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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-338 政庁市からの帰還


 5日間オルバス館に逗留し、どうにか貧民街の子供達の秘密組織も形になったようだ。庶民街の通りの掃除や、神殿の庭の手入れ、宿屋に併設された馬小屋の掃除……、子供達に依頼する仕事は結構多いようだ。

 その報酬もレンジャーギルドを介することで、適正価格になっているとのことだから、貧しくともお腹いっぱいの食事を取ることができるだろう。

 年長者組の女の子は軍の賄いの仕事に就いたようだし、中には政庁の建屋内で書類運びをする少年もいるとのことだ。そんな仕事があるとなれば一般住民の子供達の組織が作られるのもそれほど先になることはないだろう。

 後はデオーラさん達のサロンに任せれば安心だな。

 ティーナさんは、しばらく子供達の様子を見ると言っていたけど、案外本人がその組織に加わりたいんじゃないかと思ってしまう。

 

「まだゆっくりと滞在して頂いてもよろしいんですのに……」

「マーベルの方が心配です。魔族の襲撃は7割方収穫時期と重なっています。先の戦でだいぶ兵器を使ってしまいましたので、撃退できるだけの数が揃っていなければ、防衛線を維持できなくなってしまいます」


「魔族の脅威が無ければ、沿岸諸国はもっと発展するのでしょうね」

「かなり違うと思いますよ。魔族の脅威に備えるための戦力となる兵士は、生産を行いませんからね。資材を消費するだけです。戦力を削減できるなら、それを他の産業に回すことができるでしょう。俺達が軍隊の数をあまり増やさないのは、それを考えての事です。もっとも民兵組織があってのことですけどね」

「グラム殿が憂いていました。マーベルを模擬できない理由がありすぎると」


 それも仕方のないことだろう。軍を率いると言えば聞こえは良いけど、民兵を率いると言ったら聞こえが悪いからね。指揮官の多くが貴族であることを考えると民兵を率いる指揮官になりたいなんて考える人物はいないんじゃないかな。

 同じ指揮官なんだから、待遇は同じに思えるんだけどなぁ。


「そうそう、これは私達からの贈り物になります。マーベルの大統領は華美を嫌うという話を聞いていますが、立場を自覚することも必要かと」


 デオーラさん達ということは、王女様を含めたサロンということになるんだろうな。渡された品は、ドレスと靴だった。

 サイズが合わないときには自分達で合わせることになるのだろうが、レイニーさんのドレス姿が想像できないんだよなぁ。


「ありがたく頂きます。でもあまり無理をなさらないでください。知っての通り、マーベルの女性は普段は兵士のような姿ですから」

「私からすれば、それが問題だと思っています。女性がドレスとは言わずともスカートを着て街中を歩けるような国を目指してくださいな」


 思わず姿勢を正して、デオーラさんに深々と頭を下げた。

 確かに言われる通り……。脅威を軽減できたなら、それを行わねばなるまい。

 女性が女性らしく、子供が子供らしく暮らせる国であるべきだ。


「ご忠告、痛み入ります。俺が男だからでしょうか。その観点が抜けていました」

「他者の話を素直に聞くことができる。それはレオン殿の美点だと思いますよ。息子達にも見習って欲しいところです」


 ティーナさんもその中に入っているんだろうな。

 でも自由奔放に育てたのはデオーラさんだと思うんだけどね。

 3人の子供達は、決してオルバス家を辱めることはないだろう。結構自由な行動をしているように思えるけど、人道に外れたことはしないし、困っている人を見捨てることもないはずだ。


 世間一般的には子供は親の言うことを聞かないということだから、デオーラさんとしては諦めるしかないんじゃないかな。


「オリガン家の子育ては、理想的に思えてなりません。同じ王国であったならと何度も溜息を洩らしたほどです」

「隣の芝は青く見えるの例えもありますよ。ティーナさんの正義感はマーベルの連中が好感を持っているぐらいです」


 俺の言葉に、デオーラさんが首を振る。

 時と場合、それに実行が上手くかみ合っていないということなんだろう。

 どこまで行っても、さらなる望みが付いてくる。

 トラ族だけに、妥協という考えは少ないのかもしれないな。


翌日。朝食を終えると、用意してくれたお弁当を受け取りナナちゃんと一緒にボニールに乗ってオルバス館を後にした。

 デオーラさん達が見送ってくれたけど、俺達が見えなくなるまで手を振ってくれたようだ。何度もナナちゃんが後ろを振り返って手を振っていたからね。


「子供達は、何とかなるかな?」

「マーベルの子供達よりしっかりしてたにゃ。私達も負けないようにしないといけないにゃ」


 それだけ厳しい生活を送って来たからに違いない。

 今の組織が機能しなくなれば、以前の暮らしに戻ることを恐れているのかもしれないな。彼らの不憫さをデオーラさん達が汲み取れるなら、政庁市は発展していくに違いない。

               ・

               ・

               ・

 マーベル共和国に到着したのは、オルバス館を出て6日目の事だった。

 途中で俺達の長城の出来栄えを確認しての帰還となったが、かなり伸びているし、要所に設けた部隊展開用の広場も使い勝手が良さそうだ。いざとなれば新型石火矢の発射装置を背面の斜路を使って持ち上げる事も容易だろう。

 部隊の駐屯は見張り台を使うことになるから、今まではポツンと建っていた塔の周囲を城壁で囲んでいる。立派な城壁に見えるけど、魔法で作り出した土のブロックを重ねて表面をコンクリ―とで固めただけだけど、強度はかなりあるらしい。

 工事を行っている中隊の連中と、レンジャーに政庁市土産の酒を渡して来た。


 マーベルの南の城壁を見ると、やはり故郷に戻った感じがするな。

 日暮れ前に門をくぐり指揮所に向かうと、レイニーさんに簡単な報告を済ませる。

 俺達の部屋で旅装を解き、いつもの面の上下にバックスキンの上着を羽織って指揮所のいつもの椅子に腰を下ろした。

 ナナちゃんは指揮所を飛び出して行ったから、秘密基地に行くのかな?

 たっぷりお菓子を買い込んでいたからね。


「やっと戻れました。色々と分かったことがありますから、今夜にでも皆さんに報告します。ティーナさんが戻るのは早くて夏の終わりでしょう。貧民街の子供達を上手く組織化できましたが、しばらくは様子を見ることになると思います」

「貧しい子供達への救済ですから、上手く根を下ろして欲しいですね」


 レイニーさんも含むところがあったんだろうな。形になった事を喜んでくれた。国が違っても、子供達の辛い顔を見たくないということなんだろう。

 カップにお茶を注いで渡してくれたんだけど、大ぶりのカップなんだよなぁ。

 試作品を貰ったのかな?


「今のところマーベルは平和です。魔族の襲撃を恐れていたんですが、東西共にまだ予兆はありません」

「なによりですよ。石火矢の数が心配でしたからね。魔族の襲撃とその方向をグラムさんに調査して貰いました。これがその写しです。さすがにエクドラル本国領については渋るかと思いましたが、全て網羅しています」


 レイニーさんの前に地図を広げると、その記録の内容に目を見開いている。


「砦や開拓村を襲った月日とその襲撃方向ですか……。圧倒的に秋が多いんですね」

「そうです。最初に見た時に安堵しました。今年やってくるとしても、秋と言うことでしょうからね。よく見ると色んなことが分かります。石火矢や爆弾慌てて作る必要はなかったかもしれませんが、備えは何時でも必要です。

 戦の話は今夜にでも詳しく話すことにしますが、これをレイニーさんにとデオーラさんから預かりました。役目を持つならそれなりの装いは必要とのことです」


 魔法の袋から、ドレス数着を納めた大きな荷物を取り出した。

 テーブルの上に乗せたから、レイニーさんがちょっと驚いているんだよなぁ。


「何でしょう?」

「ドレスですよ。さすがに普段から着るとなればマーベル共和国では浮いてしまうでしょうが、たまにエクドラル王国の重鎮達が訪れます。その時に着ればレイニーさんを下に見ることは無いとの配慮かと思います」

「お礼を言わないといけませんね。そこまで気遣って頂けたら……」


 お礼の手紙を書けば喜んでくれるに違いない。次にオルバス館に行く時までにシャンデリアが完成していれば、それを渡すことで対価として釣り合うんじゃないかな?

 だが……、場合によっては、倍の数を貰いかねない。

 対策も、その時までに考えておこう。


 豪華な料理ではないが、食堂で食べる夕食は俺の舌に馴染む。

 エクドラさんに餌付けされた感じにも思えるけど、料理の腕は一流だからねぇ。

 トレイに乗せられたカップ半分のワインをゆっくり飲んでいると、ヴァイスさんに肩を叩かれた。


「戻ってきたにゃ。まだ魔族がやって来ないにゃ。早く来ないと鏃が錆びてしまうにゃ」

「ちゃんと研いでおいてくださいよ。爆裂矢は準備出来てます?」

「矢筒1つ分は確保出来たにゃ。でもあれを使うより小さな爆弾の方が効果があるにゃ。1人2個ずつ配ってあるにゃ」


 自慢げに話してくれたけど、ようやく爆裂矢よりも爆弾に興味が移ったということなんだろう。ゴブリンの大軍を相手にするなら爆弾を投げた方が効果があるからね。爆裂矢を各自12本持っているなら、オーガ達も柵に近付けないだろうな。


「石火矢300を西の指揮所に運んで置いたにゃ。今直ぐやって来ても何とかなりそうにゃ」

「相手の数次第ですね。でも、まだ来ないと思いますよ。それは今夜説明します」


 笑みを浮かべて、仲間のところに走って行った。

 向こうで新たなうわさ話を広げようというのかな?

 まだ余裕があるぐらいなら、噂を広めて欲しいところだ。


「それじゃぁ、行ってくるにゃ。ヴァイスさんが戻ったら帰って来るにゃ」

「ミクルちゃんも一緒だね。あまりお姉さん達を困らせちゃだめだよ」


「分かってるにゃ!」そういうと、トコトコと食堂を出て行った。ヴァイスさんの小隊の女性兵士達と一緒に、お菓子を食べながらゲームってことだな。

 あまりお菓子ばかり食べていると太るんじゃないかと心配してしまうけど、ナナちゃんの体形はそれほど変化が無いんだよなぁ。太らない体質なのかもしれない。


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