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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
302/384

E-301 王宮を前にして


 深夜になって、どうにか貴族街と王宮を分ける鉄柵まで陣を進めた。

 入口は南門まで真っ直ぐ続く、門が1つあるだけだ。

 門と言っても、車輪の付いた鉄の柵が2つ左右に動くようになっている。1つ10ユーデもありそうだから、かなり大きな門になる。


「作りはどこも似たようなものだな。宮殿がだいぶ破壊されているが、焼け落ちることはなかったか……」

「もっと砲弾を運んで来るべきだったかもしれませんが、これぐらいで満足して頂けるとありがたいです」


 数門を運んで連日砲弾を撃つなら、破壊も可能だろう。

 色々と試作した中で、何とか実用化できた大砲だからなぁ。駐退機の付いた後装式の大砲が完成しなければ、この大砲を量産することになっただろう。

 試作品だから、砲弾も余り作っていなかった。

 マーベルに戻ったなら、あの大砲をガラハウさんは潰してしまうんじゃないかな。


「父上も工房に試作させているようだが、数を撃てぬと言っていたぞ。遠くには飛ぶが威力を考えると石火矢を試作させた方が良いように思える」

「ティーナ様。あの破壊跡とあちらを見てください。石火矢で壁を抜くことは出来ないようです」


 ユリアンさんは気が付いたみたいだな。

 石火矢は貫通力が無いんだよなぁ。構造的な問題もあるのだろうけど、砲弾から比べればはるかに落ちる。

 砲弾は肉厚を数倍にすることが出来るし、先端部にいたっては1イルム近い厚さがあるだろう。石壁を砕くだけでなく貫通して破壊することが可能だ。

 魔族相手には砲弾の厚さをそれほど必要としないだろうから、新型大砲の砲弾は炸裂時に破片を広範囲に散らせるような構造を考えるべきかもしれない。


「レオン殿。あの大砲が数門あるなら、どの王国の王宮も破壊できるのではないか?」

「可能でしょうね。ですから大砲の技術については、最初に作った大砲で満足してくれませんか? あの大砲を互いの軍が撃ちあったなら、それは戦の質が変わってしまいます」


 人間同士の戦であるなら、ある程度の手心というか、人道的な対応も可能だ。子供が武器を取って向かって来たなら、命まで取ろうとする兵士はいないんじゃないかな。

 だけど石火矢や大砲を使えば、向かって来る兵士どころか、家の中で震える一般人まで巻き込んでしまいかねない。

 

「最終的には数の勝負になるでしょう。多くの大砲を揃えて、相手の放つ砲弾の数よりも多くの砲弾を放てば良いだけになります。それが出来るのは国力のある王国だけになるでしょうから、数十年ほどで巨大な王国を築くことが出来ますよ」

「だろうな……。それが出来るのに、レオン殿は手を上げぬのが不思議でならん」

「民間人を巻き込むような戦で国を大きくするような人物にはなりたくないですね。ただし、ブリガンディ王国は除きます」


 これが1つの教訓になれば良いんだけど、各王国の神殿や教会はそれを民衆に広めることが出来るだろうか?

 統治の1つのやり方として取り入れるようなことが無ければ良いのだが……。


「国政に神殿が口を挟む、それがブリガンディ王国の瓦解に繋がったことはエクドラル国王陛下も重くみていると父上が話してくれた。神殿側としても自ら一歩下がるしかあるまいな。ブリガンディの神官と同じと見られたくはないだろう」

「周りを見ることが出来る国王であれば、王国を長く維持できるでしょう。とはいえ、国王を取り巻く重臣達にも注意が必要でしょう。歪んだ情報を与えることが無いようにしたいところですね」


 国の統治は色々な形態があるらしいけど、どれもが欠点を持っている。

 賢王が統治しても、その子供が必ず賢王になるとは限らない。

 長老政治も良いけれど、事なかれ主義になってしまいそうだ。かといって、民衆の代表者というのもねぇ。マーベル共和国は、集団の代表者で国を治めようとしているけど、まだ人口が少ないから出来るようなものだ。10万人規模になったら、代表者の選択方法を考えねばなるまい。

 

「中々難しいところだな。重臣が必ずしも正確な情報を伝えるとは限らんからな」

「1人ではなく複数から情報を得ることで、少しは改善できますよ。その見極めが出来るなら後世に賢王と呼ばれることになるんでしょうね。少なくとも現在の国王を賢王と讃えるよう名人物がいるのであれば少し心配になります」


 奸臣、佞臣に惑わされることが無いような人物ならば良いのだが、得てしてそんな人物を評価してしまう国王が多いようだ。

 父上の書斎の歴史書を見る限り、重臣をいかに用いるかで王国の行末が決まるようにも思える。

 諫言にはしっかりと耳を貸すべきだろう。


「エクドラル国王陛下は賢王と評判だが、レオン殿はそれは間違いだということか?」

「国王陛下の考えは良く分かりませんが、少なくともその言葉を聞いた国王陛下がどのような表情を取るのかを一度見た方が良いでしょう。笑みを浮かべるか、苦笑いを浮かべるか……。苦笑いを浮かべるようなら、後世で賢王と呼ばれるでしょうが、笑みを浮かべるのであれば、そうとは限りません」


 自己否定が出来る人物であるなら諫言を聞き入れることも出来るだろうが、笑みを浮かべるようなら自己満足に浸っているともいえる。諫言を否定するに違いない。愚王と言いたいところだけど、ここは言葉を濁しておこう。


「父上なら、その場を見たことがあるに違いない。1度聞いてみるか」

「レオン殿が理想とする国王陛下の人物像について教えてください。ティーナ様も、グラム殿にそのまま聞くようなことはしないでくださいね」


 ユリアンさんがやんわりとティーナさんに忠告している。よくできた副官だな。

 それにしても理想の国王ねぇ……。


「俺の私見で良いよね。そうだなぁ……」


 王国内の課題を重臣達に調査させ、その課題の優先順位を定めることが出来る人物。課題の内容を吟味し、その対応を任せることが出来る重臣を持つ人物。

 結果の評価が出来る人物……。そんなところだろうか?


「国王陛下自らが対応方法を示すのではないんですか?」

「それは臣下に任せられるはずです。自分ですることはないと思いますよ。決断して、分配し、結果を評価すれば十分に思えます。重臣にその一部でも渡すようなことがあれば、将来に大きな歪が出来兼ねません。それと大事なことですが、重臣の世襲は止めた方が良いと考えます。重臣の子が重臣の器であるとは限らないですし、己が家の既得権益と勘違いする輩が出るようでは王国の先行きが心配です。まともな重臣が5人いるなら愚王であっても王国は存続すると思いますよ」


 案外王国の盛衰は、国王とそれを取り巻く人物で決まる気もする。

 その一番良い例が、ブリガンディ王国だからなぁ。


「マーベル国は、あえて国王を作らないのはそういう理由なのか?」

「宰相が国を統治しているようなものです。宰相は世襲ではありませんからね。王国なら国王が選ぶのでしょうが、マーベルでは皆の意見で決めてます」


 そんな話で時間を潰しているのだが、兵士達は忙しく動いている。

 後方から移動柵をいくつも荷車で運んでいるし、直ぐ近くでは焚火に三脚を作り大きな鍋を2つも掛けている。

 小母さん達だけでなく、クロスボウを背負った少年達も一緒になって野菜を刻んでいるから、少し遅めの昼食は豪華になるんじゃないかな。


 城壁からの状況確認ということで、現在石火矢の発射を止めているんだが最下位を指示する連絡はまだ無いようだ。

 聞こえてくるのは、東のフイフイ砲から放たれる爆弾の炸裂音だけだ。

 西からは聞こえなくなったが、またフイフイ砲を移動しているのかもしれないな。

 

 鉄柵越しにパイプを咥えながら宮殿を眺める。

 だいぶ破壊されてはいるが、崩れることはない。何か所かの窓から煙りが出ているけど、炎は見えない。

 3階建てだから、元々が頑丈には違いないが……。


「レオン殿、各国の指揮官がここに来るとのことです!」

 

 俺を探していたんだろうか?

 伝令の少年が息を切らせながら伝えてくれた。


「ありがとう。まだまだ続くから、休める時には休むんだよ」


 俺の声に笑みを浮かべながら後方に走っていく。少年達が元気で何よりだ。

 少し後ろに下がると、エニルを呼ぶ。

 さすがに立ち話というわけにもいかないだろうし、テーブルも広げるべきだろうな。

「直ぐに準備します!」と数人の兵士に声を掛けて探し始めた。


 何とか席を設え、焚火近くにポットを置いてお茶の準備もしておく。

 小母さん達が作っていたスープは当に出来たらしく、少し離れた場所で兵士達に振舞っていた。


 後方からやってくると思っていたんだが、鉄柵沿いに3者が現れた。

 とりあえず用意したテーブル席に着いて貰ったところで、ナナちゃんがお茶を皆に渡してくれた。


「ここまでは順調そのものだ。さすがに宮殿の裏の林に魔族が蠢いていると聞いた時には驚いたぞ」

「魔族が逃げ出していた抜け道である祠は破壊してしまったよ。これで魔族は私達を倒すか、それとも倒されるかの2つに1つとなってしまった」

「人間同士の戦ならば抜け道を残すのも手じゃろうが、魔族相手ともなればのう」


「早い話が、殲滅を目的として戦うことになるということになります。しかも死兵となった魔族を相手に……」


 俺の言葉に皆が頷く。


「マーベルには申し訳ないが、我らが東西の寄せ口を塞ぐ間、中央のエントランスから飛び出す魔族を阻止して欲しい。15分で良い。それで我等は東西に部隊を展開できる」


 グラムさんが絞り出すような声を出して俺に指示を伝えてくれた。

 それぐらいなら、何とかなるんじゃないかな?

 だけど、万が一にも中央の通りを塞いでしまったら宮殿の東西から魔族溢れ出て来そうだ。


「何とかしましょう。ですが、場合によっては中央の通りを破壊してしまう可能性があります。中央が通れないとなれば、15分より早くに東西から魔族が出て来そうです」

「難しいところだな。だが、魔族が出てくるとすれば中央のエントランスになるだろう。たぶん石火矢を可能な限り撃つこむことになるのだろうが、直ぐに崩れることはないだろうし、迂回するにも時間が掛かるに違いない。放炎筒を持たせた兵士を目に出せば、陣を調えるぐらいの時間は稼げるはずだ」


 グラムさんが兄上達に顔を向けて同意を求めているけど、兄上達はしっかりとグラムさんの顔を見つめて頷いている。

 石火矢を一度にたくさん撃ち込むのではなく、通路に集結する魔族の排除を目的に放つことになりそうだな。

 最初の魔族との戦と同じになりそうだ。数発を必要に応じて発射できるようにしたところで2発ずつエントランスめがけて発射していけば良いか。


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