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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
334/384

E-333 武器屋で出会ったのは


 広場を離れて商店街を歩く。

 ガラス窓越しに陳列された品物を見ているだけでも楽しいものだ。

 ナナちゃんが一緒なら、きっと窓に張り付いて何時までも見ているんじゃないかな。

 酒屋に寄って、値が少し高いワインを買い込む。蒸留酒は遠い国から船で運ばれてくるらしい。店員の勧めに従って蒸留酒も3本買い込んだ。

 陳列棚には、しゃれたガラスのグラスが並べてあった。透明なガラスに色ガラスで水玉模様を入れられるまでに技術が進んだようだ。

 俺達も負けないようにしないとなぁ。値段を聞くと銀貨2枚と教えてくれた。やはり値が高いな。


「北に出来たマーベル国というところでは、もっと透明なガラスでできたグラスがあるそうですよ。店主が1度見せて貰ったそうですが、表面を何かで削って模様まで付けてあったと教えてくれました」

「その内に、この店でも扱うようになるんじゃないか? 楽しみに待ってるよ」


 カウンターのお姉さんに手を振って、店を出る。

 カットグラスも結構作ったからなぁ。貴族や大店を持つ商人だけでなく、中級商人達にもカットグラスを見る機会が多くなったということになるんだろう。

 来年と言うことは無いだろうが、あの店の棚に並ぶのもそう遠く無さそうに思える。

 

 次に入ったのは武器店だった。

 たまにこの世界で一般的な武器を見るのもおもしろそうだ。

 扉を開けると、「カラン!」と扉に取り付けた小さなベルが可愛らしい音を立てる。

 カウンターの娘さんが、「いらっしゃいませ!」と声を掛けてきた。


「なにを買うか決めてるわけじゃないんだ。政庁市のような大きな町にあまり来ないんでね。どんな武器があるか、覗きにきたんだけど……」

「それなら、じっくり見てください。私のお店は、要求に応じて武器を作ることも出来ますから、貴族の皆さまやレンジャーの方々、更に王国軍の士官様までいらっしゃるんですよ」


 笑みを浮かべて教えてくれたところを見ると、それなりに名を知られた武器店ということになるのかな?


 お姉さんに頭を下げると、棚に並べられた武器を眺めていく。長剣に片手剣、少し大ぶりなナイフもある。柄の意匠も凝っていし、長剣を納めるケースも彫金が施されていた。

 なるほど、これなら貴族でも満足するに違いない。士官達もそれなりに自分の武器を誇るからなぁ。少し背伸びをして買うに違いない。

 盾はさすがに小さな物ばかりだ。兵士が持つ盾は軍からの支給だからね。自分で持つとなればレンジャーぐらいだろう。だけどレンジャーなら盾を持つよりはナイフを持つに違いない。相手の攻撃を受けるためのナイフもいくつか並んでいる。


 最後の棚を見ようとした時だった。

 思わず目が見開いた。銃を売っている。

 拳銃ではあるが、結構種類があるぞ。粗雑な作りは練習用だろう。兄上から頂いたカルバン銃まで備えてあった。

 銃が売れているなら……。視線を下に向けると、火薬入れや銃弾を入れる皮袋なども売られている。

 火薬はさすがに置いていないけど、カウンターのお姉さんに言えば、奥から出してくるに違いないな。


 銃をじっくり見ていると、店の前に馬車が止まった。

 カラン! と扉が音を立てる。入ってきたのは……、グラムさん達じゃないか!


「今日は、今日はどのような御用で?」

「店主を呼んでくれんか。ちょっと変わった依頼をしたいのだ」


 グラムさんに丁寧にお辞儀をしたお姉さんが、カウンターの奥に姿を消した。

 グラムさん御用達の武器店だったのか。ということはマーベルで作った長剣を仕上げたのはこの店ということになる。最初に見た長剣も丁寧な作りだったからなぁ。グラムさんが気に入るわけだ。


「今日は。ここでグラムさんに会うとは驚きました」


 並んだ棚の奥から急に声を掛けたから、グラムさんが驚いた表情のまま俺に振り返った。


「レオン殿! これは良いところで出会ったものだ。例の銃を作ろうと思ってな。出来れば一緒に店主とあって欲しい」

「グラム殿。彼は?」

「マーベル国の重鎮だ。たまたまワシの館に逗留して貰っている。その知恵は宮殿の知恵者を上回るぞ。さらに武技にも秀でている。

 レオン殿。隣は新たな銃兵を束ねる小隊長のグンターだ。戦場で会うこともあるだろう」


 グンターさんの年代は30には届かないようだ。

 騎士の礼を俺に向かって取ったところで、派遣軍指揮所付きの銃兵小隊を預かるグンター・アドミスと名乗ってくれた。

 同じように、俺の所属と名を告げると、ちょっと目を見開いている。


「あの、オリガンですか!」

「たぶんそのオリガンです。でも優秀なのは兄上や姉上ですからね。俺は兄たちの足元にも及びません」

「お噂はグラム殿より色々と聞かされております。銃兵の用兵について教えて頂けたなら幸いです」


 早く帰れば良かったかな。

 まぁ、ここで会ったのも何かの縁だろう。グラムさん達に付き合うか……。

 

「今、部屋を用意しております。少しお待ちください」


 お姉さんが奥から駆けてくると、グラムさんに頭を下げながら断っている。それなら、このすきに……。


「奥の銃を1つ、欲しいんですが……」

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 お姉さんがカウンターの扉を開けて店内に出てきた。一緒に棚の奥に向かい、バレルの長い拳銃を指差す。


「これですか! 銃身が長いと言って欲しがる人がいなかったんです。これに会うホルスターは……、これですね! 弾丸ポーチはサービスしますよ」


 おまけして貰うと、ついつい嬉しくなってしまうのは、貧乏人だからかなぁ?

 カートリッジを10本付けて貰って、合計金額が530デル。銀貨5枚を超えてしまった。

 一式をバッグに収めていると、奥から年配のご婦人がカウンターに歩いて来るのが見えた。


「これは、これは、グラム殿。ようこそ御越しくださいました。奥で主人が待っております」

「少し面倒かもしれんのでな。頼めるのはここ位しか思いつかなかったのだ」


 グラムさんの言葉に小柄なご婦人が笑みを浮かべる。よく見るとナナちゃんほどの背の高さだ。この小母さんはドワーフ族ということなんだろう。


 店の奥まった場所にある扉を小母さんが開いて、俺達を奥へと案内してくれる。通路の左右に武器が並べてあるんだが、これは売りものにならないってことかな?

 だいぶ埃が貯まっているから、ずっとこの状態のままなんだろう。


「ここです。直ぐにワインを用意いたします」


 扉を開いて、俺達が中に入ると、小母さんはそのまま通路を奥に歩いて行った。


「グラム殿が来るとはなぁ。その長剣以来ではないか? 先ずは座ってくれ。だいぶ若い者を連れて来たのう」

「これを見て欲しい。そしてこれを作れるかと相談に来たのだが……」


 ソファーに座ると同時に、グラムさんがバッグから俺が描いた銃の絵をテーブルに広げた。

 店主もドワーフ族だな。ガラハウさんと似たような髭をたたえている。


「どりゃ、どりゃ……。銃じゃな。だいぶ変わっておるが、銃身が長すぎないか?」

「それが重要らしい。銃床もかなり形が変わる。銃身が半ユーデを越えるから、木工工房との調整も頼みたいところだ」


「先端のこの部分は?」

「ナイフを取り付けたい。これだけ長ければ、ナイフを付けることで短槍としても使えるだろう」

「おもしろそうじゃな。何とかしてやるぞ。金はいらん。この銃のパラメントを貰うぞ」


 中々交渉が上手いなぁ。量産することで回収できると考えているようだ。だけど、それは無理だろうな。


「残念だが、すでにこの銃は他国で作られているんだ。パラメントの申請は無理だろうな」

 

グラムさんが、そう言いながら俺に顔を向ける。

 確かにまだ使ってはいるけど、順次新型のライフル銃に更新しているところでもある。来年には記念品として何丁か残すぐらいになってしまうだろう。


「パラメントの申請はどの部分について行うんですか?」

「銃床の形状と銃身先端部分へのナイフの取り付け方法なら、パラメントになると思うのじゃが……」


 そうなると新型ライフル銃も引っ掛かりそうだな。


「現物が出来ていますから、申請は難しいでしょう。とは言え、俺達はパラメントを申請することはありません。申請によって俺達の銃の秘密が明らかになるようでは問題ですからね」

「だが、ワシがパラメントを申請したなら、この形の銃を作ることは出来んぞ!」

「問題ありません。俺達が俺達の為に作る分にはパラメントの制約が発生しないと聞いたことがあります。他国に売ることはありませんから」


「ワシとしては、是非とも売って欲しいところだがな。あの発射間隔は常識では考えられん。それに狙いも正確だ」

「そこは同盟関係を維持することで対応したいと考えています。現在の形になる前の形がこの銃ですから、それなりに使えるはずですよ」


「なら、パラメントはワシが申請するぞ。それで10丁で良いかな?」

「最初の10丁はタダということだな。数は50程欲しいのだが?」


 首を傾けて考えていた店主がしばらくして出した日数は20日という数字だった。


「この長い銃身を作るのが面倒じゃな。長さが三分の二ユーデとはなぁ。使うカートリッジはどれを使うんじゃ?」

「通常のカートリッジで十分です。ナイフは片刃で刀身が1フィールは欲しいですね」


 カートリッジを銃口から入れて棒で奥に突くんだけど、結構力を入れるみたいだからね。銃身に両刃のナイフを取り付けたら、手を切ってしまいそうだ。


「銃身が長ければ発射間隔が長くなりそうじゃな。軍で使うに、問題は無いのか?」


 確かに遅くなる。バッグから砂時計を取り出してテーブルに乗せた。


「大きい方の砂時計を3回使う事で、美味しい茹で卵ができます。小さい方を3回使えば大きい方の砂時計1回分になります。良く見ていてください……」


 小さい方の砂時計をひっくり返して、落ちる砂を見る。

 1分を図れる代物だから、弓やクロスボウ、投石に銃の発射間隔をこれで計っている。

 ヴァイスさんなら、1分間に8矢を射ることができるんだよなぁ。だけど狙いがねぇ……。

 平均は6矢だった。クロスボウは3発だし、投石なら4回。前装式の拳銃でも3射できる。


「全て砂が落ちましたね。この時間で、これと同じ銃なら俺達は3射できますよ」

「かなり短い時間で撃てるということですか。先ほど新型と言っていましたね?」

「新型なら10射できます。色々と工夫しましたからね。俺達が寡兵であればこその工夫ですから、戦力があるエクドラル王国軍なら、そこまでしないでも大丈夫だと思っています。後は用兵次第で発射間隔をさらに上げることが可能ですよ」


 どのような用兵を用いるのかという話になったので、三段撃ちを教えてあげた。

 1度に放つ銃弾の数は三分の一になるけど、間断なく放たれる銃弾は相手にとって脅威そのものだろう。


「なるほど……。銃兵の数で補うのですね。1個小隊を頂けましたが、3個分隊に改編した方が良さそうですね。それは私の判断でよろしいでしょうか?」

「構わんぞ。1個小隊を任されているのだからな。その人員をどのように使うかはグンター次第だ」


 笑みを浮かべてグラムさんの言葉に頷いている。

 最初の戦が楽しみだな。場合によっては、更に銃兵小隊が増えるかもしれないぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 外国語はさっぱりなんですが、パラメントってパテント的なものなんですかね
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