ノゾミ、見つけました
ドーン!! ドーン!! ドーン!!
母親の優しい顔を見せたのも束の間、キースは“最果ての入り口はあっても出口はない島”を破壊し続けた。あっという間に、半径500mほどの大きな穴ができる。
キースの強さはとにかく桁違いで、予測できないが、1週間、いや3日ほどでこの島の大部分が破壊され、ほとんどの荒くれ者たちが住む場所をなくし、海に落ちるしかない状況に追い込まれることだろう。
すると、1,000人くらいの軍団が、森の中から姿を現した。皆、朱色の防具を着けていた。
“ダイダニック軍団”の面子ではないし、人数も多い。“クニオブラザーズⅢ”か、まだ名前も聞いていなかった3強の残りの1つか。
弓矢やボーガンなど、飛び道具を持っていた戦士たちが、一斉にキースを狙い撃つ。
「そんなもの、私には通用しないわよ。出でよ、勇者の剣」
キースは魔法で勇者の剣を出すと、それを使って飛んできた矢や石、槍などを払いのける。
すると、キースが剣を振るったその衝撃で、突撃してきていた戦士をはじめ、出現した1,000人の軍団が、海まで吹き飛ばされる。
ちょうど先ほど、“氷山蜘蛛”が、この島に捨てられていたから、もう岸に上がって来ることはないだろう。
こ、攻撃ではないぞ。今のは、勇者の剣を使って、相手の攻撃を払っただけだぞ。それで、相手を全滅させるとは、これがレベル1,000,000の強さなのか。
それに、元勇者でも、勇者の剣を使えるのか。っていうか、その勇者の剣、引退したのならミカエムに渡してやってくれよ! 武器マニアのミカエムは泣いて喜ぶぞ!
“クニオブラザーズⅢ”だったのか、まだ名前も聞いていなかった3強の残りの1つなのか、相手が誰だかわかる前に、勝負がついてしまった。(そもそも、一方的過ぎて勝負とさえ言えない気がする。)
「は、離しなさい! 野蛮人どもー!」
この声は先ほどの科学者?
声が聞こえた上空を見上げると、レイラとニーズがムササビの術を使って、こちらに向かって下降していた。
レイラの背中には、あの白衣を着て黒ブチ眼鏡をかけたベタな格好の科学者が縛り付けられていた。どうやらホログラムではなさそうだ。
キースもそれに気づき、島を破壊することをやめる。
さらに、森に身を潜めていたタスキ、ミカヅキ、カーヤの3人が姿を現す。朱色の防具を装着していたが、肌のほとんどを露出していて、防御力がたいして上がっているようには思えない。
「さすが、姉様、ノゾミ殿を無事見つけられたようだ」
「これでこの島から出て、ガルトニアの国王の裏の顔を暴くことがきっとできますわ」
「お前、モモカと一緒ではないのか? モモカはどこにいる!」
えーっと、その話をすると、長くなるよ……。この3人がいるということは、先ほどキースに吹き飛ばされたのは、3強の残りの1つということか。それにしてもガルトニアの国王の裏の顔ってなんのことだ? ただのムキムキエロ国王ではないのか?
それから、科学者の名前はどうやらノゾミというらしい。この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から脱出する希望の光に相応しい名前ではないか! なんだかもう脱出できる気しかしない!
お父さん、紗麻亜が遊びに来るまでに、絶対に戻って見せるからな! 仕送りもきちんと間に合わせてみせるぞ!(そうしないと絶対に妻の彩夏にキレられる。)
それに、俺はこの島から出て、魔王ナコに絶対に伝えなければならないことがある。
「質問に答えろ! モモカはどこだ!」
「答えによっては命はないぞ!」
「逃がしはせぬぞ!」
タスキ、ミカヅキ、カーヤの3人が短刀を手に持ち、俺を囲む。只者ではないとわかっていたが、それにしても仲間の絆が強い。何か理由があるのだろう。
「案ずるな、モモカの居場所はわかっている」
そう言いながら、科学者を背負ったレイラと、ニーズが着地した。明らかにくノ一とわかる格好をしている。やはり、あの身のこなし、レイラたちは忍者だったのだ。
「こんなこともあろうかと、モモカには“丸聞こえの魔法”をかけておいた。モモカは、モンジャーによって、安全な場所にかくまわれている」
ああ、相手の会話がすべて聞こえるという“丸聞こえの魔法”をモモカにかけていたのか。異世界の忍者は魔法も使うのだな。
レイラの信頼は厚いようで、タスキ、ミカヅキ、カーヤの3人が短刀をしまう。
「誰だか知らないけど、若さを前面に出した露出の高い格好がちょっとイラっとするけど、よくそのおなごを見つけてくれたわね。助かったわ。いったい、どこに隠れていたの?」
キースがレイラとニーズに歩み寄って、しっかり毒ずくところは毒ずいてから褒める。
「隠れ家を見つけることはできなかったのですが、イケメンの荒くれ者が、川で水浴びしているのを覗き見していたところを取り押さえました」
ノゾミの顔がカァーッと赤くなる。変に言い訳しないところが、かわいい。
「さては、お前たちもそのイケメンの水浴びを覗き見していたのだな」
キースが悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「そ、そんなことはありません。くノ一は任務以外で忍術を使用することなんて、な、ないのです」
珍しくレイラが動揺する。なるほど、ワイルド系のイケメンがタイプなのだな。レイラたちのことを俺はまだよく知らない。いつ本気で戦うことになるのかわからない。どんな相手でも、弱点を知っておくことは、異世界で生き延びるためには重要なことだ。




