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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
321/384

E-320 デオーラさんからの相談事


 どうやらビレルの話を聞いてやってきたらしい。

 子供達の自主性を伸ばそうと始めた秘密組織なんだけどなぁ。まさか大人達が羨ましく思っていたとはねぇ。それが基で年代毎の秘密組織を作りつつあるんだけど、まさかデオーラさんンまで興味を持つとは思わなかった。


「まだ少年ですが、大勢の大人の前でちゃんと生みの苦しみを話してくれたことに驚いています。ティーナに聞いたところでは、1年ほど前から始めたそうですが、私に話してくれなかったのですよ。全く王国内の情勢に疎いとしか言いようがありません」


 デオーラさんの隣に腰を下ろしティーナさんはジッと下を向いている。

 母上には逆らえないのかな? それだとすると、雪まみれでここにやって来た時には掃討思い詰めていたということになるのだろう。


「それなりに情報収集はしていたのだ……。政庁で貧民暮らしをしている少年達を組織化すればそれなりの仕事を任せられるのではないかと」

「どこまで情報収集をしていたかは気になるところですが、目の付け所は良いですね。でも、ティーナがここで暮らしているなら、何時までもティーナの空想でしかありませんよ」


 そういうことか。デオーラさんも中々手強い。貧民暮らしをしている子供達の存在を使ってティーナさんを館に戻そうと考えているみたいだ。

 だけどティーナさんとユリアンさんだけで秘密組織作りが出来るだろうか?

 俺が焚きつけたところはあるのだが、ビーデル団は子供達が自主的に作ったものだからなぁ。


「ビーデル団のような組織を作るのは案外苦労すると思っています。ティーナさんも知っている通り、いつの間にか子供達の仕事が多くなっていたことに気が付いたのが発端ですからね。子供達に自分達の仕事とその分担がどのようになっているかを知ってもらうために始めましたから、基礎的なものはあったんです。

 政庁……、旧王都の底辺にいる子供達に仕事を与えようとするのは大事です。となると、全く異なる方法で子供達の組織を立ち上げることになるのではと考えます」


 ティーナさん達がちょっと驚いて俺を見ているんだけど、デオーラさんは真剣な表情で俺の話に頷いているな。

 やはり年の功ということだろう。簡単ではないことに気が付いているようだ。


「レオン殿には頭が下がりますね。私も同じ思いでした。普段から仕事をしている子供達と、仕事を探してさまよっている子供達ではどのように組織化するかが全く異なる筈です。ティーナ達は子供達の様子を見ていただけでしょうから、そのような状況下での組織化には何が必要かを教えて頂けないでしょうか?」

「そうですね……。先ず一番最初に行うべきことは、子供達のリーダーを見つけることです。子供達が数人で町を巡っているのは目にすると思いますが、そのような子供達を束ねる人物がいると思います。此処で注意すべきは、束ねる者の素性をよくよく見極めることですね……」


 子供達に仕事を押し付け、その上前を撥ねるような人物であるなら厳罰に処すべきだろう。だが、そのリーダーが同じ子供であるなら、彼の協力を得ることができる。


「たぶん元締めがいるでしょうね。子供達を使って私腹を肥やすようでは王子殿下の評価にも関わる事態と言えましょう。ですが同じ子供であるなら、境遇を同じくする者同士支えあうことができる人物ということになります。

 なるほど……。それが最初ですね。でも、前者であったなら子供達のリーダーとなる人物はいなくなると思いますが?」

「元締めが大人なら、末端の子供達まで見ることは無いと思いますよ。元締めが指示を伝える最初の子供……、それがリーダー候補になるでしょう。1人ではありませんからその中で最適な人物を探さねばなりません。自己主張の激しい子供を選んだりしたら計画自体が瓦解しかねません」


 お茶を飲みながら考えを整理しているようだ。

 ティーナさんは俺達の話を聞いているばかりだな。やはりそこまで考えが及ばなかったようだ。


「なるほど……。それが分かった時からが組織作りになるのですね」

「リーダーに数人手助けを選んでもらい、彼らの普段の仕事とその人員をリスト化することから始めれば良いでしょう。仕事の頻度も考える必要があるでしょうし、場合によっては、彼らにできそうな仕事を事前にいくつか用意しておいても良さそうです。

 それが終われば誰をその仕事に充てるか、その責任者は誰か、子供達の収入に大きな差が出来ないか……、それを子供達と一緒に考えれば良いと思います。

 とはいえ、大きな問題もあるんです。マーベル共和国の子供達はフレーンさん達が読み書きと計算を教えていますから、依頼された仕事の文書を読むことができますし、報酬分配の計算もできるんです。政庁に暮らす貧民の子供達はそれができるでしょうか?」


 デオーラさんが寂しげな表情で首を振った。


「出来ないでしょうね……。なるほど、マーベル国が教育に力を入れる理由がこれだったのですね。読み書きと計算が出来ればどこに行っても困ることはありません。仕事を請け負う時でも、出来る者に頼むことになるでしょう。

 マーベル国では簡単に進められたことでも、いざ王国で模擬しようとするには、そんな裏まで考える必要があったとは……。恥じ入るばかりですわ」


 だけどデオーラさんはその取り組みが王国のためになると考えてくれたんだからなぁ。此処で突き放すのも可哀そうだし、いろいろと助けてもらっている。

 ここは恩返しを行うチャンスとも言えそうだ。


「王女様は貧民対策に力を入れていますよ。ならば、王女様を巻き込んで計画を進めるのも手だと思います。具体的には……」


 貧民街に暮らす子供達の組織化までなら、それほど大きな問題が出て来るとも思えない。

 彼らが自主的に組織を動かすときに、大きな障壁となるのが読み書きと計算だ。

 それなら、彼らに教えれば良いだけだ。

 貧民対策の1つとして、神殿に力になって貰えば良いだろう。見習い神官を派遣してゆっくり教えれば何とかなりそうだし、ステンドグラスの一件で神殿王子様との関係は良好な筈だ。それに貧民の子供達への奉仕活動は神殿にとっても格好の宣伝にもなるだろう。


「そこまで簡単に考えが及ぶとは……。これはティーナに荷が重そうです。私が動かねばなりませんね」

「いやいや……、それはティーナさんに任せるべきだと思います。相手は子供ですからね。あまり大人が動くとなれば向こうはイヤイヤ使うことになりかねません。美人のお姉さんが相談に乗ってくれるとなれば、子供達も気軽に相談してくれますよ」


 途端にティーナさんが顔を上げる。俺に顔を向けると笑みを浮かべて頷いてくれた。隣のデオーラさんが困った表情になったけど、ここは娘さんに花を持たせるべきなんじゃないかな。


「レオン殿……、なるほど、そういうことですね。此処はティーナに花を持たせましょう。とはいえ、その後ろで動く分には問題ないはずです。ティーナ、あの少年ともう少し詳しい話を聞いておきなさい。春分にやってくる商人達と先に館に戻りますが、春には1度帰ってくるのですよ。婚姻の話は、一時保留にしますがやはり婚約は必要でしょう。それとこの件について話し合う必要がありそうです」


 どうやら俺の意図を組んでくれたようだ。

 この件をティーナさんに任せれば、否応なく王宮に出入りすることが多くなるはずだ。年頃の男性貴族と巡り合うチャンスを、デオーラさんが作ってくれるに違いない。


「デオーラさんも忙しくなりそうですが、もう1つ、例の養魚場についても場所と責任者となり得る人物を内定しておいてくださると助かります。ビーデル団より指導者を派遣することができそうです」

「エクドラル王国で行うとなれば、さすがに少年達ということも出来ないでしょう。ですが、それなら尚更励みになるはずです。サロンが楽しみです」


 さすがに魚を獲って受精させるまでは子供達に任せるということも出来ないだろう。俺達だってエルドさん達がやっているぐらいだ。

 受精卵を受け取って育てるのがビーデル団の仕事になる。となると、ビーデル団から選出した指導員の引率に、エルドさんの部下を頼むことも考えないといけないな。

 役割分担がしっかりしているからなぁ。


「マーベルから購入する品は、倍以上の値段で他の王国に渡っています。その利益の一部は王女様が主催するサロンの活動に使われます。しっかりした目的があるなら皆さんの士気も高まるでしょう。神殿への寄付ではどこまで彼らの力になれるか甚だ不安もありました」

「たぶん各神殿に同額を寄付していると思います。単に寄付するだけでなく、その効果を確認することも必要かと」

「耳が痛くなりますね……。確かに、その通りです」


 寄付するだけだったということか……。それは問題だ。神殿側に悪意があるとも思えないが、毎年貰える既得権益のように思われてもねぇ。とはいえどの程度が神殿の福祉活動に使われているのかぐらいは知っておくべきだろう。

 しばらく話を交わして3人が帰って行ったけど、さてどんな依頼が舞い込んでくるのだろう?

 王女様を含めてサロンのメンバーは上流階級のご婦人方ばかりのはずだ。

 どこまで貧民街で暮らす子供達の目線に迫れるかを考えると、子供達が戸惑うだろうし、長く続けることができないんじゃないかなぁ。


 翌日。指揮所に来たレイニーさんに、昨夜の話をする。

 ちょっと驚いていたけど、レイニーさんもエクドラル王国の暴利をあまり良くは思っていなかったようだ。

 その利益の一部を使っての貧民対策については、笑みを浮かべて頷きながら聞いてくれた。


「それなら、良かったですね。さすがに2倍以上の値で売ると聞いて、驚くよりもそれで良いのかと思っていましたから」

「本来なら俺達の売値をもっと上げられるんですが、そうなるとマーベル共和国を取り込もうとするでしょう。売値は俺達の生活に支障がなければそれで十分です。とはいえ、倍の値で請け負って欲しいとエディンさんが色々と注文を受けて来るんですよねぇ」


 工房の能力を超えないように調整しているから、特注品はどうしても年に2つか3つということになる。

 それでも諦めないんだよなぁ。現在は2年先まで注文があると言っていたからね。

 工房を大きくしても良さそうだけど、品質の低下も心配だ。

 工房の連中が、自信を持てるまでもう少し大きくするのは待ってみよう。


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