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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
345/384

E-344 ヴァイスさんがやって来た


 西の尾根に到着して2日目。

 昨日から放っている石火矢の在庫が心細くなってきた時に、レイニーさんから2型改が30本ほど届いた。

 直ぐに組み立てを始めたから、今夜はこれを使って攻撃ができるな。

 発射間隔は1時間から2時間の間で変化させているし、狙いは点けてもその場所に当たることが無いのが有翼石火矢の特徴だ。おかげで魔族の集結地点の広い範囲に着弾している。

 これはこれで使えるということになるんだろうな。常時、200本ほど用意しておいても良さそうだ。散布界が広いから使いづらいと思っていたんだが……。


 ナナちゃんが、あちこち飛び回って視察結果を教えてくれるから、俺は指揮所でのんびりできる。

 現在までに撃ち込んだ石火矢の本数は100本を超えるんだが、未だに魔族が動く気配が無い。

 まだ集結が終わっていないということになるんだろうか? それとも、偵察部隊を放って情報を待っているということなんだろうか……。


 狙いが分からないのが問題だ。せめて、東か南か位は知りたいところなんだけど……。

 

 お茶でも飲もうかと、カップを持って立ち上がろうとした時だった。

 バタン! と扉が乱暴に開き、伝令の少年が飛び込んできた。


「……報告します。西の尾根に魔族の姿が現れました!」

「何だと! 直ぐに屋上に行く」


 息を調えて報告してくれた少年に、そう答えると指揮所を飛び出した。

 階段を駆け上がり、西の擁壁に体を預けながら西の尾根を睨む。


 確かにいるな……。望遠鏡で眺めると、ゴブリンに混じって少し背の高い連中の姿が見えた。ホブゴブリンか……、魔族の士官という立場なんだろう。その上魔法の使い手でもあるが、体力はゴブリンよりも少し上ぐらいだから俺でも容易に相手ができる。

 こちらをジッと眺めているのは石火矢の発射を眺めているという事かもしれないな。発射場所の特定ということになるんだろう。

 この指揮所の左右から撃ち出しているから、この指揮所攻略でも考えているのかもしれない。俺としてはその方が好都合でもある。


「もう直ぐ右手から3発発射にゃ!」


 声を出して教えてくれたのはエニルの部下に違いない。背中にライフル銃を背負っているからね。


 シュン! と軽い音を立て白い煙と炎を引いて石火矢が3発西に向かって飛んで行った。

 望遠鏡でホブゴブリンを観察すると、石火矢の飛行経路を応用に体が動いている。

 やはり発射場所を見に来たと考えるべきだな。

 なら、この指揮所に厚く布陣すれば良い。


「どうですかな?」


 後ろからの声に振り返ると、ガイネルさんが立っていた。

 知らせを受けてここにやって来たんだろう。


「どうやら、ここを落としに来るかもしれませんよ。石火矢の発射場所を見極めにホブゴブリンが尾根に姿を現しました」

「来るとしたら今夜?」

「さすがにそれは無いと思いますが、直ぐに対応が取れる状態を維持すべきでしょう。向こうは大軍ですから、向こう側に集まるだけでも時間が掛かるでしょうし、集まるようでしたら1型を撃ち込めますからね」


 俺の言葉に、体を揺すって大笑いを上げる。

 まったく豪傑そのものだな。


「出番はまだだと……。とはいえ準備には抜かりませんぞ。何時でも戦えます」


 さて、俺も指揮所に戻るか。

 状況が変わるかもしれないことを報告しておこう。


 西の尾根に魔族が現れたことをレイニーさんとグラムさんに伝えて、のんびりしていると、突然指揮所の扉が開いた。

 思わず魔族の大移動が始まったのかと身構えたんだが、入ってきたのはヴァイスさんだった。


「東に備えていたんじゃないですか?」

「いつの間にか煙も消えてしまったにゃ。こっちの方が面白そうにゃ」

「レイニーさんは許可してくれたんですか?」

「頑張って! と言われたにゃ。たっぷり爆弾を持ってきたにゃ。まだ始まっていないのかにゃ?」


 簡単に状況を説明したんだけど、笑みを浮かべながら俺の傍で聞いているんだよなぁ。

 エルドさんも諦めてはいるんだろうけどねぇ……。

 弓兵1個小隊と投石部隊の若者を1個小隊率いて来てくれたから、俺としてはありがたいところだ。機動部隊として運用できそうだな。


「来て下さってありがとうございます。どうやらかなりの数ですよ。爆弾をかなり使いそうです」

「矢とボルトも持ってきたにゃ。今、民兵が運び上げているにゃ。これがレオンの矢にゃ24本あるにゃ」


 予備が倍になった感じだな。オーガ相手に使えそうだ。


「ヴァイスさんには危なくなった戦区の救援をお願いします。普段はここで待機ということで」

「屋上にいれば良いにゃ? ここだとつまらないにゃ」


 そういう人だった。笑みを浮かべてヴァイスさんに頷いた。


 夕暮れが近付いても変化は無かったが、夜遅くにようやく変化が現れた。

 伝令の知らせに、急いで屋上に向かうと、松明の群れがこちらに近づいてくるのがはっきりとわかる。

 直ぐに、エニルに残った2型改を全弾放つように指示を出すと共に1型の発射準備を始める。

 旧型だからねぇ。ヴァイスさんの部隊が引き受けてくれたんだが、持ってきた30発を一緒に放つと言ってるんだよなぁ。

 砲兵部隊と合わせると100発以上が放たれることになる。

 先制攻撃としては十分だろう。先ずはガツン! と一発、ということになる。


次々に石火矢が空を駆けていく。

先ずは行軍途中を混乱させれば十分だ。

 エニルに3型も20発程残して発射するように伝えたから、間をおいて再び石火矢が空を飛んでいく。


「そのまま谷を下りればこっちも楽にゃ」

「一度体制を整えてからの攻撃ですよ。軍も防衛戦ではなく攻撃をする場合には体制を整えるでしょう? あれと同じです」


 密集体形でここを襲うのは、攻城戦と同じ考えなんだろうな。だが、この地は天然の要害でもある。深い谷が間にあるから、一度谷底に下りて急斜面を登らねばならない。

 その為に、魔族は尾根の上と谷底の2か所に大きな塊を作ることになる。その塊を攻撃することで寡兵である劣勢を跳ね除けなければならない。


「行軍途中への攻撃を終了しました。次は尾根の上ですね?」

「そうなるんだが、まだまだ松明が流れて来るよ。1型の発射はもうしばらく待ってからにしよう」


 エニルが1型の準備状況を教えてくれた。ヴァイスさんの準備した石火矢と合わせると120ほどになるらしい。

 それならかなりの損害を与えられそうだ。

 屋上の東に作られた仮設指揮所に向かうと、腰のバッグの中の魔法の袋から柄付き爆弾を取り出して並べておく。6個あるから必要なら誰でも使えるだろう。小型爆弾はバッグに3個入れてある。

 矢も取り出して空の樽に差し込んでおいた。


「早速準備にゃ。私も用意しておくにゃ」


 ヴァイスさんも予備を同じように入れているから、それを見た他の兵士達も手近な場所に矢やボルト、爆弾を取り出している。

 爆弾は木の箱に入れているようだし、蓋を乗せているようだから魔族の火矢を受けても大丈夫だろう。念の為に盾を木箱の前に立てるよう指示を出しておいた。


「まだ松明が続いているにゃ。もう2型は無いのかにゃ?」

「2型改は打ち止めですが、2型なら30本は残ってますよ」

「なら2型を撃つにゃ。1型より飛距離があるにゃ」


 エニルとヴァイスさんで2型の発射準備が始まった。

 攻撃前の集結場所の後方を狙うということなんだろう。距離を延ばせば移動してくる魔族にも被害を与えることができそうだ。

 被害を与えるというよりは、嫌がらせに近い攻撃だな。


「10発ずつ3回放つにゃ。どう変化するか楽しみにゃ」


 ヴァイスさん達が嫌がらせを行っている間に、レイニーさん達に状況を知らせておこう。

 魔族の狙いは、この西の尾根であり、明日にも戦が始まると伝えることにした。


 仮設指揮所のベンチに座っていると、何時の間にかナナちゃんが隣に座っている。お茶を頼んだら嬉しそうに小さなコンロの上に乗っているポットでお茶を淹れてくれた。


「ナナちゃんはいつもの通りだ。ここで俺を支えてくれよ」

「だいじょうぶにゃ。たっぷり矢を持ってきたにゃ。でもその前はクロスボウを使うにゃ」


 ナナちゃんが短弓を使うのは、白兵戦が始まってからと言うことになるのかな?

 俺も長剣を使う前は短槍だからね。短槍を長剣に変えた時がナナちゃんが弓に変える時ということなんだろう。

 仮設指揮所の屋根に数本に短槍が立て掛けてあるから、その中の1本を使わせて貰おう。

 お茶を飲んでいると、石火矢が西に向かって飛んで行った。

 魔族にしてみれば迷惑個の上ない代物に違いない。さてどの辺りに着弾するのかと席を立って見ていると、どうやら西の尾根の谷底に落ちたようだ。

 松明の流れが止まったのが分かる。しばらくしてまた動き出したところを見ると、被害の程度はさほどではないということかな?

 

 パイプに火を点けて、擁壁近くまで歩いていく。

 それにしても松明の数が半端じゃないな。前回よりも南北に広がっているのを見るとやはり想定通りの数ということになるんだろう。


 あれだけいるんだから、谷を下りる魔族がいると思うんだが、尾根を下る松明は1本もない。結構統率が執れていると感心してしまう。


「少しは減ったと思うにゃ。でもここで見るとあんまり変わらないにゃ」


 どうやら30発を撃ち込み終えたようだな。

 元気なヴァイスさんがエニルと共に屋上に上がってきた。


「効果はあったよ。松明の流れが着弾の度に止まったからね。とはいえあの通りの数だ。ついでだから、今の内に1型の試射も済ませておくか」

「賛成にゃ。あれならどこに撃ち込んでも効果があるにゃ。それで何発撃つにゃ?」

「10発ずつ2回で良いんじゃないかな? あの尾根を少し超えるぐらいで撃ちこんで欲しい」

「任せるにゃ。試射の結果はエニルの砲兵部隊にも知らせるにゃ」


 再びヴァイスさんが屋上から姿を消した。

 今度はかなり効果があるんじゃないか? 上手く着弾してくれれば良いんだけどね。


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