e.08 共闘
精霊に女性しかいないのは仕様です。
精霊=創世・創作・制作をする=生み出す=女性
突然の来訪者…リーグ様と似た雰囲気の精霊だ。
「…ラーミレ。何してるの」
リーグ様は呆れたように、来訪者こと風の主精霊ラーミレ様をジト目で見る。
…リーグ様とは真逆のように感じるな。結構元気系か。
「何してるのとはご挨拶じゃないの。こんな面白そうな話、一人で勝手に進めないでほしいわ」
「…自己紹介ぐらいしなさい」
「私はラーミレ。風属性の主精霊だよ。よろしく!」
「あ、はい」
差し出された手を握って握手をする。…冷たいな。冷え性かな?
このゲームは一応、四季の要素が実装されているから時期に応じて体調が変化したりする。設定で冷え性だったり花粉症だったりというキャラ設定もできるらしい。誰がわざわざ不利になるものを使うのかは分からないけど。
その設定がNPCにも存在しているので、ラーミレ様が冷え性でも違和感はない。
要所要所でリアリティが存在しているのがHORの特徴である。
「で、何で私たちを呼んでくれないわけ?」
「…普段放浪してる人が何を言ってるの」
「?ラーミレ様は主精霊では?」
「主精霊でも、殆どは何処にいてもその力が発揮できるから。私は世界樹の強化オプションだから離れられないけど、他の四人は何処にいてもいいの。まあ、普通離れる主精霊はいないからラーミレが特殊なんだけど」
ああ、そうか…なるほど。
これは説明が難しいな…どういえばいいのか分からない。
「要するに、一部の精霊以外は本来いるはずの場所にいなくても問題ないの。むしろそこにいないといけない精霊の方が少ないから」
「世界樹にいる精霊で言えば、私以外の四人は何処にいても構わないから」
「…はぁ…概要は分かりました」
「まあそんなことはどうでもいいの。こんな面白いこと、一人で進めないで私たちに一声ぐらいかけてくれてもいいでしょ?」
「何がどう面白いのか分からない。そもそも連絡手段ない」
リーグ様って結構饒舌だし毒舌なんだな…まあ身内だからそうなんだろうけど。
やっぱり長女がしっかりしてると次女三女がちょっと弾けてる感じなんだろうね。ラーミレ様は世界樹では三番目の精霊だから三女だよ。
次女はもう少し…しっかり者だといいな。水精霊だから落ち着きがあるといいんだけど。
「だって、精霊にとっても天使にとっても重要な要件でしょ?だったら、私たちも一緒に話し合いに参加したほうがいいじゃん」
「時間がかかる。それに、全員集めての会議はそのうちやる予定。他の場所にいる主精霊も集めてやったほうが、効率がいい」
「確かにねー。だったら、各所に連絡したほうがいいのかな」
「ん。私は離れられないから、ラーミレたちに任せる」
知らないうちに進んでいくなぁ…私には精霊の内情はよく分からないんだけどさ。
そう言えば世界樹って、やっぱりどのゲームでも無駄に大きくなってるよね。HORでは全長70000フィートぐらいだ。21336メートルぐらい。大きいのかは人によるかな。
内部が空洞になってたりしない。でも枝が無数にあって、広大な敷地を形成している。リーグ様がいれば、自在に樹を操れるからね。むしろリーグ様自身が世界樹と一心同体だから。
要所要所に居住区とかお店が作られていて、総面積はファランのおよそ3倍。何層にもなってるからね。
「お、そうそう。これ、私からの贈り物」
「え?私にですか?」
ピュアスピリットを受け取りました。
風精核を受け取りました。
ラーミレの好感度が10上昇しました。
風属性強化を受け取りました。
「ありがとうございます」
そう簡単に貰ってもいいのかな?それとも、これも製作側のシナリオってことなのかな?
うーむ、しかしピュアスピリットが三つ…そして風精核。現状はまだレベルが足りないんだけど、そのうち精霊魔法も使えるようになるな。天使が精霊魔法を使うってのは、正直…ねえ?
システム的に不可能じゃないから構わないってことか。別に止められちゃいないし。
「ラーミレ、他の三人と一緒に連絡役をお願い」
「まあ、しょうがないね。キャンサー、ミレニアのことよろしくね」
「は、はい!」
うーむ、気付かないうちに重要な役割を任されてしまったみたいだ。味方が増えるのはありがたいからいいけどさ。
「私も、他の天使の人達に報告をするために一度戻ります。有難うございました」
「ん。いい返事を期待している」
「キャンサー、これからよろしくね」
「うん!」
十二星座の精霊キャンサーとパートナー登録が完了しました。
「それでは、失礼します」
クエスト、リーグの頼みごと を達成しました。
樹精核を受け取りました。
リーグの好感度が10上昇しました。
キャンサーの好感度がMAXになりました。
称号『スターキャンサー』を獲得しました。
【フィールド:ライナーフォレスト】
「うーん、ここじゃ小手調べにもならないね」
「熾天使と十二星座だからね。殆どの魔物は一撃だよ」
キャンサーとのコンビネーションのため、ライナーフォレストで慣らしをしている。
とはいえ、相手が弱すぎるためあまり意味がない。私はLv16、キャンサーもLv87だから。
まあ、スキルのレベル上げにはいいんだけど。キャンサーの使えるスキルに慣れるにはいいいし、キャンサーも私のスキルに慣れるのにはいいと思う。
…だけど、相手が弱すぎる。もう少し、強いやつと戦いたい。
いっそフィールドボスでも探すか…あー、でも確かクエストを進めないとフィールドボスって出てこないんだよね。今更ファランに戻るなんて面倒すぎる。二重の意味で。
「…ミレニアの衣装、大分変ったよね…」
「触れないで…」
…これはしょうがないことだ。少女の力の効果で、私の衣装はかなり変わっている。見た目は魔法少女の方だ。戦乙女なんて私には無理だから。
なんだけど…何故か全体的に軽装なんだよね。恥ずかしい…恥ずかしすぎるよ。こんなの殆ど下着と変わらないんだよ…はぁ。
あと、どうやら私の装備しているのが世界樹の槍斧だからというのもあるらしい。ただその武器も見た目がかなり変わってるんだけど。
私の見た目については触れないでほしい。私だって好きでこんな格好してるわけじゃ…ん?
「………!」
「…何か聞こえない?」
どこからか、何かの声が聞こえる。プレイヤーだろうか?
「誰かいるみたいだね…見に行く?」
「そりゃまあね。誰か知らないけど、かなり切羽詰まった状況みたいだし」
声の聞こえる方へ行く。なんか、熱源反応が多い気がする。
木陰からみてみると、三人のプレイヤーが狼と熊に囲まれていた。しかも、三人とも後衛職か。
どういうことだ…一応それなりの難易度の場所に、前衛も入れずに…ああ、もしかしたら前衛が死んだか。治癒師と偵察兵と風魔術師だな。
バランスは悪くない。けど、接近された時に対応できないな。これは非常にまずい。
まあ死んでも関係ないけど…恩を売っておくのは悪くないか。というわけで助けることにする。
「ミレニア、黒いね…」
「私だって生きるために必死なの。利用できるものは利用するのよ」
さて、実は私の武器は槍斧だけじゃない。リーグ様から貰った世界樹の枝で、実は別の武器、ハンドガンを作っている。
本来、弓や銃は矢・銃弾を消費する。だけど、世界樹の枝は伊達じゃない。代わりにMPを消費するが、弾数は実質無限になる。
あ、ちなみに弓や銃のダメージは武器と消費する矢・弾に依存し、ステータスは影響しない。代わりに、弱点である頭部や心臓へのダメージが魔法や戦技よりも高くなる。
「ファイアバレット!」
それに、銃を媒体として射撃系の魔法を発動するとイメージが簡単になり、発動までの時間を短縮したり命中率を上昇させられる。
偵察兵に襲いかかるために飛んだ狼を討ちぬく。
「助太刀するよ。邪魔ならいいけど」
「た、助かります!」
「『さあ、来なさい!君たちの相手は私だよ!』」
キャンサーの持っていたスキル、〔挑発〕を使用する。
しかもレベル40である。その場にいた全ての魔物がこちらを見る。壮観だ…。
「ファイアショット!」
狼が凄い数こちらに向かってくるが、それを迎撃する。というか撃ち落とす。
ショットは散弾だから、広範囲を巻き込むことができる。で、飛んできた狼10匹を全て撃ち落とす。何匹かまだ生きてるようだが、動けないなら放置でもいい。
「そこのウェアウルフのことはお願い。バンダーベアを始末するから」
戸惑う三人に狼をお願いし、次はハルバードに持ちかえる。
物理攻撃力はまだ低いが、時間をかければ勝てない相手じゃない。それに、こっちはチートだからね。時間をかけるつもりなんかないよ。
「送付、ファイアエッジ!」
ハルバードに火属性を付加する。本来は遠方に向けて火属性の斬撃を飛ばすだけの技だけど、武器に魔法を送付するという無茶なことをした結果がこれだ。
まあ、ただこの槍斧を媒体とした魔法で、一閃すると斬撃を飛ばすというだけのものなんですけど。魔法剣とかと原理は同じだと思う。
「焼き払うよ!」
横向きに薙ぎ払うと、前方180度に熱を伴う斬撃が走る。それだけで熊は上下に分かれて消える。これで六体撃破。あと二体。
ちなみにHORのAIは危機を察知すると逃げることだってできる。そのため残った二体が逃げていく。逃げられるわけないけどね。
「ファイアバレット。サンダーバレット」
逃げようとする熊の背中を、二発の弾丸で撃ち抜く。
それでLPが0になり、全ての魔物が消滅した。
7/1 誤字修正