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道化(どうか)、僕を強くしてください  作者: chuboy
第四章 改編の開戦
21/43


 7


「おいおいっ。門を開けてくれよっ」


「バカ言うな。敵前逃亡出来るかよ腰抜けども」


「どうせ、敵わないなら命を無駄にする意味があるかよ」


「“軍服”を着るただのクズが…………」


 第三中域サード城壁前まで戦線を後退させながら、帝国兵と賊兵団はジリジリと剣を交えていた。剣を抜きもしない腰を抜かした者も多い。数は五分というのに戦っている実数はその3割ほどで防御戦を強いていれば多対一の戦況に簡単に命は奪われる。


「油断するな。俺たちはただ“人殺し”に来たんじゃない。“弱者の権利”を主張が目的だ。それを忘れるなぁ!」


 対して賊兵は間抜けな帝国兵をあざ笑うこともなく、ただ冷静に勝ちを納めに進軍していく。慎重かつ大胆に敵陣を荒らせば、集団行動に熟練していた。


 ――しかし、ただ一点。退路の確保は考えていない。


 順調に戦略を進め帝国をどんどんと追い込んでいくのだが、


「敵ながらその立ち振る舞いと度胸に称賛しよう」


 清く透き通った女性の声。

 その声が上空からしたとき、賊兵は盾を寄せ集め、突撃部隊の十割すべてを防御行動へと転じた。その瞬間、カシュっと鞘から刀身が解放され、暴れ出す心地の良い音がその女性の両腕。詳しくはその先の烈火に輝く赤の宝刀より紅蓮が開花した。



「〈宝刀ジャンヌ・ダルク〉よ。聖女の神炎を灯し罪をも浄化する火刑を行使せよ」



 ――【エグジル・エッジ】



 指示も的確。天晴れな軍事行動で身を寄せ合い、盾を重ねた賊兵団であったが……。

 盾は紙切れの様に十文字の業火にちりぢりになり、賊兵の3割は“命”が燃え尽きた。

 残った兵も火傷痕を残し、無事で済むと言えた者はいなかった。


「リリーナ少将っ!! “大狼の軍服”様が助けに来てくれたぞ」



 たった一騎が舞い降りただけで戦況はことごとくひっくり返る。賊兵の全滅も時間の問題であろうが――――――しかし、


「皆っ! 決して武器をおくなよ」


 片眼から頬にかけて炎の斬撃を受けたであろう“賊兵の指揮者”は一言も弱音を吐くことも無くリリーナを、その瞳で射抜いた。この剣舞は簡単には終わらないかもしれない。

 リリーナがそう感じ取るほどに“覚悟”を背負った爽快な青年である。

 リリーナの踏み込みと同時に賊兵から後ろからは矢が引き絞られて、槍兵が前にリーチの利を活かそうと刺突の構えから捨て身で突っ込んでくる。ギガガっと金属音を鳴り響かせて――剣舞の舞踏、第二幕を開戦する。



 ◇◆◇



「市民には手を出すな。俺たちが闘うのは貴族と軍服を着る分からず屋だけだぞ」


「民家に逃げ込んだ軍人もいる。奇襲に注意して警戒は解くな」


 賊兵は“制圧”という言葉を使わずとも事実上、城下町フォースの北域を制圧していた。すべては増援の遅さ。国王のわがままに原因はあるだろう。


「まったく、ずいぶんな有様だ」


 しかし、たった二人の特務軍隊の力によれば、奪還は大いに可能であった。一度、出撃させれば戦況がぐらつくのは当然。“英雄”の到来が賊兵に苦悶させた。


「こりゃ……、勝ち目ねぇなぁ」


 賊兵は剣を握ったまま、苦笑するも眼は光り輝き、空振りで絶命する者などいないかった。届かなくとも“一矢、報いてやる”。その決意が絶望を呼ばない。


「……まったく、うちの帝国兵団とは出来が違うなぁ」


 小言をつく余裕綽綽とすれ違いざまに血の一輪。まるで軽いバイト感覚で斬撃を配る男がいた。


「せっ……セルシード少将だぁ」


 重傷を負い出血を抑えながら、降伏間際だった帝国兵達はその“大狼の軍服”に希望の光を見いだしていた。無地の軍服兵の傷は城門に近付くほどに深く、正面に受けている。


「逃げなかった立派な兵士こそ。生き残って欲しかったね」


 セルシード少将は敵をズバズバと太刀を浴びせながら、聞く者のいない中で独り言に明け暮れていた。セルシードは脚を全く止めることもなく黒のフードパーカーをどんどんと亡き者にしていくのだが、なんとなく涼しげに感情の読みにくい表情を浮かべていた。


 すると、セルシードが崩壊した城門まで行き着くとピタリと脚を止めて、その涼しげな眼をさらに鋭利に細めると凍るようなゆっくりとした声を静寂に乗せる。




「シガーンくん。何を敵と仲良しこよししてるんだい?」



「こいつはぁ…………、セルシード少将…………。ただのガキで“敵”に見えなかったもんでなぁ」


「君は甘いなぁ。一射目は必ず“威嚇射撃”をするところとか、特にね。僕が代わりにやるよ」


 すると、セルシードはロング・ソードに付着した血を一度、拭き取った。

 それは赤黒く歪で“何か生物”の一部を削って創ったような不吉なオーラを纏っている。


「レイド。レイナ。俺からはなんも出来ねぇ。頑張って生きろよ」


 シガーンは助言すると剣呑とするその戦場から脚を引きずって身を引いた。


「レイナっ! あいつは…………やばい。出し惜しみはなしだぞ」


「――【貝独楽べいごま】」


 レイナの白の二刀が輝きを増すと独楽こまの様に高速回転した“真空刃”が次々とセルシードへと飛ぶ。その螺旋は“吸い込み”を兼ねていて、徐々に旋風する人力シュレッターに引き込まれていく。


「殺しは“遊び”じゃないぞ」


 冷たく良い放つとセルシードは一太刀。たった一撃を踏み込むとレイナの白のお遊戯を相殺した。しかし、その隣にいた男児の姿はない。独楽こまに上手く意識を集めさせる魂胆だったのだろう。


 その刹那、スルッとセルシードの影が蠢き、背後から殺気が膨張した。


「――【影踏み】」


 黒を纏う男児の二刀がすでにセルシードに届く距離にあった。だが、セルシードの後ろ蹴りがそれよりも前に伸びていた。


「――先に死ぬのはお前か?」


 セルシードの一蹴りが男児のみぞおちにクリーンヒットすると呼吸が出来なくなるように口をはくはくと空回りさせ表情が歪んだ。


「かぁ…………はぁはっ」


 そして、二刀の攻撃を諦め、ドスンと膝から落ちる。

 その首にセルシードは容赦のない一刀を振りきると、かろうじて男児は剣を重ねた。

 剣が重ねるとズドンっと衝撃音。付属して弾丸の様にレイドは横飛びした。

 捲れ上がった土壁に激突するとバラバラと壁を砕き、男児は重力に従って地に腰をつけた。口からは赤い液が垂れて半眼になってセルシードを睨んでいた。


「俺の剣技はな。切断と打撃が合成された太刀だ。その刃を防ごうとも打撃が身を砕く」



「レイドっぉおぉぉおぉぉぉおっぉぉ!」



 レイナの悲鳴が甲高く耳に障った。それに憤りを感じる大人が一人。セルシードは剣をレイナの首へと抜けて、無表情で冷たく語る。


「次はお前だ。一緒に逝け!」


 セルシードの姿がぼやけるとかき消えた。そして、レイナの目の前でロング・ソードを天高く振り上げる姿が露わに。レイナは涙を浮かべ死を覚悟した。


 すると、その天を裂くように光り輝く一つの光芒が走った。まるで願いを叶える――流れ星。それとともに、セルシードの姿はスザザザザと地面を引きずっていた。

 黄色の閃光はセルシードに向かって射抜かれた――――【光陰矢】。


「ガキの遊びに付き合ってもやれねぇのかよ」


 シガーンはセルシードに向かって矢を引いた後だった。


「威嚇射撃しないんだね」


 シガーンの一矢を即座に防ぎきったセルシード。とはいえ、その高威力に地面には電車道のような二本の引きずり痕が深く残っていた。


「増援が遅いし、子供きんきん声が頭痛くするし、いらいらすんだよ。ちょっと付き合えよ」



 自分よりも位の高い少将に喧嘩を売るなど、シガーンは結果的に子供に甘すぎた。





 ◆◇◆




「博士っ! 機巧の騎士(ディメンションナイト)のエネルギー抽出が止まりません。制御可能レベルを超えています」


『限界突破エネルギー充填率153.5%。飛翔爆弾ミサイルターゲット確に…………かく……か……カ……ジジジ……g……』


「システム制御不能。暴走しています」


 コウノーシャを討ちその直後、機巧の騎士(ディメンションナイト)が止まることはなかった。エネルギーを全損して停止するかと思えば、【治癒】を発動した後、金属を翡翠の結晶へと再構築が進み出した。どんどんと人間の力を超えた何かへと変化を遂げていてそれは操縦士を混乱へと導いている。


「“怪物”を倒す“怪物”を創ったのですよ。仕方ありません」


 ドリルエントはその状況を予想していたわけではないが……。覚悟は端から出来ている。ドリルエントがなだめようとその操縦士達に言葉をかけようとすると、


「やってられるか。【緊急脱出】っ!」


 座席のベルトを血が滲むほど握りしめ、操縦室から二人が飛び出した。パラシュート付きの脱出手段だが…………。


「まちなさ…………」


『生命反応――デリート』


 レーダーに飛び出した操縦士二人が映った、その瞬間。槍が二人を串刺しにしその命を絶った。緊急脱出装置のエンジンに対するその反応速度は人間の操縦に出来るような真似はなかった。


「最期まで闘いましょう」


「「りょっ……りょうかい!」」


 ドリルエント博士は残った操縦士を励ましながら、制御の聞かない“怪物”とともに闘うことを改めて誓う。


『【ロストブレイブピアス】チャージ完了。標的、王城を阻む壁。同時にエネルギー爆弾ミサイル斉射。上空より王城の破壊』


 オートプログラムが作用しているようでかろうじて、機巧の騎士(ディメンションナイト)は目的を見失っていない。チャージ時間も速すぎるが止める手段も無い。


「エネルギー抽出200.0%。今、発射すれば味方も巻きこみます」


「斉射っ!!」


 巨槍からは翡翠の流星弾が第三中域サード外壁へと一直線に向かった。そして、搭載された飛翔爆弾ミサイルは翡翠のエネルギーを溜め込んで王城ファーストに向かってアーチを描き何十発もが空を埋めた。




 ◆◇




「なっ、なんだ!?」


機巧の騎士(ディメンションナイト)の暴走っ!?」


 第三中域サードの外壁での地上戦ではリリーナが圧倒的な力を輝かせながら、乱舞する真っ只中だ。賊兵団が全滅するのも時間の問題であっただろうが……。


 帝国郊外から翡翠の輝きが爆発すると神々しい物質を浄化するエネルギーが外壁に向かって放たれていた。


「くっ! ……大きすぎるっ」


 リリーナが予想を遥に超える光線に戦慄すると、賊兵も予想外の様で、


「全員、身を小さくして伏せろっ!!」


 身体が消滅しないようにと匍匐ほふくして全身を地に預けた。帝国兵も全員が絶望の光を目の前にひれ伏したのだが…………。


 ――ただ一人。外壁を護ろうと。



 民を護ろうと。

 国を護ろうと。

 剣を引き絞り光線と向きあい一歩も引かない銀髪の姿があった。髪がなびき冷や汗が頬で光を反射しても目をそらさず静かな半歩を踏み出した。



「〈宝刀ジャンヌ〉力を貸して! ――【剣聖乃護衛ジル・ド・レ】」





「――リリィいいぃいぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃっぃ!!」


 その衝突の瞬間を見て“僕”は自然と声を荒げていた。




 ◇


 王城ファーストの王間。そこでは今までにない泡をふく王が見て取れた。


「……はふはふはふ」


 王は見たことのない圧倒的な翡翠を前になにもされていないのにも関わらず、気を失っていた。

 王はそっちのけで、その珍しい景色をステンドグラスから覗く二人の“竜の軍服”。


「数が多いなぁ。それに………………“人間”じゃない力がまざってる」


「気にしてもしょうがないわ。私たちの任務はただ“護る”だけでしょ」


 シャエル大将がその大量の翡翠爆弾ミサイルを確認するとなんの焦りもなく、大剣を抜いた。そして、静かに言葉を唱える。




 ――【不可侵領域サンクチュアリ



 すると、遥か上空で透明な壁に激突した爆弾は緑の花火となって轟音が響かせた。





 ◆



 僕が到達した城下町フォース最期の砦――第三中域サード外壁にいくと烈火と翡翠の補色の激突が視界を埋めた。猛烈な爆風に身体が浮きそうになるが僕は横道で身を隠す。屋根が飛び、ご立派な家が見事にまるごと平衡移動する。そんなのはお構いなし。


 僕はただリリィの姿を目で追い続ける。光が邪魔、破壊音が邪魔、ニオイが邪魔。


 ただ爆風が止むのを待つしかない時間がじれったくて僕は顔を歪めた。


「はぁ…………はぁ…………っぁ」


 僕の耳には確かにその漏れた声が聞こえた。リリィの喉から出た音に間違いない。他の人間に聞こえなくとも僕には聞こえたんだ。僕はそれに安堵し飛び出そうな心臓をギュッと納めた。


 しかし、リリィのその姿は健全なものでは無かった。刺突を返したそのリリィの右腕――細く白亜の美肌は火傷痕を残して痛々しい傷を残している。片膝をつきここまで弱ったリリィを今までに見たことが無い。


「さぁ、今だ。息のある者はこの好機を逃すなぁっ!」


 賊兵団にとっては軍服を着てる以上、容赦は無かった。それはリリィにも同じ事だ。敵にまで、“女”だから剣を納められること、“情け”をかけられることは生涯の恥にあたる。だから最期までリリィは勇ましく闘うと決めていたのだろう。負傷した右手を痛そうに苦悶を隠しきれず歯を食いしばった。もうリリィの右腕はピクリとも上がらない。


 ――右腕“以外”は動けっ! リリィは左の剣をギュッと強く握り敵を見つめた。


 そして


「――――動かないかぁ」


 リリィの左手からも剣が抜け落ちた。リリィが弱音を吐いた瞬間、僕の頭には悪いことがよぎる。その声は僕にしか聞こえなかった。“僕”にも聞かせるつもりはなかったんだ。

 見た目だけでは分からなかった。リリィの全身が悲鳴を上げている。“無地の軍服”は助けようとしない。敵が襲ってくるのをただ“傍観する”だけ。




 師匠に言われたことがある。僕は気の弱みを持っているって。


 ――――臆病。それは“竜”にはない感覚だそうだ。

 でも、病気ではないらしい。


 僕は他人から受けるすべての“気”が感じ取れた。鋭敏な僕の心身には鋭利に突き刺さっては離れないのだ。殺気…………だけではない。疑念や睥睨。蔑みや恨みや妬み。


 すべてが僕には恐かった。だから“それ”を浴びることが嫌だった。

 その中で“やらなければいけない”ことがあるのに動けないのが嫌だった。

 僕自身の感情を押しつぶす方がまだ楽であった。


 ――だけど。


「“失うこと”の方がもっと恐い」



 単純な優劣の問題だ。臆病を克服した訳でもなんでもない。

 でも――僕の身体は全身の震えは治まった。




 僕は表舞台へと。

 リリィの前へと。

 人目が全開の場所へと飛び出した。


「リリィ。お待たせ」


 僕は竜の肩章と男の背でリリィに語った見せた。







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