e.09 協力
VRMMO系のパーティって作品によって色々と違いますよね。
詳細データが見れたり見れなかったり、LPとかMPが見えたり見えなかったり。
設定で変えられるようなVRMMO作品もあるみたいですね。みなさんの想像力が羨ましいです。
「戦闘終了っと。あ、ドロップアイテムはどうぞー。私乱入者だから」
HORではエネミー撃破に応じてドロップアイテムが手に入るシステムなのだが、このシステムが少し変わっている。
一対一や一対多なら、倒した本人が受け取るだけなので問題はない。また、パーティを組んでの多対一や多対多はパーティのアイテムストレージに入り、誰が受け取るかをパーティで決めることができる。
しかし、一つのパーティではなく二つ以上のパーティ(この場合のパーティにはソロも含まれる)が同じエネミーを攻撃した場合、ドロップアイテムは人数分ではなく一人分しかドロップしない。つまり一つのパーティしかドロップアイテムは獲得できない。
なので、乱入とか混戦では混乱を招かないようにルールが必要とされる。
「で、なんで後衛職だけでこんな場所に?さすがに無謀だと思うんだけど」
「すいません…本当は前衛の格闘家と回転術師がいたんです。ですが、多勢に無勢で…」
確かにあの数は異常だけど…ってかどうしてこんなに敵を集めたんだか。
挑発系のスキルで、認識されていない相手にも効果があるようなスキルでもあるのか?
「ふーん。まあいいよ。相談なんだけど、さすがに後衛だけじゃこの森を抜けるのは難しいと思う。私も戻ろうと思ってたからさ、一緒に行かない?」
「え?いいんですか?」
「見てて危なっかしいからね。放りだしていくのは夢見悪くなりそうだし」
三人の残りLPはそれぞれ3割ほどだ。回復役がいるから大丈夫だろうけど、MPは有限だからそう持たないだろう。さすがにリヴァイブを待つのは時間がかかりすぎる。
「ありがとうございます。私は治癒師のレニです」
「僕は偵察兵のEOです」
「風魔術師のウェンです。よろしく」
「私はミレニア。火魔術師だよ。よろしく」
私の名前を聞いた途端、三人が目を見開く。
…ああ、確かに色々と目立つこともしてたししょうがないかな。むしろ衣装の問題か?
「ミレニアって…確か死神を捕まえて冒険者ギルドに引き渡した人だよね」
「はぁ…一応死神ことナムタルを引き渡したのは私ですが…それが何か?」
「いやだって…あの死神を捕まえるなんて相当の実力者でしょう?」
…もしかして知らないのか?
「ナムタルの持っていたスキルは、別に見抜けないものではないよ。SENが高ければ意味がないし、中和するスキルもある。ナムタルが強いと言われていたのは、察知系のスキルを持っていない人ばかりを襲っていたからだよ。だから強敵って呼ばれてただけで、まだスキルレベルは一桁だったし」
「…もしかしてVRMMO上級者?」
「まあ、一応上級者に分類されるとは思うよ。VRMMO歴は今年で三年だから」
確か最初にやったのは、王道すぎて眠くなるようなVRMMOだったな…初めてのVRMMOということで人気を博していたけれど、二作目三作目と出てくるうちに、消えてしまった。
今でも続いているVRMMOで最古参といえば、プレイヤー同士の対決と生産を重視して作られた略称4WKという作品がある。あれは面白かったけど、私には合わなかったな。
ちなみにHORを含むVRの中で他の作品のことを話してはいけない。発売元が違うのであれば尚更だ。これはMMOに限った話ではない。
「上級者になるとそこまで頭が働くんですね…」
「うーん、私が異常なんだよ。私は化け物って言われるしね」
天使相手に化け物というのは…ふ。
「そんなことはいいの。さっさとファランに戻ろう。回復アイテムの補充をしたいし」
「そうですね」
「僕達もアイテムが底をついてますし」
「ああ。あいつらにも速く顔を合わせないとな」
【フィールド:人間都市 商業都市ファラン】
「化け物だ…」
「その言い方は…でも確かに」
「こえぇ」
三人が私の戦いを見て何か言っている。まあ、それについてはしょうがないだろう。
ま、そんなことはいい。ちなみに私は、ここにくるまでの戦闘でレベルが18になった。
「まだここを拠点にしてるプレイヤーは多いんだよね。生産職にとっては過ごしやすいだろうけど、戦闘職の人はそろそろ別の都市に移動してもいいんじゃないの?」
「レベル的にきついらしい。海岸の奥にある入江エリアは、30でもきついって話だ。そんな調子じゃ森や山岳の奥なんかは、40ぐらい必要になるだろうよ」
「いや、VRMMOだからって離れるほど強くなるとは限らないと思うよ。意外と適正レベルが変わらない場所もあると思うんだけど。そういうのって実際いくつかあるし」
これはゲームに寄ると思うが、単純にスタート位置から遠くなるほど敵が強くなるとは限らない。
スタート地点以外にも、街や村の近くは弱くなっていたりするゲームもある。フィールドが進んでも生息する魔物などのレベルが低いことだってある。このゲームも一概にレベルが上がっていくと判断するのはまだ早い。
「経験者は語るってか?」
「そういうこと。ま、もしかしたら本当に高いかもしれないけどね」
「イリスさん達はまだ帰ってきてないんですね」
「まあ、一回死んだら現実で十分、こっちでの八時間は帰ってこないから」
復活までの時間は長い。街まで戻るのにかかった時間が30分ぐらいだから、おそらくまだ七時間はかかるだろうさ。
時間を短縮するスキルもあるらしいけど、それでも二十分ぐらいしか変わらない。レベルを上げようにも、わざわざ死に戻りを何度もするのは面倒だし時間もかかるし他のスキルのレベルが上がらない。
わざわざアイテムやお金を失ってまでレベルを上げる意味はない。だからスキルの需要も高くはない。
「さて…私はここで失礼するよ。会いに行きたいやつもいるし」
「ありがとうございました」
「助かりました」
「そうかい。また今度、お礼をさせてくれよ」
「今度があったらねー」
私は三人と分かれて冒険者ギルドへと向かう。
会えるかどうかは分からないけど、行ってみれば分かるだろう。
「(キャンサー、大丈夫?)」
「(なんとか…うん)」
私の服の中でずっと隠れているキャンサーに声をかけるも、どうやらかなりお疲れみたいだ。
そもそも服の中に隠れるってどうなんだろう?もう少しいい隠れ場所ってないのか?
…まあ、スキルのおかげで隠れられそうな場所が殆どないんだけどね。ストレージ系のアイテムでも買おうかな、今度。
「こんにちわー」
「ん?なんだ、あんたかい。どんな用だい?」
「死神に会いたいんだけど、何処にいるのか知ってる?」
「死神か…あんたはあいつに会って何をするつもりだ?」
「何もしないけど。まあ、せっかく見つけた戦力だし、現状の把握をしようと思って」
私は、ナムタルをこちら側に引き込みたいという思惑がある。
よければ悪魔あたりの陣営に入ってもらおうじゃないの。このゲームでは悪魔と天使も協力関係を築けるはずだからね。
私も天使代表として悪魔と交渉しに行こうかな。何処にいるのか知らないけど。
「はぁ…まあお前が捕まえたんだし、合わせてやるよ」
「話が分かるねぇ、マスター」
特別に冒険者ギルドの奥へと入らせてもらう。聞くところによると、今のところ何もしないでおとなしくしてるらしい。
…よく飽きないよね。絶対暇だよ。
「ここだ」
案内されたのは、全て白で構成された空間にある一つの扉の前。あー、ログインする前に見た研究所と全く一緒だ。こっちはより純白に近い。
扉の中には、腕を枕にして地面に寝そべる死神がいた。暇そうだな。
マスターさんに案内してくれたお礼を言って、一人で中に入る。
「元気そうじゃない。その後はどうよ?」
「…お前か。どうって言われても、俺は服役中だ。することがなくて暇すぎるよ。で、何しに来た」
「別に。ただ様子を見に来ただけよ。前言った通り、私は貴方を味方にしたいからね」
「…お前、普通のプレイヤーじゃないだろ。むしろ人間じゃないだろ」
やはりナムタルは気付いていたか…予想の範囲内だ。
「ご名答。私はランナー。天使の最上位である熾天使だよ」
「なるほどな。ってことは、俺を逃亡者の中に巻き込むつもりか」
「そこまで分かってるなら、協力してもらえない?一応、少しなら支援もするよ」
私の言葉に、ナムタルは少し思案する…欠伸をしながら。
ってかこいつ寝てんのか?一応、VRは脳への負担が大きいために定期的な休眠が必要になる。HORでは二日に一回、八時間の休眠が必要だ。
要するに六十分あたり十分。あるいは、ログアウトするのも手段の一つだ。
「面白そうだ。普通のRPじゃつまらないし、やってやるよ」
「じゃ、早く出所してきなよ。別に施設ごと破壊してもいいけど、まだ目立つ行動は避けたいからね」
「まだ、か。いつかはそう言うことをするってのか?」
「そりゃそうだよ。別に逃げるだけが仕事とは言われてない。データ集めの為に、色々とする予定だよ」
さて…そろそろ面会時間の終了が差し迫ってきてる。名残惜しいけど、遅れたらそれこそ面倒だ。
「お前に追いつくのは時間がかかりそうだが、いつかは肩を並べて戦えるぐらいになってやるよ」
「期待してるよ。じゃあさ、フレンド登録しとこうか」
「ああ、いいぜ」
ナムタルとフレンド登録を行う。
…何気にフレンドって初めてだな。まあ、立場上他のプレイヤーとフレンド登録するのは難しいけど。
「じゃあね。早めに出所できるように善処しなさい。私も手回ししとくから」
悪魔ってよく悪い人ってイメージが付けられますけど、『悪』の意味は人それぞれだと思うんです。
人によっては悪でも、人によってはなんてことない普通の事かもしれないと。
悪魔だって好きで悪事をしているわけじゃないかもしれないじゃないですか?




