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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
304/384

E-303 勝鬨を上げよう!


 土埃が晴れると同時に、獣じみた大声を上げて魔族が瓦礫を越えて押し寄せてきた。

 放炎筒が紅蓮の炎を吐き出して魔族の勢いを削いだところに、銃兵達が一斉射撃を始める。

 弓兵達が残っていた爆裂矢を放つと、放炎筒の間からトラ族兵士が小型の爆弾を投げる。

 炸裂する爆弾で、互いの上げる雄叫びがかき消されている。


 放炎筒の2番手の炎が消えると、銃兵の銃弾をかいくぐった魔族が、前列のトラ族兵士とぶつかり始めた。

 いよいよ白兵戦ってことかな?

 短槍を掴んで前列に向かう。ティーナさん達もついて来るようだ。


 移動柵に近づいたゴブリンに鋭い突きを入れて素早く槍を引き抜く。

 案外引く方が力がいる感じだな。

 3体を葬ったところでエントランスの瓦礫に目を向けると、棍棒を手にしたオーガがゴブリンの死体を乗り越えてくる。

 数は……、3体だな。

 トラ族兵士が、ウーメラを使って短槍を投げている。

 オーガが棍棒で振り払っているから、動きが鈍いように思えるけどそうでもないようだ。

 それでも、何とか1本が胸元に突き立つとその場で棍棒を振り回し始めた。短槍が半分に折れているが、まだ胸元から槍が外れることはない。

 あれなら、何とかなるだろう。

 俺は……、次のオーガを狙うか!


 瓦礫をゴブリンと一緒に乗り越えてきたオーガに短槍を構えて走り寄る。

 錆びた片手剣を振りかざすゴブリンに短槍を横殴りに叩きつけると、その場に倒れ込んだ。すかさず槍を突き刺して前に進む。


「悪いな! あのオーガは貰ったぞ!!」


 俺の横を2人がすり抜けて行った。

 思わず舌打ちをしてしまった。

 獲物を取られてしまったな……。

 仕方がないからティーナさん達に群がるゴブリンを始末していると、オーガと互角に打ち合っていたティーナさんの体がふらりと傾くのが見えた。

 靴底が小石で滑ったのかな?

 笑いながらオーガが大きく棍棒を振りかざしている。ユリアンさんはゴブリン達を牽制するのがやっとのようだ……。


「いっけぇぇぇ!」


 大声を上げながら短槍を投擲すると、無防備の脇腹に突き刺さった。

 振り上げた棍棒を下ろし片手で脇腹の槍を引き抜こうとするオーガに、ティーナさんが大勢を立て直して長剣を振り下ろした。

 

 ズン……!

 そんな音が聞こえた気がする。袈裟懸けに切り下したティーナさんの長剣はオーガの体を切り裂いただけでなく、片腕までも両断している。


「助かった。礼を言うぞ!」

「これぐらいはしませんと……。さて、まだ出て来るようですよ!」


 まだまだ魔族が溢れ出る。

 チロチロと燃えている残骸で小型爆弾に火を点けると、魔族の中に放り投げる。

 10体程が吹き飛んだけど、負傷した魔族もいるに違いない。

 それにしても切れ味が凄いなぁ。

 ユリアンさんの長剣もそれなりの品なんだろうが、さすがに斬鉄剣と言われるだけのことはある。


 俺もそろそろ長剣を使うか。

 背中の長剣を引き抜き、右手にはベルトの短剣を握る。

 長剣ではなく、少し長めの片手剣が俺の得物だ。

 乱戦にはこれが一番だろう。

 一刀両断なんてことは出来ないが、相手に重傷を負わせることは可能だ。

 とどめは、エニル達銃兵の銃剣に任せよう。


 クルクルとゴブリンの間を動いていると、俺の前にナナちゃんが急に現れた。

腕を前に伸ばして気合の籠った声で魔法を唱える。

高さ3ユーデほどの炎の壁が出現し、エントランスの残骸に向かって動いていく。

十数秒であっても貴重な時間だ。

肩で息をしながらゆっくりと呼吸を整える。


「ありがとう。でも、ナナちゃんは俺の後ろで守ってくれるとありがたいな」

「分かったにゃ。たくさん出てきたから魔法を使ったにゃ!」


ナナちゃんの頭をポンポンと叩くと、笑みを浮かべて後ろに下がってくれた。

頼りになる従者だな。

ティーナさんが俺に顔を向けて小さく頷いている。 

やはり、ナナちゃんが作ってくれた休憩時間で上手く体を休めることが出来たのだろう。


「まだまだ出てきますね……。今度は、オーガはいないみたいですよ」

「なら、切り払うまでだ。ユリアン行くぞ!」


 炎の壁が消え去ると再び魔族が溢れ出る。

 エントランスの崩壊でかなり葬ったと思ったんだがなぁ。東西の寄せ口も同じなんだろうか?

 ここと違って戦力が厚いから、配送するようなことはないと思うんだが……。

 

 それにしても、多すぎる。

 銃兵達の銃撃もいつしか途絶えてしまったし、矢も後方から飛んで来ない。

 矢玉が尽きたということなんだろうか?だいぶ持ってきたように思えるんだが……。


「ここは一時俺達が守ります。後方で一息入れてください!」

「10分程度頼んだぞ!」


 トラ族の兵士が軽装歩兵と元場を交代していく。

 ゴブリン相手なら軽装歩兵でも十分だし、短槍使いの名人ばかりだからなぁ。

 ティーナさんが後ろに下がるのを見て、ゴブリンを斬りつけながらゆっくりと後方に向かった。


 テーブルに、沢山のお茶のカップが乗っている。1個を手に取り、ごくごくと飲み干す。

 カップを戻しながら、宮殿に目を向けると相変わらずゴブリン達が沸いてくるようだ。


ふと荷車を見ると、石火矢が4本乗っている。

 王宮用に取っておいた新型だな。

 これだけ魔族が出て来るなら、王宮には魔族はいないんじゃないかな?

 エニルがお茶のカップを手に取っているのを見つけたので、残った石火矢を魔族に向かって放つように指示を出した。

 

 直ぐに4本の石火矢が飛んでいく。

 炸裂音と共に、ガラガラと更に宮殿が崩れ始めた。

 兵士達が一斉に後退するのは、凄い埃だからだろう。


「これで打ち止めだな……」

「いえ、城壁外の荷車にまだ残っているはずです。城壁内に持ち込んだのは先ほどの石火矢が最後です」


 思わずエニルに顔を向けた。

 まだ残っているだと! なら早く運んできた方が良さそうだ。

 伝令の少年達と銃兵数人を急いで向かわせることにした。


「前部使ってしまったと思ってたよ。さすがに砲弾は無いんだろう?」

「砲弾は全て撃ちこみました。もっと作っておくべきだったかもしれません」

「いや、これで十分だろう。あの大砲は戻ったなら潰してしまうはずだ。3トリムは飛ぶけど、発射が面倒だからなぁ」


「あれで、面倒だというのか? 私には十分に思えるのだが」

「1発撃つ毎に、砲身内を水で濡らした布を押し込んで火薬の残り火を掃除しないといけないんです。それを忘れたら、発射薬を入れた途端に爆発しかねません。砲弾の火薬量は石火矢よりも多いのは魅力ではあるんですが……」


 近くに会った松明でパイプに火を点ける。

 まだ休んでいても大丈夫だろう。


「それにしても多すぎませんか? 東西の方はどうなっているんでしょう?」

「気にはなっていますが、たまに爆弾の炸裂音が聞こえてきましたから、向こうも激戦ではないかと」

「我等はここを守れば良い。4軍の合意でもあるのだからな。激戦であっても寡兵であるマーベルに援軍を依頼することはないだろう」


 それもある。もっともあれだけ爆弾を撃ち込んだんだから、魔族軍も戦力は半減しているだろうし、抜け道を使って北に逃れた魔族も多いらしい。

 もう一踏ん張りというところだろう。


「さて、最後を片付けるとしますか!」

「そうだな。休んでいる内に魔族を討ち取ってしまったなら、我等の矜持にも関わる。ユリアン行くぞ!」


3人で再び最前線に向かう。

 ゆっくりと休めたから、思う存分片手剣を振れるだろう。

 長剣を振りかざして魔族の群れに飛び込む。

 向かって来るゴブリンを倒していると、たまに横から挑んでくるゴブリンに矢が突き立つ。

 ナナちゃんの矢はまだ残っていたみたいだな。少しは楽ができそうだ。

 次々にゴブリンを切払っていると、突然ゴブリンが俺の前からいなくなった。

 周囲を眺めると、立っているゴブリンは10体もいないし、瓦礫を越えてくる魔族の姿もない。

 どうやら凌いだのかな……。


「皆! 勝鬨だ!! ウッラァァァ!!」

「「「ウッラァァァ!!!」」」


 雄叫びが夕空に吸い込まれていく。

 後方に歩いていくと、伝令の少年達に各小隊長に被害を確認して荷車に集まるよう指示を出す。

 これで魔族をほとんど倒したことになるんだろうが、宮殿内と王宮が残っている。

 暗闇の中で残った魔族狩りをするよりは、一夜明けてからの方が良いだろう。

 その辺りはグラムさんも考えているだろうから、指示待ちをすれば良いか。


 小隊長達が集まって来た。

 カップ半分ほどのワインを配り、軽く労いの言葉を掛ける。


「何とか、凌げたな。これで8割方魔族を倒せたはずだ。それで受けた被害は……」


 隣のナナちゃんが小隊長達の報告をメモに書きとめてくれる。

 きれいな字だから読みやすい。俺だと自分でm御悩む床があるからなぁ。

 

 書きとめられた数字を頭の中で足していく。

 重傷者が7人に、軽傷者が32人……。戦死者が出なかったのが不思議なくらいだ。

 

「負傷者は城壁近くに下げた方が良いだろう。治療魔法が使える者を数人同行させてくれ。皆、良くやってくれた。戦死者が出なかったのは皆の努力以外の何物でもない」

「レオン殿達も頑張ってくれたではありませんか。オーガ相手の戦いは我等トラ族並みでしたぞ」


 そんな言葉に、苦笑いを返すだけだ。

 ティーナさん達も少しは満足できたのかもしれないが、2人ともチェーンメイルが返り血で染まっている。早めに拭き取った方が良いんじゃないかな。


「エクドラル王国軍からの伝令です! 『西の戦は終了。総指揮官がマーベル国陣地に向かう』以上です!」


 イヌ族の兵士が、俺達の輪の中に入って報告してくれた。

 やはり東西共に大戦だったのだろう。

 グラムさんの来訪は、状況確認と最後の掃討戦の段取りということになるのかな。


 小隊長達を解散させたところで、エニル達に簡単な会議の場所を作って貰う。

 テントを張ることなど出来ないから、焚火を作ってあちこちから集めた椅子をテーブル代わりの盾の周りに置いただけだ。

 あれだけの魔族を倒したんだから、お茶よりもワインになるんだろうな。

 魔法の袋からワインのビンを2本出して、エニルに預けておく。


「私も何本か持っていますから、随行人にも配りましょう。テーブル席の後ろに簡単なベンチを作りました」


 ベンチというより、板や柱を木箱の上に載せただけの代物だ。

 とりあえず座れれば問題ないはずだ。皆疲れているだろうからね。副官や随行人だって、少し前までは長剣や槍を振るっていたに違いない。


「あれは……、レオン殿の兄上達だな。さすがだな。まるで争った様子が見受けられん」

「兄上ですからねぇ……。魔族を斬り払って、その返り血を炙る前に次の魔族を倒していたに違いありません。俺にはそこまでの技量がありませんから、ナナちゃんが魔法で除去してくれました」

「我等はユリアンが除去してくれたのだが、早めにもう1度行わねばなるまい。認識できた範囲というのが、唯一の課題だ」


 便利だけど、課題もある。まぁ、それが魔法の特徴でもあるのだろう。

 だけど、使えるなら積極的に使うべきだろう。

 先ほどの戦でも、何度か火炎弾が飛んでいくのが見えたからね。獣人族は人間族に比べて使用できる魔法の回数は少ないが、それでもいざという時にすぐに使える魔法は便利だと思うな。


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