私が異世界転生した理由
私は斎藤直子。
大手商社に勤めるバリバリのキャリアウーマンだ。
私生活は順調そのもの。
このまま出世して、いい男をゲットして、バラ色の人生が待っているんだと思ってた。
そう、あの時までは。
キキーというブレーキの音がして、いつも通り出社している途中、私は交通事故に巻き込まれて死んだ。
え、ちょっと待ってよ。
私にはバラ色の人生が待ってるんだって。
神様、本当にいるならお願い。
私を生まれ変わらせて。
もし、異世界転生させてくれたら、そこでもバリバリに出世して、いい男をゲットして、バラ色の人生を送るんだ。
神様、神様、どうかお願いします。
私を生まれ変わらせてください。
「うぅ……」
瞼をゆっくりと開くと、私は見知らぬベッドに横になっていた。
「ここは?」
体を起こすと小汚い縫いぐるみがベッドから落ちる。
「何、この汚い縫いぐるみ」
どうやら私はこの縫いぐるみと一緒に寝ていたらしい。いや、いい歳して縫いぐるみと一緒に寝るってどうなのよ。
と、そこまで考えてやっと気が付いた。
縫いぐるみを持つ自分の手がすごく小さい。よくよくみれば足も体そのものも小さくなっている。
「え、嘘」
そこではじめて私は自分が子供になっている事に気づいた。
確か私は交通事故に巻き込まれて死んだはず。
なのに、こうして見知らぬ部屋に小さな子供の姿でいる。
これはもしかして、
「異世界転生ってやつ?」
いや、異世界転生させてって神様にお願いしたけど、まさか本当に異世界転生してしまうとは。
マジ神様っていたんだな。
とにかく自分がどういう状況なのか確かめないと。
私は縫いぐるみをベッドに放り捨てると、ベッドから這い出て部屋の中を探索する。
やはりイケてるキャリアウーマンである私としては一番気になるのはクローゼットである。
「うわ、だっさ」
クローゼットの中にはあったのはいかにも子供っぽいパステルカラーの可愛らしいドレスのような服ばかりだった。
パーティをはしごしていたような、イケイケのキャリアウーマンの私からしたらダサすぎて全く話にならない。
流行遅れを通り過ぎてもはや過去では?
これはあれか?
異世界転生にありがちな中世ヨーロッパ的な世界なのか。
現代の価値観からするとダサすぎてマジあり得ないんだけど。
今度は棚の方に歩いていく。
棚には数冊のノートが置いてあった。
ペラペラと捲ってみると、それは絵本だった。
「何、このド下手な絵」
いや、描いた事ない私でももっとうまく描けそうだよ。
話の内容も神様に何もかもを貰った女の子が幸せに暮らしているだけの山場も谷場もないような内容。
「超つまらないだけど」
ただ、文字は読めるらしい。
絵本は超詰まらなかったけど、それがわかっただけでも収穫としとこう。
私が絵本を雑に棚に戻していると扉が開いた。
「――――、――――――!」
な、なに?
入ってきた中肉中背の女の人が何か言ってる。
聞き取れない。
いや、TOEICのリスニングで鍛えた私の耳ならきっと聞き取れる。
「――フィ、――ルフィ」
ほら、段々聞こえてた。
「シルフィ、あなた起き上がれるようになったの?」
「うん、お母さん」
お母さん? 私は自分の口から出た言葉にハッとする。
そうだ、この人はお母さんだ。
そう思うと、そうとしか思えなくなる。
この人は私のお母さん。
そして、私は――。
「どうしたの、シルフィ?」
「ううん、何でもないよ」
そして、私はシルフィだ。
不思議な事にそう思うとそうとしか思えなくなる。
「ああ、よかったわシルフィ。もう病で起き上がる事も出来ないのだと思っていたから」
お母さんがそう言ってぎゅっと私を抱きしめてくる。
反抗期以降はお母さんに抱きしめられた事とかないからちょっと新鮮だわ。
「お母さん心配しないで、もう大丈夫だから」
私がそう言うと、お母さんは涙ぐんでいた。
いや、大げさすぎでは? というかこのシルフィという子の病がそれだけ重かったという事なのかも知れない。
なるほどね。
大体わかってきたよ。つまり、私は病で死んでしまったシルフィという少女の体に異世界転生してきたのだ。
よくある、よくある。
じゃあ死んじゃったシルフィの分も生きてあげますか。
この異世界で、バリバリに出世して、いい男をゲットして、バラ色の人生目指しちゃいますか。
とりあえず、その為に私がまずやるべき事は一つだ。
私はお母さんに微笑むと、
「お母さん、とりあえずイケてないから。この部屋のもの全部捨てて」
これはキャリアウーマンだった私が異世界転生して、イケメンハーレムを築きつつ世界の頂点に立つまでの物語だ。




