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親切なホテルマンだと思ったら、三年後に義兄になりました②





 思ったより若く、二十代後半くらいだろうか。

 整った顔立ちのせいで、モデルか俳優のようにも見える。

(やけに顔のいいホテルマンだな)

「あの、ロビーってどっちですか?」

「ロビーですか。ここからだと少し分かりにくいんです。よろしければ、ご案内しますよ」

 彼は穏やかな口調で答えた。

 柔らかな眼差しに、なぜかどぎまぎした。

「えっと……道だけ教えてもらえれば大丈夫です。仕事の邪魔になるので」

 彼は間違いなくこのホテルの従業員だ。

 数日後には、自分もここで働くことになる。

 そう思うと、あまり手を煩わせるのも気が引けた。

「お客様へのご案内も、私の仕事ですから」

「でも、大丈夫です。オレ、道を覚えるのは得意なんで」

 湊は首を振った。

 案内してもらうと、なんだか目立ってしまう気がしたのだ。

(オレの顔を覚えられたら困るし)

 たぶん、この人はそれなりに偉い立場なのだろう。

 偉そうな態度はまったくないけど、現場で働く人というより、誰かに指示を出す側の人間に見えた。

「分かりました。では、ご説明しますね」

 彼はそう言うと、少し場所を移動した。

 ちょうど木陰になっていて、風が気持ちよく通り抜ける。

 湊は暑さも忘れて、彼の説明に耳を傾けた。

「もし分かりにくければ、途中までご案内しますが」

「いえ。今ので分かったんで」

「そうですか。では、私は失礼いたします」

 彼は軽く頭を下げると、そのまま去っていった。

 押し付けがましさはまったくない。

 けれど、もし湊が困った顔をすれば、きっと最後まで案内してくれたのだろう。

 説明された通りに歩くと、ほどなく順路へ戻ることができた。

 あとは案内板に従うだけだ。

 無事にロビーへ辿り着き、湊はホッと息を吐く。

(親切な人だったな)

 あんな人が働いているホテルなら、きっと大丈夫だろう。

 そんなことを思いながら、湊は母の待つ部屋へ戻った。





 母とのホテル一泊は、それなりに楽しかった。

 もう二度と客として泊まりに来ることはないだろう。

 それでも、これから自分が働くホテルの雰囲気を知ることができたのは良かった。

 レストランやラウンジで過ごす宿泊客の姿も、少しだけ見ることができた。

 湊は客室清掃スタッフとして配属されるため、基本的には裏方だ。

 客と直接関わる機会は少ないが、表の空気を知っておけたのは悪くなかった。

 それからしばらくして。

 部門ごとに配られる社内報を見て、湊は驚愕した。

 社長の紹介欄に、中庭で案内してくれたあの男性が載っていたのだ。

(あの人、社長だったのかよ!)

 橋川駿人はしかわ はやと。三十歳。

 昨年、三代目社長として就任したらしい。

 なぜ中庭を一人で見回っていたのかは分からない。

 けれど、偉そうなところはまったくなく、好感の持てる相手だった。

(あの人が社長なら、いい職場かもな)

 福利厚生もしっかりしているし、長く働けそうだ。

 湊はそう安心していた。

 だが、三年後。

 母と橋川ホテルグループ会長が再婚し、あの親切な社長が義兄になるなど、このときの湊は夢にも思っていなかった。




(終)





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