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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
305/384

E-304 掃討戦(お宝さがし)を始めよう


「やはり魔族は3つに分かれて押し寄せてきたようだな。それにしても戦死者を出さぬとはなぁ……」

「石火矢をエントランスの奥に何度も放ちましたから、あの通り宮殿の真ん中が崩落してしまいました。そのおかげだと思っています」


 感心したグラムさんに、偶々上手く行っただけだと伝えたつもりだが、目を細めて小さく何度も頷いている。

 兄上が笑みを浮かべて肩をポンと叩いてくれた。

 俺の頑張りを認めてくれたのかな? 


「だいぶあちこちに穴が開いておりますなぁ。宮殿ともなればそれなりの美術品もあったのでしょうが」


 バイネルさんは少し残念そうだな。

 戦利品の略奪も目的の1つだったのかもしれない。

 

「既に勝敗は決したが、まだまだ魔族が潜んでいるだろう。さすがに夜に前進するのは危険だ。明日の早朝から掃討戦を始めるが、宝物品については事前の取り決めを守って欲しい」

「宮殿内に大広間がいくつかありますから、そこに集めましょう。宮殿であれば、東西のこの位置です。王宮であれば謁見の間となります。とはいえ、あれだけ石火矢を撃ち込みましたから、破壊されている可能性が高そうです」


 それならということで、指揮所に使っていたテントを宮殿前の広場の一角に建てることになった。

 2張り用意できると言っていたから、それで十分だろう。


「王宮の掃討は、東西の部隊で行いたい。マーベルは宮殿を担当してくれ」

「王宮に多くの魔族が残っている可能性は?」

「居たとしても小隊単位でしょう。それぐらい何とか出来ると思いますが?」


 バイネルさんの懸念を兄上がやんわりと諭している。

 小隊程度なら俺達でもなんとかなりそうだな。

 怪しい部屋があったなら、とりあえず小型の爆弾を放り込んでから入れば良いはずだ。


「宮殿のエントランスがあの通りだ。王宮へは東西から回り込まねばならん」

「破壊は宮殿で治まっているようです。宮殿と王宮の距離は100ユーデ程ありますから、王宮のエントランスは健在の筈です。とはいえ、王宮にはいくつかの出入り口があります。東西のこの位置、それと裏手のこの位置です。掃討を始める前に兵を配置しておく必要がありそうです」


 宮殿も考えないといけないな。

 偵察部隊を作って、宮殿を一周させてから始めるか。


「1つ、よろしいですか? 王都には4つの神殿があったはずですが……」


 気になったので確認してみることにした。

 俺の問いに答えてくれたのは、兄上だった。


「全て破壊したよ。地下室に閉じ込められていた民間人については、事前の取り決め通りに対応するつもりだ。4つの神殿を合わせても、500人ほどでしかない。かなりやつれた姿だったが、数日食事をすれば元に戻るだろう」

「神官はいなかったのですか?」


 俺の問いに兄上が無言で頷いた。

 逃げ出したのか、食われたのか……。元凶がいなくなれば、後は時間が解決してくれるに違いない。


「生存者については、それで良いだろう。まだ見つかるかもしれんから魔族と間違わぬようにしてくれよ。それでは掃討戦については明日の朝から、運びだせる物はあの辺りに作るテントに運ぶ。最後に生存者は……、そうだな。もう2つ程テントを作るか。そこに収容して欲しい。以上だ!」


 最後にワインを各自にカップに注いで、少し早い戦勝を祝うことにした。

 帰り際に兄上が、焚火で一服を始めた俺のところにやってきて隣に腰を下ろす。


「やはりレオン殿は、オリガン家の名を持つだけのことはある。グラム殿は魔族が3つに分かれたと言っておったが、主力はやはりここだったようじゃな。我等のところにやって来た魔族はこの半分を少し超えたぐらいじゃろう。それでも10人以上の戦死者を出してしもうた……」

「あの崩落で助けられました。石火矢が尽き、放炎筒が尽きた時は乱戦になりましたからね。オーガが何度か姿を現しましたが、どうにか倒せたぐらいです」


「謙遜は良くないぞ。父上にもしっかりと報告するからな。それと、貴族連合は長城建設に動くようだ」

「民衆への仕事の斡旋ですか?」

「それもあるし、完成したなら街道の北を安全に開墾できる。ブリガンディ王国は滅んだが、貴族連合は大きく育つに違いない」


 新たな王国にはならないんだな。

 数家の貴族が合議制で国家を運営するということになるんだろう。

 どんな名称になるのか楽しみだな。


「頑張れよ!」と言い残して、兄上が去って行った。

 椅子から立ち上がって、兄上の姿が見えなくなるまで背中を眺める。

 やはり兄上の存在感は半端じゃないな。

 

「弟思いの兄上なのだな」

「家族の優しく、民を思う心があるんですから……。兄上が国王になったら、さぞかし立派な王国が出来ると思います。でも……、兄上の子供、その孫が必ずしも兄上と同じ人格者とは限りません。兄上は王国を作る気はないようですね」


「残念だな。だが、レオン殿の考えも分かるつもりだ。エクドラル国王陛下もそれを憂いてると父上が話してくれたのだが、その後に本を何冊か渡されたぞ」

「歴史書ですね。王国の長い歴史の中で、何度か王国の危機があったということなのでしょう」


 驚いて俺に顔を向けたティーナさんが、苦笑いを浮かべて小さく頷いた。全て読んでないようだな。

 ユリアンさんも、ジト目でティーナさんを見ているようだから、考えることは同じらしい。


 トコトコとナナちゃんが走ってきて、俺達にテーブルに着くように言い付けると直ぐに南に向かって走って行った。

 とりあえず言われた通りに席に着いていると、バスケットを持った伝令の少年達を引き連れてナナちゃんが帰って来た。


「夕食が夜食なったにゃ。でも食べないともったいないにゃ」


 ティーナさん達も一緒だったのは都合が良い。

 簡単な夕食だけど、具沢山のスープは美味しそうだ。


「他の兵士達も食べてるのかな?」

「交代で食べると言っていたにゃ。貴族街の入り口にテーブルがたくさん並んでいたにゃ」


 なら問題ない。ナナちゃんも加わって4人で食事を始めることにした。


「明日は宮殿内の掃討になるが、レオン殿はどのように?」

「トラ族兵士にイヌ族とネコ族の兵士を同行させれば、魔族に不意打ちを受ける危険性は少ないでしょう。俺の出番はないですよ。エントランスを越えて王宮を眺めて来ようかと考えてます」


 だいぶ砲撃を加えたからなぁ。その確認もしておきたいところだ。

 宮殿と異なり、王宮はかなり頑丈だと聞いたことがあるから、あの砲撃でどれぐらいの損傷を受けたか知っておくべきだろう。

 食事を終えると、ユリアンさんがワインのビンをバッグから取り出した。

 勝利の美酒はいくら飲んでも飽きることが無いんだよなぁ。


 テントは準備していないから、テーブルに体を預けるようにして目を閉じる。

 ナナちゃんは俺にもたれて既に夢の中だ。

 季節が晩秋だったなら風邪を引きそうだけど、まだ初秋も良いところだ。バッグからマントを取り出して俺とナナちゃんを包んである。これなら結構暖かいんじゃないかな……。


 翌日。いつも通りにナナちゃんに体を揺すられて目が覚める。

 俺が目覚めたのを確認したナナちゃんが、どこかに駆けて行く。

 直ぐに戻って来たけど、手にはコーヒーの入ったカップがあった。

 しばらく飲んでいなかったけど、ナナちゃんは道具を持っていたのかな?

 ありがたく頂いて、携帯食料のビスケットを齧りながらゆっくりとコーヒーを飲む。

 結構苦いな……。これで目が覚める感じだ。


「皆食事を終えてるにゃ。今日は忙しいって聞いたにゃ」

「そうだね。それなら伝令に少年達に小隊長を集めるように言ってくれないか? ティーナさんも聞きたいだろうけど……、姿が見えないね」

「ティーナ姉さんはエントランスの検分に行くと言ってたにゃ。直ぐに戻ると言ってたにゃ」


 状況確認ということか。本来なら俺も行くべきだったな。

 食事を終えたところで、カップに残っているコーヒーにお湯を足して、一服を楽しむ。やはりコーヒーとタバコは良く合う。


 そんな俺の元に小隊長達が集まりだした。

 ティーナさんもいつの間にかテーブルの席に着いている。


「さて、俺達は宮殿の掃討を仰せつかった。今日1日で宮殿を調べることになるが、5つの班を作るぞ。1つの班はトラ族1個分隊に、ネコ族とイヌ族を2人ずつだ。

 分隊長は増え柄を持っているはずだから、緊急時にはそれを2度続けて鳴らしてくれ。その時に駆け付けるのは……、エニル達だ。2個小隊をエントランス付近で待機させてくれ。1、2班がエントランスの東。3、4班がエントランスの西を担当する。5班は地下室の入り口を探してくれ。見つけたなら、中の魔族の掃討を頼むぞ」


「それだけですか? 皆で掃討した方が早く終わる気がしますが」

「かえって混乱してしまいそうだ。そうだ。残っている小型爆弾があれば、掃討班のトラ族兵士に渡してくれ。危険だと判断したなら部屋に突入する前に爆弾を投げ込めるからな」


 人選は彼らに任せよう。だけど絶対にヴァイスさんは参加するんだろうな……。


「地下を調べるのは、やはり人間が囚われていると?」

「それもありますが、お宝目当てでもあります。……そうだ! 掃討班は売れそうな品の持ち帰りも考えて欲しい。場合によっては先ほどの人数が増えても良いぞ」


 俺の言葉に小隊長達が笑みを浮かべている。人選次第では不満が出てしまいそうだからなぁ。

 荷物運びと言っても、実際には掃討戦に加わることになるはずだ。


 しばらく大騒ぎをしていた小隊長達が手を取り合って握手をしている。どうにか同意できたということかな?


「人選完了です。直ぐに始めてもよろしいですか?」

「そうしてくれ。俺もエントランス付近で待機する。何かあれば伝令を走らせてほしい。エニルのところが1個小隊残っているはずだから、宮殿を1周させてくれないか? 出入口があれば塞いでほしい」

「了解しました。それでは後程……」


 小隊長達が自分の小隊に走っていく。

 さて部下達から突き上げを食らわねば良いんだけどね。


「私達も、あの瓦礫まで行くのかにゃ?」

「そうだよ。ここに光通信が出来る伝令を置いてくれないか。そうすればグラムさんまで通信を繋げられるからね」

「直ぐに、準備するにゃ!」


 指揮官はどこにいても良いはずだ。ただ死連絡が着く範囲で……、という事になるのだろう。

 短槍を荷車から取り出して、ナナちゃんの帰りを待つ。

 既にティーナさん達は準備を終えているからなぁ。ナナちゃんも矢筒を下げていたから、準備を終えているに違いない。


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