表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
329/384

E-328 教育は統治を変える可能性がある


 1時間も経たずに王子様がオルバス館を訪れた。

 メイドさんが王子様を客間に案内し、王子殿下の御来室とメイドさんが告げたところで俺達は席を立って出迎える。

 入ってきた王子様が、直ぐに席に着くように言ってくれたけど、やはり王子様が席についてから腰を下ろすのが礼儀のようだな。

 ちょっと面倒な作法で全員が席に着くと、王女様が会談の概要を王子様に話してくれた。

 うんうんと何度も頷いて聞き入っているところを見ると、やはり気になって仕方がなかったに違いない。


「すると、明日の昼から子供達の組織作りが始まるんだね? 少し遠くから見てみようかな。身なりをレンジャー姿に変えれば下町に行けそうだ。少年達だけでなく、大人達の職業を紹介する考えは大賛成だ。その考えにギルドや軍までも乗り気だとはねぇ……。軍の求人についてはグラム殿とも少し話合う必要があるかもしれない。

 そこまでは良いんだが……、レオン殿。神殿の神官はなにを言いたかったのだろう? 私には良いことばかりに思えてならないのだが?」


 王子様に教育を施した人物は、それを教えなかったのだろうか?

 ちらりとデオーラさんに視線を向けたのだが、俺に向けられた視線と合ってしまった。互いに苦笑いを浮かべて小さく頭を下げる。

 デオーラさんもあまり理解できなかったということかな? だけどあの老神官はその危険性に気が付いたようだ。


「神官は言いました。『子供達全てに教育を行うことは、王国にとって良いことなのでしょうか……』とね。俺の答えは全く相反した2つの答えとなります。

 1つは王国にとって極めて危険である。もう1つは、王国の将来にとって極めて有効である。答えを選ぶのは俺ではありません。王国の統治者です」


「確かに相反した答えだね? その理由を知りたいところなんだが?」


 俺の言葉にデオーラさん達も驚いた表情から真顔に戻ってうんうんと頷いている。

 だけどこれは、国政に深く関わる話でもあるんだよなぁ。

 

「場合によっては不敬に当たる話になりかねませんが、その辺りは説明上必要な事であると御理解ください。

 先ず、『王国にとって極めて危険である』という理由ですけど……」


 国民が知識を持たなければ、現在が最適な暮らしであると認識させることができる。更に王国民に身分格差を持たせることで自分達よりも悲惨な者達がいることで自らの暮らしを満足させることができる。そんな暮らしをしている者達は、どうしたら自分達の暮らしを良くすることができるかを考える事も無い。よって統治に対する不満が起こらない。


「そんな統治をおこなう場合には、国民に知性を持たせる必要はありません。王国民を具民化することで容易な統治をおこなうことができるでしょう」

「国王陛下を頂点としたエクドラル王国は、ある意味階層社会でもある。階層の上層部だけを対象に教育が行われていることも確かだ。それは、エクドラル王国がその方向で王国を動かしているとも考えられるという事かな?」


「それは俺が指摘することではありませんよ。国王陛下の判断です。次に『王国の将来にとって極めて有効である』ということですが、国民の誰もが統治に関わる良し悪しを判断できるようになるでしょう。

 良い統治に関しては賛同し、悪ければ批難が起こります。ここで留意すべきは身分階層を否定する動きが生じないとも限らないということです。能力の無い者が自分達より上の階層で自分達を治めるようなことになるなら、人間としては我慢できないことになりますからね」


「場合によっては王国が根底から崩れ去る可能性も出てくると?」

「愚王を擁するようなことがあればそうなるでしょう。常に国王は国民からその能力を見られていることになります。政策判断には十分熟慮して行わねばならないでしょうね」


 さて、王子様はどのように考えるのかな?

 2つとも極論だから選ぶことはできないと思うんだけどね。強いて言うなら緩い2番目を取る事になるだろう。

 王国民の教育の程度で状況を変えることはできるはずだ。


「マーベル国が国王や貴族を持たない理由が、これだったのですか!」

「誰もが国の最高権力者に慣れるというのも、凄い考え方ですが……。よくそんな方法を思い付いたものです」

「そうでもしないと、俺が国王にされてましたからね。そんな器ではありませんから、誰もが成れるという方法で回避しました」


 俺の言葉に王子様が含み笑いを始めたんだが、だんだんと笑い声が押えきれなくなってしまったようだ。

 大きな笑い声をひとしきり上げたところで、デオーラさん達に頭を下げている。


「大変失礼しました。……それにしても、アハハハ……、国王の座を蹴るために新たな統治方法を考えたとは……」

「さすがに誰でも良いということではありませんよ。誰もが成れるということは、誰が選ぶかという事にも繋がります。選択権は国民にあるんです。そんなことで初代大統領は、元砦の中隊長であったレイニーさんになったんですけど、激務ということなんでしょうね。任期を過ぎても誰も2代目になろうとしないものですから、今でもレイニーさんが大統領を続けています。俺が補佐をしてくれるという条件で就いてくれていますから、しばらくはレイニーさんが大統領に収まってくれるでしょう」


「国王陛下も似た話を私にしてくれました。玉座は孤独だと言っていましたよ。補佐をする大臣は多いのですが……」


「階層社会の長点ですからね。仕方がないことではあります。国王が肩の荷を下ろす名は退位してからでしょう」

「歴代国王陛下が50歳で退位しているのはそれが理由かもしれませんね。自分の判断次第で王国の運命が左右されるともなれば心労は計り知れないものでしょう」


「さて、それが俺の考えと言うことになるんですが、読み書きと計算を王国民に教えるぐらいではそこまでの影響はないでしょう。その上の教育を行うか否かで、先ほどの2つの答えのどちらを選ぶのか選択しなければなりません」


「更なる教育……、歴史や政治、倫理という学問ですね。なるほど、これは父王陛下や兄王子殿下とも話し合った方が良さそうです」

「話合う際には王国学府の創設も私案に入れるべきでしょう。基礎教育が出来ているのですから王国の統治を行う上で必要な人材を育てるのも可能かと。階層社会でもありますから、貴族の子弟と一般国民に区分けした教育を行えば、優秀な上級役人と下級役人を得る事も可能かと思いますよ」

「それは良い考えですね。王国民に教育をどこまで行うか、それをどのようにして王国に寄与させるか……。良く考えてみましょう。私としては第2の方向にもっていきたいところです」


 ここで一息入れようと、デオーラさんが扉近くで待機しているメイドさんにお茶を頼んでくれた。

 タバコを取りしてデオーラさんに視線を向けると小さく頷いてくれたから、安心して火を点ける。


「簡単に考えていましたが、そうではないんですね……」

「サロンの皆さま方にも手伝って頂かねばなりません。子供達、斡旋所、学校の3つの運営と協力ということになるはずです」

「明後日にも1度集まりましょう。明日の登録で子供達の数が分かりますから」


「秘密基地と学校の場所は何とかなるとしても、職業斡旋所は政庁の仕事にしたいね。職員は直には手配できそうもないからサロンの有志を募りたいところだけど」

「下町に作りたいと思っていますの。お嬢さん達も参加するでしょうから警邏事務所に近い場所を選んでくれませんか?」

 

 王子様が嬉しそうに王女様のお願いを聞いている。これで場所が決まりそうだな。政庁の機関ともなればそれなりの建物だろうし、手伝ってくれる婦女子も安心できるに違いない。案外警備人を数人配置するかもしれないな。


「イザベル達の計画は順調みたいだね。ティーナ殿が傍で見守っていてくれるだろうし、その後ろにイザベル達のサロンがあるならきっと上手く行くに違いない。職業斡旋所については私からも政庁の事務方に便宜を図るよう伝えておくよ。でも1つ気になるんだけど……」


 王子様が俺達に話してくれたのは、子供達の組織化が貧民街だけということが気になるようだ。

 王都で暮らす一般住民の子供達も同じような秘密基地を欲しがるかもしれないということなんだが、確かに欲しがりそうだな。

 もっとも、貧民街の子供達は仕事の分配を円滑に行うために組織化するのであって、一般の子供達は遊びのための秘密基地ということになるんだろう。


「確かに考えるべきでしょうね。その対価も一緒に考えるべきでしょう。さすが秘密基地を近くに作るのも問題でしょうから、余った下級貴族の館を使うのも良いかもしれません。家賃代わりに政庁市内の奉仕活動を義務付けるということなら子供達もやる気を出すんじゃないでしょうか」

「貴族街に館を持てなかった下級貴族の館がいくつかありましたね。部屋数はあまりうありませんし、裕福な商人の方がはるかに大きな館を持っているようです。とはいえ、子供達にとっては大きな秘密基地ということになるんでしょうね」


 そんな館があるってことか。それならある程度の子供達をまとめておけそうだし、部屋数が多いなら、そこで教育も出来そうだ。


「事務方に1つイザベルに提供するように伝えておくよ。子供達の様子を見て秘密基地の提供を図れば良い。さすがに最初から組織化するのは難しそうだからね」


 必要に迫られて組織化するのが貧民暮らしの子供達だ。それに比べて一班の子供達は貧民街の子供達の様子を羨んでの行動になるから要求の度合いが少し変わるんだよなぁ。さすがに王子様はその違いを理解しているようだ。

 とは言っても、数年後には政庁市の子供達がどこかの秘密組織に加わることは間違いないだろう。それがエクドラル王国の発展に寄与出来れば、デオーラさん達の苦労が報われるに違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ