n.09 思い
巫
「お気に入り登録者様43人だ。
ここまで読んでくれて、ありがとうな」
※シリアス回となっています。ご注意ください。
*Side ハツユキ*
無聖域。
ミレニアは、開いた窓の外を眺めている。
「さっき私が言ったことは、ただの願望に過ぎないのですよね。生きるために、必死になっている人がどれだけこの世界にいるか…。私たちも、生きるためには人間と争わなければならない。残された私の家族たちを守るには、それしか方法が無いのですから」
その横顔は、少女のものではなく、姫としてのもの。
ミレニアは、この身体にどれだけの重圧を背負っている?
私は、主にばかり傷つかせているのか。
「家族たちも辛かったのです。私という拠り所が必要だったのですね。まあ私はまがい物で、本当はこんなこと名乗れる立場じゃないんですけど」
寂しそうに笑う。
どうして笑える?
「それでも、私は守らなければいけない。私は偽物ですが、本物が見つかるまでの間は、私が拠り所として、家族を守る盾として動かなければならないんです。たとえ両腕を失い武器を持てなくなろうとも、たとえ両脚を失い歩けなくなろうとも、それでも私は家族を守るつもりです」
ミレニアは泣いている。
声も出さずに、ただ静かに泣いている。
悔しい。
歯痒い。
何もできないのか、私は。
「けれども、それは人間だって同じです。私が家族を守るように、人間も自分たちを守るために必死なのです。私達は、お互いに戦うしかないのでしょうか?和解する道があるのではないかと、私は思うのです。この争いの意味なんてどこにもなくて、不要な犠牲ばかり増えていくのです。こんな無意味な争いを続けることに、どうして意味を見出せますか?」
ミレニアの言うことは正しいかもしれない。
私たちは、昔人間に一族を殺され私以外の生き残りはいない。
思えば、私たちも生きるのに必死であった。
それゆえに人間に干渉した。そこに私たちは悪意はなかった。
しかし、人間からすれば異型である私たちは侵略者だった。
「私たちは元々、天より使わされた存在です。この世界の均等を保つ以外に、この世界に干渉する目的なんてありませんでした。けれども、人間からすれば私たちは突然の来訪者にして侵略者、奪うモノでしかなかったわけです。これはどちらに非があるというわけではありません。人は守るために戦ったのですから、それを悪と咎めることができましょうか?むしろ彼らは勇気ある戦士ではないでしょか」
何の情報もない状態で、異型である存在に立ち向かった戦士。
それらは、自らの守るべきもののために戦ったのか。
私たちに悪意がなくとも、それを伝える手段はない。
善悪を見極める前に、脅威と成り得る存在を排除し、守る。
それは、戦士としてとてもすばらしいことだ。
「私は当時のことを知りません。いえ、覚えていません。ですが、誤解を解いてお互いに歩み寄ることが可能であるならば、これ以上無益な争いをしなくてもいいのではないかと、私はそう思います。たとえその可能性が限りなく低くても、私は諦めたくはありません。救える命があるのならば、救いたいのです。これは、おかしいことでしょうか?」
……
私は、ミレニアのことを尊敬していた。
今までもそうだけど、今の言葉を聞いてより一層。
「でも、それは簡単なことではありません。おそらく、ほとんど不可能と言ってもいいでしょう。それでも助けられる可能性のあるものを、何もせずに見捨てるなんて、私には無理です。同じ命のある存在であるのに、なぜ争い、なぜ奪い合う必要があるのでしょうか?友好的な関係となって、争いがなくなればどれだけの命が救われるでしょう?どれだけの命が、無駄に散らずに済むでしょう?」
ミレニアの言うことはわかる。
でもそれはあまりにも高すぎる。
「私は家族を守ります。けれど、敵対しているのではなく、いつかは盟友として歩むことができる日が来ることを、願っています。いえ、どれだけの時間がかかっても、私は今の現状をなんとかしてみます。無謀であっても、無茶であっても、諦めたくはありません」
ゆっくりと瞳を閉じ、主は眠る。
「…主」
その瞳は、何を見つめるのか。
その手は、何を掴むのか。
私にはわからない。
でも、私は主の味方でいたい。
孤独な姫を、私は助けたい。
*Side キャンサー*
私には難しいことは分からない。
けれど、ミレニアの言うことは大体理解できる。
だからこそ、言わせてもらおう。
「それは、無謀ってものじゃないかな」
私は分かっている。何度も、この目で見ているから。
ミレニアの言うことは間違っていない。
人間だって、守るために"戦っていた"。
今と昔は、違う。あいつらは、そんな目的なんて持っちゃいない。
ただ、私たち『ランナー』を狩るのを『道楽』としているだけだ。
「人間は全員がそんな潔い人じゃない。極少数はそんな人もいるけどね、殆どはそれとは真逆か中立なんだ。私は断言できる。『人間なんて信じられるわけがない』って。そりゃ全ての人間がそうじゃないってのは私たちも分かってる。でも、精霊にせよ天使にせよ、今まで受けてきた苦痛を0にしてってのは無理な話だと思うよ」
私は、あいつらを許すつもりはない。
許せないんだ。
この手で、全ての人間を殺してやりたいぐらいだ。
今まで、人間から受けたものは忘れられない。
精霊は皆、人間に大小様々な恨みを持っている。
あいつらさえいなければ、どれだけ救われたことか。
「私たちは生まれた時から、人間は絶対的な敵として認識してるんだよ。あいつらのせいで、私たちは住む場所を失った。あいつらの方こそ、精霊からすれば侵略者なんだよ」
もう何億年も前の話だ。
精霊の第一世代が生きていた時のこと。
私たちの中に受け継がれている記憶だ。
「過去の清算って、簡単じゃないからね」
*Side ハツユキ*
キャンサーの言うことは、理解できる。
誰だって、苦痛や苦悩をそう簡単に受け流せるわけじゃない。
私も憎く思っている。
奪われる悲しみと、それに伴う憎しみと怒り。
それが私の原動力となっていたのだから。
「ハツユキはどうなの?」
私は…そうだな。
「家族を全て殺された」
「…そう」
復讐してやろうと思っていた。
いつか必ず、報いを受けさせようと。
それだけじゃない。
家族を守れなかった私自身を、見返したかった。
誰よりも強大で、何物にも邪魔されぬ力があれば、私は家族を守れた。
その力がなかった自分が、認められなかったからだ。
「キャンサーは」「ハツユキは」
「「…」」
二人でかぶらせてしまった。
「…お先にどうぞ」
「ハツユキは、どうしてミレニアと一緒にいるの」
私がミレニアと一緒にいる理由…
初めて会って、戦って、負けて。
それから彼女の弱さを知って、好きになった。
一緒にいるうちに目が離せなくなって、気付いたら当たり前になっていた。
「…多分、ミレニアのことが好きだから」
「す、好きって…」
「恋愛感情ともいう」
私はミレニアを好きでいながら愛してるといえる。
保護したいタイプなのも否定はできない。
目が離せないから。
「一応ミレニアはノーマルだと思うんだけど」
「関係ない。私がミレニアを好きだから」
「はぁ…そう」
忘れていた感情、恋愛。
それが彼女に会ってから分かったと思う。
「キャンサーはどうして」
「私は、ミレニアを助けたいと思ったからね」
助ける…?
「見てて分かると思うけど、ミレニアってかなり高スペックじゃない。だから大抵のことは彼女一人でもできてしまうんだよ。武術、魔法、知略、戦略、戦術、なんでもお任せ。だけど、きっと彼女にも限界がいつかは来てしまう。その時、ミレニアを支えてあげられる人がいないとだめだと思ったんだ。多分だけど、ミレニアは『頼る』ことや『甘える』ことをしないから。だったら、無言で手を貸してあげるぐらいはしてあげたいじゃない」
二人が初めて会ったのは、森の中だった。
怪我をしていたキャンサーを、ミレニアが治療して世界樹に送り届け。
そのあと一緒に行動して、リーグ殿からの許可を得て今も一緒に行動している。
その中には、精霊としての『義務』もあるけれど、おそらくそれよりも強い何かがある。
ミレニアを助け、支えること。私には無理なことを、彼女がしている。
「まあ、私がいつもミレニアに甘えてるんだけど」
…それでも、キャンサーはミレニアの支えになっていると思う。
「ハツユキは、ミレニアの頼れる人になってほしいと思ってるよ。私は後ろから、ハツユキは前からでね」
「…私に務まるとは思えない。でも好きな人のためだから頑張る」
*Side ナナ*
「…わが妹ながら、愛されてるね」
画面に映るのは少女が三人。
無茶なお願いをしてテスターをしている妹。
妹のパートナーとしてサポートしてくれる精霊。
妹を主そしてサポートをしてくれるラミア。
「これで安泰かな」
妹を守る騎士となってくれることを願おう。
「傷つかないことを祈ってるよ、リリ」




