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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
328/384

E-327 会談を終えて


「子供達に学ばせるのは、それだけでよろしいのですか?」


 念を押すように老神官がデオーラさんに問いかける。

 デオーラさんが即答を避けて、しばらく考えて込んでいるのは言外の意味を考えているのだろう。


「それで良いでしょう。数年毎に、結果を見て追加するものがあるかを考えればよろしいかと……」

「確かに……。我等神殿の教義を含めても構いませんか?」

「祈祷書を使った読み書きなら神殿の教義にもかなうのでは?」


 印刷機で祈祷書を増刷するか。詩のような形で祈祷文が20程書かれているだけだから安く作れるに違いない。


ご婦人方2人が笑みを浮かべて頷いているところを見ると、祈祷文を使って読み書きを覚えさせるということになりそうだ。


「場所が問題ですね。5つも神殿があるんですから、どの神殿も名乗りを上げかねません」

「ギルドの古い倉庫がありますから、それを提供しましょう。どのように改造すれば良いかを知らせて下されば私共が対応いたします。教育の結果、計算ができる者が育つなら商会としてはありがたい話です」

「読み書きは神殿に任せたいと思っていますが、計算は商会ギルドの方から講師を出して頂けるとありがたいのですが?」


 デオーラさんの話に、モルデンさんが笑みを浮かべる。


「商いの計算を教えるということですな? それは願っても無いことです」

「軍も計算に長けた者が欲しいところだ。商売に似た計算もあるが、それ以外にもいろんな場合に計算は使われる。軍の方からも講師を出したいと思うのだが」


 確かに兵站を預かる連中なら、計算ができないと話の外だろう。

 

「それでは教育については場所と講師、それに教材について別途調整致しましょう。エミール様、教育計画の責任者として調整の労をお願いしたいのですが?」

「喜んで承ります。私とモルデン殿、オーエン殿の3人で詳細化を図ります」


「デオーラ様は職業斡旋所ということですな? 商会ギルドは10日以内に求人リストをお届けいたしますぞ!」

「ワシのところもじゃ。10日はいらんじゃろうが、届先はオルバス館で良いのかな?」

「そうしてください。少し整理した上で再度皆さんと調整したいと思っています。神殿の軍の方もよろしくお願いいたします」


 どんな依頼があるのかを先ずは確認したいということかな?

 デオーラさんだけでは大変だと思うけど、バックにいるサロンのご婦人方を動員するつもりかもしれないな。


「さすがに貧民の子供達の組織に加わる普通の暮らしをしている子供達はおらんじゃろう。だが、教育は均等にしてあげたいものじゃな」

「親がどんな判断を下すかでしょうね。場合によっては子供達の境遇に応じて隔日で開くという手段も取れるでしょう。仰る通り教育に貧富の差を付けるのは良くありませんからね」


 とは言っても、貴族の子供達は来ないんじゃないかなぁ。俺に読み書きを教えてくれたのは家庭教師だったからね。3年程度だったけど、その前は母上が教えてくれたんだよなぁ。

 ひょっとして裕福な家庭は家庭教師を雇って子供達に教育を施しているのかもしれないな。

 彼らが仕事場を失うことが無いようにしなければなるまい。

 後で、デオーラさんに耳打ちしておこう。


「それにしても斬新な福祉政策になりそうですね。当然結果は宮殿へ報告するのでしょう?」

「そのつもりです。1年後に状況報告、3年後に暫定報告、数年先に結果を添えたエクドラル王国の新たな福祉政策提言書を上程する計画です」

「政庁市は実験の場ということですか……。確かに、一気に王国内で行うとなれば宮殿が大騒ぎになりかねないでしょうね」


「小規模の町では上手く行っていますが、同じ事を大きな町で行うことができるかを試してみないことには説得力が欠けてしまいます」


 それなら、もう少し小さな町でも良かった気がするけど、デオーラさん達には貧民街の子供達を早く何とかしてあげたかったんだろうな。


「第2王子殿下の功績ということになるのでしょうね?」

「広めるのは第1王子殿下、それを命ずるのは国王陛下になるはずです」


 名を残さずに業績だけを残すということなんだろうな。歴史上ではそうなるかもしれないけど、第2王子様達はある意味苦労人なのかもしれない。

 いや、第1王子が行って、万が一失敗した場合を恐れている可能性もある。第2王子であれば失政の責任を取って地方に飛ばすことも出来そうだが、第1王子ともなれば次の国王だからなぁ。失敗が続いたなら貴族相手の立場が苦しくなるに違いない。

 王族は王族なりの苦労があるってことだ。

 俺には今の立場が一番合っているけど、マーベル国内に魔族が乱入するようなことがあれば身を引かねばなるまい。

 そういう意味では、それなりの責任があるということになるんだよなぁ。


「それでは、長々と話を聞いてくださり感謝いたします。調整と仕事の依頼の件はよろしくお願いいたしますね」

「もちろんでございます」


 代表して応えてくれたのはエミールさんだった。他の連中も頷いているところを見ると、特に問題はないみたいだな。

 これで、いよいよ貧民対策が動き出すぞ。


 デオーラさんがティーナさんを呼び寄せて、何かを伝えている。直ぐに外に出て行ったから馬車を呼びよせるのかな?

 工房ギルドのブルンガさんは俺達に頭を下げて、そのまま外に出て行った。商会ギルドのモルデンさんはエミールさんに耳打ちして外に出ると直ぐに戻ってくる。デオーラさんが王女様のところに足を運んでいるのはこの後に何かあるんだろうか?

 後ろで控えていたメイドさん王女様が呼び寄せると、メイドさんが外に飛び出していったぞ。


 扉を叩く音がする。視線を扉に移すと、見るからに商人という身なりの青年が入ってきて、俺達に頭を下げる。


「迎えが来たようです。私はこれで失礼いたします。それではエミール様お送りいたします」


 神官達をモルデンさんの馬車で送っていくようだ。

 それを見て、軍のオーエンさんも席を立つ。


「帰ったらすぐに資料作りを始めます。なにとぞよろしくお願いいたします」


 王女様とデオーラさんに騎士の礼を取るとオーエンさんが店を出ていく。

 店に残ったのは俺達と王女様達になる。

 

「せっかくですから、王女様を館にお誘いいたしました。王子様が迎えに来るということですから、館でもう少し詳しい話をいたしましょう」

「んっ! 秘密組織は私の管轄では無かったのか?」


「そうですが、ちゃんとできるんですか? せっかくレオン殿がいらっしゃるのですから、ティーナの計画を詳しく説明して、レオン殿に修正をしてもらうことです。

 良いですか! マーベル国と政庁市での子供達の相違を考えて計画してあるなら問題はないでしょうが、貴方は上流家庭の娘なのです。貧民の暮らしをどこまで知っているか……、それを計画に入れているのかどうか……。それが一番の不安要因なのです」


 確かにそうなるんだろうな。デオーラさんや王女様は貧民対策をある程度していたから彼らの生活を少しは知っているということになるんだろう。そういう意味ではティーナさんは温室暮らしであったことも確かだ。下々の暮らしに疎いという不安要因があることになる。


「私から1つお願いしたいのだが、彼らの秘密基地を用意してやりたい。私が準備しても良いが、良い物件に心辺りがまるでないのだ」

「ほらほら……。既に動き始めているんですから、すぐにでも決めなければなりませんよ。レオン殿はどのよう思われます?」


「そうですねぇ……。さすがにティーナ様の財布から出すというのは考えてしまいます。出来ればデオーラ様達のサロンからというのが理想ですね。更に神殿を介してということであれば最適かと思います。場所は……、商会に相談すべきでしょう。不動産を扱う商人もいるはずですから、貧民街に近く目立たな一軒家を見つけて貰えば済むことですが、なるべく警邏事務所に近い場所という条件も付けるべきでしょう」


 デオーラさんが笑みを浮かべてうんうんと頷いている。隣のティーナさんは俺に顔を向けて目を見開いているんだよなぁ。

 子供達ばかりだからね。周囲が気遣ってあげないと、再び子供達を食い物にする連中が入りこまないとも限らない。


 馬車が到着したところで、俺達も店を出る。

 結構雰囲気が良い店だから、下町では有名な店なのかもしれないな。


「とりあえず会談は成功ということになるんでしょうね。明日、どれぐらいの子供達が集まるのか楽しみです」

「警邏部隊にも知らせないといけませんね。騒ぎ立てをする者が現れないとも限りません。ティーナも行くのですよ。ナナちゃんに任せるようでは困ります」

「もちろんそのつもりだが……、ケイロン達の方も気になる」


 困った娘だという感じでデオーラさんがティーナさんの横顔を見て首を振っている。俺も気になることではあるんだが、その件はグラムさんに任せておこう。

 

 館前に馬車が止まり、待機していた家人が扉の傍に踏み台を置いてくれた。

 俺が先に下りて3人を馬車から下ろすと、後続の馬車が直ぐに場所を入れ替わる。

 家人が踏み台を馬車の扉に合わせてくれたのを見計らって扉を開く。

 メイド姿の護衛に手を差し出して下ろしてあげると、微笑みを浮かべて小さく頭を下げてくれた。

 最後の王女様の介添えを終えたところで皆と一緒に館に入ったのだが、王女様達は別室に案内されたようだ。

 俺達だけで客間に入り、ソファーに腰を下ろす。


「まだケイロン達は帰っていないようだな。簡単な調査に思えるのだが?」

「調査結果を軍内部で検討しているんじゃないですか。場合によっては現状の砦の位置を変える事もありえると思いますよ」

「最適な迎撃位置に新たに砦を設けると!」

 ティーナさんの腰が動いているなぁ。直ぐにでもグラムさんの元に向いたいのが良く分かる。


「ティーナ。人間は1度に2つの事は出来ませんよ。その件はグラム殿立ちに任せておきなさい。そうしないとティーナが主導する子供達の救済がいい加減な物になってしまいます」


 デオーラさんに叱られてシュンとしているけど、俺もそれには賛成だ。

 メイドさんが運んできたお茶を頂きながらパイプを楽しんでいると、客間の扉が叩かれ、王女様が入ってきた。一同席を立って迎え入れる。

 ドレスに着替えるために別室に向かったらしい。

 さすがにいつまでもメイド姿は問題だろう。


「会談を終えたという知らせを走らせましたから、王子殿下もまもなく到着するはずです。やはりメイド姿であれば子供達には気付かれなかったようです」


 嬉しそうに話しているけど、誰の発案なんだろうな?

 結構似合っていたからなぁ。美人はなにを着ても似合うということを聞いたが、やはり間違いではなかったようだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文字を神官が祈祷文を使って教えるのはよいのですが、行政側での定期的な監査がないと不安になってしまいますね 特に前身の王国が宗教からの思想教育の末滅亡を迎えてしまっただけに
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