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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
308/384

E-307 後は分配を残すだけ


「我等はブリガンディ王国民ではない。既に滅んだ王国民ではあるが、彼らの処遇に何の責任を持たぬことは確かだ。とは言っても、さすがに人道に反するような処置を行うことは出来ん。マーベル国には申し訳ないが、彼らの現状をみて溜飲を下げて欲しいところだ」

「構いませんよ。俺達はブリガンディの民には一切かかわりません。魔族掃討の邪魔になるので一時外に連れ出しただけですから」


 俺の言葉に、バイネルさん達の表情が少し険しくなる。

 何か言いだそうとしたようだが、この場での発言は控えてくれたようだ。


「生存者が千人を超えるなら、小さな村を作ることも出来るだろう。事前の取り決め通りに、旧ブリガンディ領のレイデン川付近に彼らの集落を作らせるつもりだ」

「冬越しは出来んじゃろう。開拓で暮らしを建てるには時間がかかると聞いたが?」


「3年は援助せねばなるまい。宮殿と王宮の財を頂いたのだからな」

「ならば、我が王国とて援助をせねばワシの矜持が立たぬ。頂いた財の内、銀貨の半分を食料援助に向けるぞ」


 少なくとも餓死者は出ないだろう。冬前に掘立小屋を作れば凍死することもなさそうだ。

 両王国ともに食料援助であるなら、反旗を翻すこともないだろう。


「マーベル共和国としては、彼らがレイデル川を渡るそぶりを見せるなら、即座に矢を放ち、銃撃を加えることにします。援助は一切致しません。俺達が彼らを殺すことがないだけで十分な温情になるでしょう」

「貴族連合も同じだ。分配頂ける財貨を使って長城を作る。長城内に彼らを住まわせるつもりはない」


 俺だけでなく兄上の言葉を聞いて、ますますバイネルさんの表情が強張っていく。

 そこまでするのかといった表情なんだが、獣人族が受けた恨みを思えばかなり穏便な処置だと思うんだがなぁ。


「なにもそこまでせぬとも……」

「そう思うのでしたら、彼らを引き取って貰っても構いません。近くにいるというだけで虫唾が走る連中です。彼らの迫害を逃れて建国したのがマーベル共和国ですからね。我等に彼らの措置を任せて頂けるなら、全員を1つの館に押し込んで火を放ちますよ。兵士達は喜んで館に押し込めるでしょう。親兄弟、子供達を惨殺されたのですからね。身内が見ている前で、ゆっくりといたぶられ殺されたのです」


 俺の言葉に、目を見開いている。

 生き残った者達の中には、そんな仕打ちから庇ってくれた者もいるだろう。だがその心魂にはしっかりと獣人蔑視の教えが刻まれている。

 そんな連中とは一線を隔てて、関わり合いを無くしたいのが俺達の願いだからなぁ。

 

「戦では……、たまに聞く惨状がここで起こったということか?」

「神殿の教えを曲解して民衆に広げたようです。神官による洗脳ですよ。国の治政に神の教えを取り入れるとこうなるのでしょう。このような事態を生むことが無いよう、マーベル共和国では宗教と国の運営は明確に区分しています」

「要するに狂信者ということになるのか……。なるほど理解した。それなら、自国に取り入れる等言語道断の話となるな。我が王国からの援助については、グラム殿と調整することにするぞ」


 彼らの移動はエクドラル王国軍が行い。大枠の版図を貴族連合とエクドラル王国で杭を打って彼らに示すそうだ。

 開拓の農具ぐらいは兄上達が用意してあげるに違いない。

 

「最後はブリガンディ領の区分けになるのだが、貴族連合より修正案が出た。これが新な区分けになるのだが……」


 テーブルに新たな地図が広げられた。

 5色に色分けされているが、一番の違いは貴族連合の版図が小さくなったことだ。


「西に町を1つ作るだけ広げると!」

「エクドラル王国についても同じだ。マーベル国はレイデル川の東に砦を作るだけの広さでしかなかったが同じ大きさの土地になる。もっとも魔族が遊弋する土地だからなぁ。我等と同じ広さということにしたかったのだろう」


「私が仕えていた王国領ではありますが、さすがに貴族連合の国力では再び魔族に蹂躙されるのが目に浮かびます。将来を見据えて長城建設を行う所存ですがやはり自分達の力に見合ったものでなければなりません。浜のヤドカリでさえ自分の体に見合った貝を背負うのですからね。欲を出しては国を滅ぼしかねません」


 およそ20トリム程広がった感じだな。

 町1つとは思えない広さだ。


「我等に反対する理由はないが……」

「マーベル共和国としても問題はありません。でも、当初の計画通り直ぐに撤収可能な砦を1つ作るだけですよ。魔族接近を早めに察知するのが目的の砦ですからね」


「将来は、砦を幾つか作って欲しいな。魔族の監視線を東に伸ばしてくれるなら、私達も助かる」

「同じことがエクドラル王国でも行われている。マーベル国との同盟軍が襲来してきた魔族軍を撃退しているぐらいだ。やはり魔族相手に1つの王国だけで対応するのは難しいところに来ていると感じている。その辺りの状況も王国に戻ったら上伸して欲しいところだな」


 うんうんと兄上とバイネルさんが頷いている。

 エクドラル王国と貴族連合、貴族連合と東の王国が同盟軍を作るのはそれほど先になるとも思えないな。


「それでは、貴族連合からの修正案は了承したということでよろしいな? ワシはこれで2つの王国の最後を見ることになってしまった。我が王国が2つの王国に続かぬ事を祈るばかりだ」

「衰退ではなく崩壊ですからね。衰退なら少しは是正も出来るのでしょうが崩壊は時間に余裕がありません。歴史書を読むと数多の王国が栄枯盛衰を繰り返しています。常に前向きの王国であることが望ましいとは思っていますが、その結果他国に迷惑をかけるのもどうかと思います」


「マーベル国を傘下に入れることが出来たなら、大陸南岸に覇を唱えることが出来るだろう。だがそれは容易ではない。場合によっては自らの王国が滅びかねん。それにマーベル国と協力することで国力が上がるというのも面白いところだ。エクドラル王国の貿易はマーベル国を知らぬ時代より数倍に規模が上がっているぞ」

「良い隣国に恵まれましたな。羨ましくも思えますが具体的には?」


 マーベル共和国で生産された品物をエクドラル王国が一括して買い上げ、それを貿易品として取り扱う事だとグラムさんが説明してくれた。

 簡単に言うと、そうなるのかな?

 その生産に必要な原材料は、エクドラル王国から入手していることも含めて説明して欲しいところだけどね。


「レオンに聞いたことがある。安く仕入れて高値で売るためには、仕入れ品を加工することが必要らしい。避難民を多くマーベル国に引き取ってもらったが、彼らの食料を工面するために色々な産業を考えたようだ」

「それが全て成功しているとなれば、羨ましく思えますな。我が国の商人も、マーベル国に入国することは可能じゃろうか?」


「問題ありません。とはいえ暮らしているのは獣人族だけですし、人間族に散々迫害を受けて来た者達です。可能であれば獣人族を主体にした隊商が望ましく思えますし、マーベル共和国で暮らすことは認めることが出来ませんよ」

「先ほどの一件で状況は理解したつもりじゃ。我が国の珍しい品を持っていくように勧めよう」


 特産物ってことかな? ちょっと楽しみになって来た。

 隊商の往来は街道筋にある町や村の活性化にも繋がる。兄上達にとっても嬉しい話になるだろう。


 改めてカップにワインが注がれ、もう1度乾杯したところで協議は終わりになる。

 明日は運びだした財宝の分配になるんだがヴァイスさんに任せておこう。

 俺には目利きが出来ないからなぁ。ヴァイスさんの感性に任せた方が安心できそうだ。


「だいぶ国を留守にしています。分配を終えたなら早々に戻りたいのですが?」

「マーベル国が一番遠くだ。荷物の運搬は何とかなるのか? 数日待つが良い。至急商会に手配させよう」


 グラムさんの計らいに、ありがたく頭を下げる。

 エディンさんとは限らないだろうが、10台もあれば助かる話だ。

 負傷者もいるからなぁ。歩かせるわけにもいかないだろう。


「ティーナは、ワシと一緒に政庁の館に戻るぞ。デオーラが待っているはずだ」

「母上が? 何かあるのでしょうか」


 ティーナさんの問い掛けに、ユリアンさんと顔を見合わせる。本人はまだまだ身を固めようとは考えていないみたいだな。

 兄上達は、すでにテントを出て行ったようだ。

 ナナちゃんと一緒に席を立つと、改めてグラムさんに頭を下げるとテントを後にした。

 俺達の陣に戻ったところで、エニルとヴァイスさんを呼んで貰い。明日の分配について話をする。エニル達には帰国準備を進めて貰おう。

 ヴァイスさんの部隊とエニルの部隊から1個小隊をこの場に残して、他の部隊は城壁の外で商会が荷馬車を仕立ててやって来るのを待つことにしよう。


「なるべく高く売れそうな物を集めるにゃ」

「その辺はお任せしますが、順番に選ぶことになります。次はどれを選ぶか、いくつか見付けておくと早めに終わると思いますよ」


 笑みを浮かべて頷いてくれたけど、大丈夫かな?

 まぁ、何を選んでも少しは共和国の財産を増やせるに違いない。金貨の分配だけでも数十枚にはなりそうだからね。


 荷車近くで適当に毛布で体を包む。

 ナナちゃんは荷車の上で横になったようだ。ヴァイスさんと一緒だから寒くはないんじゃないかな?

 明日はテントで休めるだろう。

 

 翌日。ナナちゃんにいつもの通り起こされると、近くの焚火に向かってポットのお茶を頂く。

 乾燥野菜と干し肉のスープにはだいぶ慣れたけど、硬いビスケットにはそろそろ飽きてきたところだ。

 今日の夕食は、小母さん達が作ったパンを食べられるかもしれないな。


 食事が終わったところで、もう1杯お茶を頂きながらパイプに火を点ける。

 周囲を眺めていると、すでに撤収準備が始まっているようだ。荷車と一緒にヴァイスさんが移動していったのは分配された荷を運ぶためなのかもしれない。そんなに多く分配されるんだろうか?

 出来れば運びやすい品を選んでくれれば良いんだけどね。


「ナナちゃんは、今日はなにをするんだい?」

「ヴァイス姉さんのお手伝いにゃ。『迷ったら大きい方を取るにゃ!』って言っていたから心配にゃ」


 思わず笑みが零れる。

 確かにヴァイスさんなら大きい方を選ぶだろう。

 でも緻密な細工品はかなりの値段で取引されるかもしれない。ここはナナちゃんに見守っていて貰おう。


「頼んだよ!」と言ったら、笑みを浮かべてヴァイスさんの後を追いかけて行った。

 どんなお宝を運んで来るのか、ちょっと楽しみだな。


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