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“犯人”は現場に戻るらしい

「そうか、わかったわよ。あの石があれば、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から出られるのね」


 キースが手を叩いて喜ぶ。その衝撃で、俺たちは飛ばされそうになる。


「だから、私はこの島の脱出法なんて知らないって言っているでしょ。あ、あの、アアア、アノ、イシハ、ワタシガ、ミライニ、カ、カ、カエ……」


 何か変だ。ノゾミの声が途中から機械のようになった。目もピカピカ点滅している。


「大丈夫なの? あなたが頼りなの。しっかりしてちょうだ」


 キースがそう言って、ノゾミの左肩を揺する。


 ガシャン!


 その拍子で、ノゾミの左腕が外れてしまう。


「キャッ!」


 キースが思わず叫ぶ。


「な、なによ、これ……」


 見たことがないのだろう。さすがの、レイラたちも動揺している。


「ど、どうなってしまったの? 血、血とかいっぱいでているの? わ、私は悪くないからね。このおなごが、よ、弱すぎるのよ」


 キースは背中を向けている。どうやら、やたら強いくせに、血を見るのは苦手なようだった。


 ジジジッ。ジジジジッ。


 壊れてしまったノゾミの体から電流が放出している。


 レイラが連れてきたのは、ノゾミの容姿をしたアンドロイドだったのだ。それにしても、ここまで人間そっくりにできたアンドロイドは向こうの世界でも見たことがない。


「あっ、あのおなご!」


 背中を向けていたキースが、自分が開けた大きな穴の底を指さした。


 そこには、ノゾミがいて、掘り出した緑色の鉱石を手に持っていた。


「それでは皆さん。こちらの鉱石は私がいただきますので、あしからず」


 ノゾミはそう言うと、スッと姿を消してしまった。


 さすがのキースも、大地が裂けるほどのスピードで移動して、ノゾミを捕まえようとしたが、間に合わなかった。


「もう、私は早くあのお方に会いたくなって、居ても立っても居られないっていうのに! ちょこまかと逃げないでよね! 頭にきたわよまったく!」


 ポキポキッ。ボキポキッ。


 キースが指の骨を鳴らす。


 マズイ、ノゾミの隠れられる場所がなくなるように、いよいよ本気でこの島の大部分を破壊するつもりだ。


 例え、この島から出られたとしても、元魔王がナコにやられたことを知ったとき、キースの怒りが爆発するという問題があるが、今はその心配をできる状況でさえない。


 今はキースの暴走を止めなければ! 下手したら、キースは自分が立てる程度だけ残して、他の者が誰一人住めないくらい、この島を破壊しかねない。


「ま、また、あの川で、イケメンの水浴びを覗き見に来るかもしれません。キース殿、今度こそ本物を連れてきますので、お酒でも飲みながら少しお待ちください」


 そうレイラが提案をする。


「いやよ!」


 キースが力強く答える。


 力尽くで破壊を止めたいところだが、相手が相手だ……。俺やレイラたちに緊張感が走る。


「私もその川に一緒に行くわ。犯人は現場に戻るって昔から言うものね」


 キースはそう言って、笑みを浮かべる。

 よかったー。俺やレイラたちはほっと胸をなでおろす。

 別にノゾミは何かをした犯人ではないが、キースには誰もつっこめない。


「殿方の水浴びを見るなんて、何年ぶりかしらね。もう、やだあ」


 バシッ!! ドタッ!!


 一人で妄想して照れているキースが俺の背中を叩いた。俺は立っていられず、顔から地面に倒れた。


「だから、めちゃめちゃ痛いんですってば! やめてください!」


「で、その川というのは、どっちの方向にあるのかしら?」


 キースがレイラに尋ねる。俺の話などまったく聞いてはいない。ミカエムもそうだったが、勇者という生き物は人の話を聞かないようだ。


「では、まず、君から……」


 キースは俺の腕を掴むと、


「イテテテテッ」


「ダントツの優勝候補キース選手、第一投目、投げまーす!」


と自ら実況して、ハンマー投げのように、俺を川に向かって投げ飛ばした。


「ヒャーーーーーッ!!」


 向こうの世界のジェットコースターなどかわいいものだ。俺はほっぺたがはがれそうになるくらい、もの凄い風圧を受けながら、まるでロケットのように川に向かって飛ばされた。


 ドカッ!! ドボンッ!!


 俺は川に着水する。いや、川底に頭を打ったから、着水というよりは、落下したという表現が正かもしれない。

 しかも、今、飛ばされてきたとき、何かとぶつかったぞ。幸い、川の水はキレイだった。


 うっ、こいつは……。


 飛んできた俺とぶつかって気絶したイケメンが溺れていた。


 すぐに捕まえようとしたが、水浴び中だったイケメンは流されてしまい、突然姿を消してしまった。


 嫌な予感しかしない。俺はゆっくりと歩みを進める。


 ザザザザザーッ! やはりそうだ! ちょっと先に進むと、滝になっていた! しかも、かなり高い! 滝つぼが全然見えなかった。これではあのイケメンの荒くれ者は……。

 っていうかズルいよな、荒くれ者でもイケメンだとモテモテなのか? ざまぁ見ろってんだ! お前なんか、滝つぼに落ちて当然なんだ!


 そうこうしていると、レイラたちもキースに飛ばされて来る。ただ、俺と違うのはさすがくノ一だけあって、バランスよく見事に足から着水する。


「で、そのイケメンはどこにいるの?」


「うわっ!」


 いつの間にか、キースも滝に落ちるすれすれのところに来ていた。キョロキョロして、いるはずのないイケメンを探している。どうやら、かなり楽しみにしていたようだ。

 俺とぶつかって滝つぼに落ちたことは誰にも知られてはいけない。どんどん命に係わる隠し事が増えていっている。


「なんだか、秘密の匂いがするな……」


 レイラをはじめとしたくノ一の5人が、一斉に俺をじーっと見る。こ、これは危険だ。なにもかも話したい気分になってくる。


 ドンッ!!


「そこをどいて」


 キースが俺の背中を押して、川上のほうに歩を進める。

 俺は勢いよく転び、また川底に頭をぶつける。しかし、これは助かった。おかげで、レイラたちの追及の視線から逃れることができた。


「レイラ、イケメンはどこにいるの? ねえ、どこにいるのよーー」


「キース殿、まずは私たちが姿を隠しませんと、あのイケメンの荒くれ者も、水浴びしないで帰ってしまうかもしれません。ほとんどの戦士は常に警戒しているものです」


「それもそうね。では、さっさとあの岩陰に隠れるわよ」


 興奮して、キースの声が高くなっている。おいおい、探す相手が変わっているぞ。


 それに、あのイケメンの荒くれ者がどんなに警戒していたとしても、あんなに猛スピードで人が飛んで来るとは夢にも思っていなかっただろうな。恨むなら、キースを恨んでくれ。俺はただいきなり飛ばされただけだ。むしろ、俺も力の加減をしらない元勇者の被害者だ。

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