『お菓子をくれなきゃ………………』
『お菓子をくれなきゃ………………』
これはいつも変わらぬ、高貴な装飾に包まれた王城。いつもと少し違うことは……、いつもきっちりと軍服を着るシャエルが一面黒で裏地が赤、そんなマントに身を包み、ひらひらとミニスカートを遊ばせていた。桃色のツインテールの上にはカボチャの髪飾り――ジャック・オー・ランタン。キュートな笑顔で楽しそうに廊下を駆け巡っている。今日は相棒の大剣も携えず、代わりに箒を持っていれば、今日は“魔女”の格好をしているのだ。
「うふふふ。ラグナー。お菓子くれなきゃイタズラするわ?」
普段から退屈そうなラグナを見かけると今日は説教では無くて、箒をラグナに向けた。
「はぁあー。シャエル。お前はホントにイベント事には目が無いなぁ」
すると、ラグナは大きなあくびを一つして、シャエルの方へと面倒くさそうに返答した。
「お菓子くれないのだから、イタズラして良いってわけ?」
するとシャエルの持つ箒からは、剣呑とした鋭利な英気が漂った。どこにも、刃など付いていないのに背筋が冷たい。
「良くねぇよ……。お前の“イタズラ”は死に値するからな」
ラグナは締まらない顔でシャエルをふかんするとポケットに手を突っ込んで態度悪そうにシャエルの方へと近付いた。
「なによ……私とやる気? お菓子くれなきゃ殺すわよ」
「だったら、仕方ない。ほらよ」
ラグナは突っ込んだポケットからお菓子を取り出すとシャエルに投げた。その投擲速度が常人が死ぬほどの弾丸だったことは内緒にしておこう。
「あら、“ラグナ”にしては準備がいいのね」
「“見た目”だけは可愛いからな。いつも公務おつかれさん。“今日”は楽しめ! 俺がパトロールにいってやるから」
ラグナがシャエルを通り越して、王都の方へと見回りにいこうとすると、
――ちくりっ
「――――痛って!」
シャエルは箒のチクチクでラグナの背中をツンっとした。
「おいおいっ、お菓子あげただろっ」
「――“見た目”だけかわいいってのは言葉余分だけど、お菓子くれたから、命は勘弁したげるっ」
するとシャエルはラグナのすぐ横でいたずらに笑って見せた。“戦う才能”がなくてもシャエルなら王族になれただろう美貌の持ち主だ。幾人の女を見てきたラグナが認める。
「いたずらも辞めて欲しいけどなぁ…………。ってか、なんでついてきてんだ?」
ラグナはかっこつけて、シャエルを休ませるつもりだったのだが…………、
「王都に出なきゃ、お菓子もらえないじゃないっ! ほら、ラグナいくわよ」
「――だったら、俺。パトロール行かなくてもいいじゃんか」
そんなことを矮小にぼやくラグナ。
この世界の女性において、唯一、シャエルには頭の上がらないラグナだった。
実際に強すぎる竜の肩章持ちをこのエピソードで、“ツンデレ”と呼んでいいのやら?
“シャエルちゃん”の愛着を一つ公開する記念エピソードでしたm(_ _)m