n.03 職人再びと山岳
ハツユキ
「お気に入り登録者が39人。
主が喜んでいるため私も嬉しい。
主が喜んでいるのが嬉しいのだ。
勘違い、するな」
【エリア:『翡翠の小槌』 ギルドホーム】
「こんちわー。バリスタの受け取りに来たんだけど」
「おう、ちょうど少し前に完成したとこだ」
翡翠の小槌ギルドホーム。
前回依頼したバリスタの受け取りに来た。
「今俺達のできることを全て入れてやった。これが完成品だ」
そうして作られたのは、小型のものと大型の物の二つ。
小型の物は、パイルバンカーほどの大きさのもので持ち運んで使える。重量は8(kg)で大体毎分5発ぐらい撃てる。遠距離武器として致命的なほど連射性能が低いけど、一撃の威力はかなり高い。
大型の方は設置型の兵器だ。重量は26で慣れれば毎分6か7発ぐらい撃てるようになる。ただし重すぎるため持って使うことができない。主に防衛用と思っていい。
そして使用するボルト(専用の矢)は長さ80cm直径8cmで重量4.5kgの通常弾、長さ60cm直径8cm重量5.2kgの重量弾、長さ73cm直径6.8cm重量3.9kgの高速弾、長さ1m直径6.2cm重量4.8kgの狙撃弾の四種類がある。
通常弾は基本木製で先端が角度45°程度。スタンダードな性能だ。
重量弾は木製のボルトに鉄でコーティングをしていて、角度70°。ダメージは高いが射程と弾速に難ありだ。
高速弾はボルトの弾頭に鉄で少しコーティングをした角度25°のボルト。弾速が早いためある程度の距離では安定した命中率を出せる。
狙撃弾は弾頭に鉄を埋め込み角度を10°まで鋭くしたボルト。射程が長く他の弾頭より直線で飛ぶ。
余談かもしれないけど、小型の方にはバイポッド(二脚のこと)がついてる。
「まずはこいつだが」
バリスタ、『フォレストシューター』と『フォレストシューターL』。
持つと右腕の肘までを覆うほど大きく、基本操作は左腕で射出は右腕だ。
骨と牙を用いて作られており、表面は毛皮を使っているのでふさふさしている。
また、ウィスプの光の欠片を使ったので攻撃に『光』の属性が付加される。
いくつか特殊効果がついているので軽く紹介しておく。
〔マルチセット2〕
これはボルトを射出準備を含め三本までセットできる。
つまり三発まではボルトをセットする手間がない。
〔武器エフェクト SEN+10〕
これは付加効果でこの武器特有のものではない。
装備中はSENが+10される。
〔ライトエッセンス10〕
これが光の欠片の効果だ。
攻撃時に光属性ダメージを10%与える。
「どうだ?」
装備してみる。
重い…まあバリスタはもともと防衛用の兵器だから無理もない。
でも、結構手に馴染んでる。いい感じだな。
「いいね。あとは試射をしてみたいとこだけど」
スコープを覗く。まあ凹と凸で作られた簡易的なものだけど。
これが少しずれてるだけで狙った場所に当たらないことがある。ここが職人の腕の見せ所だ。
ちなみに大型の方はスナイパースコープがついている。どこにそんな素材があったんだか。
尚、分かっているとは思うけどVRの中は一人称視点だ。これを利用したFPS系のものも多く作られている。
「そうだな。その最終調整を終わらせればこの武器は完成だ」
「そう。ならやってみようじゃない」
というわけで、このギルドの訓練場で最終調整を行った。
三回ほど調整をしたらちょうどよくなった。これは使える。
「よし、これで本当に完成だ。自分で言うのもなんだが、かなりいい出来だと思う」
いや、本当にこれはいい出来だ。期待以上だ。
正直、実用レベルぐらいならいいかと思ったんだけど、これは実用レベルを余裕で超えてる。
あとは、独自にボルトを改良して消耗品ではなくせばいい。弾頭に魔法を刻むだけだから問題ない。
「ありがとね。正直、ここまでのものができるとは思わなったよ」
「こっちこそ、いい経験になった。また作りたいものがあったら、利用してくれ」
「その時は頼むよ。じゃ」
そのうち、ウィスプ達の武器も作ってもらおうかな?
32個も武器を注文する人はいないよね、普通は。
一応、鍛冶を含めた生産の解説をさせてもらおうと思う。飛ばしても構わない。
このゲームは、『クリック作成』と『カービング作成』がある。
クリック作成とは、材料を消費してアイテムを『即座に』作り上げるといういかにもゲームな感じの作成だ。この作成方法だと(レベルが足りていれば)必ず『成功』する。
手間がかからないが、作成結果が必ず『成功』で固定なのだ。しかも特殊効果の付加などができない。
そのため、プレイヤー殆どカービング作成で生産を行う。こちらはレベルが足りていてもミスがあれば失敗したり粗悪品になってしまうことがある。
手間がかかるし失敗することもあるが、その代わり成功よりも上の評価が出たり付加価値が付けられるしさらにランダムで特殊効果がついたりもする。
クリック作成は『模範通りのもの』が作られる。つまり標準性能である。
カービングの方は余計に別の素材を使ったり(欠片系はこちらでしか使えない)、色々とアレンジしたりできるわけだ。ただし耐久力や切れ味が減ったりするので作成する職人の腕次第では…。
ちなみに別の作成方法もあるけどそちらは特殊な条件がいるから後日だ。
【フィールド:シェルスヒル】
「ハツユキ、下がって!」
「了解!」
バリスタから発射されたボルトが、ストーンゴーレムの左胸を貫く。
核を破壊されたゴーレムは、原型を保てなくなりただの石に変わる。
ちなみに素材を回収したらこの石も消える。
「一回休憩しようか」
「了解」
さて、ここで私がなにをしているかを軽く説明しよう。
ここは北の山岳、シェルスヒル。標高は最大で680mぐらいの場所だ。
鷲やゴーレムやワームが出現して、足場が三人並んで歩けるぎりぎりの幅しかない。まあ落ちても軽くダメージ受けたり(約100)損傷したり(脚とか腕の骨折)するだけだから問題はないが。
そしてエネミーは最低でも10レベルクラス。しかも全てアクティブエネミーだ。
そのため序盤で屈指の難易度を誇る。まあ、気をつければなんてことはないけど。
メンバーはウィスプを32人オールメンバーとハツユキ。キャンサーは現在他の用事(私がお願いしたコンタクト)のため此処にはいない。
ウィスプは武器を持たせてはいない。魔法で戦ってもらってる。使えるのは下級魔法だけだけど、一応問題なく戦える。
あと、指揮はミラ含む四人を部隊長とし、一部隊八人で四つの部隊にしている。
そしてハツユキは、キャンサーに引けを取らないほど強い。
キャンサーと同じく近接型だが、こっちは剣と魔法剣による物理魔法の両方で強い。
レベルは70。キャンサーと違って回避じゃなくて防御を主とするためLP/DEF/RESが高い。
使うのは長剣を二本。投げたり切ったり刺したりすることで様々な状況に対応する。
投げ槍ならぬ投げ剣という珍しいスキルを使う。ちなみに持ってる剣は特殊なため、念じると手元に戻ってくる。もちろん耐久無限。
私は、東西南北最後の情報収集としてここに来たのですよ。
「…主、生体反応13。敵対」
「位置は」
「上層からこちらに降りてくる。接敵で12秒」
降りてくるということは、陸を走るタイプか?
ふむ、それでも13とは多い。今までとは違うと見ていいだろう。
地中を移動するワームとかもいるけど、そいつらはソロ行動だし縄張り意識が強い。そもそも反応があるのは地表だ。
「ミラ達は攻撃可能範囲の少し手前で魔法を一斉に撃ちこんで。ハツユキはウィスプ隊の護衛」
「御意」
「(こくこく)」
私はバリスタからハンドガンとハルバードに装備を変更する。
数が多いなら火力ではなく攻撃頻度の方が重要だ。バリスタのボルトは貫通力があるがそれは相手が直線になっている前提だから実戦で多数を相手にすることができることはまずない。
そのため、手数を作りやすい近接武器や銃の方がいいのだ。
…おそらく私の出番はないだろうけど、念の為だ。
「──!」
よくわからない叫び声をミラがあげて、大量の魔法が撃ちこまれる。
属性は…火と風と水と地だな。
まずは地属性で地面を突起させて、囲いをつくる。突起物に衝突して、対象の動きがととまる。
そこに上から大量の水が流れてくる。囲いの中は水槽のようになる。
次に風と火で水をかき乱す。熱風によって、水は約600℃まで熱せられる。
…そう、相手を茹でるのである。
「…えげつないなぁ」
「戦いは非情。殺されるか殺すか」
「わかってるよ」
ちなみにウィスプは使える属性がバラバラだから、それぞれの役割で分けている。
第一部隊が火と光、第二部隊が風と樹、第三部隊が水と氷、第四部隊が地と暗。
はぐれ精霊は本来の精霊と違って適正となる属性が存在しない。だからほとんどの魔法を使うことができる。
「おけおけ。ありがとね!」
「♪」
さて、魔法が全て消えたから見に行く。
多分、生きてるだろう。たかが10秒ぐらいで死なれたら困る。
「人かぁ…山賊かな?」
それぞればらばらの武器を手に持って、なんか湯気が出ている13人の人だ。
え?しんでないよ?いきてるよ?
「ここ」
ハツユキの指差した場所を見ると、刺青が彫られていた。
…これは魔法の術式だな。刻まれているのは、
『治癒』『再生』『再構成』
治癒魔法か。残念ながら、どれも発動しないけどね。
耐熱とか耐水みたいなのならいけただろうけど。
あと、その下にはギルドマークのようなものがある。おそらく所属する何かのマークだろう。
…興味ないな。使えるものだけ追剥して残りは捨てておくか。
どんな理由だか知らないけど、こいつらは敵で私たちに負けた。勝者が敗者から奪うことに何の問題もないんだよ。
せめて生きてるだけマシだと思ってほしいね。
「しけてるなぁ…鉄か」
持っているのは全て鉄の武器だ。剣とか斧とか槍とか。
青銅よりは強いけど、鉄なんて役に立たない。鉱石素材では下から二番目だよ?
まあ、売れば金にはなるか。耐久力が少ないのがいくつあかるけど。
「主、こいつらはどうする」
「その辺に転がしておいて。そしたら勝手に死ぬんじゃない」
「了解」
まあ、相手が悪かったと諦めてもらうしかないね。
私が普通のプレイヤーだったら勝てたかもしれないけど、生憎私は普通じゃない。
「よし、んじゃ休憩も終わったし進むよ」
「御意に」
「──♪」
ウィスプの子たちがご機嫌だ。
何故かって…?
どうやら私の役に立てたということらしい。
全面的に慕われてるなぁ…私。いや、正確には天使の特性だろうけど。
台詞の一つもなかった山賊達…南無―
ちなみに、ボルトには
『修復』『転送』の二つの術式を組みこんでいます
そのため発射後手元に戻ってくるし破損しても修復されます




