第三話 初めてのクエスト
「らっしゃい!らっしゃい!! カリの木入りのモチモチしながらも、カリカリ食感のあるピザが400ノール! 当店のオススメ、ヤングチキンのから揚げが定食が550ノール!さあ買った買ったああああああ!!! あ、ヤングチキンのから揚げ定食2つですね。 1100ノールになります!」
「兄ちゃん、いい声と商売センスしてるじゃねえか。 どうだい、5日とは言わずにこのまま俺の店で働いていかねえか? 給料アップも考えるぜ」
「い、いやあ装備の資金が欲しいだけなので・・・・・・」
おっかない見た目の店長が、似合わない不気味な満面の笑みで褒めてくれるが余計なお世話だ!
俺は大きな屋台の様な飲食店でアルバイトをしていた。
ギルドのクエスト板の側面には、アルバイト募集の板となっていた。
狩りに行くというのが、困難な状態と判断した俺は、仕方なくアルバイトをすることにした。
一刻も早く冒険をしたい俺は、とりあえず稼ぎの良い、急募と書かれたこの大型飲食店を選択したのだが、店長はヤクザの様で逃げ出したくなるような見た目をしており、そもそも現実では家にいる時間が圧倒的に多かった俺に、こんなアルバイトができるのかと不安だらけだった。
しかし、冒険に出たいという俺の気持ちから出る声量と、ネトゲで鍛えてきたドロップ品の宣伝、売却センスが発揮されて、店長からも満足されるような仕事ぶりを見せていた。
常に祭りでもやっているかの様にこの町の人口は多く、店の数も多いのでいかにアピールするかがコツらしい。
「おつかれさん! はい今日の分だ。 最初は任せて大丈夫か不安だったが、あんたのおかげで前日より目に見えて売り上げがよかったよ。 明日も頼むぜ」
「おつかれっす! 飯もとても美味かったです!」
店長も見た目とは真逆で凄く優しく、夕食はここで済ませてもいいかと聞いたらタダで奢ってくれた。
・・・・・・店長の見た目で、避けてる客がいるのならちょっとだけ店長が気の毒だな。
今日の給料の額を確認する。
よし、5日で生活費と残りで装備が整えられるな。
俺はそう考えながら宿へと向かう途中で、ふと噂話が聞こえた。
「・・・・・・その話は本当か?」
「ああ、そのせいでフラットの町へ行くのは困難になっているらしい。 どうにかならないものか」
他の町へ行くのが困難?
道中で何か厄介なことが起こっているのだろうか。
向こうの世界とは違う異世界だし、何があってもおかしくないか。
この町から出るなんてまだ先のことだが、一応気に留めておこう。
―――三日目の終わり頃
今日も店長が笑顔で言い寄ってきた。
「今日もご苦労さん! あんたのおかげで助かってるよ。 そういえば例の噂聞いたか?」
「例の噂・・・・・・ですか?」
俺は不思議そうに尋ねる。
「なんだ、まだ耳にしてなかったのか。 最近隣町のフラットへ続くトンネルの手前で、黒い猿が現れるらしい。 本来そいつは別の地域にいるモンスターのはずでかなり強くてな、最近フラットへ向かった奴らは逃げ帰ってくるか、行方不明になるそうだ」
何その恐ろしい話。
しかもフラットって隣町だったのか。
最初の町から冒険に出て早々に死ぬとか嫌だな・・・・・・。
「相当危険だって話だ。 トンネルには近づかないようにな」
簡単には次の町へと行かせてくれないってことか。
何か対策を考えておこう。
「よし、やっと本格的な戦いができるぜ」
この町にきて六日目の朝、店で朝食を食べ終え、俺はようやく石の剣を購入した。
剣だけというのは多少の不安はあるが、なんとかなるだろう。
念願の剣を手に入れた俺は、クエストを受けるべくギルドへと向かった。
俺はギルドのクエスト板に目を通す。
『スライム二十匹の討伐、報酬一万ノール』、『穴掘りうさぎ十五匹の討伐、報酬一万七千ノール』、『ヤングチキンのお肉を納品、一つにつき報酬七十ノール、最大三百個まで』。
他にもまだまだ、びっしりとクエストが貼られている。
流石に人口が多いだけはあるな。
「ナイトシャドーモンキーの1頭の討伐、百万ノール・・・・・・。強そうな名前のモンスターだな。・・・・・・てか報酬額高っ!?」
いや額が高ければ高いほど危険なクエストってことだ。
あまり報酬額に目を奪われないようにしよう。
悩んだ末に、俺はゴブリン5匹の討伐を受けることにした。
報酬額は八千ノールだ。
数は少ないが、手始めはこんなものでいいだろう。
「お、クエストデビューかい? 頑張ってらっしゃい!」
「いっちょ暴れてきてやりますよ!」
俺は受付のマキに見送られギルドを出た。
町の外へと向かう道中、
「お トウヤじゃん! 装備揃えたんだね」
「遂にクエストに行くんですか? それとトウヤが働いていたあの店の料理は、とても美味しかったです」
相変わらず元気なパロマと、察しのいいシルクに道端で声をかけられた。
「バイトのことはあまり触れないでもらえると助かるな・・・・・・。 その通り、これからゴブリン狩りだ。 やっと念願のモンスター共とのバトルができる。 これを楽しみにしていたんだ」
するとパロマは目を輝かせて、
「クエストかー。 俺も行ってみたいな。 連れてってくれよ!」
「何を言い出すんですかパロマ。 危険ですよ」
唐突にクエストについていこうとするパロマと、それを止めようとするシルク。
すると、パロマは俺に自分のカードを見せつけて自慢げに、
「いいじゃんか、俺たちレベル3なんだぜ? トウヤと一緒に戦えるはずだよ」
「だけど・・・・・・。 私はやっぱり危ないと思います。 それにもしも何かあった時、お母さんに怒られますよ」
俺はパロマのカードに目を通す。
確かにカードにはレベル3と書かれていて、ステータスも俺より高い。
よく考えれば一人で行くよりは、三人で行動した方が何かあった時も対応できる幅も広くなる。
それに相手は最弱部類のゴブリンだし、そこまで大変な討伐にならないだろう。
報酬の方は、こいつらは子供だし6:1:1くらいで、安めにしておけばこちらも問題ない。
「よし、パロマ、シルク。 俺も初めてのクエストだし一人じゃ不安だから一緒に行こうぜ!」
「やったー! トウヤより沢山の敵を狩ってやるよ!」
「ですが・・・・・・。 はあ、気は進まないですがトウヤがそう言うのなら。パロマが敵にやみくもに突っ込んでいかないかも心配ですし」
「んじゃ異論はないな! 出発だ!!」
シルクも賛成してくれたので、俺たちはクエストに出るべく、三人で町の外へと向かった。
「おっらあああああっ!!!!」
「グェエッ!?」
「よし、これで3匹目だ」
「思っていたよりもいい調子ですね」
俺たちは順調にゴブリン狩りをしていた。
パロマと俺が隙を見て、剣でダメージを与えてターゲットを取り、俺たちを追いかけ回しているところを、シルクが氷の魔法でダメージを蓄積させる。
弱ったところを俺かパロマの剣で仕留める、単純だが1匹で出現する下等なモンスター相手には完璧な作戦だ。
俺は様々なスキルの中から、まずは剣の熟練度向上に手持ちの1ポイントを振った。
このスキルは振っていくと剣の扱いが上手くなったり、急所に当たりやすくなったりするらしい。
魔法も使ってみたかったが、今の状況では前衛を子供のパロマ一人に任せるのも気が引けるので、手始めに剣の方に振ることにした。
町から移動に時間がかかるのだが、時間はまだ昼を少し過ぎたくらいだ。
だが雑魚敵とはいえ、流石にゲームの敵とは比べものにならない耐久力を兼ね備えている。
まあ、これぐらいの方が狩りをしている気分になれていい気もするが。
「お、トウヤ、あそこに二匹いるよ。 あいつら倒したら終わりだね」
パロマが指す先を見ると、二匹のゴブリンが辺りを見回していた。
きっと仲間がいなくなって、周囲を不審に思っているんだろう。
二匹同時に相手すると、先程の作戦では分が悪くなる。
ここは一匹になるのを見計らって――、
「おりゃああああああああああ!!!」
「「パロマ!?」」
パロマが剣を掲げながら、一人で飛び出していった!
パロマは片方のゴブリンを斬りつけるが、二匹のゴブリンは激昂し、パロマに襲い掛かる。
「何やってんだあいつはっ!!」
俺とシルクも仕方なく飛び出す。
見つかった以上は、二匹を同時に相手するしかない。
「俺はパロマの加勢に行くから、シルクも魔法で援護を頼む!」
「りょ、了解です!」
俺はシルクに指示を出しつつ、片方のゴブリンを引きつける。
「ほらほら、こっちだよゴブリンさん!」
「調子乗ってんじゃねえ!油断するなよ!!」
奇襲を仕掛けられて、二匹共かなり怒っているようで攻撃が激しい。
俺達はゴブリンの攻撃をくらいながらも、隙を見て斬りつける。
「そっちはもう瀕死みたいだ! 隙をみてとどめをさせ!」
「おっけー! っと、おらあっ!!」
「ギュアッ!?」
よし、1体は仕留めたみたいだ。
後は俺が引きつけてるゴブリンにとどめをさせば・・・?
振り返ってみたがゴブリンの姿は見えない。
「魔力が・・・・・きゃあっ!?」
「シルク!!」
声の方へ振り向くと、ゴブリンはシルクの方へ走って攻撃に向かっていた!
きっと魔法に使う為の魔力が切れてしまったのだろう。
シルクは慌てて逃げようとするが、ゴブリンの方が速く、すぐそこまで迫っている!
俺もゴブリンを追いかけるが、距離が開きすぎていて間に合わない!
「――させるかっ!!」
・・・・・・カキーンという鈍い音と共にゴブリンが仰け反った。
見ると、杖を抱えて身を守っているシルクを背にして、パロマが間一髪のところで、剣で攻撃を受け止めていた。
「シルクを傷つけさせやしない! くらえっ!!」
そして受け止めたゴブリンの攻撃を弾き、ゴブリンに一突き与えるパロマ。
俺から見たパロマは、歳に似合わず勇者とでも言う様な目と、勇ましさを見せつけていた。
パロマの攻撃を受けたゴブリンは大きく怯む。
「よくやった! これで終わりだ、うらっ!」
「ギ、ギェエエエエ・・・・・・!」
俺の渾身の一振りで、気持ち悪い鳴き声を上げながら、ゴブリンは沈んでいった。
「大丈夫かシルク。 どこも攻撃されてないか?」
「大丈夫か、じゃないですよパロマ!何でいきなり一人で突っ込んでいくんですか!」
「う、悪かったよ・・・・・・」
シルクを心配するパロマだったが、逆に怒られて落ち込むパロマ。
初めての敵との戦いだったし、シルクの魔力切れも考慮していなかったから仕方ない。
パロマが突っ込んで行くのは予想外だったが。
「とりあえず討伐は終わったし町へ戻ろう。 大分体力使ったし、シルクも魔力を切らしているから今敵に襲われたら危ない」
俺達はクエストを終え、急いで町へと向かった。
町へ戻ると、既に日は暮れていた。
「―――パロマ一人で討伐に行ってるのではないんですから、二度とあんな行動しないでください!」
相変わらずシルクは怒っている様だ。
「まあまあ、無事に討伐も済んだことだし、よかったじゃないか。 パロマも勇者みたいだったぞ? 颯爽と駆けつけて、『傷つけさせやしない!』って」
「ゆ、勇者か・・・・・・。 えへへ」
俺がちょっと褒めると、浮かれてしまうパロマ。
とにかく無事にクエストが終わってよかった。
こいつらが大怪我でもしたら、あの優しそうな母親でも何を言われるかわからない。
でもこいつらのおかげでスムーズには討伐が進んだわけだし、報酬もしっかり三等分してやるか。
俺はギルドに着くと二人へと向かい合う。
「・・・・・・よーし、んじゃ報酬を受け取ってくるからそこで待ってろよ」
するとシルクが申し訳なさそうに、
「いえ、私達には報酬は必要無いので帰りますよ」
「いやいや、手伝って貰ったのに何も渡さないのは悪いよ」
俺は一方的なシルクの拒絶に受け取って貰えるよう促すが。
「大丈夫です。 お金はトウヤの装備などに使った方がいいですよ。 それに、私達はパロマが勝手についていきたいって言って、そうして同行しただけですから。 ね、パロマ」
「う、うん。 俺も一緒にクエスト行けただけで十分だよ」
パロマも押され気味だがシルクに同意する。
確かに剣にお金を使って今のところ所持金は乏しいし、この二人がそう言ってくれるなら乗っておこうかな。
「そうか、じゃそうするよ。 手伝ってくれてありがとな」
そう言うとパロマとシルクは挨拶をして、笑顔で帰って行った。
何だかんだ二人も楽しんでいたのだろうか。
ちょっと危なっかしいこともあったが、初めてのクエストは無事に終えることができた。




