準備万端
「うーん、このバールも三本くらい持っておこうかな。それと遠距離の武器も欲しいな。弓矢でも作ってみるか。」
「このちゃん、こっちに大きなカゴがあったよ。」
このかがゾンビを倒す用の武器を選んでいると葵が大きなカゴを持って来る。
「ありがとう葵。よーし、どんどん必要な物を集めていくよ。」
このかはこれからの旅のために一度出雲のホームセンターに寄り、今後使えそうな物を集めていた。
今の車には食料とそれを調理する道具しかないため色々と必要だった。
「ねえ、これだと車がパンパンになっちゃわない?これから六人で旅をするんだよね?」
「それはおいおい考えるよ。今は生きることの方が大事だから。」
葵の言う通り今の車では荷物をたくさん積んでるのもあって六人全員乗るのは不可能だった。だから旅のどこかで大きな車、欲を言えばキャンピングカーが欲しい。
キャンピングカーを入手できるとしたら風香のいる兵庫だろうか。それまではこの中村さんの車で辛抱だ。
「それならこの布団も持ってこうよ。車の中は硬くて眠れないもん。」
葵はどこからか大きな布団を持ってくるがこのかは呆れた顔でそこら辺に投げ捨てた。驚いた表情の葵をこのかは真顔で見つめる。
「そんな大きいの入る訳ないじゃん。布団くらい我慢して。」
「むぅ、布団がないと疲れが癒やされないもん。このちゃんは平気なの?」
「私は別に構わないよ。そういうことだから布団は諦めて。」
このかの言葉に葵は納得してなかったがこれはしょうがないことだ。食料に調理や採取のための道具、そしてサバイバル用品と必要なものがいっぱいだ。
それも北海道までとなると布団を積む余裕なんてなかった。
「じゃあ、代わりにこのちゃんに抱きついて寝るから!それでどう?」
「いや、それは少し恥ずかしいよ。昨日だってそのせいで眠れなかったんだから。」
「それなら布団を持ってきてもいいよね?ほらこのとおりだから!」
抱きついてくる葵にこのかはしばらくの硬直し、その後に大きなため息を吐いた。葵の可愛さにこのかはダメと言えなかった。
「・・・そうだね、毛布一枚でいいなら持っていくよ。」
このかはそう口にしながらカゴの中に薄めの毛布を入れた。流石に毎日葵に抱きつかれられるとドキドキして眠れるものではない。昨日だって限界だったというのに。
このかはいつだって結局葵には甘々なのだ。葵も至極満足そうにこのかに抱きつく。
「えへへ、やっぱりこのちゃん大好き!」
「私も葵のことは大好きだよ。ただ、今は旅の準備の方が先だから作業に集中して。」
「はーい、あと少しだから私も頑張るよ。早速このカゴを車に詰めるね。」
このかは葵から少し距離をとって再びこれからの旅に使えそうなものをカゴに入れていく。そしてカゴに詰めたモノを葵が車に運んで行った。
二人で分担しつつ、二十分くらい作業していると気がつけば車の荷物を入れる場所がパンパンになっていた。
あらかた旅で使いそうな物は手に入れたしそろそろここを出ても良さそうだ。
「よーし、それじゃあ準備もできたし今度こそ広島に行くよ。」
「やった、これで瀬奈ちゃんとも会えるね。早く会いたいな。」
そう言って楽しそうに笑う葵にこのかはモヤモヤする。このかだって瀬奈とは早く会いたいが葵が瀬奈と会うのを楽しみにしている様子を見ると嫉妬してしまう。
中学の頃から葵は誰にでも距離が近くてその度にこのかは嫉妬していた。葵にはもう少し距離感というものを知って欲しい。
「まあ、早く車に乗ってよ。とりあえず広島に向かうから。」
「そうだ!最後に一つ寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「いいけどどこに行くの?他に行かないといけない場所なんてあったっけ?」
葵の質問にこのかは頭を傾げる。葵が寄りたい場所とは一体どこだろうか?
「最後に出雲大社でこのちゃんとお参りしたいなと思って。ほら、この先のことを祈りたいじゃん!」
「了解。それならすぐ近くだし早く出雲大社に行こっか。」
このかと葵は車に乗って急いで出雲大社に向かうことにした。このかも出雲大社には向かいたかったし丁度いい。
縁結びの神様がいる出雲大社に葵との今後の恋愛が上手くいく様に祈願するとしよう。
「やっぱり出雲大社は大きいね。ほら、早くお祈りしに行こうよ!」
「はいはい、分かったからあまり騒がないで。ゾンビが集まったら困るじゃん。」
いつもより高いテンションの葵を宥めながらこのかは周りを見渡した。今の所、周りにゾンビはいないがいつ現れるか分からないため警戒はしておかないといけない。
それにしても出雲大社には久しぶりに来たが大きくて神々しい場所だ。出雲大社には神様がいるからゾンビがいないのだろうか。
「それにしても葵が出雲大社に行きたいなんて言うからびっくりしたよ。葵ってば好きな人でもいるの?」
このかはビクビクしながら葵の顔色を伺った。しかし、葵の顔は少し赤くモジモジしていた。
「えへへ、このちゃんには内緒だよ。」
そんなまるで恋する乙女のような顔をする葵にチクチクと胸が痛む。葵に好き人がいるのだろうか。昨日葵が付き合ってる人はいないと言うから安心していたというのに。
「葵って恋愛に興味ないと思ってたのに。一体どこの馬の骨なの?」
「そ、それはいつか話すから。だから今は聞かないで。」
そう言って誤魔化す葵にこのかはいよいよ耐えれそうになかった。今にも葵を抱きしめたかった。
しかし、今はこのかといるため、仮に好きな人がいたとしても付き合うことはできないはずだ。そう思うことでこのかはなんとか自我を保った。
「まあ、今は恋愛よりも私達との旅を楽しもうよ。」
「うん、このちゃんの言う通りだよ。それでこのちゃんは好きな人とかいないの?」
何回目かも分からないその質問にこのかは静かに頷く。この気持ちを秘めてもう十年経つ。
「だから私に好きな人はいないよ。私は葵達といる時が一番だから。」
「ふへへ、私もみんなといる時が一番大好き!このちゃんと同じ気持ちだね。」
その言葉にこのかは安心するとそのまま葵の手を優しく握った。この手をずっと離したくはない。
ただその瞬間少し遠くから誰かの足音がする。その足音はとても乱暴でガサツだった。
このかはさっきまでの笑みを無くしいつもの戦闘モードへと切り替えた。葵との温もりが名残惜しいがこのかは嫌々葵の手を離した。
「とりあえず今は生き延びることが最優先かな。早く瀬奈に会わないと私達が危ないし。」
このかはぐるぐると愛用のバールを振り回しながら出雲大社の外に向かって歩き出す。ゾンビを警戒しながらいつでも戦えるように葵から少し離れる。
「あれっ、せっかく出雲大社まで来たのにお祈りしないの?まだ中に入っただけじゃん。これだとなんの意味もないよ!」
「いいから静かにして。葵は私の後ろに隠れてばいいから。」
明らかに今この場所には複数のゾンビがおり少しずつ日も暗くなっていく。そんな状態なのもあって今は早くここから抜け出すべきだった。
「でもやっぱり願い事はしたいな。だって私このちゃんと・・・」
「葵、伏せて!」
葵がボソボソと何かを言ってるその瞬間に突如として大きめの石が葵に向かって投げられる。このかは葵に石が当たる前にバールを投げて石を弾いた。
そのままバールは地べたに転げ落ちこのかはそのまま急いで葵の元に駆け寄るとそのまま思いきり葵を抱きしめた。
「大丈夫、葵?まだゾンビは複数いるから気をつけて。」
「う、うん。ありがとうこのちゃん。」
このかは再びバールを構えながら葵を守るようにして立つ。そして木の茂みから先ほど石を投げつけてきたゾンビが現れる。
それも一体ではなく三体。普通のゾンビを相手にするのとでは訳が違った。
「葵、絶対に私から離れないで。あのゾンビ達は投石型だから。」
「う、うん。そう言うならこのちゃんの後ろにいるね。」
投石型ゾンビ、それは文字通り石などの物を投げつけて来る遠距離型のゾンビである。このかもこのゾンビに何度か遭遇しており苦戦を用いられていた。
そもそもゾンビというものはお姉さん曰くものすごく知能が低く基本的には言葉も喋れず本能のまま行動するだけの生物らしい。
ただ稀に人と同じような知能を持ったゾンビがいるらしい。このゾンビは喋りはしないがおそらく知能を持ったゾンビだ。
他にも筋肉質なゾンビや特殊な力を使うゾンビもいるらしいがこのかはまだ遭遇したことがない。
とりあえず今は目の前のゾンビを倒すことに集中する。
「ヴァァァァ」
投石型ゾンビはいきなり大きめの石をこのかに向かって投げつけるがこのかは即座にバールを振り回しながら飛んできた岩を粉砕する。
「すごい!やっぱりこのちゃんってば天才だよ。」
「とりあえず葵はずっと私の後ろに隠れて。絶対に前には出ないでね。」
このかは葵を守りながらバールを構える。しかし、葵を守りながらな上に三体を相手にするのは流石にきつかった。
ただ今回のこのかはいつもと違う。さっきスーパーで手に入れた小型ナイフをポケットから取り出した。
このかは素早くナイフを投げ両サイドにいるゾンビの目玉に直撃させた。
ゾンビはナイフが刺さるのと同時に呻き声を歩きながら悶え始める。そして残った一匹のゾンビがものすごい勢いで襲いかかって来る。
『グァァァァ』
「遅い。その程度なら余裕かな。」
このかはゾンビの投石を全てバールで叩き落とした。そしてそのままゾンビに近寄って首元をバールで叩き潰す。
いくら投石型とはいえ一体であれば余裕で対処ができる。やっと周りにゾンビがいなくなったことで雪は胸を撫で下ろした。
「わあ、やっぱりこのちゃんは凄いや。私を守ってくれてありがとう。」
「葵には傷一つつけさせないよ。だって葵が好きだから。」
このかはバールをしまうとそのまま勢いよく葵を抱きしめた。葵は温かくて心地よい。
このかは葵を抱きしめながら今後のことを真剣に考える。これから少しずつ仲間が増えていくにつれてゾンビとの戦闘も激しくなる。そうなるといくらこのかが強いとはいえ一筋縄ではいきそうになかった。
まだ前途多難だがそれでもこのかには葵がいる。それだけで今は幸せだった。
このかは葵の頭を撫でながらそっと離れるとそのまま葵の手を優しく握る。
「とりあえず日が暮れるまでに少しは進んでおきたいからもう行こっか。」
「ええ、もう行くの?神様にはお祈りしようよ!」
そう言って頬を膨らます葵に見惚れつつもこのかは首を横に振った。
確かにこのかも最初は今後のことを祈るためにこの出雲大社へと向かった。だがしかし、この世界に神がいないというのが現実だ。
神様がいたらこんな理不尽なことにはならないし今だって平穏に暮らせている。
だからこそこれからは自分たちの力だけで生活をしないといけない。
「ふふっ、それに私は自分の手で道を切り開くからさ。だから葵も一緒に進もう?」
このかはいつだって努力して生きてきた。これからもそれは変わらない。
これからの生活も葵との恋愛も努力で切り開く。だから神様がいてもいなくても関係などなかった。
「むぅ、このちゃんってば自分勝手なんだから。まあ、私も今は恋愛よりも旅優先だからいいけどさ。」
「そうでしょ。そう言うことだから早く広島に行って瀬奈に会いに行くよ。」
このははポケットから車のキーを取り出すとそのまま車に差してたくさんの荷物を乗せた車に乗った。これからこの車には壊れるまで使い尽くすことになる。
まだたくさんの問題がある中このかと葵の二人は明るい未来を信じて新しい土地へと旅立つのだった。




