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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-326 大人達への依頼


 明日の予定が話合われたところで、今日の会談を終える。

 子供達が俺達に頭を下げて店を出ようとした時に、ティーナさんが彼らを呼び止めて大きな手籠を渡した。

 中身を教えてあげたんだろう。子供達が目を見開くと何度もティーナさんに頭を下げて受け取っている。

 やはり、食事はまともに取れていないんだろうな。

 組織作りを早めないといけないという思いで、俺とデオーラさんが顔を見合わせ頷いた。


「まだ王女殿下が席を立つ様子が無いのは、我々だけお話があると?」

「そうです。もう1人来るはずなんですが、もう少し待ってください。それを教えて頂いたのが今朝なんですよ。慌てて連絡したものですから……」

「子供達との話し合いには関係ないと?」

「ええ、彼らは何時までも子供ではありません。今回計画しているのは、子供達の組織です。彼らがその組織を抜けた後はどうするのでしょう?」


 デオーラさんの言葉に、誰もが言葉を失った。

 貧民街の成人に対する仕事の斡旋が必要だと理解できたのだろう。

 それが可能なら、政庁市から貧民がいなくなることは容易に想像できるのだろうがその方法について考えたことが無かったに違いない。


「そのような政策が可能なのでしょうか? 出来ないということでエクドラル王国の神殿が貧民救済に力を入れていると前任者から何度か聞かされたことがあるのですが」

「大国となった弊害とも言えますね。皆さんご存じのレオン殿が暮らすマーベル国には貧民と呼ばれる人達がいないんです。子供達は依頼された仕事を子供達で割り振って働き、その対価をえています。16歳の春分を期に子供達の組織を抜けてそれぞれ仕事に就くのですがほぼ希望通りの仕事に就くことができるようですね」


「誰もが、自分の仕事を得られると!」

「語弊があるかもしれませんから、補足します。それが可能であるのは俺達の国がそもそも人手不足であるという事に起因するんです。更に誰もが希望通りとはいきませんから、成人後の職業選択は第1希望と第2希望を聞いてそれぞれの仕事を決めているところでもあります。さすがに第2希望でも叶えられないということは今のところはありません」


「なるほど……。子供達が色々と仕事をしていく中で自分なりの適正を見出すということになるのでしょうな。中々良い方法だと感心してしまいますが……、これを政庁市で行う為には大きな問題がありますよ」


 さすがはギルド役員だけのことはある。直ぐに気が付いたようだ。


「そうです。政庁市には貧民街で暮らす子供達以外にも一般の家庭で育つ子供達がいます。職業選択の機会は平等でなければ王国民に不満が出るでしょう。さすがに貴族や高級な暮らしをしている住民は対象外となりそうですが」


 俺の言葉に、他の連中も納得した顔を見せている。

 単に子供達だけに仕事の場を提供すれば良いと言うことではないことにどうやら気が付いたみたいだな。

 

「だが、一般住民は貧民を見下しているようにも思えるぞ。同じ機会を与えても、それを良しとしないのではないのか?」

「それは王国民の自由であると私は思いますよ。必ずしも利用する必要はありません。その機会を平等に与えることまでが王国の務めに思えます」

「そういうことですか……。扉は誰に対しても開かれる。訪れるのは本人次第ということですね。神殿の玄関と同じ扱いですね」


 笑みを浮かべた神官さんが呟いた。

 確かに神殿や教会はそんなところがあるな。信じない者は礼拝に訪れる事も無いだろうから、入るのは本人の自由意思に他ならない。

 子供達は親から無理やり連れてこられるんだろうけど、成人後は本人の意思だからねぇ。


「なるほど、それなら問題は無かろう。となれば、ワシ等が欲しがる仕事をこなせる人間を集められるということになりそうだ」

「長期と短期で分けることもできるでしょう。男性と女性に分けての求人も出来そうですね。斡旋は新たな組織を作って行ってくれるのでしょうが、採用はどのように?」


 ギルドの連中は乗り気だなぁ。やはり人が足りないのかもしれない。ある程度はギルドで斡旋を行っているのかもしれないが、それが多いと本来の仕事ができないのかもしれないな。


「採用の可否は求人先で決めることになるでしょう。新たな組織……、仮に斡旋所と言うことにすれば、政庁市の求人を集め、仕事を求める人達にそれを紹介することまでを斡旋所の仕事とすれば良いと思います」

「人手が欲しい時には斡旋所を尋ねれば良いのですな? 早ければ数日で私共のところにそれを行える者達が集まると!」

「その認識で問題無いと思います……」


 突然扉を叩く音がした。入ってきたのは軍服姿の壮年の男性だった。人間族だな。彼がデオーラさんが連絡した軍の関係者ということになるのだろう。


「遅くなって申し訳ありません。グラム殿に呼び出され大至急ここに行くよう告げられたのですが……」


 俺達の顔を眺めながら汗を流している。

 お忍びではあるけど王女様やデオーラさん達がいるからだろうな。

 デオーラさんが、とりあえず男性を座らせて、これまでの概要を話している。

 さて、俺達はお茶を飲んで一服しよう。

 

「するとデオーラ様達は、職業斡旋所を計画しておられると?」


軍の総務部門からやって来た人物は、オーエンと名乗ってくれた。その後で直ぐにデオーラさんの問いかけたのだが、概要については理解してくれたようだな。


「そうです。政庁市の住民が職を容易に得られるような組織を作りたいと思っているのですが、軍にも当然雑用はありますよねぇ……」

「そんな組織ができればありがたいところです。いつも我々に文句ばかり言って来るのですからね。ところで、具体的には何時頃から事務所を開くのでしょうか?」


 直ぐに出も求人依頼を持ち込みそうな口調でデオーラさんに詰め寄っている。それほどひっ迫した状態だということなんだろうか?


「オーエン殿、さすがに直ぐということではありませんよ。そんな組織を作りたいということで、関係者がここに集まっているのですからね」

「そうでしたな……。失礼いたしました。来週にも出来るのとばかり思っておりましたので」


 頭を掻きながら、デオーラさんに頭を下げている。

 デオーラさんも苦笑いを浮かべながら頷いているところを見ると、掴みは出来たということかな? それとも軍の別な一面を見て、それに気が付かなかった自分達を憂いているのかもしれない。


「軍はそれなり求人を出せそうですね? 商会はどうでしょう?」

「長期と短期に区分すればそれなりの数になりそうですな。とは言え、求人の中には女子限定、男子限定ということもあり得ると思います。さらには年齢制限を加えられればありがたいところです」


 店のカウンターにお爺さんを置くわけにもいかないだろうし、奥さんが働いている間の子守のような仕事もあるってことかな?

 だけどマクランさんのような元気な御老人もいるんだから、あまり年齢制限は行いたくないところなんだけどね。マーベルでそんな張り紙を食堂に出したなら、その晩につるし上げを食いかねないからなぁ。


「先ずは形を作りたいところですね。職業斡旋所の場所を定め、20件ほどの求人案内を張り出して推移を見ながら調整していくのが良さそうです」

「ワシのところだけでも20件は超えるじゃろうな。商会ギルドの方も傘下の商会はかなりの数になるぞ」


「たぶん数十を超えると思います。それに斡旋所の伝手でやって来た人間次第では、更に増えると思いますよ」

「軍も似たようなものだ。砦勤務ができるなら願っても無いこと。軍属という身分を与えることで優遇措置を与えることも可能だ」

「神殿でも考えなければなりませんね。奉仕活動だけで対応が出来兼ねる仕事もあるのです。見習い神官の仕事と奉仕活動の隙間を埋める仕事ということでいくつかの求人を出すことはできるはずです」


 結構乗り気なんだよなぁ。

 やはり人手を集めるのに、どこも苦労しているということになるんだろう。

 話を聞いているデオーラさんと王女様の笑みがどんどん深まっている。ある意味狙い通りということになるのだろう。


「政庁市の住民に仕事を与えることで生活を豊かにする。今回の政策が上手く機能すれば、それによって神殿が行っている所得が不安定な住民への施しを少なくすることができます。とはいえ病の床に就く住民を働かせるわけにはいきません。そのような人達には今まで以上に施しを行うことも可能でしょう……」

「神殿への寄付金を有効に使えるということに繋がりそうですね」


「マーベル国で作られた品を政庁府が一括して買い上げ、それを紹介ギルドに卸す。その際に多大な収益得られます。半分は本国の宮殿へと送金されますが、残り半分は旧サドリナス領の復興資金として使う事を国王陛下が御許しになりました。その一部が貧民対策を行っている神殿に寄付されているのは皆さんも知っておられるでしょう。その対策費を今まで以上に有効活用していくのが、今回の狙いでもあります。

 私から神殿に2つのお願いがあります。1つは貧民対策費の公開です。どのような目的で、どのような人々にどれほどの費用を使い、その効果はどれほど得られたのか……。これが分からねば寄付金を増額することができません。2つ目は、子供達への教育です。マーベル国では全ての子供達を対象に風の神の神官様が読み書きと計算を教えています。それを見た時は私も驚きましたが、レオン殿の話を聞いて納得致しました次第です。政庁市の子供達全てに教育を受ける機会を与えて頂けませんか?」


 ずっと口を閉じていた王女様が、神殿の老神官の言葉の後に話を始めた。

 タイミングを計っていたのかな?

 子供達には王女様が同席していたことは気付かなかったようだけど、さすがにこの場に残った連中は分かっているはずだ。

 だけど、ちょっと考え込んでいるんだよなぁ。


「反対する神官はいないでしょう。反対するようでは自分の不徳を告げるようなものですからね。ところでレオン殿にお聞きしたいのですが、子供達全てに教育の機会を与えることは王国にとって良いことなのでしょうか?」


 王国にとってか……。子供達にとってと言わないところを見ると、老神官だけに治政についての理解も出来るということなんだろうな。

 他の連中も、なぜ今までそれを行わなかったのかを考えているみたいだ。

 教育にはそれなりの投資が必要だし、それが必ずしも返って来るとは限らないからなぁ。

住民が教育を得るということは、治政に対する不満を持つ可能性もあるのだ。


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