表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
346/384

E-345 爆弾が足りない


 西の尾根に石火矢を撃ち込んだおかげで、尾根の様子が良く分かる。

 やはりというか、かなり集まっているなぁ。

 20発の石火矢でどれだけ魔族を倒せたかは分からないが、それなりの損害を与えたことは間違いないようだ。

 隊列がかなり乱れているし、中には谷を降りてしまった魔族もいるようだ。とはいっても1個小隊に満たない数なら、こちら側に上ってきた時にクロスボウで用意に倒せるだろう。

 次に120発を撃ちこんだ時が楽しみだな。


「あれで十分。後は、魔族が谷を降り始めたなら石火矢をまとめて打ち込めば良い。撃ちこんだ後は、50発を直ぐに発射できるように準備してくれよ」

「了解です。少しは下りてきたようですね」

「弓の的にするにゃ。早く上ってくると良いにゃ」


 ヴァイスさんは余裕がありそうだな。

 弓よりもクロスボウを使って欲しいけどね。クロスボウは民兵2個小隊が装備しているから、ヴァイスさんに任せることにしている。


「先ほどの攻撃でも直ぐに下りてこないとなれば、厄介ですね」

「ああ、統率が執れているってことだ。旧型はどれほどある?」

「1型ですね? それなら300本はありますよ。その後も50本ずつ放つことは可能です」


 最初に120本、その後は50本ずつ4回ってことか。

 最初に減らせるだけ減らして、残りを谷底に爆弾を放つことで殲滅出来れば良いのだが、爆弾の数も300個ほどだからなぁ……。

 その内の50個が失敗作ということだから、風向き次第で南北のどちらかに放つことになるだろう。

 後3時間足らずで明るくなる。覚悟を決めなくてはならないようだな。


 薄明が始まる頃に、ガイネルさんとヴァイスさん、それにエニルを集めて最終配置を確認する。

 ガイネルさんの3個小隊を仮設指揮所の左右に配置し、その両端にエニルの塗体を1個小隊ずつ配置する。ヴァイスさんが率いてきた1個小隊の弓兵と民兵のクロスボウ部隊2個小隊は、ヴァイスさんに攻め手の濃い場所を移動しながら火消をして貰おう。

 

「麓の村から投石部隊の少年達が1個小隊やって来てます。彼らは何処に?」

「魔族の濃い場所に配置したい。状況を見て決めたいから、仮設指揮所の近くで良いだろう」


 大まかに配置を決めれば、後は連携して当たってくれるからね。

 この場所は、俺とエニルの1個小隊で何とかしないといけない。

 砲兵部隊は、仮設指揮所以外のカタパルトと石火矢を担当して貰おう。


 そんな事をしていると、だんだんと辺りが明るくなってきた。

 薄明の終わりだな。足元が見えるなら、魔族が攻めてくるまでそれほど間がないに違いない。


 中隊長達が仮設指揮所を離れ、慌ただしく、部隊の配置の変更を始めた。

 しばらくしてエニルが1個小隊を引き連れてやって来る。1個分隊に左右のカタパルトを任せると、2個分隊を谷側の擁壁に配置して、残り1個分隊を後方に待機させた。


「配置完了です。全員にバヨネットを付けさせていますから、白兵戦も可能です」

「間違いなく、柵を乗り越えて来るぞ。2人1組で魔族に当たってくれよ。俺達は数が少ないからね。怪我でもしたら次の魔族を倒せなくなる」

「了解です。でもその前に、乗り越えられぬよう頑張るつもりです」


 エニルの言葉に笑みを浮かべて頷いた。

 確かにその通りではある。ポンとエニルの肩を叩くと後方に下がり、ベンチに腰を下ろす。

 まだまだやってこないんだよなぁ。

 見張り台の連中は、クロスボウの言を引いて、ボルトをセットして構えてるんだが、気が早いというか用意周到というか迷うところだ。


突然、西の尾根から蛮声が聞こえて来た。

魔族の雄叫びということなんだろう。峰や谷間にこだまして、長く続いている。

 パイプを咥えながら様子を見ようと擁壁に歩き出した時だった。


「やってきます! まるで雪崩のようです!!」

「来たか! 皆、覚悟を決めろよ。薪の球に火を点けろ!!」


 上空をおびただしい数の石火矢が飛んでいく。

 万遍なくと言った感じだが、やはり中央が濃くなるのは仕方がないな。

 仮設指揮所に戻って、短槍を手にする。

 先ずは屋上へ上がらせないことだ。短槍の穂先の根元に、ぼろ布を数回巻いてしっかりと縛り付ける。

 これで、返り血が柄に伝わり手を滑らせることはないはずだ。

 擁壁から谷底を眺めると、足の速い魔族すでに谷に達していた。

 

「薪の球を落とせ! カタパルトは斜面に向けて爆弾を放て!」


 俺の指示とともに、紅蓮の火の球が尾根を弾みながら谷底に落ちて行った。

 続々と谷に向かって火の玉が落ちていく。

 あれも1つの阻止線になるはずだ。

 そんな火の球の間をすり抜けるようにして、斜面をゴブリンが昇ってくる。

 とはいえ、火線の向こう側で魔族が滞留し始めたのも確かだ。

 そこにカタパルトで放った爆弾が落ちていく。

 密集しているから効果てきめんだ。魔族が体を裂かれて宙を舞う。


「一斉射撃は2回で十分だ。後は各個の判断に任せた方が良いぞ」

「了解です。まだ集団を作っていませんから、クロスボウ兵に任せます」


 数十ユーデまで近づいた魔族が、ボルトを受け谷底へと事がリ落ちている。

 今のところはまだ火線が役立ってくれてるな。

 もっとあれば良いんだけど……。

 そんなことを考えていると、後から何か運んでくる声が聞こえて来た。

 振り返ると、トラ族の兵士が直径1.5ユーデ程の雑木を丸めた球を運んできている。


「ちょっと退いてください。これに火を点けて落としますから」

「まだあったんだ?」

「暇でしたからね。最初に量ほどはありませんが、30個程ありますよ。適当に追加して落とします」


 樽から燃える水をたっぷりと丸めた薪に掛けると、棒に突き刺し3人が狩りで柵の向こうへと突き出した。

 松明で火を点けると、棒を引く。柵に当たって棒が抜けた火の玉が尾根を転がり落ちて行った。

 3つほど日の球を追加して、トラ族の兵士が屋上を後にする。

 これで少しは火線が長く持つかな?


「前列構え! ……撃て!!」

 

 エニルの豪例とともに10発の銃弾が魔族に向かって放たれる。

 銃撃を終えた分隊が後方に下がると、次の分隊が銃を構えて待機する。

 できれば1個小隊規模で放ちたかったが、銃兵を分散配置しているからなぁ。

 当然、撃ち漏らした魔族がどんどん上がってくる。

 見張り台の方からもボルトを放ってはいるようだが、柵に取り着くのは時間の問題だろう。


 短槍をその場に置き、後方に下がるとテーブルの上に合った柄付き爆弾を2つ取り上げた。

 直ぐに松明で火を点けて投げる。

 やはり柄を付けていなかった時よりも遠くに飛ぶ。

 銃撃にひるんで停滞していた集団の真ん中に落ちたようだ。40ユーデはあるんだが、投げた位置が高いからだろう。


 石火矢の発射が止まったようだ。

 用意した分を全て撃ち尽くしたということだろう。

 まだまだ西の尾根から魔族の群れが斜面を下っているけど、それを狙う手立ては石火矢3型と2型合わせても50発には届かない。

 これからは爆弾を多用することになるのだろうが、その爆弾の数を考えると心もとない限りだ。



 分隊毎に2度の斉射が終わると、各個に銃撃が始まる。

 至近距離だから命中率も良いようだ。まだ石垣に辿り付く魔族はいない。

 

 しばらく状況を眺めていると、目の前の柵によじ登ろうとするゴブリンが現れた。

 すかさず短槍を突き刺すと、断末魔の声を上げて斜面を転がり落ちていく。


「上って来るぞ! ナナちゃん、投石を頼んでくれ!」

「分かったにゃ!」


 高い声だからナナちゃんの声は良く聞こえる。

 直ぐに俺の頭上を越えて斜面に石が飛び始めた。握り拳大の小石が40個ほど飛んでいくから、それなりに効果がある。額に当たって転げ落ちる者もいるし、体に当たってその場にうずくまる魔族もいるようだ。


「失敗作を放ったようです。火線は衰えましたが、煙が谷を包み始めてます」

「良いタイミングだ。これぐらいなら何とかなるんじゃないか!」


 エニルの報告を聞きながらも、ゴブリンに槍を振るう。

 銃兵の前列は、バヨネットで応戦している。

 後ろの1個分隊も前に出て銃撃に加わった。


「まだオーガは見えないか!」

「1個小隊ほど降りてきたんですが、まだ斜面を登ってきません!」


 見張り台に問いかけると直ぐに返事が返ってきた。

 クロスボウを使いながらも、本来の役目は忘れていないようだな。


「上がってきたなら教えてくれよ!」

「了解です!」


 エニルに場所を替わって貰い、後ろに下がると急いで装備を変える。

 長剣を背負って、矢筒をベルトに下げた。弓を取り出し、テーブルに立て掛けておく。

 テーブルの下に目を向けると、盾の横からナナちゃんが顔を出して俺を見ている。

 小さく頷くと、頷き返してくれたから何時でも矢を撃てるってことに違いない。白兵戦になっても後ろを守ってくれる大事な従者だからね。

 至近距離限定だけど弓の腕はマーベルで一番なんじゃないかな? 俺の方が上だと皆は思っているに違いないけど、あれはズルをしているからねぇ……。


 腰に付けた矢筒が少し邪魔だけど、再び短槍を手に擁壁に戻った。


「どうだ? 上がって来たか」

「上がってきませんね。やはり火線が邪魔で上がってこれないのでしょうか?」

「それとも、あの失敗作のどちらかだな。だが1個小隊ともなれば、半数は谷を越えると思っているだが……」


 火線で足を止めたなら、爆弾の餌食だからなぁ。魔族の死体で谷が埋まりつつあるようだけど、まだ谷底に転がした薪の玉は燃え続けているようだ。

 

 たまに後方に下がって、水を飲む。

 乾いた喉に浸み込むようだ。ほっと一息を付いていると、あれほど続いていた谷底での爆発音が治まったことに気が付いた。


「爆弾が尽きたのか!」

「今、予備を取りに行かせました。各カタパルト共に50個を用意してましたので、同じように途切れたかと」


 失敗だったな。定数を揃える事だけ考えていたからなぁ。カタパルトに用意した爆弾の数に変化を付ければこんなことにはならなかっただろう。

 もっとも早めに爆弾を運んで来ればそれで良いのかもしれないけどね。


「となると……、上って来るぞ! 小型爆弾を用意しとけよ!!」

 

 小さくとも爆弾だ。一度の沢山落とせばそれだけ効果もある。1人2個は持っているだろうから、上手くタイミングを計って投げれば鯨波を止める事もできるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ