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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
338/384

E-337 嵐の備えは必要だ


「我が王国の参謀として是非とも招きたいところだが、レオン殿にも色々と事情があるようだ。この冬に宮殿に招くことに異存はあるまい」

「グラム殿の言う通りですな。まだ若者に見えるが、話を聞けばハーフエルフ族ということもある。長くエクドラル王国との友好を保ちたい」


「その前に、ここで……」

「言うな! それを口にしたなら、ワシが貴殿を処置せねばならん。それだけの実力があるのだ。決して流言に迷わされてはならんぞ!」


 ワインズさんの言葉を、大声を出してグラムさんが遮った。

 たぶん、「ここで殺せば……」と言いたかったのだろう。苦笑いを浮かべてワインズさんが俺を見ているけど、腕はかなりあるということなんだろう。

 オリガン家ではあるけど、兄上のような技量はないからなぁ。その上、俺の風貌が一流の騎士とは見えないことも確かだ。

 思わず左腕に力を入れたんだが、笑みを3人に返しながら腕の力を抜く。


「かつてのブリガンディ王国では長剣検定2級ということだが、レオン殿が長剣を抜くことはあまりないのだ。魔族相手に白兵戦が始まった時にワシは見たことがあるのだが……。長剣を交えたいとは思わんぞ。もっともも、接近戦に上手く持ち込めるとは思わん。弓の腕は騎馬民族を凌ぐからな。オーガの目に矢を射込めるだけの技量がある。矢の数だけ、相手を倒せるのだ」


「それほどとは……。申し訳ありませんでした。あまりに無防備でしたので……」

「あまり試すことはしないでください。未熟も良いところですから、力加減が出来ません」


 言外に、怪我では済まないことを伝えておく。ワインズさんが冷や汗を拭いているところを見ると、俺の言葉を正しく理解しくれたようだな。


「話を変えるが、グラム殿は銃兵部隊を作っているとのことだが、まさか魔族の相手をさせるわけではあるまいな?」


 カルマンさんが話題を変えたのは、雰囲気を和らげるためだろう。


「十分に使える。弓兵を全て銃兵にしたいところだがそうもいくまい。先ずは2個小隊を作って試すつもりだ」

「蹂躙されるとは考えんのか?」

「レオン殿の国は中隊規模で運用しているぞ。もっとも我等が持つ銃とは少し異なるがな。レオン殿が工夫と改良を続けた結果の銃だから我等に供与は無理とのこと。だがそれに至る途中の銃は、現在工房で制作中だ。出来次第訓練に入る」


 グラムさんの言葉に2人が俺に顔を向ける。

 2人とも銃は拳銃だと思っているんだろうな。拳銃でさえ使い方次第では結構使えると思うんだけどなぁ。


「確かフイフイ砲もレオン殿の考案だと聞いた。それを使って放る爆弾さえもだ。今の話を聞くと、フイフイ砲を越える兵器があるということになるのだが……」

「あるぞ! 魔族相手に使っているのをワシも見たし、ブリガンディの王都攻略では王都の南門の外から王宮を破壊している。レオン殿の戦は白兵戦の持ち込まないようにするのが基本らしい」


 俺達が獣人族だけで建国したからだろうな。

 トラ族なら十分に白兵戦を戦えるけど、その他の種族には結構荷が重いことも確かだ。それなら遠距離攻撃が一番手っ取り早い。


「軍の構成が我等と異なると?」

「かなり変わっている。もっともそれをうまく活用する人物がいなければ蹂躙されてしまうだろうが」


「なるほど……。それなら銃兵部隊の試験運用も理解できますが、最初から2個小隊ですか」

「1個小隊を考えていたのだが、レオン殿と話をして倍にした。戦は数……、これはワシにも理解できる。いくら優れた兵器であろうと、数が揃わねば運用でどうなる物でもないということだな。とは言っても、銃兵とはなぁ……」


 現状の軍の構成を変えるということに、不安もあるのだろう。

 2人が顔を見合わせている。


「白兵戦に持ち込まれるような事態が生じるなら、既存の軽装歩兵の方が活躍できると考えます。さらに弓兵の一斉射撃は敵が城壁あるいは最前線に立つ重装歩兵の防壁に到達するまでに数回行えるでしょう。2、3割の消耗を敵に強いることができます。また、重装歩兵の後部からクロスボウを放つなら、さらなる効果を期待できるでしょう。荒野で敵部隊と相対する場合の基本はこのような戦術を用いると思いますが?」


 お茶を飲みながら、3人が頷いてくれた。

 基本に忠実に……、はどの王国も同じってことかな。


「中央の陣はそんな感じになるだろうな。左右に騎馬隊を配置することで、白兵戦状態の側面を崩すことも出来よう。それが出来ぬような指揮官であるなら、とっとと軍から放り出すことになる」

「とは言っても、国王陛下が臨席した図上演習ではそれが出来ぬ輩が多かったぞ。まだ士官候補生であると陛下が仰っておいでだったが、情けないことだった」

「あれは仕方ない。相手が我等ではなぁ。まだまだ現役を続けられると、その晩2人で飲み明かしたではない」


「次はワシも参加したいものだな。この地でだいぶ戦の仕方を覚えたつもりだ。2人を相手に士官候補生を鍛えたいものだ」

「ほうほう、それは聞き捨てならんな。我等への宣戦布告と捉えさせて貰うぞ」


 3人が笑みを浮かべているところを見ると、昔から張り合った仲間なんだと感心してしまう。

 グラムさんは友人に恵まれているということなんだろうな。


「この冬に、レオン殿を伴って王宮に参内するつもりだ。国王陛下の希望もあるのでな。レオン殿にお願いして了承を得ている。過去の事例から、レオン殿も冬季の魔族侵入は無いと考えているようだ」

「過去に学び、目の前の敵に挑む……。エクドラルの初代国王陛下の言葉であったか」

「そのような考えを持つ若者が、目の前にいるというのだからなぁ……。楽しみに待つことにしよう。それで、国王陛下に耳打ちすることはあるのか?」


 ワインズさんの問いに、グラムさんが俺に顔を向ける。

 俺からの伝言、あるいは忠告ということになるんだろうか?


「エクドラル王国に対してもの申す立場ではありませんが、嵐の備えは必要だと思っています」


 俺の言葉に3人が、目を見開いた。

 ジッと俺に視線を向けているんだよなぁ。変なことを言ったかな?


「嵐が来ると?」

「その規模を事前に知ることは出来んでしょうな。となると、備えの規模も考えねばなりませんぞ」


「来ることは間違いないでしょう。とはいえ、脅えることはないと考えます。脅えずに、かつ軍の規模を拡大しないで済む方策を考えるべきです。長城の建設、効果的な砦の配置、食料の備蓄……、最後に民兵組織の導入です」

「前の準備に付いては理解できるが、民兵も使えるということか?」

「弓、もしくはクロスボウであるなら兵士でなくともそれなりに使えるでしょう。開拓民の集落を塀で囲み、彼らに武装させたなら万が一長城を破られた場合に第2防衛線を容易に構築できるでしょう」


 本国からやって来た2人が顔を見合わせる中、グラムさんは笑みを浮かべて頷いている。

 その効果が容易に想像できるということなんだろうな。


「万が一を想定して、そこまで準備するのか!」


 カルマンさんがため息交じりに呟いた。


「そうではない。レオン殿はさらにその先まで考えている。第3の防衛線だ」


 2人が俺に顔を向ける。そこまで? という感じだな。

 でもこれだって先例が無くはない。

 縦深陣地という考え方だからね。破っても、破っても次の陣地が現れる。それでも突破を続けるなら、突破した陣地の守備兵が後方、あるいは側面から襲い掛かる。

 そんな陣地が構築されたなら侵攻は先細りで戦力を消耗していくはずだ。


「備えあれば憂いることはない……そんな格言があったが、その場合の備えとは、このような戦ができるだけの備えということになるのだろうか?」


「それほど深刻に考える必要はないと思いますよ。この場での思い付きでもあります。とはいえ、備えと簡単に皆は言いますが、その備えとは何かを十分に考えることが大切です」


「格言に惑わされるなと言うことだな。格言は我等の戒めになるが、それを安易に考えることなかれ、ということなのだろう。この歳でそれを知らされるとはなぁ……」

「グラム殿が一戦すれば敗れるのが我等だということを理解できたぞ。戦に対する考えが全く我等とは異なる。戦術の深さは容姿では分らぬな」


 どうやらこれで、この話は終わりにして貰えそうだ。

 その後はマーベル共和国の産業の話をすることになったのだが、2人ともガラスの加工品にはかなり驚いたそうだ。

 どうにかワイングラスを手に入れたらしいのだが、貴族仲間でも中々手に入らぬと零している。


「国王陛下がもろ手を挙げて驚く代物だからなぁ。流通量が少ないのが問題でもある。生産量を増やせないのか?」

「工房を試作部門と生産部門に分けているところです。来春にはもう少し数を増やせると思っていますが、腕の良い職人は簡単に育ちませんからね」


「試作と言ったが、まだいろいろなガラス工芸品を作れるということか?」

「たかがガラス、されどガラスということです。ステンドグラスやガラスを削って模様を付けたガラス細工これは目にしたことがあると思います。今試作しているのは照明器具です。ガラスの器に魔法で光球を入れた清貧は流通していますが、基本は昔のランプを模擬したものでしかありません。もっと豪華に出来ないものかと考えまして……」


 2人がグラムさんに視線を向ける。

 首を横に振っているのは、それがどんなものか相応できないということなんだろう。

 3人とも武人だからねぇ。宮廷で国王の御機嫌取りをしているような貴族なら、直ぐに分かるのかもしれないな。


「ワシも分らん。分かっているのはレオン殿が戦術だけに詳しいとは限らないということだけだ。ワシの娘を長らくマーベル国に大使として送っていたのだが、今年その成果を政庁市で試行しようとしている。その状況報告は王子殿下が行うだろう」

「ますます楽しみになって来たな。ワシ等は明日にでも帰るが、今年の冬の訪れが待ち遠しい限りだ」


 お土産ってことかな?

 ワイングラスのセットもしくはお茶のセット辺りを用意しておこう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 相手国の軍人さんは、 空きあらば殺そうとする修羅の国。 これが当たり前? 外交上の失点も良いところだし 上司どころか王太子の顔も潰す行為では。 今回の行為は違和感ありました
[一言] 「その前に、ここで……」 「言うな! それを口にしたなら、ワシが貴殿を処置せねばならん。それだけの実力があるのだ。決して流言に迷わされてはならんぞ!」 同盟国の重鎮に対して、冗談でも口にす…
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