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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-313 レンジャー達も自由では無いようだ


 今年最初の雪が降った2日後に、エルドさんの中隊が長城造りを中断して帰ってきた。レンジャー達から、「来年も依頼を出してくれよ!」と頼まれたらしい。

 それぐらいは容易いことだが、エクドラル王国も長城造りを始めているからなぁ。土魔法を持つレンジャーは引手数多と言うことになるかもしれないな。報酬を上げないと来てくれないかもしれない。


 このまま春まで部屋の中で手作業をするのかと思っていたんだが、例の組織の秘密基地作りが始まってしまった。

 雪の中で始めなくても良さそうなものだが、ネコ族の連中も一緒になって丸太や石を運んでいるようだ。


「少年達が『ビーデル団』、その上の青年達が『カルシア団』、壮年組が『バイパー団』で、まだまだ壮年組が『バリエール団』ですか!」

「ビーデルはクワガタ虫ですよね。カルシアは花の名前ですし、バイパーは伝説のオオカミです。バリエールは、昔話の知恵ある白狐ですよ。何となく理解は出来るんですが、それにしても直ぐに始めなくても良いように思えるんですけどねぇ」


 指揮所でレイニーさんと一緒にお茶を飲みながら、たまにここまで聞こえてくる先走った連中を嘆く様ではなぁ。

 見た目は若者だけど、考え方が年寄りじみてきたな。


「ナナちゃんが見えませんが?」

「ミクルを連れて様子を見に出掛けました。焚火が焚かれているでしょうから、風邪をひくようなことはないと思いますよ」


 お茶のサービスでも行っているのかな?

 そんな光景を思い浮かべて、思わず笑みが零れてしまう。


「それで場所は?」

「近くが良いだろうということで、大通りの宿の西に3軒作ると言っていました。見た目だけでも石造りにしようと考えているみたいですね」

「ログハウスの表に石を張り付けるということでしょう。大通りですから、将来を考えたのかもしれませんね」


 俺のところにもカルシア団から入団してくれと、代表が昨日やって来た。

 もちろん了承したけど、代表者はステンドグラス工房を仕切っているバルテムという青年だった。指揮所で伝令をしていたことがあるから、顔見知りでもある。

 男女別、しかも既婚と未婚を更に区分けしているから一番大きな建物になるそうだ。


「ある意味、男女の出会いの場にもなりそうです。これからは毎年結婚する若者が増えるかもしれません」

「それなら嬉しい話じゃないか! 年明けまでには現在の仕事の種類と担当者をきちんとリストにしてくれよ。今回の組織作りでマーベル共和国の全体像が分かるんだからね。ここまでがむしゃらに走って来たけど、やはりどこかに歪が出ているのかもしれない。それを見直すいい機会だからね」


 さすがに無職はいないと思うが、それも調査してみないと分からない。

 場合によっては、職の無い連中に、安定した職を提供することも出来るだろう。

 フレーンさんもカルシア団に入団するらしい。ガラハウさん達ドワーフ族は、『金色土竜団』という名をドワーフ族全体で名乗るとのことだ。今でも洞窟内で暮らしているからなぁ。秘密基地そのものだ。


 今年最後の月に入ると、マーベル共和国が雪に閉ざされる。

 通りだけは兵士達が除雪をしてくれるけど、1ユーデほどの幅を持った除雪か所以外は既に膝の深さを越えている。

 それでも3つの秘密基地建設を休むことが無いんだよなぁ。

 空き家の長屋をとりあえずの仮基地にしているようだけど、大きな木の看板で秘密基地の名を出している。

 初めてマーベル共和国にやって来た人達が驚くに違いない。

 堂々と秘密基地の看板を出しているんだからね。


 指揮所に待機しているのは、俺とレイニーさんだけだ。

 外の小屋に伝令の少年がいるんだけど、指揮所には入らないんだよなぁ。

 小屋の中の素焼きのストーブで暖を取っているんだが、小屋が小さいから指揮所よりも暖かいのかもしれない。


「さて、ギルドに出掛けてきます。長城建設に関わる雇用は少し報酬を引き上げることになりそうですが、2割増しで交渉してみます。それと旧ブリガンディ王国への護衛に関わる返事も確認してきますが、その外にはありませんよね?」


 俺の言葉に少し考えていたレイニーさんだったが、改めて俺に顔を向けて頷いてくれた。


「外にはありませんね。場合によってはギルド側から要望があるかもしれません。それはレオンの判断に任せますが、夕食後の集まりで報告をお願いします」


 ギルド側からの要求もありえるってことか……。

 雪が深くなる前までは3つのパーティが鹿を狩っていたようだ。

 肉屋で解体して、燻製や塩漬けにした品は定期的に訪れるレンジャー達が町まで運んでいくらしい。

 ベンチから腰を上げてレイニーさんに軽く頭を下げると、暖炉傍に掛けてある皮のコートを着てマントを羽織る。

 革製の帽子を被ったところで、マントのフードを深く被れば雪が降っていても気にすることはないだろう。

 指揮所の扉を開けると、外の小屋に待機している伝令の少年達にギルドに出掛けると伝えて、雪の中に刻んだ溝のような通りを歩きだした。


 年が明ける頃には腰に届くんろうなぁ。

 今年の冬は、今までに増して雪が深くなりそうだ。


 ギルドの最初の建物はログハウスだったんだけど、今では立派な石造りだ。マーベル国では珍しいんだが、それだけギルドという組織の財力を誇っているようにも思えるな。商会ギルドとなると旧サドリナス王国の王都にある商会ギルドは貴族館と間違えそうな代物だったから、ギルドの力をギルドの建物で住民達に誇示しているようにも思えるんだよなぁ。


玄関の周りは雪が退けてある。数段の石段を上がって、扉を開けるとカウンターに向かった。

 レイラさんは席を外しているのだろうか? カウンターには誰もいない。


「こっちよ!」


 声がする方に顔を向けると、レイラさんがもう1人のネコ族のお姉さんと一緒に暖炉傍で編み物をしていた。


「この間の件でやって来たんですが……」

「座って頂戴。マイラム、コーヒーをお願いするわ」


レイラさんの指示に頷いて、席を離れるとカウンターの奥に入って行った。


「お手数をお掛けします。それでどのような結果に?」

「レオンさんの言う通り、エクドラル王国も土魔法を持つレンジャーの募集を計画してるみたいね。ギルド本部に打診があったらしいわ」


 さすがはグラムさんだな。少しでも早くと考えているのだろう。

 

「となると、やはり報酬は上がると?」

「土魔法を持つパーティ単位で雇うことになるわ。雇用期間は最大で3カ月。土魔法を持っていなくても、保持者と同等の金額で1人1カ月銀貨6枚。これだけだと昨年と同じになるけど、パーティに銀貨2枚を毎月酒代として渡すことになるわ」


 それだと、実質1割にも満たない増額となるんじゃないかな?

 十分に手を握れる話だ。


「雪が消えてから依頼を出したいんですが、2パーティ集められるでしょうか?」

「去年のパーティがそのまま引き継ぐんじゃないかしら? 食事も良いと喜んでいたわよ。心配ならギルド本部を通して依頼予約をしておくわ」


よろしくお願いしますと、手を差し出して握手を交わす。

 ネコ族のお姉さんがトレイにカップを乗せて運んできた。

 カップが3つ乗っているから、ここで自分達も楽しむつもりなんだろう。

 砂糖2つをカップに入れてコーヒーを口に入れると、俺が普段飲んでいるコーヒーよりも遥かに香りが良いし、味も良い。

 コーヒーにも種類があるんだな。エディンさんに少し上等なコーヒーを頼んでみよう。


「実は、もう1つ案件がありまして……」


 旧ブリガンディ領内へ、マーベル共和国住民が一時帰宅というか短期里帰りを行う際に、同行して護衛するという依頼をギルドが受けられるかを確認する。


「領内なら容易なんですが、旧ブリガンディ領内ですか……。基本、レンジャー活動は領内になるんです。かつて貴族連合から批難してきた住民達の護衛も、貴族連合の領内とエクドラル王国領内でレンジャーを交代していたのは御存じですよね」


 パイプを取り出して、暖炉の焚き木で火を点けながら頷いた。

 レンジャー資格はどの王国でも有効らしいのだが、その王国のギルドに滞在報告をしてからその王国の領内で活動できる。かなり昔の約定らしいのだが、現在でも有効らしい。一度登録すると、その領内だけでの活動になってしまうらしい。

 

「要するに、1つのパーティが最後まで護衛することが出来ないということですよね。サドリナス王国での魔族との戦は、4つの国が協力して勝利を得たようなものです。兵を他国の領内に移動できるなら、レンジャー達なら遥かに容易だと思っていたんですが……」

「少し待って頂けませんか? ギルド本部にも問い合わせてみます。レオンさんの言う通り、時代が変わりつつありますから」


「よろしくお願いします……」そう言うと、2人に頭を下げる。

 そんな俺の姿が面白かったのか2人が顔を見合わせて笑みを浮かべているんだよなぁ。

 世話になっている人達には敬意を払わないといけないだろうし、そもそも俺は貴族という自覚がないからねぇ。

 将来はレンジャーになろうと考えていた次男坊だ。


 コーヒーを飲みながら、マーベル共和国のギルトの様子を聞いてみると、結構依頼があるらしい。

 もっとも、俺達からの依頼というわけではなく、光通信で届く町屋村からの依頼らしい。

 

「シカ肉やイノシシ肉の需要は結構あるんですよ。ここでは大物が狩れると聞いて、そんな依頼が集まってくるんです。さすがにこの雪ではレンジャーも動きが取れないみたいですけどね」

「そうでもないですよ。西の尾根の北端に監視所を作っているんですが、そこで1組のレンジャーが魔族の監視をしながら狩りをしているはずです。肉屋に持ち込んでもエクドラさんが引き取ることになっていますから、ギルドには届かないんでしょうね」


「その観測所を他のレンジャーが利用することはできませんか?」

「それほど大きな施設ではないんです。そもそもが魔族監視を目的としていますからね。でも、南の見張り台付近なら将来はレンジャー1組程度を宿泊できるようにします。長城が作られますが、見張り台の傍に門を作りますから、尾根の西側に狩に出ることが出来ますよ」


 俺の話を聞いて、目を輝かせているんだよなぁ。

 南の見張り台付近は雪もそれほど深くならないようだから、冬場の大型獣を狩るには良い場所だと聞いたことがある。

 レンジャーとの関係は良好を保ちたいから、それぐらいの補助なら何ら問題は無いはずだ。


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