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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-312 今の故郷、かつての故郷


「すると、年代別に組織化するということですか?」

「ビーデル団が16歳までですよね。その後を30歳までの『青年』、50歳までの『壮年』、50歳以上の『まだまだ壮年』という4つに区分しては、との意見が多いようですよ」


 まだまだ壮年というのは、老人と呼ばれたくないってことだろうな。思わず笑みが浮かんでしまう。


「そうなると、ドワーフ族や俺達のような長命種族はどうなるんでしょう? さすがにガラハウさんを『まだまだ壮年』に入るように勧めたら、ハンマーで殴られそうな気がするんですけど……」

「それが唯一の課題ですね。エクドラは獣人族と比べて少数派なのだから、本人の意向で十分じゃないかと話してましたけど」


 マーベル共和国内のドワーフ族は100人にも満たないし、それ以外の長命種族はハーフエルフの俺と神官のフレーンさん、それにケットシー族のナナちゃんだけだからなぁ。

 待てよ、ナナちゃんはビーデル団の永代補佐に収まってる。それなら俺も青年団にずっと所属していても良さそうだ。フレーンさんも神官の仕事と齟齬が無いようなら青年団で良いように思える。

 ガラハウさんは青年団というよりは壮年組に入った方が、違和感がないかもしれないな。


「本人達の意思に任せれば十分かと思いますよ。ナナちゃんの例がありますからね」

「ビーデル団の永代補佐でしたね。……それともう1つ。壮年組は中を2つに分けるべきだという話もあります……」


 レイニーさんが、既婚者と独身者での区分も必要だと話してくれた。独身者と既婚者では物事の価値判断も異なるという事らしい。

 さすがにまだまだ壮年組ともなると達観した考えになるということだから、壮年組だけの区分になるということなんだろう。

 そうなると壮年組は、4つの組織を内在するということになるのかな?


「結構色々ありそうですね。各組織の拠点の部屋数や大きさを考える必要が出て来そうです」

「各組織の社交所となる部屋と幹部の執務室があれば十分でしょう。社交場となる部屋はこの指揮所ぐらいは欲しいでしょうね。執務室は私が暮らしていた部屋で十分です」


 一番大きな建物は、壮年組の建屋になるのかな。社交場となる部屋が4つに、それぞれの幹部執務室が4つと壮年組全体を統括する幹部たちの執務室が1つだから、宿屋ほどの大きさになりそうだ。

 それに、ここから離れた開拓村にも同じような組織を作らねばなるまい。さすがに大きな建物は作れないだろうが、各組織に合わせた独立した建物を作ってあげたいものだ。

 最初は手探りでの運営になるのだろうが、上手く壮年組を運営できる手腕を持つならマーベル共和国の大統領になって貰えるんじゃないかな。

 レイニーさんが投げ出したがっているんだけど、誰も名乗りを上げないからなぁ

このままだとずっとレイニーさんがマーベル共和国の代表者を続けることになりそ

うだ。


「今夜は、その話を詰めることになります。さすがに決定にまではいかないと思いますが、かなり集束してきた感じですね」

「ある程度詰めたなら、後は代表者を決めて貰いたいところです。代表者と調整して細部を詰めた方が会議が混乱しないで済むと思います」

「そうですね。先ずはやってみましょう。上手く行かなければ元に戻せば済みますからね。やらない前から悩む必要は無いと思いますよ」


 俺もレイニーさんも考え過ぎるきらいがあるからなぁ。

 ヴァイスさんなら直ぐに決まるんだろうけどね。


「エルドさん達は長城造りですか?」

「ヴァイスに任せると言って、今朝出掛けました。雪が降れば帰って来ると思いますよ。だいぶ寒くなりましたからね。焚き木の方はマクランさんと相談して、ガイネルが出掛けました。南の雑木林を来春に開墾する事前措置も兼ねているのでしょう」


 だいぶ高齢になってきたマクランさんなんだけど、未だに現役だからなぁ。

 獣人族の最長老になった感じだけど、鍬を振れば俺よりも早く耕すぐらいだ。『まだまだ壮年』という言葉はマクランさんそのものだな。


「ナナちゃんが今年の稚魚も元気に育っていると言ってました。気になるのは昨年放った貯水池の魚です。誰か釣った人はいるんでしょうか?」

「けっこう大きな魚が釣れたと聞いたことがあります。200ユーデ四方もある池ですから、沢山魚が棲んでいそうですよ」

「桶に数杯の魚を放っただけですからね。上手く稚魚が育っていてくれれば良いんですが……」


 確か10イルム近くの魚ばかりだったはずだ。大きな魚というぐらいだから2倍以上に育ったということかな? となれば当然産卵もしたはずだから、たまに釣り人の様子を見てみれば良いか。釣れなければ誰も竿を出さないだろうからね。


「唯一の心配は魔族ですね。今のところは東西共に安心できますが、石火矢をはじめ矢玉を使い過ぎました。今来られると、かなり厳しい戦になりそうです」

「来るとしても来春、雪が消えてからでしょう。それまでには何とかんなると思いますよ。エディンさんがたくさん火薬を運んでくれましたから、爆弾は現在でもそれなりの数があるはずです」


 従来型の火薬で作る爆弾ってことだな。混合比率と硝石の品質が低いのが問題だけど、あるに越したことはない。少しは安心できそうだ。


「そういえば、ガラハウさんが新型を6門揃えたと言っていましたが?」

「出来たんですか! それは何よりです。早速エニルと詰めないとなりませんね」


 これでようやく砲兵部隊が整うな。小隊規模だが1個分隊で2門なら運搬と操作に問題はあるまい。3個分隊に、1個分隊を新型石火矢の運用部隊にすればかなり活躍できそうだ。

小隊付きとして観測班を作らねばならないが、これは早めに準備しておく必要がある。小銃に距離計とコンパス、それに光通信機を持たせた数人の班を2つで良いだろう。


「魔族相手には、尾根は石火矢を使い、平地に出れば大砲を使うことで遠距離での攻撃が可能になります。更に長城で阻止出来れば、魔族に脅えることなく暮らすことが出来るでしょう」

「私達がこの世を去っても、マーベル国は繁栄できるということですね。兵士の数もだいぶ増えてしまいました。出来れば減らしたいところなんですが……」

「他の王国では兵士が生産することはありませんが、マーベル共和国では兵士も開拓や農作業を手伝っています。レイニーさんの言う通り減らしたいことは山々ですが、先ずは防衛を優先したいところです。それと、兵員数は6個中隊程度に維持したいところでもあります。現在より少し増えますけど、マーベル共和国の国境はかなり長くなっていますからね」


 2個中隊を機動部隊として維持し、西と東、それに南の城壁に1個中隊を配置しておきたいところだ。1個中隊は南の城壁の予備軍とすれば休養を取ることも出来るだろう。


「他の王国なら、100人に1人ほどが兵士になるんでしょうが……」

「マーベルは10人に1人というところでしょうね。国を作っても住民が少ない。その上魔族の襲来がある。しばらくは兵士と民兵を使って行かねばなりません」


 傍目には軍事国家に見えるかもしれないな。

 ティーナさんが長くこの地に居てくれたから、そんな噂は否定してくれるだろう。

 あくまでも、魔族の襲撃に備えるための戦力だけだからね。

 

「そうそう、父上とブリガンディ王都で会うことが出来ました。その時に確認してみたのですが、故郷に戻りたいと願う者は貴族連合内であるなら戻ることが出来ますよ」

「本当ですか! ……それは、今夜にでも知らせてあげた方が良さそうですね。私は口減らし組ですから、ここを故郷にするつもりです。でも、住民の中には帰還を願う者がいるかもしれません」


 さすがに元住んでいた家で暮らすことは出来ないだろうし、かつて耕していた農地を現在耕している者から受け取ることは出来ないだろう。

 かつて住んでいた村や町に、新たな土地を手に入れて済むことになるはずだ。

 上手い具合に、遠征で手に入れた金貨あるからね。帰還するのに役立てられそうだな。


「でも帰る人がいるでしょうか? 故郷は辛い思い出の地でもあります。私のようにこの地に暮らそうと思う人達の方が多いかもしれませんね」

「それはそれで良いでしょう。とはいえ、避難してきた者の中にはやはり故郷に帰りたいと願う者もいるでしょう。その思いを叶えてあげられる最後のチャンスとも思えます」


 時間が過ぎれば過ぎる程、故郷は懐かしく思えるはずだ。

 帰還という手段だけでなく、エクドラル王国、貴族連合との関係は良好だからなぁ。故郷で暮らすのを断念したとしても、もう1度故郷を見たいという人達もいるかもしれないな。

 レンジャーギルドに依頼すれば、そんな故郷を見るための旅人を引率して貰えるかもしれない。今夜の集まりに提案してみるか……。

               ・

               ・

               ・

 その夜の集まりは、いろいろと大騒ぎだった。

 途中からめったに来ない連中まで顔を出して、議論に加わるんだからなぁ。

 何とか年齢に応じた組織を新たに3つ作ることには同意させたし、とりあえずの責任者も任命することが出来た。後は彼らに使える人材を探して貰おう。

 新年に各組織の名簿と、仕事を提出して貰うことにしたのだが、早速空き家の取り合いが始まってしまったからね。

 ちゃんと出来るんだろうか?

 思わずレイニーさんと顔を見合わせてしまったぐらいだ。


  ブリガンディの帰還が可能だと説明すると、指揮所に集まった連中が頷いている。ブリガンディ王国が無くなれば、獣人族を虐待していた人間族もいないということになる。


「確かにチャンスではありますが……。私は、この地を故郷に決めました。辛い思い出の地は……、早く忘れるに限ります」


 水を打ったような静けさの中、マクランさんが小さく呟いた言葉が、やけに大きく聞こえた。


「そうだな……。確かに、ここが俺達の故郷だ。だが、中にはもう1度、かつての里を見たいという者はいるかもしれないなぁ」


 ガイネルさんの言葉に皆が頷いている。ここで暮らして行こうという思いはあるのだが、やはり忘れることが出来ないということなんだろうな。

 明日にでも、ギルドに相談してみるか。


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