下がれば、倒れることはないだろう。

 とはいえ、ナナちゃんに感謝しないとなぁ。

 現状ではマーベル共和国の守り神的な存在だからね。


「それでは、後を頼みます。戻りましたら至急石火矢と爆弾を運びます」

「あれほど叩いたからには、すぐ引き返すとも思えません。レオン殿こそ、養生してくだされよ」


 ガイネルさんに見送られて、俺達は尾根を下りていく。

 ヴァイスさんや民兵の人達も一緒だ。

 1個中隊、それも小型の爆弾が30個程しかない状態で、ガイネルさんに後を任せるのはかなり薄情にも思えてしまうんだよなぁ……。


 昼過ぎに指揮所に戻ると、レイニーさんが心配そうな顔をして駆け寄って来た。

 俺を支えるようにしていつもの席に着かせてくれたんだけど、ここまで歩いてきたんだからそんなことはしないで欲しいんだよね。

 エルドさんが苦笑いを浮かべて俺を見ているぐらいだ。


「どうにか追い返すことができました。ヴァイスさんの援軍はありがたかったですよ。現在、ガイネルさんの中隊が西の尾根の守備をしていますが、石火矢と爆弾を使い切った状態です。至急送りませんと、次の攻撃があった場合に支えきれません」

「分かっとるよ。とりあえず100個ずつ輸送するぞ。小型の爆弾は200個じゃ」


「出来れば、例の失敗作を100個程作って頂きたい。あれと爆弾を使えば谷を強力な城壁に帰ることができます」

「了解じゃ。とはいえ谷でしか使えんとは不便じゃな」


 ガラハウさんが立派な顎髭をなでながら呟いているけど、実際はそうでもない。城壁で囲まれた都市攻撃には最適だろう。

 だが俺達の認識は、ガラハウさんと同じで良いだろう。

 毒ガス兵器は民間人を巻き込んでしまう。魔族相手の戦でのみ使い続ければ十分だ。それにオーガに効果が高いということは皆が知っている。


「矢とボルトも足りないでしょう。それも追加しておきますよ。ですがレオン殿でも倒れるんですねぇ。知らせを受けた時は、レイニー殿まで倒れかねない状況でしたよ。住民の中にも天を仰ぐ者達がいましたし、礼拝所でお年寄りが祈りを捧げておりました」

「申し訳ありません。まったくもって指揮官失格だと反省している次第です。あれだけ叩いても指揮所の屋上に次々と魔族が柵を乗り越えてくる状況でしたから……」


「それで、魔族の推定数はどれほどでした?」

「俺の個人的な推測では6個大隊に近い数だったと思っています。石火矢2型改をあるだけ撃ち込みましたが、やはり攻め込んできました。石火矢1型を最初に120、次は50ずつ撃ちこんでも流れを止めることができず、谷に火線を敷いて魔族の集団を作り爆弾を放ったのですが……」

「それでも尾根を上がって来たと……。よくも3個中隊に満たない寡兵で追い返せたと感心してしまいます。レオンの活躍は光通信で聞きましたよ。まるでレオンに戦の神が憑依したかのようだったと。礼拝所で、感謝を捧げるべきですね」


 困ったときの神頼み。確かに神に感謝すべきだろう。それで周囲が納得してくれるならね。

 

「でも、そんな大軍を魔族が集めることが出来るとなれば、今までの戦のやり方ではレオンが何人いても足りなくなりそうです」

「俺が沢山いても同じですよ。要は戦力差をどのように補って、相手の戦力を上回るかを考えなくてはなりません。一度に放つ石火矢の数を増して、谷に爆弾を放つカタパルトの増設が必要でしょう。次に間断無くそれらを放てるだけの石火矢と爆弾の保有量の増加になります。それでも魔族は上ってくるでしょうが、銃弾と矢それにボルトを放つことで対処できると考えます」


「基本はそれで良いと? でも西の尾根は急峻です。カタパルトの増設となれば、結構な工事が必要ですね」

「南西の長城作りも行っていますからねぇ……」


 優先順位と資材の投入量を考えないといけないな。

 ブリガンディ王国のお宝の一部を頂いてはいるけど、あれはマーベル共和国の将来に備えてある程度持っておきたいところだ。

 だけど、その一部を工事費用にするぐらいは出来るだろう。

 工事に必要な資材と量についてはガラハウさんに相談してみるか。いや、いっその事任せた方が良いのかもしれないな。

 ドワーフ族の建築物は優美さも備えているけど頑丈だからねぇ。あまり意匠に凝らないでくれと念を押しておけばだいじょうぶだろう。

 魔族2個大隊を相手にするなら現状で問題は無いだろうが、2倍を超えるとなればやはり資材を優先的に配分することになりそうだな。


「さすがに今年はこれで終わりにしたいですね。戦死者はおりませんが重傷者は出ています。1カ月以内に再度同じ戦が起これば、戦死者の山が出来兼ねません」

「兵員募集が必要だと?」


 3個中隊を派遣できるようにしておきたい。

 民兵組織が1個中隊はあるんだが、白兵戦をさせるわけにもいかないからなぁ。軽装歩兵として短槍を装備させれば、カタパルトの運用も任せられるし、小型爆弾も投擲も期待できる。柵に取り付いたなら短槍で突き返せば良い。


「今夜にでも皆と相談しましょう。でも……、1個中隊ですか」


 レイニーさんは消極的だな。まぁ、それも理解できる。

 マーベル共和国の国民の数はどうにか1万と言ったところだからね。

 5個中隊ともなれば、兵士の数だけでも800人を越える数になる。それだけ生産や加工を行う人間が減るということだ。


 その夜の集まりは、俺の不始末を詫びることから始まった。

 そのこと事態は皆も俺を気遣ってくれたんだが、結果として中隊規模の兵士を新たに増やすということに難色を浮かべた。

 考えることは同じということになるのだろう。だが、魔族の戦力がさらに増すことを考えれば、総動員体制も視野に収めねばなるまい。


「石火矢と爆弾だけでは防げぬと?」

「今回は石火矢、爆弾共に300個を超える数を使いました。それでも足りません。次は各500個以上を用意するとしても、果たしてそれで食い止めることができるか、はなはだ不安です」


 それだけで済むとも思えない。補給についても改めて考える必要があるだろう。追加が100程度では、不安が増すばかりだ。


「兵種は軽装歩兵で良いのですね?」

「3個小隊を槍兵にして、1個小隊を弓兵とすれば十分かと」


「ここで暮らし始めた当初は、俺達兵士の方が多かったからなぁ。移民がどんどん増えて、今では1割にも満たないが、1個中隊増やしたとしても1割を超えることは無い。レオンが不足しているというのであれば、かなり問題だぞ。せっかくここで暮らしているんだし、それに俺達が逃げる場所も無いからな」


 エルドさんが皆に同意を促してくれた。

 住民の一割が兵士と言うのは、兵士1人を10人で養う事にも等しいからなぁ。

 その10人には働き盛りの男性だけでなく、老人や子供も含まれているのだ。実際には3人で1人を養うことになるだろう。

 税は名目的なものになっているけど、これからは税を徴収することになりかねないのも頭が痛いところではある。


「砂金は今でも細々と採取することができてますし、砂鉄で作られた鉄製品は高値で取引されております。国庫の蓄えに力を入れるだけでなくこんな場合に使用すべきかもしれません」

「そうですね……。それにご婦人方の働く場を増やすことも考えるべきでしょう。陶器工房をもう1つ増やしたらどうですか?」


 陶器の生産量を増やしてはみたんだが、いくら作っても引き取るとエディンさんが言ってるんだよなぁ。

 陶器は分業ができるから、それも良いかもしれない。

 釉薬の研究もかなり進んだみたいで、今では数種類を越える色が出せるようになった。思い切って彩色陶器を作ってみようか。

 繊細な絵付けならご婦人方の方が上手いかもしれないからね。


 深夜に及ぶ議論の末、新たな工房を立ち上げその利益を使って1個中隊を作ることを了承して貰った。

 これで非常時には西の尾根に3個大隊を派遣できる。

 魔族には南に向かって欲しいところだ。グラムさんなら大体規模で部隊を展開できるからなぁ。魔族が南ではなく東を目指すのは、俺達に背後を取られるのを恐れているのかもしれないな。


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