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戦略戦は明らかに賊兵団。“形無き国”の優勢で繰り広げられている。
眼下に広がる光景に帝国内とは思えない地形の利を完全に奪われていた。斬り伏せられ倒れる“無地”の帝国兵の少なさから、ほとんどの兵の敗走が考えられた。城壁以外の建物が壊されていないのは単純に賊が民を狙っていないからだろう。
警備についていた特務軍隊も見事に敵の策に翻弄され、これが増援の届かぬ砦などであれば陥落も時間の問題であっただろう。
リリーナとセルシードは高風舞う戦禍より離れた第三中域外壁から敵を視察する。
「シガーンくんは近距離戦に持ち込まれた模様かぁ。コウノーシャくんは進軍中…………狙いはぁ…………何だあれ? 機械…………なのか?」
二人の注目はやはり見たことのない巨兵に集まる。知らないものに警戒をするのは生物の本能的な働きだ。“英雄”はその警戒心に反してその異物に立ち向かわなければいけないということが実情なのだ。
「砲台に城壁を墜とされたと思いましたが…………、どうやらそんな単純な物ではなかったみたいですね」
「コウノーシャくんに“あの機械”は任せよう。僕はシガーンくんの方へ徐々に敵を殲滅していくよ」
「では私は第三中域外壁近辺の護衛と兵団の再編成に」
「――では互いにご武運を」
命綱も無しに二人は外壁から飛び降りる。綺麗な空気は落ちていくとともに血の異臭と砂煙が激しくなっていくのだが、重力に従う二人の“大狼の軍服”は色褪せることがなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ズガッ! ザザザ――――ギュオンッ!
帝国から離れた元“森林”――森だった新地には豪快な重低音と甲高い金属音が轟いく。
「ふははははっ! 俺が攻撃を躱して闘うのは初めてだっ!」
コウノーシャは相手よりも小回りが利くのを活かして、巨槍の刺突を躱せば装甲に斧をぶちまける。するとドゴンッと一発打撃が波打つと巨兵の身体を浮かせる。刃の切断には否応もない合金の身体に切り傷は入らない。
『装甲打撃ダメージ12.3%。へこみが見られ原型をとどまりません』
巨兵のトラブルシューティングが対応を見せ、翡翠の輝きが増していくが治癒にエネルギーを使わせるほど、コウノーシャの手は緩まない。
「へばるのが速いなぁ!」
コウノーシャが袈裟斬りの要領で大斧を担ぎ、飛び込むと巨兵の槍を持たない右腕が開く。精密な機巧構造から銃口の様な噴出口がコウノーシャの方へと向く。
「――チッ、隠し芸かぁ」
コウノーシャに空中での移動手段はない。猪突猛進。一度飛んだ以上、攻撃が最大の防御と成り立つ。コウノーシャが斜めに大斧を引き絞ると、
『スラスター起動』
その噴出口からジェット噴射された緑のエネルギーがコウノーシャを視界を覆い襲った。とはいえ、コウノーシャの溜め込んだ一撃の方が上回る。
「とうぁぁあっぁぁああああ!」
しかし、振りきったコウノーシャの両腕に手応えは返ってこない。なんと巨兵が圧倒的速度でバックステップを刻んだのだ。それと同時に両肩、両膝とされる関節部分からは大量の飛翔爆弾の発射。着地の膠着時間にコウノーシャは無防備に爆発をあびる。
『着弾確認。生命反応を確認します』
爆炎と爆風と煙幕。
生身で受けるにはあまりにもオーバーキルな代物を前に操作室では息をのんでいた。大鷲の軍服はたった一人で機巧の騎士を前にここまでの戦闘を強いたのだから。敵とはいえど、健闘を称えるに値するほどの豪快な兵士であった。
『――生命反応を検出しました』
すると無慈悲な機械音は業火を前にして敵が生存していると判断したのだ。
研究職をやっている者として自分の目で見なければ、信じられない。煙が晴れるのを待ち続けると、
「うぉお…………おっ………………おおぉおお。身体にかなり堪えるなぁ」
背中に砂塵を被ったのがさらさらと落ちていくと人影が立ち上がった。無論、無傷ではないのだ。城壁で身を挺した時から傷は膨らむばかり消えるものでも無いのに大男はまだ立ち上がる。
「ドリルエント博士。奴がまだ倒れません」
「かっ、怪物だ」
操縦士達には人間離れした“それ”に恐怖を感じている。すでに座っているのだが、地に腰を降ろすように脚は言うことをきかないほどであった。
「みなさん。【ロストブレイブピアス】を彼にぶつけます」
「この距離で放てば二次災害に確実に巻きこまれてどうなるか分かりません」
「彼が命を賭けてるからこそ、強くあるのです。我々も同じ覚悟で命を賭さねば勝てる戦いにも勝てません」
『アタックモードからバーサークモード変更。防御・治癒エネルギーをすべて攻撃プロセッサに抽出。オーバーヒート。機体維持時間99秒。カウント開始』
ガガガと装置が無理矢理に最大駆動し始めた。まるで力を入れすぎた人間の筋肉の振動のようだ。
「……はぁあ。機械なのにそちらさんにも覚悟が見える気がするなぁ。俺も死ぬ気でいくぞ」
コウノーシャは大斧を両手で持つと体勢を低く重心をガッチリと構えた。
「ギリギリまで引きつけて【ロストブレイブピアス】一撃で彼にも引導を渡しましょう」
機巧の騎士が噴出口を全身から露わにすると惜しげもなく、スラスターを発動した。大量の飛翔爆弾が火を噴いてコウノーシャへと一点に飛来した。速いというのはあくまで巨体に対しての話だ。
一度、見切ってしまえば、対応は可能だ。
「〈大斧オオゲツ〉盛ん振る舞う大地の功績よ。今、栄誉を感ずる天への産物となりて巨の富を咲かせよ」
――【大黒柱】
飛来する飛翔爆弾に対して、速過ぎるコウノーシャの素振り。大斧を空振りしたかのようにも感じるがコウノーシャの大斧が地面に接触した瞬間、そのエネルギーが地面から大地を跳ね上げた。【大黒柱】――その力は大地の要の鉄槌。
隆起した土の壁がドドンと爆発を身代わった。
城壁でも、一度目の爆撃でもすべてこの力が関与していたのだ。そして、この力は攻撃に転じて地表から刺突する巨大な槍となる。
「地表から離れてください」
ドリルエントの声に反応し操縦士が高度を上げるとすぐに土粒の大槍が、機械の左腕を破損させる。博士の推測が遅くなれば貫通し左のスラスターを失っていただろう。土粒と爆撃が度重なり地形はどんどんと変化を遂げる。機械は高度維持だけでもかなりのエネルギーを消費する。
「【大黒柱】! 【大黒柱】ぁあ! ゼェゼェ……はぁあ……ハァ……【大黒柱】ぁああ!」
一方でコウノーシャも限界はすでに超えていた。ダメージ量が蓄積し疲労が身体を重くする。すると意識もだんだんと薄くでかいはずの巨体さえ霞んで見えてしまう。
『左腕破損率50%スラスターを持続起動すると爆発の恐れあり、スラスター停止を推奨』
その巨体に似合わない遠距離戦の応酬が互いに疲弊を煽っていた。それはコウノーシャにとっても同じ事だ。それが対峙する二人の意志を疎通させた。
「みなさん――スラスター停止。下方への【ロストブレイブピアス】を放ちましょう。標準展開、――」
「二人ともお疲れさま。帝国に帰還し状況を伝えろ。おそらく――」
「「――次が決着だ」」
機巧の騎士の全身の翡翠のエンジンがすべて巨槍の先にすべてのエネルギーが収束した。後は重力に従って射抜くのみ。
「相棒〈大斧オオゲツ〉よ。最後まで頼むぞっ!」
対してコウノーシャも大斧を引き絞ると激突するのは必至。
『【ロストブレイブピアス】を展開。充填オーバヒート120%』
「――【極黒天】っ!」
「敵がもう迫っていますっ! 博士っ! まだですか!?」
先に展開が速いコウノーシャの絶技にドリルエント博士は発射指示をまだ出していない。重力の推進力は一定、どんどんと加速が増していく。
近付く。そして、近付く。
発射もなくコウノーシャの大斧を受けるがごとく、何事もなくコウノーシャの刻み込まれた激昂の顔が目撃できるほどに近くまで相対する。コウノーシャの大斧が心臓部に吸い込まれるその瞬間に――。
「――今ですっ!!」
待ち望んだその声とボタンを押すタイミングはドンピシャにマッチングした。
二人の刃は合わさること無く交差すると機巧の騎士の心臓部とコウノーシャの肉体を同時に貫いた。相打ちと言わんばかりの激闘が終息すると思われた。
――博士の研究の結果。翡翠の魔結晶の力は人間には到底太刀打ちできない何か上位種の産物と特定していた。――その真価の力は“治癒”。
なんと翡翠の魔結晶を120%で引き出された力は“治癒”を発揮した。大穴が空いたその心臓部を再生。いや、光の機巧が物質を生み出し埋めた。
「操縦席を狙われていれば、終わっていました。賭に勝ったのは私たちのようです」
つまり、巨体があまりにコウノーシャは狙いを誤った。それがコウノーシャの敗因である。すでに深々と槍が突き立てられたコウノーシャは息を絶っていた。
「敵ながらやはりお見事でした」
博士の追悼の念が通じたのか操縦席の誰もが喜びを叫ぶことはなかった。勇ましく顔を引き締めて、コウノーシャは立ったままだった。もう息はしていない。
それでも敵の心にまで“英雄”は存在を刻み込んだのだった。




