プロローグ 会社員。自由を夢見る
五十七歳。
それが、俺――修三という男に与えられた年齢だった。
どこにでもいる会社員。妻がいて、子供が二人いる。特別に裕福なわけでもなければ、何か大きな夢を追いかけているわけでもない。
毎日、決められた時間に働き、疲れて帰り、食事をして眠る。
俺の勤務は、日勤四日、休み二日、夜勤四日、休み二日。その繰り返しだった。
体力的にきついのはもちろんだが、仕事そのものよりも厄介なのは、上司の存在だった。
現場を知らないくせに、無茶な指示を出す。うまくいかなければ、責任を部下に押しつける。
正面から言い返しても、状況が良くなるとは限らない。
だから俺は、必要以上に争わないことにしていた。
余計なことに力を使わない。できる範囲で仕事を片づけ、家に帰る。
それが、長年働いて身につけた処世術だった。
そんな俺にも、楽しみはある。
ファンタジー系のゲームだ。
広い世界を自由に歩き回り、魔物と戦い、素材を集め、道具を作り、自分の拠点を整えていく。
誰かに命令されるのではなく、自分で考えて、自分で決める。
現実ではなかなか得られない自由が、ゲームの中にはあった。
ラノベもよく読む。
異世界転移、転生、魔法、魔物、冒険、従魔、拠点づくり。
ジャンルを問わず、面白そうな作品には手を伸ばしてきた。
もちろん、物語は物語だ。現実が同じようになるとは思っていない。
それでも、もし本当に魔法が使えたら。
もし誰にも急かされず、自分の力で生きていける世界があったら。
そんなことを、考えたことがないわけではなかった。
その日も、俺は仕事を終えて家に帰った。
いつものように疲れた体を休めながら、ゲームを起動する。
新しいキャラクターを作るためだった。
このときの俺は、まだ知らなかった。
画面の向こうにあるはずの世界が、俺自身の行き先になることを。
そして、これまでの人生で一度も経験したことのない、本当の意味で自分だけの生活が始まることを。




