たった一つの奇跡的な可能性、それは……
「出られる、という表現を使っていいのかも微妙なのですが、皆さんにお話するのが本当に申し訳ないくらい、限りなく不可能に近い、たった一つの奇跡的な可能性……それは……」
「それは……」
俺は、ノゾミの言葉を待つ。
キースもレイラたちも、今から発せられるノゾミの言葉を聞き逃さないように、ノゾミの口元を凝視している。
「たった一つの奇跡的な可能性は……」
予想以上にじらすな。
うわっ、この揺れは……。イライラしたキースが、貧乏ゆすりを始めている。
「期待しないで、聞いてくださいね。本当にまず起こりえないことなので、あしからず」
揺れが激しくなる。いくつもの石が落ちてくる。おーい、ノゾミー。もう、じらしは十分だから、早く核心部分を話さないと、この洞窟が崩壊して、タイムマシーンがヤバいことになってしまいますよー。
「この“最果ての入り口はあっても出口はない島”に強力な結界は張った、4人の大賢者と、そして何より……」
うぐっ、ここでまたじらすのか。ばんそうこうをゆっくり剥がされているような嫌な感じがする。
ほら、キースも同様で、指をポキポキ鳴らし始めたよ。ストレス発散のために、キースがちょっとでも暴れたら、この崖もろとも、隠れ家か破壊されてしまうよ。
あまりに、ノゾミがじらすので、キースのイライラがどんどん増して、洞窟の崩壊のカウントダウンが始まっていた。
「もう何も隠すことはない」
レイラたちが、何もかも話したくなる、あの追及の視線を、ノゾミに向ける。
「結界を張った4人の大賢者と勇者が、この“最果ての入り口はあっても出口のない島”に捨てられること、それがたった一つの奇跡的な可能性です。皆さんもよくおわかりのことだと思いますが、可能性はほぼゼロですので、あしからず」
ノゾミはスラスラと話した。
揺れがピタッと止まる。恐らくキースは、勇者という言葉に反応したのだろう。
そして、自分の後輩にあたる現勇者がこの島に捨てられるわけがないという事実を、ここにいる誰よりも知っているのだ。
そう、勇者がこの島に捨てられるわけがない。
しかも、現勇者は、正義感のかたまりのようなあのミカエムだ! 超ポジティブ思考で、ややおバカなところはあるが、人に好かれるタイプであることは俺がよくよく知っている。
なにせ、俺のたった一人の弟子だったのだから。どんな間違いがあっても、この島に来てはならない少年だ。
それに4人の大賢者は、レストキア、リストン、ガルトニア、ベアラッカスの国王たちのことだ。大国の国王が4人もこの島に捨てられることなど考えられない。第一、レイラたちを愛人にしていた最低だけどある意味尊敬もできるガルトニアの国王にいたっては、魔王ナコによって闇の牢獄に閉じ込められている。
“奇跡的な可能性”という意味がよくわかった。
無理だとはわかっているが、一応聞いておこう。
「もしも、4人の大賢者と勇者がこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”に捨てられた場合どんなことが起きるのかな?」
「4人の大賢者がこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”を拡大させて、やがて世界中を飲み込む巨大な大陸にしてしまうのです。そうしてしまえば、“出る必要性”がなくなるのです。このことは私が研究をしていた際に見つけたマニュアルに“4人の大賢者が誤って入ってしまった場合”という項目に記されていました」
なるほど。発想の逆転というやつか。この島から出るのではなく、世界中をこの島の結界に入れてしまえば、世界各国に行けるようになり、実質的にこの島から出られることになるというわけだな。
「でも、それだと、ノゾミは未来に帰ることができないままだよね?」
俺が尋ねると、
「いえ、結界が広がり、その密度が薄まれば、時空間のトンネルに入ることができるので、タイムワープで未来に帰れるのです」
とノゾミが教えてくれる。結局わかったことは、ノゾミも未来に帰れるようになるということだ。あと知りたいことは……。
「勇者の役目は?」
キースが俺が疑問に思っていたことを聞いてくれる。
「4人の大賢者の護衛です。この“最果ての入り口はあっても出口はない島”を拡大して、世界中を飲み込んでいるときに、4人の大賢者が魔王に襲われないための護衛です。相手が魔王ですから、この役目は勇者にしかできません」
ただでさえ、本当に“奇跡的な可能性”なのに、ますます厳しくなってきた。今の魔王は、歴代最強の無双を誇るナコだ。
もし、ミカエムがナコより強くなれたとしても、かなりの時間を要するだろう。
娘の紗麻亜が遊びに来る25日後までに、この島から出ることはもはや絶望的だ。仕送りもできない。モンスターだらけの異世界で、まだ小学5年生の娘を一人ぼっちにさせてしまうことになるとは……。
それに魔王ナコに、この島で知ったことをどうしても伝えたいのだ。
ダメだ。やっぱり、諦めきれない。
俺はノゾミの隠れ家の洞窟から出ると、天高くまで思い切りジャンプする。
そのまま結界を突き破ろうと試みるが、ボヨヨーンと弾き返されてしまう。
そりゃそうだよな。あのキースでも突き破れなかったんだ。でも、試さずにはいられなかった。
本当に他に方法はないのか?
結界に弾き返され、地上に落下する際、アニキとスーモイが、300人ほどの荒くれ者たちと戦っているのが見えた。
よかった。アニキもスーモイも無事だったのだ。山のふもとでキースのデザートタイムの邪魔をして、ぶっ飛ばされてから、たまにだが心配をしていた。
例えば、キースに殴られたときとか、キースに投げ飛ばされたときとか、キースに殺意を抱かれたときとか。まあ、ようはキースが怒ったときに、そういえばアニキとスーモイは大丈夫かな、と心配していのだ。
よし、絶望的状況を知って、苛立っていたところだ。ちょうどいい。アニキとスーモイを助けに行こう。そして、300人ほどの荒くれ者たちに八つ当たりしよう。
俺は着地すると、すぐにアニキとスーモイが戦っていたほうへと飛び向かった。




