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さらば、“クニオブラザーズⅢ”

 アニキとスーモイは魔法を駆使して、300人ほどの“クニオブラザーズⅢ”と激しい戦闘を繰り広げていた。


 なぜ“クニオブラザーズⅢ”とわかったかというと、可哀そうに全員が“クニオブラザーズⅢ”とロゴが入ったキャップをかぶらされていたからだ。


 中にはアニキの魔法を受けた際に、自ら帽子を落とす奴もいたが、そういったことをすると後方から無数の矢が飛んできていた。


 こんなにダサいキャップをかぶっていたら、恥ずかしくて戦闘に集中できていないことだろう。たちの悪い罰ゲームのようなものだ。

 キャップをかぶるのが死んでも嫌だったのか、それとも“クニオブラザーズⅢ”に潜入する目的がなくなったからか、アカネ、ラーガ、オンスの姿はすでになかった。

 それにしても、なんだかクサいな。血の匂いともまた違う。


 アニキとスーモイの体にも、かなりの数の矢や槍、斧などが刺さっていた。

 巨人族のアニキとスーモイとはいえ、さすがに多勢に無勢で苦戦を強いられているようだ。


「どうしてガチでこの島から出られないんだよっ!!」


 俺は、背後からアニキのアキレス腱を斧で切ろうとしていた奴を、思い切り蹴とばした。そしつは、近くにいた荒くれ者も巻き込んで、木々をなぎ倒しながら森の奥深くまで飛んで行った。


「おお、あいつ無事だったのか」


「オイラたち、ずっと探していたんだよ~。そしたら、こいつらにからまれちゃってさ~」


 あいかわらず、自分たちのことより人のことを心配する優しい双子だ。


「うっ……」


 突然、スーモイの顔が青ざめる。


「どうした? 毒矢でも刺されたのか?」


「お、お腹痛いよ~。アニキ~、ちょっと待ってて~」


 そう言うとスーモイは、ドシンッ、ドシンッと地面を大きく揺らして、走って森の中に消えていく。


「チッ、スーモイの奴、またかよ。これで、何度目だ」


「スーモイ、また変な物でも食べたのか?」


 俺は襲ってくる荒くれどもを適当にぶっ飛ばしながら、アニキと喋る。


「いや違う。あそこにいる、あの金縁眼鏡ヤローを見ると、激マズだったことを思い出して、お腹が痛くなってしまうそうだ」


 アニキの視線の先には、スーモイがあまりのマズさに吐き出した田沢の姿があった。

 といっても、リーゼント頭で上半身裸で、両腕にホエールイーグルの子供の翼を括りつけている見るからに変態ヤローの後ろに隠れているのでよく見えないが、この気持ち悪さは田沢に違いない。


 田沢が盾にしているということは、あの変態ヤローがこの軍団のリーダーのクニオだな。ズルい奴だな。クニオと田沢の2人だけは、ダサいロゴの入ったキャップをかぶっていなかった。まあ、確かにリーゼントの髪形だとキャップはかぶれないが、俺はこういう人には押し付けて、自分はしないという奴が大嫌いだった。


 それにしても、なぜ田沢がここにいるのだ? うっかり俺がダイアモンドの大剣で心臓を刺したはずなのに……。


 俺と田沢の目が合う。


「オエッ……」


 俺はたまらず嗚咽した。もの凄い破壊力だ。よく見ると、髪形をオールバックに変えていて、気持ち悪さが増していた。先ほどよりもクサい匂いも漂っている。


 田沢は俺に気付くと、クニオがどこかにいっていないか何度も振り返って確認しながら、近づいてきやがった。


 ああ、鳥肌が立つ。


「お待たせ~」


 ドシンッ、ドシンッと地面を揺らして、スーモイが大きな半ズボンを上げながら、戻って来る。


 このクサい匂いは、スーモイのアレだったのか! しかも、絶対にスーモイの奴、手を洗っていないよな! お尻を拭いたのかどうかもあやしいぞ……。


「ウッ……アニキ~、ごめん~。お腹痛―い」


 スーモイはまた森に引き返すと、


「今度が一番強烈に痛いから、しばらく戻れないよ~」


と言って、森の奥へと消えていく。


 頼む。できるかぎり、遠くへ行ってくれ。こいつらの相手は俺がするから心配はいらない。


 田沢の奴め、巨人族の屈強の戦士を、姿を見せるだけで腹痛で苦しませるとは、これが“ゴキブリ”と呼ばれている男の力なのか。


「ギヒヒッ。どうして、俺様がここにいるのか不思議そうな顔をしているな?」


 それは2分ほど前の俺の心境だ。今は“ゴキブリ”と呼ばれるような人生でなくて本当に良かったと安堵していたところだ。


 あっ、ホエールイーグルのつがいが飛んできて、メスのほうが、クニオを掴んで飛び去って行ったぞ。

 多分、クニオが両腕に巻き付けていた翼を見て、自分の子供だと勘違いしたのだな。


「ギヒヒッ。いいだろう。そこまでどうしても知りたいと言うのなら、教えてやろう。実はな、俺の本当のスキルは『一生ハゲないスキル』ではなくて、『急所を自由自在に変えられるスキル』だったのだよ。だから、貴様に剣で心臓をさされても、死ななかったというわけさ」


 あっ、ホエールイーグルのオスが飛んで来て、田沢をパクっと口に入れると、そのままゴクッと丸のみにされた。これでは、どこが急所でも関係ないな。ホエールイーグルの胃の中でゆっくり消化されてくれ。それが、スーモイのためだ。


 ところが、ホエールイーグルも丸飲みした田沢を、ペッと吐き出してしまう。そして、近くにいた他の荒くれ者をくちばしでくわえるとメスを追いかけて、飛び去って行った。


「お待たせ~。もう大丈夫……」


 戻って来たスーモイが、ホエールイーグルの胃酸まみれの田沢を見ると、何も言わずにズボンを下ろそうとする。


 俺とアニキは目を合わせると、スーモイが近寄っていない、“安全な森の中”へと猛ダッシュで逃げた。


「ギャアアアアア!!」


 田沢や、他の“クニオブラザーズⅢ”の荒くれ者たちの断末魔が聞こえてきた。


 いろんな人生の終わり方があるのだろうが、これは絶対に嫌だ。


 俺とアニキは安全な場所まで逃げると、先ほどの場所に向かって手を合わせて、“クニオブラザーズⅢ”の荒くれ者たちの冥福を祈った。


 俺、こんなことに付き合っている場合ではないのだけどな……。


どうにかして、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から出る方法を探さなければならない。


 あと25日後には娘の紗麻亜が、俺が暮らしていたリストン王国の丘に来るのだから。


 ああ、あの平和だった日々が懐かしい。


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