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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-314 デオーラさんの戦略とティーナさんの戦術


新たな年がやって来た。

 この地にやってきてすでに十年以上経っているんだが、まだまだやることが多いんだよなぁ。

 皆で広場に焚火を作り、新年を祝ってワインを酌み交わすことができるのも、俺達が小国であるからできるのだろう。

 もっとも、西の村々で暮らす人達はここまで来ることが無いから、ワインを1樽ずつ運んで貰った。

 マクランさんの話では、西の村の南にも今年は新たな入植地ができるとのことだ。

 10軒にも満たない集落になるらしいけど、10年もすれば2倍に膨らむんじゃないかな。


「最初は300人程度だったんですけどねぇ……」

「私がいつまで働けるか分かりませんが、3万人を超えるまでは何としても生きていたいと思っています」


 昼過ぎなんだけど、珍しくマクランさんが指揮所に顔を見せた。

 暖炉傍のベンチで俺達と一緒にホットワインを飲んでいるんだけど、隣に座っているのがガラハウさんだからなぁ。まだまだ飲み足りない2人のようだ。

 ナナちゃんはヴァイスさん率いる弓兵部隊の宿舎にミクルちゃんと出掛けている。皆ですごろく遊びを楽しんでいるに違いない。


「ところでバリエール団の責任者はマクランさんになったのですか?」

「はい。元気な内はマクランに任せると言われてしまっては……。それで我等の仕事を整理してみたんですが、さすがにビーデル団より仕事が少ないと問題になりまして」


 2つあるベンチの1つにマクランさんとガラハウさんが座っているから、今日は俺がレイニーさんの隣に座っている。

 レイニーさんの問いに、済まなそうな表情をしてマクランさんが答えてくれたけど、少年達に張り合おうなんて考えていることに感心してしまう。

 良い歳なんだから軽い仕事を適当にすれば良いと思っているのは、俺だけではないと思うんだけどなぁ……。


「それはワシも感じることがあるぞ。まだまだ若い連中に仕事を任せるのはのう……。奴らは1人前のつもりなんじゃろうが、ワシ等からすればまだまだ半人前も良いところじゃ。それだから新たな取り組みに失敗することも多いんじゃが……」

「全くその通りですな。長い経験を持っているのですから、ちょっと相談すればよいものをと考えることもしばしばです」


 ドワーフ族は徒弟制度に近い仕組みを取り入れているのだが、それが全てではないということなんだろう。工房全体はガラハウさんが仕切ることになるのだが、その中にいくつかのグループがあるようだ。

 若者達だけで、何かを作ろうと考えては失敗しているということかな?

 マクランさん達の農業組織も、開拓をだいぶ進めているからなぁ。開拓地での農業は直ぐに軌道に乗ることが無いということなんだろう。最初からライ麦は作れないからね。


「年代別に組織を作っては見ましたが、対立するようでも困ります。やはり各団の代表者による定期的な情報交換の場は必要でしょうね。それと急に現在の仕事を増減するのも考え物です。マーベル共和国の仕事が今回の組織結成によって明らかになったのですから、その仕事の割り振りをどうするかについても代表者会議で議論すれば良いと思いますよ」

「1度始めた仕事が無くなるとは思えませんし、国が大きくなればそれに伴う仕事も増えるはずです。新たな仕事をどの組織に割り振るかも代表者会議で決めることになるでしょう」


 俺とレイニーさんの言葉にマクランさん達が頷いているんだけど、さて他の連中はどう考えるんだろうか?

 

「色々とあるんじゃろうが、ビーデル団が困った様子は無いからのう。皆楽しそうに仕事をしているのは見ていても気持ちが良いものじゃ。ワシ等も見習うべきところは見習うことになるじゃろう」

「彼らが私の組織に入るころには、私はこの世にはいないでしょうが、笑われぬようにしないといけないでしょうなぁ」


 互いのカップにワインを継ぎ足して笑いあっているんだけど、その時でもガラハウさんはドワーフ族の重鎮として活躍しているかもしれないな。

 マクランさんもまだまだ長生きしそうだから、俺達の国作りをしっかりと支えてくれるに違いない。


 だいぶ日が傾く頃になって、ナナちゃんが帰って来た。

 ガラハウさん達は千鳥足で帰って行ったけど、ちゃんと自分の宿舎に辿り付けるのかな?

 伝令の少年に、心配だから帰宅するまで気付かれないように付いて行ってくれと頼んでおいたけど……、無事に付きましたという報告が来るまでは心配でしょうがない。


「ビーデル団の冬な仕事はたくさんあるのかな?」


 いつもの席に戻り、俺の隣にちょこんと座ってお茶を飲んでいるナナちゃんに聞いてみた。

 レイニーさんも興味深々な表情で、ナナちゃんに笑みを浮かべている。


「養殖場は魚の子供の世話があるにゃ。エクドラ小母さんの手伝いはいつもの事にゃ。冬場に増えるのは薪の配達とヤギの世話になるにゃ。お腹の大きなヤギが3頭いるから、春には子ヤギが生まれるにゃ」


 薪の配達は年長者達が行っているのだろう。エクドラさんの手伝いは野菜の皮むき辺りかな? 剥いた皮や野菜クズはヤギの餌になるからねぇ。その運搬とヤギの世話はまた別の少年達が担当しているのだろう。


「マクランさんの言うことも理解できますね。子供達の仕事が多いということになるんでしょう」

「エクドラさんの手伝いはカルシア団に委ねるのも手かもしれません。料理上手な女性なら誰からも喜ばれますよ」

「1度始めた取り組みがありましたが、何時の間にか下火になってしまいました。女性が必ずしも料理上手になれるとは限りませんし、ヴァイスは『男も料理が出来ないとダメにゃ!』なんて言い出す始末でしたから……」


 自分の腕を上げるという取り組みだったんだけど、それがいつの間にかビーデル団の仕事になってしまったということなんだろうな。

 いろいろと取り組んだものに対しては、経過をよく見ないといけないということになるんだろう。

 その経過を確認する組織も考えないといけないな。

 全く、国作りは面倒なことが多すぎる。

 かといって、今更投げ出すことも出来ないからなぁ……。

                 ・

                 ・

                 ・

 年明けの最初の月は、秘密組織作りで俺達が大騒ぎをすることになってしまった。

 まぁ、生みの苦しさということなんだろう。

 最初に大騒ぎをするのは、途中で騒ぐよりはましな筈だ。

 大雪だから魔族の心配もないのも都合が良い。

 そんな達観した気分で指揮所でパイプを楽しんでいると、突然指揮所の扉が開き雪の塊が入って来た。

 レイニーさんが席を立って雪を除けてあげると、寒さで顔を青くしたティーナさんが現れた。

 俺も席を立つとティーナさんを暖炉傍に座らせて、とりあえず体を温めさせる。

 レイニーさんが作ってくれたホットワインをゆっくりと飲み始めたところで、こんな時期にやって来た訳を聞いてみる。


「母上の戦略にはまってしまうところだった。撤退戦術を敢行してきた」


 レイニーさんは首を傾げているけど、俺には理解できたぞ。

 そういうことか。

 上手い具合に逃走先があったということになる。まさか冬の最中にマーベル国に行くとはデオーラさんも考えつかなかったようだな。

 事前連絡は無かったから、ここは一時的な亡命を認めてあげたほうが良さそうだ。


「場合によってはエクドラル王国との戦になりかねませんから、グラムさんからの連絡があれば、ティーナさんがいることを伝えますけど、それで良いですね?」

「さすがに私が原因で戦が起こるようでも困る。直ぐに帰れとは言わぬだろうから、それまではよろしく頼む」


 それなら問題なさそうだな。デオーラさんの事だから、逃げ出さないように突然に話しをしたんじゃないかな?

 ティーナさんはまだまだそんな気は持っていないだろうから驚いたに違いない。グラムさんも説得ぐらいはしたんだろうが、娘さんの行動力を甘く見ていたようだな。


「でも逃げ出すのは、相手を一度見てからでも良かったんじゃないですか?」

「会えば、向こうにも失礼になると思ってな……。ところで、広場の西がだいぶ賑やかだったが?」


 雪ダルマになっていても、それなりの注意は出来ていたみたいだ。

 簡単に新たな秘密組織の事を話すと、それは私も入れるのだろうかと質問されてしまった。

 入るとしても客員扱いとなるんだろうけど、脇で見ているよりは入った方が面白いんじゃないかな。

 明日にでもステンドグラス工房に出掛けて、バルテスに話をしておこう。


 翌日。バルテスに会って、ティーナさんのカルシア団参加を打診してみた。

 最初は驚いていたけど、西の尾根での戦でティーナさんの活躍を見たことがあるらしい。客員という形でならと承諾して貰えた。

 次は中央楼門に上がって、通信兵にティーナさんがマーベル共和国に滞在していることを、グラムさんに連絡して貰う。


「とりあえず、連絡して欲しい。返信があったら連絡してくれ」

「了解しました。それにしても良くもこの大雪の中を1人で訪れましたね」


 通信兵に苦笑いを浮かべながら頷いておく。

 まったくだと思うけど、本人がそれを敢行するほどデオーラさんの話に驚いたってことなんだろうな。

 駐屯地で馬を乗り換えながらやって来たらしいけど、2日程何も食べていないと言っていたからなぁ。

 昨晩はたっぷりと、エクドラさんの料理を味わったに違いない。


 指揮所に戻ると、話題の本人がレイニーさんとお茶を飲んでいた。

 女性同士での話をしていたのかな?

 そっと出て行こうとしたのだが、レイニーさんがおいでおいでをしている。

 テーブルから、椅子を1つ持って暖炉傍の小さなテーブルの前に腰を下ろした。


 レイニーさんが俺に顔を向けて小さく頷いたので、俺も小さく頷いておく。

 グラムさんへの連絡ということだろう。レイニーさんも気になっていたに違いない。

 暖炉傍の棚から新たなカップをレイニーさんが持って来て、俺にお茶を淹れてくれた。

 ちょっと寒かったから、温かなお茶が体を中から温めてくれる。

 パイプを取り出して見せると、2人が頷いてくれたのでポケットから魔道具を取り出して火を点けた。


「とりあえずグラム殿に連絡しておきました。ティーナさんの事ですから行き先を知らせずに飛び出したに違いありませんからね」

「確かにその通りだが……。駐屯地や砦で馬替えをしている。既に連絡は行ったんじゃないのか?」

「馬替えは、通常の軍事行動ぐらいに考えていると思いますよ。知っているなら、それで良し、俺達から連絡があったなら安心すると思います。今年は大雪ですからね。途中で馬が倒れたら凍死もありえる話です」


 まさかグラムさんが連れ戻しに来るとも思えないから、ほとぼりが冷めたら館に戻って両親にお詫びすれば許してくれるに違いない。

 それを嫌って、ここに居残られても困ってしまう。


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